哀愁おやぢを盛り上げろ!

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月15日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月21日

●オープニング

 初夏の夜。近くの教会の、夜の鐘の響きが風に乗って聞こえてくる。
「そろそろ、閉店の時間かな」
 その小さなエールハウスの若き経営者‥‥アシュリー・エイシャ青年は、閉店の準備を始めた。以前この店の危機を救ってくれた冒険者達に思いを馳せながら。
 この店を危機に陥れた元凶たるおばはん集団は、近頃すっかり大人しくなった。噂によると、とある黒髪のイケメン楽士のおっかけに忙しく、今はエールハウスでだべるヒマなどないらしい。
 いまや、エイシャ青年の大切なこの店は、平和そのものだった。彼は冒険者達への感謝を忘れたことが無い。
 残った問題といえば‥‥おばはん事件関係者の一部がなぜか、
「葉っぱ」
 という単語を聞くと、軽い錯乱状態に陥ること。
 もう一つは、もっと切実な悩み。エイシャ青年は、冒険者の一人である女性吟遊詩人に、片思いをしているのだった。仕事は忙しいし性格上大胆に踏み込めない性格なので、なかなか進展しない日々。
 そして、もう一つ‥‥。
「うぃ〜。兄ちゃん、水くれ、水〜」
 店の隅っこで、ここのところ毎日のように、閉店時間になるまで酔いつぶれているオヤジ達グループのことだ。
「大丈夫ですか、お客さん。毎日そんなに悪酔いして‥‥」
 エイシャ青年は、水の入ったカップを持っていってやりながら、オヤジ達に心配そうに声をかけた。悪酔いオヤジ達は、酔った目をトロンとエイシャ青年に向けながら、クダを巻いた。
「毎日飲まずにおられるかいな。おっちゃんたちはな、楽しいことなんかなーんにもないんぢゃ!」
「そやそや、カアチャンはイケメンの追っかけに夢中でワシらほったらかしにしよるし」
 クダを巻いているオヤジ達は、かつてこの店を窮地に陥れたおばはん集団のリーダー、ワッツ夫人の亭主とその仲間達だった。おばはん連中は追っかけに励んで大人しくなったが、そのぶんその連れ合いであるおぢさん連中は冷や飯を食わされているらしい。
「でも、息子さんやお嬢さんが心配されるでしょう?」
 エイシャ青年、なんとかオヤジ達の酔いをさましてやろうとする。
 酒を注文してくれるのは店の財政上ありがたいことには違いないが、どうせ飲むならもっと明るい酒にしてもらいたいと思う。
 しかしオヤジ達は愚痴をこぼしあうばかりの暗〜い酒なので、いかに酒が百薬の長とはいえ、体にも悪かろうというものだ。
「けっ。娘がなんじゃい。娘なんか『お父さんクサイから嫌』っちゅうて、口も聞き寄らんわい」
「そうそう。それにウチの息子なんか、ワシのことバカにしよるんじゃ」
「そんなことないでしょう」
「ほんまやで。こないだ息子がな、出かけるとこ見たら髪の毛逆立って寝グセだらけやねん。『寝グセ直してから行けや』ゆうたったら、『それやからオトンはださいんじゃ。今これが流行のヘアやっちゅうねん』ゆうてバカにしよるねん」
 思わず苦笑いするエイシャ青年。最近、月道によりもたらされる外国文化の影響などもあってか、妙な髪形をする若者が現れているが、オジサン達にはどうにも受け入れがたいのだろう。
「おもろないさかい、ワシら、おっさん同士誘いあわせて、行きつけの店へ飲みに行ったんやがな。そしたらこの靴屋のおっさんが、調子乗ってのみ過ぎよってな、踊り出してん。そしたらおっさんの髪の毛が半分になってしもてん」
「えっ!? ど、どういうことですか!?」
「おっさんの髪の毛な、薄いけど全体的に生えてるように見えるやろ。これな、左側が実は全ハゲやねん。右側の残ってる毛を、薄く全体に伸ばしてハゲをカバーしとんねん。それが踊り出したらパラパラッと散らばって左ハゲ前回になってしもてん。おっさん、店中の笑いもんや」
「‥‥お、お気の毒に」
 心から同情をこめてエイシャ青年は言った。
「おっさんが『もうキャメロットで生きて行かれへん』ちゅうて泣くさかい、一緒にヤケ酒飲んだんが悪酔いのはじまりや」
「あのう、お気持ちはわかりますけど、お酒は楽しく飲まないと、体に悪いですよ?」
「無理ぢゃ、無理なんぢゃ! ワシらおっちゃんは、おばはんにはほったらかしにされるし、若いモンにはバカにされるし、髪の毛は淋しくなる一方やし、仕事ばっかりして、楽しいことなんかなーんもないんじゃ! ほっといてくれ!」
 おぢさん連中は、必死で慰めようとするエイシャ青年に背中を向け、またぐいぐい哀しい酒をあおろうとする。
 その哀愁漂う背中を見て、もとより人のいいエイシャ青年は、我知らず、こう励ましていた。
「いえ、そんなことありません。今度、この店に皆さんでいらして下さい。楽しいお酒が飲めるように、面白い人たちを招んでおきますから」
 おじさん連中の目に、きらりと生気が戻った。
「ワシらのロンリーハートを癒してくれる人材がおるっちゅうのんか!?」
「多分‥‥いえあの、も、もちろん!」
 もうこうなったらおぢさん連中の期待を裏切ることはできないと、胸を張ってみせてしまうエイシャ青年であった。
 翌日。エイシャ青年は久しぶりに冒険者ギルドを訪れていた。
「すみません。どなたか、熟年男性の酒席を盛り上げてくれる人、いませんか〜?」

●今回の参加者

 ea0943 セルフィー・アレグレット(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4099 天 宵藍(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb1248 ラシェル・カルセドニー(21歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb2266 アリス・ヒックマン(27歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●受難のイケメン
 今宵、エイシャ青年のエールハウスにおやぢ達の宴会を盛り上げるべく、個性豊かな冒険者達が集結していた。
 その一人、しなやかな歩きぶりと切れ上がった瞳がどこやら猫を思わせる美女がおやじ達のテーブルに歩み寄り、自己紹介した。
「ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)よ。気軽にミリーって呼んで下さいな。ささ、おひとつ、どうぞ」
「うぉ〜、こりゃ色っぽい。おねーちゃん、あんたも、飲み」
 財布の紐もほっぺたも緩みぱなしで酒を次々注文するおやぢ達。
「‥‥うぅん、お酒飲むと体が熱いわ〜」
 とミリーが豊かな胸元がのぞくほど襟をくつろげたりするものだから、おやぢ達はさらにヒートアップ。
「どんどん酒もって来てや〜! 今日は家売ってでも飲むでぇ〜!」
 恐るべし、ミリーのおやぢ操縦術。破産者が出ないことを祈るばかりだ。
「ミリーさん、さらに個性に磨きをかけられたみたいですね」
 エイシャ青年の胸に、この店そして冒険者数名を震撼させたおばはん事件の際、唯一人冷静だったミリーの姿が去来する。同じく事件の関係者、シルキー・ファリュウ(ea9840)がくすっと笑ってうなずいた。
「‥‥お皿、運ぶね」
 手伝いを申し出たシルキーは、エイシャ青年の黒い瞳と視線が合うと、なぜか困ったように目を伏せた。
 今一人、酒席に妖しの美女が、羽扇を手に現れた。
「よろしく。わらわ‥‥じゃない、わたくし梅紅と申します」
 華国語で挨拶をする彼女? のまとう華国衣装は裾長で、脚線美こそ見えないが、身にぴたりとした衣装は体の線に無駄が無く、しなやかなことを暗示する。髪の分け目を変えて傷跡を隠し、シルキーに手伝ってもらって化粧をほどこし女装した天宵藍(ea4099)である。梅紅は源氏名。以前、とある店でアルバイトした経験を生かしたという。
「うっひゃー! こらまた、大人のしっとり系美人やのう!」
 元気なおやぢはミリー&宵藍のお色気チームに群がる。心に屈託を抱えたおやぢ達は‥‥
「そんで、その客、金払わんと帰ってしまいよってん。うぅ〜」
「まあ、そんなことがありましたの‥‥つらかったですわね」
 愚痴をこぼすおやぢ相手に、優しく相槌を打つアリス・ヒックマン(eb2266)。栗色の髪にふちどられた清純な横顔の彼女はしかし、
「つらいことは教会でお祈りをしてお忘れなさいませ。心が清らかになりましてよ。ついでに浄財のご寄付も」
 人呼んで、聖なる勧誘上手。クレリックであり清純な美少女にしてお金大好きという彼女の二面性を見抜けるおやぢは少ない。
「アリスちゃんはマドンナや〜」
 聖なる母と見紛うばかりの癒し系美少女に歓喜するおやぢをよそに、アリスは一人ぐふふと妖笑。
「‥‥寄付要員ゲットだぜ!」
 黒髪の若者がウサギ肉のローストを運んで現れた。
「おっさん達、酒はほどほどにして食うもん食えよ?」
 リュイス・クラウディオス(ea8765)の、北国生まれらしく一見冷たいほどに整ったその顔を見て、おやぢ達が口々に叫んだ。
「わし、このにいちゃん知っとるで! ヨメはんが似顔絵持っとるわ。ヨメ、朝晩その似顔絵にチューしとるで」
「うちのオバはんもやわ。毎朝毎晩ブッチュ〜ッと」
「大丈夫ですか、リュイスさん!?」
 突然青ざめたリュイスが口を押さえて戸外に飛び出していく。エイシャが追いかけて薬を手渡していたが、彼の精神的ダメージに効力があるか否かは不明である。
 
●受難の少女
 セルフィー・アレグレット(ea0943)もまた違う意味でおやぢを喜ばせた一人。
「あのあの‥‥セルフィーっていいます。よろしくお願いします」
 料理を運ぶエイシャの肩に乗り、おずおずと挨拶をおくる彼女を見て、おやぢの一人が不穏な発言。
「こらまた可愛いのぅ〜。おっ、そんな高いとこにおったらスカートの中が見えるで」
「‥‥ッ!? キャー! キャー!」
 スカートを押さえて、背の高いエイシャ青年の肩から飛び離れようとするセルフィー。しかし、
「女の子の恥らう姿はええのう〜!」
 面白がって追い掛け回すおやぢもいて。と、艶然と客をあしらっていた梅紅ママこと天宵藍がすっくと立ち上がり!
「静まらんかい! 頭かち割って小鳥の巣詰め込んだろかオラァ!?(IN華国語)」
 華国語の分かるおやぢはいなかったが、その迫力だけは店内中にビシバシと稲妻のように伝わった。し〜んと静まり返った店内を見回し、
「聞き分けのよいお客様達で、助かりますわ」
 梅紅ママは、玲瓏たる微笑を浮かべた。
「ふえ‥‥」
 救われたセルフィーすら一瞬怯えて泣きかけたらしい。そしてラシェル・カルセドニー(eb1248)、レテ・ルシェイメア(ea7234)、二人のエルフ美少女も酌をしようとテーブルについていたが、二人とも酒席には不慣れで、酌をするタイミングもわからずおやぢとの会話も最初は弾まなかった。何しろ、おやぢ達の会話は、
「そんでワシ、ナニをアレしたんやわ」
「そうですね〜」
「わし思うけど、アレは相当ナニやで」
「そうですね〜」
 といった具合。ちなみに何でも「そうですね〜」とオールマイティー相槌をかましているのはミリー。しかしおやぢ達は他愛なく満足しているようで、これもレテ達の理解を超えている。
「ごめんなさい‥‥私じゃあんまりお役に立ちませんか?」
 おやぢ達に、レテは謝った。
「いんや。そない急いで大人の仲間に入らんでよろし。あんたみたいな若い子がそやっておっちゃんを気にかけてくれるだけで、十分や」
「そう‥‥ですか?」
「どや、学校楽しいか?」
「はいっ。楽しいです。勉強は難しいけど、ひとつ覚えるたびに世界が広がるみたいで。あと、お友達と演奏会で歌ったり‥‥」
 レテがはにかみながら話すのを、爽やかな音楽を楽しむように、おやぢ達が目を細めて聞き入る。おやぢの一人が、ぽつりともらした。
「実を言うと、わし、さっきから思とったんや。あんた、わしの初恋の女の子に似とるんやわ‥‥」
 ほろ酔いおやぢの心に残る純情のかけらを、レテは呼び覚ましたようだ。
 ラシェルは、隣に座ったいかついおやぢにしきりに話し掛けられている。
「あんたみたいな、そういう清楚なちゅうんか、お嬢さんぽいファッションがわしは好きやねん。それがわしの娘と来たら男みたいなカッコでヘソ出すやら脚出すやら、品がないねん、品が」
「でも、私もいつもこういう服着てるわけじゃ‥‥活動的な服も好きですし‥‥娘さんもきっと、女の子らしい服を着たい時がありますわ」
 ラシェルの素直な話しぶりに、おやぢもいくらか慰められたようだ。
「こんなおっちゃんの愚痴聞いてもろて、すまんかったのぉ」
「そんな‥‥私も、お父さんと話してるみたいで、嬉しかったです‥‥」
 甘えん坊を自覚するラシェルが、はにかんだことだった。
 女性陣との会話と、酒と雰囲気のおかげで、おやぢ達もだいぶ元気を回復したようだ。梅紅ママがぱんぱんと手を叩く。
「さあ、そろそろ音楽の時間よ」
 レテ、ラシェル、シルキー、セルフィーが声を合わせて歌う。
 おやぢ達の青春時代に流行したちょっと古い歌から始まって、おやぢ達のリクエストにより、今若者達の間で流行している歌を、上手に歌えるように歌唱指導することになった。
「そうそう、もっと自信もって!」
「わあ‥‥ずいぶん上手くなられましたね」
「どや、まだまだ若いモンには負けへんで〜!」
 女性4人による指導のたまものか、おやぢ達は新しい歌をどうにか歌いこなして大得意だ。歌に熱中して髪の毛が半分吹っ飛んだおやぢもいるにはいたが、歌にあわせて妖しく舞う梅紅ママが扇を使って風を送り、こっそり修正。
 やっとこの頃、精神的ダメージをいくらか回復したリュイスがリュートベイルを爪弾きなどして、歌唱指導を手伝っていたのであるが、夜更けのこととて、おやぢ達を配偶者つまりおばはん数人が迎えに来店。
「オトーサンいつまで飲んでっ‥‥あれ!? リュイスちゃんやん! いやっ!? エプロン姿めっさ可愛いやん〜」
 イケメン楽士とそのファン達の、予期せぬ交流の心温まる模様が見られた。途中リュイスの、
「ちょっ‥‥抱きつくな〜! た、助けてくれ〜!」
 という悲鳴が聞こえたようだが恐らく空耳であろう。

●ふたり
 怒涛の盛り上がりを見せた宴会もついにお開き。アリスとセルフィー、レテ、ラシェルは、女装解除した天宵藍に送られ帰っていった。ミリーは泥酔した靴屋のおやぢの酔いを覚ますとて戸外に連れ出した。リュイスはおばはん達により別店へ拉致‥‥いや、招待されたようである。
 店に残るのは、シルキーと、エイシャの二人だけになった。
「か、片付けようか」
 なぜか緊張気味にエイシャ青年が言う。うなずいて、汚れた皿を運びながら、シルキーがぽつり。
「私、もっと酔っちゃえばよかった‥‥」
「どうして?」
「あなたに話したいこと、あったんだけど‥‥いざとなるとうまく言えないんだ。あのね、私‥‥」
 言葉は急ぐ心に取り残される。シルキーは自分の心臓の音に邪魔されて自分が何を言っているのかわからなくなってきた。と、エイシャが優しくシルキーをさえぎった。
「待って。ぼ、僕もシルキーさんに伝えたいことがあるんだけど、いいかな、先に‥‥」
「え? ど、どうぞ‥‥?」
 エイシャが軽く深呼吸をした。
「‥‥好きだよ」
 世界で一番シンプルな、万感を込めたメッセージ。
 二人の頬にゆっくり紅色がのぼってくる。
「私も、エイシャさんのことが‥‥」
 声が途切れたのは、夜風の音のせいかそれとも‥‥

 店内で一組の不器用な恋人達が生まれたと同じ頃。
「この酔っ払いのハゲ豚中年がっ!」
 夜の町角で、酔いを覚ます為? ビシバシと皮のベルトを鞭代わりに、靴屋のおやぢを責めているミリーがいた。
「ああ〜っ、そうです私は中年ハゲ豚ですぅ〜」
 おやぢが喜んでいるとこを見ると、これも一つの愛の形?