男子厨房に乱入!?】天然でも役に立つ!
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月27日〜06月01日
リプレイ公開日:2008年07月17日
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●オープニング
比叡山。
古来より知られた聖なる山であるが、戦場となった今は、怒号と悲鳴、鍔鳴り飛び交う混迷の地と化している。
その中を、奇妙な三人連れが負傷し倒れた僧兵を囲み、何やら必死になっている。
「この傷‥‥またヒューマンスレイヤーでしょうか、宗哲先生」
「むぅ、血止めの布が足りぬわ‥‥京助、頼む」
「また俺でござるか?」
「ええい、布が足りぬゆえ、お前の着流しの裾を破いて即席の包帯にしようと言うのじゃ」
「しかし、いくら俺の着流しがもっとも包帯に適しているといえ、ここへ着くまでに裾を破きすぎて既に『みにすかーと』状態ではござりませぬか」
「ええい、みにすかーとがどうした! 押さえ込め栄作!」
なんか緊張感のない言い争いをする小柄な老人と欧州人の青年、浪人風の男が一人。
そこへ、逃げる僧兵を探してか、行き合わせた平織軍の侍が返り血にいどろられた顔を向けて、三人連れに誰何する。
「貴様ら、何者だ!」
「怪しいものじゃありません」
三人は声をそろえて言うが、それぞれが大きな荷を持って、浪人風の男は破られた着流しの裾からにょっきり長い足を出しているとあって、珍妙な風体であることは確か。
「思いっきり怪しいわい!」
当然、侍に怒鳴られた。
「ほらやっぱり。 男のみにすかーとはありえませぬ」
「そーゆー問題じゃなくてだな。貴様らは何者だと聞いておる」
小柄な老人が応えた。
「わしは京都で診療所を営む丹波宗哲と申す医者じゃよ。こちらにおるのは弟子のアシュリー・エイシャ‥‥通称「栄作」‥‥と、居候の京助じゃ」
「して、その医者と弟子と居候が、かような場所におる目的は何ぞ?」
「なに、医者としての務めを果たすまでよ」
「医は仁術とでも? 正義は平織にあり。生臭坊主どもまでも助けるとあらば、貴様も同類とみなし斬って捨てるやもしれぬぞ」
平織の侍はにらみつけた。
何か言いかけたアシュリーを制し、ひょうひょうと宗哲は笑った。
「ま、それもそうじゃが、医者というても台所はきびしゅうての。一人でも多く助けて、恩を売っておくにしくはないと思うてのう。節操なき治療という結論にいたったわけじゃよ」
呆れたように宗哲を見ていた侍は、
「ハッ、金の亡者か」
言い捨てて、山中へと消えていった。
負傷した僧兵をありあわせの包帯? と薬草で手当てしたものの、傷は深い。
三人は木の枝とアシュリーのシャツで作った即席の担架で、怪我人を下山させることにしたようで。
途中、同じく山中のどこかで救援を行っている冒険者達がいるはずなので、彼らに会って、よりよい治療用具を譲ってもらおうと考えていたのだが、歩くうちにアシュリーが首をかしげた。
「あれ? ‥‥おかしいなあ」
いつまでたっても下山コースにたどり着けない。
「さては、道に迷ったのではありませぬか?」
「うーん‥‥京助さんもやっぱりそう思います?」
「ってゆーか、目の前に崖しかなくて先へ進めない状態ぢゃろーが」
と、崖っぷちに来てようやく道に迷ったことに気づいた一行。
医療活動の目的は立派なんですが、どこかおまぬけな三人ではある。
「くれぐれも道に迷わぬように申しておいたに、迷うとは。どうしたことじゃ」
聞かれたアシュリーの温和そうな顔が引き締まる。
辛い場面を思い出したらしく。
「来る途中、ヒューマンスレイヤーとかいうレミエラで僧兵さんが切り倒されたのを見ました」
瞑目して十字を切るアシュリー。
しーんと宗哲、京助も沈黙する。
アシュリーが続けた。
「エチゴヤさんが通りがかって、いろいろ聞かれて、冒険者の皆さんにも注意を呼びかけておくって言ってくれましたけど‥‥あのヘアバンドが気になって気になって。あれって何のために‥‥」
「そんな理由でか!」
ってことで、三人の喧嘩は果てしなく続くのであった。
合掌。
●リプレイ本文
5月27日。
延暦寺の乱は終盤に突入し、比叡山から舞台は京都に移っていた。
平織軍と延暦寺の主力は都の北東で激突し、乱入した鉄の御所の鬼達のおかげで平安の都は阿鼻叫喚の巷と化す。
両軍に参陣し、或いは独りにて戦場を駆け巡る冒険者は数百名。
まさに下界は剣戟と悲鳴にいろどられた修羅界の如く。
‥‥そんな緊迫した状況下、人命救助転じて要救助者の三匹を救出すべく、8人の冒険者が集まった。
「丹波先生が迷子になったって本当?」
京都の避難民を誘導していた逢莉笛鈴那(ea6065)は知らせを聞いて仮設村から駆け付けた。
「危険な場所なのを省みず、両軍問わずに医療活動‥‥とてもすごい事です。中々出来ない事ですよね‥‥本当に」
白クレリックのシルフィン・マックスハート(eb3313)は丹波達の行動に深い感銘を受けての参加だ。
「まあな。同業者で顔見知りだし、こんな戦で失うには惜しい連中だ」
ジーン・インパルス(ea7578)の生業は救命士、キングダムレスキューと呼ばれるジーンも医療局の仕事を抜け出してやってきた。
「今、未楡と北斗が馴染みの連中に声をかけて目撃証言を集めてくれている」
ジーンと同じく医療局で負傷者の移動を助けていた明王院浄炎(eb2373)も旧知の危機と聞いて馳せ参じた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん‥‥お兄さんはあたしが必ず連れて帰るから」
チェルシー・ファリュウ(eb1155)は身重の姉の為に、義兄の救出に赴く。姉の家で借りた義兄の衣服の匂いを熊犬に覚えさせて捜索隊に加わった。
「ともかく、急がねばな。食料も底をついておる頃かもしれん。腹を空かせて我らが来るのを待っておろう」
料理人の紅麗華(eb2477)は三人の体調を心配して、塩や味噌を用意していた。
「だけど、レンジャーが迷子だなんて、ありえねー」
ライル・フォレスト(ea9027)は同じイギリス出身のレンジャーとして、アシュリー・エイシャの不甲斐なさを嘆く。山中の捜索に彼の知識は欠かせない。
「本当に、この状況下で道に迷われるだなんて‥‥」
あの三人らしいというか何と言うか、レラ(ec3983)は深々と息を吐く。ただ、この大変な時期に8人もの冒険者が参加し、集まった冒険者に三人の知人が多いのも彼らの人徳だろう。
比叡山は広い、手分けして効率的に探さなければ発見は難しい。
捜索隊まで迷子になる可能性があり、また戦場が都に移ったとは言ってもまだ山中には平織兵や僧兵も居る筈で、遭遇すれば戦闘の危険もある。
一行はすぐにでも探しに行きたい心を押さえて、麓にて情報収集と捜索方針の話し合いを行った。
「19日頃、越後屋のウサ耳親父がアシュリーと話してる。これは確かな筋の情報だよ」
玄間北斗の話では三人はその後山に入っていったらしい。
「非戦闘員の下山に平織軍の設けた猶予期間が過ぎ、四方から軍勢が侵入した時には、三人は山中で救護活動をしていたようだ。複数の証言がある。あの激戦の中を‥‥まことに恐れ入る」
浄炎もその時、移動救護班の護衛で山に居た。ヒューマンスレイヤーを手にした柴田勝家隊と僧兵主力の大激突。その現場に宗哲達が居たのか。
「剛毅だねぇ。西側から攻め上がった柴田隊と僧兵がぶつかったのがこの辺りだろ。‥‥大混戦だったよな。だけど、そっから下山したなら迷子にはならねーぜ?」
「逆方向に向かったのかも。坂本の南に作った仮設村。私達は非戦闘員や負傷者をそっちに誘導してるから」
鈴那の言葉に、ジーンは思わず膝を打った。もし三人が負傷者を冒険者に預けようと考えたとしたら。
「なるほどな。両軍の救命活動なんてどっちからも睨まれる事やってんだ。山中を隠れながら横断して坂本か‥‥それなら迷うのも合点がいく」
証言と推測から大体の捜索範囲を決めて、冒険者達は出発する。
鈴那の提案で冒険者達は、先行組と後発組に分かれた。
先行組は身軽にして捜索に専念し、後発組は荷物運搬、野営準備、怪我人を保護した場合の看護等を兼ねる。先行組の浄炎は背負い袋の荷物を鈴那に預け、鈴那は荷物を馬ごと後発組の麗華に頼んだ。
「レラさん、これを。前の戦の余りもんだから、効果の程は期待できねーけど、気休めにはなるからさ」
後発組のライルは先行組の出発前にレラに神皇軍鉢巻を渡した。
「お気遣い有難うございます」
レラは丁寧に礼を述べ、月桂冠と妖精のトルクの上から鉢巻を絞めたらずり落ちた。
「あら‥」
「月桂冠をかぶったまんまで鉢巻は変だろ」
と言われたが、直感は人一倍と自負するレラは感覚を研ぎ澄ます茨の冠は外し難い様子。
「腕に巻くのは駄目でしょうか?」
「ん? 別にいんじゃね」
真剣に聞くレラにライルは苦笑した。余談だが、鉢巻をちゃんとつけているのはライルだけだ。ジーンも袖に巻いている。
「まだ鉢巻を持たぬ者は居るか? 俺は二本余っているから貸そう」
鉢巻を持った浄炎が聞く。
「はーい。貸してください」
チェルシーが元気に手をあげた。レラから先生達の人相を聞いていた麗華とシルフィンも未所持だというので、とりあえず麗華に渡した。
「悪いねシルフィンさん。もう一本持ってくれば良かったな」
自分を見るシルフィンに気づいてライルが謝る。
「い、いいえ‥‥私は大丈夫ですから」
シルフィンは無意識にリボンを触った。無用の混乱を避けようとした彼女には、ハーフエルフの特徴である耳を隠さないライルが眩しく見えた。
「準備出来た?」
先行組の鈴那ははやく出発しようと仲間達を急かす。
「気持ちは分かるが、焦りは禁物。まず自分達の安全確保、次に要救助者の人命だ。俺達まで遭難したら元も子もねーからな」
ジーンの言葉は半ば己に言い聞かせるようだ。
「分かってるわよ。山の事は詳しく無いし、餅は餅屋だものね。山に入ったら指示に従うわ」
ジーンは頷く。普段の鈴那は危なっかしい所もあるが、信用できるプロである。比叡山が実質的に敵地も同然な事を考えると、彼女の隠密スキルは仲間達の生命線と言っても過言ではない。
「ふぅ、予想通りと申せましょうか‥‥」
先行組のレラは金の指輪を媒体にして太陽神に三人の居場所を尋ねた。
太陽は彼女の質問に分からないと答える。
比叡山の山中は日陰ばかりである。あの三人がレラの行動を超人的カンで察し、開けた場所で太陽に手を振ってくれれば別だが、基本的には偶然を期待する他ない。
「気長に続けてくれよ。大声張り上げて探す訳にも行かねーし、可能性のある事は全部試した方がいい」
先頭を歩くジーンはナイフで立木に目印をつけながら進む。小さな違いも見落とすまいと歩く速度はゆっくりで、後発組との距離も気にした。
「あの峰が青山、天高山があちらとすれば、恐らく三人が進んだのはこの峰沿いではあるまいか」
猟師の知識で浄炎は、先行組の道案内を行う。ジーンと相談しながら慎重に進路を決める。
「怪我人の手当てをしながらだったら、川とか水場の近くに居るんじゃないかな?」
鈴那が意見を出す。
「川と言えば、四ツ谷か大宮か‥‥しかし、川沿いに下れば仮設村はすぐだ。とうに下山していなければ妙だが」
「ふむ。その近くで迷いやすい場所を重点的に探せば早いかもしれないな」
後発組の四人は先行組のつけた目印を頼りに進む。
道案内役はライル。山に強く、ジーンと浄炎の残した目印を目聡く発見して順調に先行組の後を追う。
「麗華さんとシルフィンさんは荷物持ち過ぎ。適当に馬に移してよ。あと、山草もそんなに採り過ぎない」
細かく仲間達に注意する。
「小舅のようじゃ」
せっせと山菜を馬の背に積んでいた麗華が悪戯っぽく笑う。
「ひどッ。麗華さんの方が年上じゃん」
「無粋な奴よのう。周りを見て見よ。若芽のよい物が多くて良い時期じゃぞ」
麗華の笑顔に邪気は無い。シルフィンが植物知識に強いので、薬草や食べられる野草の採集は捗った。
「これで何か肉でも手に入れば、せいの付くものを作ってやれるのだがな」
「‥‥お兄さん、お腹空いてないかな」
採った野草で食事作りを手伝いながら、チェルシーは山中を彷徨う義兄の姿を想像した。チェルシーは明るい娘だが、大切な家族の事を考えると胸が痛い。
「皆、誰かしら大事な人がいるのに、争うのって悲しいよね」
山中を捜索中、何度か僧兵や平織兵に遭遇した。皆、殺気だった目をしていた。彼らも誰かの父であり兄であり、家庭では優しい筈の人達なのに。
「貴様ら、冒険者だな? 延暦寺方か平織方か、いずれの隊の者か名乗れ!」
顔に包帯を巻いた僧兵が六尺棒を突きつけて誰何する。
「見損なうんじゃねー! このすっとこどっこい。よくこの鉢巻を見ろ。俺達は神皇軍だ!」
兵士に間違えられたのが余程腹に据え兼ねたのかジーンが啖呵を切る。が、延暦寺の僧兵は鉢巻を見ても何の事か分からない。
まあ、一昨年の物だから平織軍の雑兵に見せた時も同じ反応だったのだが。
「騙りとは忌々しいかな。魔王虎長こそ君側の奸、我らこそ本物の神皇軍ぞ」
大義名分の話になるとややこしい。特にジャパンはその辺が煩いとジーンは思う。深々と息を吐き出して、先に折れた。
「いや悪かった。あんた達と喧嘩する気はない。見ての通り、俺達は救護隊で今は人を探してる。通してくれるなら、あんた達の傷も治すがそれでどうだ?」
両軍の治療を行う冒険者の事はこの頃にはそれなりに知られている。両軍には不審の眼で見られていたが、しきりに安祥神皇の名を出しては、逆らう者は襲っても治療する者さえいたお節介集団である。
「お主達もか。奇矯な者共よ」
「も、とは‥‥私達の他に誰に会われたのですか」
シルフィンのリカバーを受けた僧兵の話では、二日前に奇妙な三人連れを見かけたという。人相を聞くと、まず間違いなさそうだ。
「どんぴしゃだ。二日前にその辺りに居たとしたら、今は‥」
ジーン、ライル、浄炎は相談して捜索範囲に修正を加える。山狩りのような物量作戦が出来ない以上、知識とカンだけが物を言う。時折成功するレラのサンワードも頼りにして、捜索の輪を縮めていった。
そしてついに。
「見つけたよっ」
木の上に登った鈴那が三人組を発見する。
「ニナ、行け!」
エイシャの匂いを覚えさせた柴犬を放つ。後発組も急いで駆け出し、息を弾ませたチェルシーは崖の上で犬にまとわり付かれたエイシャ青年を見つけた。
「お‥」
叫ぼうとして言葉につまる。
「‥‥!」
レラは下半身を殆ど露出した京助の姿に絶句した。
「あー、レラ殿。これは訳がござってな。決して俺の趣味では無いゆえに、誤解なきように頼みたい」
「うふ‥‥はい、分かりました。ですが、そのような恰好では風邪を引かれますわ。皆でいろいろと持参して着ましたから京助さんもお着替え下さい」
吹き出しながら、京助に着る物を渡した。京助はよほどみにすかーとが嫌だったのか、満面の笑顔で何度も礼を言った。
丹波宗哲は疲労で倒れていたが、冒険者の看護で目を覚ます。
「やれやれ。歩き詰めで腹が減ったわい。栄作や、昼ご飯はまだかのう?」
「先生‥‥二日前から何も食べてないじゃないですか」
「冗談じゃよ。患者は無事か?」
宗哲達が山中で助けた僧兵は昏睡状態にあったが、冒険者達の治療で何とか一命を取り留める。
「有難う。君達が来てくれなかったら、僕たちはどうなってたか」
エイシャ青年が冒険者達に礼を云う。宗哲と僧兵はまだ起きれないので、麗華達の作った料理を食べている。
「口に合うかのぅ、おかわり自由じゃ腹いっぱい食すが良い」
「ふん。まずいわけが無いが、それにしても美味いわい」
京助はジーン達と付近の避難民の状況や帰りの道の事を話している。
「あの‥」
チェルシーは勇気を出してアシュリーの前に立った。祈るように両手を組んでいる。
「な、何かな?」
エイシャ青年はばつが悪い。身重の妻を残し、人命救助の筈が要救助者。しかもレンジャーの彼が居ながら迷子という体たらくである。だから義妹の言葉は不意打ちだった。
「お兄さん!お姉ちゃんが待ってるから皆で家に帰ろうね!」
「‥うん」
一行は三人と負傷者の僧兵を助けてひとまず仮設村へ向かい、それから無事に京都へ帰還を果たした。
(代筆:松原祥一)