さわやか系で行こう! 

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月18日〜06月23日

リプレイ公開日:2005年06月28日

●オープニング

 ここは、キャメロットから二日ばかり離れた、小さな村。
 村人中が村長宅に集まって、会議の最中である。
 この村は、小さな谷あいにある。先日、その谷の土砂崩れのせいで、村の農作物の大半がダメになってしまった。
 村の減収は火を見るより明らかであった。
 村人会議のテーマは、その減収をどうやって取り戻すかということだった。
「残った農作物を、なんとかして売るべ」
「おめさ、寝とぼけてんでねっぺか。今、この村で、村人の食べる分を残して、売れるほどたくさん収穫できるもんっつったら、ハーブくらいだっぺ」
「だったら、そのハーブを売り物にするしかなかっぺや」
「何言ってるだば。この村にあるハーブったら、どこにでもあるようなもんしかないべ。ヘタしたらそこいらの家の庭にだって生えてるような、ミントぐらいだべや?」
 ハーブはイギリス国民にとって、非常に親しみ深い農作物である。
 特にミントは、肉の匂い消しや酒に香味を添えるなど料理に使うだけではなく、傷口の消毒や炎症止めに使われたりと、薬物としての効用も親しまれている。
 しかし比較的繁殖力の強い植物でもあり、ありふれたハーブといってよい。
 村人達には、そんなありふれた香草が、土砂崩れの被害を補うほど売れるものとは到底思えなかったとしても無理はない。
 だが、村人の一人であるシフールの若者が、情報通のシフール族らしく斬新なアイディアを提示した。
「はっはっはっ。シティボーイの僕に任せてくれたまえ」
「おめ、なんか考えでもあるっぺか?」
「もちろんさっ! まず、この村のミントは、他より品質がいいってことを、印象付けるのさ。たとえば、僕達だって、何かモノを買うとき、同じモノならおばはんが売ってるモノより、きれいな売り子が売ってる方を選ぶだろう? 
 素敵な売り子を雇って、
『この村のミントは最高よ!』
 とかなんとか、町角で宣伝しながら売ってもらうのさ!」
「おおー! さっすがシチーボーイは違うっぺ」
 斬新な提案に、村人達は思わず嘆息したが、村長は慎重な意見を吐いた。
「けんどよ、そんなカッコのええ売り子は、雇うのに高い銭がいるに違いないっぺ?」
「フッ、カントリーピープルは考え方が狭いなあ。ならば、その売り子を選ぶ過程をお祭り感覚で、コンテストにしたら? みんな面白がって、参加するんじゃないかな」
「そら、面白そうだべ!」
 純朴な村人達は、そのアイディアに乗った。
 そして、和気藹々とコンテストの詳細を煮詰める会議に移行したのである。
「後は、コンテストをどんなもんにするかだな」
「まず、優勝者はできたら男女一人ずつがいいっぺ。『ミントガール』『ミントボーイ』って呼ぶのはどうだ?」
「なんか爽やかそうだべ。決まりだべ」
「呼び名はボーイとガールでも年齢制限無しってことにしといたほうがよかっぺ。応募人数が増えっから」
「んだ。あと、『ミントボーイ』や『ミントガール』つうからには、ミントが好きでねえといけねっぺ」
「ミントったらスーッとするもんだっぺ。スーッと爽やかな男か女でなきゃいけねっぺ」
 喧喧諤諤の会議を経て、ついに『ミントボーイ&ミントガール』応募要綱が定められた。村人達は、近隣の村やキャメロットのあちこちに張り紙や立て札で不特定多数の人々に告知した。
「ミントボーイ&ミントガール募集!
 ミントのイメージにふさわしい、さわやかな男女を募集します。
 私達の村にてコンテストを行い、優勝者男女各一名をその名もさわやかな『ミントボーイ』&『ミントガール』として選出いたします。賞金はそれぞれ1G。選出された『ミントボーイ』『ミントガール』には、当村の特産品であるミントの宣伝販売に協力いただきます。
 応募資格:年齢・種族・性別・体格不問!
 応募条件はただひとつ、「ミントが好きであること」。
 応募者にはコンテスト席上で、「ミントへの思い」を語っていただきます。表現形式は自由です。
 例:超濃縮ミントジュースのイッキ飲み
   ミントのさわやかなイメージにぴったりな特技の披露(歌唱・踊り・格闘技などなんでも可)
   ミントを使ったレシピ披露 など。
 
 また、応募動機などのインタビューや、村人のおかみさん連中で作成したミントのイメージの衣装を着ての審査もあります。選考自体お祭りのように楽しめるものになるように村人一同、がんばって準備しております。ふるってご応募ください」
 冒険者ギルドの掲示板にも、村人がそっと応募要綱を貼り付けていったようだ‥‥

●今回の参加者

 ea0314 エレナ・アースエイム(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3006 クララ・ディスローション(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea7727 ヨアン・フィッツコロネ(29歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea9335 チュチュ・ルナパレス(17歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1155 チェルシー・ファリュウ(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb2526 シェゾ・カーディフ(31歳・♂・バード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●ミントでポン!
 冒険者達は村に到着した。その一人、アデリーナ・ホワイト(ea5635)の背後には、筋肉隆々の下僕? が従い彼女の荷物を運んでいる。アデリーナはその男を振り返って言った。
「着いたようですわ。オットーさん、あとは大丈夫ですから、どうぞ劇団の練習にお戻りになってくださいな」
「いえっ。自分は、アデリーナさんの美貌に目をつけて、誘拐をもくろむ輩が出ないように貴女を守るっす!」
 どこからか「そらアンタや」とツッコむ心の声が聞こえたようだ。筋肉男は、額に「アデリーナ命」と書いた鉢金を締め、彼女の名を背中一面に大書したシャツを着込み、まさしく彼女の親衛隊といったところ。
 エレナ・アースエイム(ea0314)は、道中口数も少なく、なにやら思い悩んでいるチェルシー・ファリュウ(eb1155)を気遣った。
「どうした、元気がないな。疲れたか?」
「ううん‥‥大丈夫」
 ぎこちない笑顔を見せて、チェルシーは答えた。チェルシーの頭にあるのは、同じく冒険者である姉のことだった。このところ妙にそわそわしていて、話し掛けても上の空であることが多い。恋でもしているのかも。姉の幸せは喜ぶべきなのだろうが‥
(「なんかおねーちゃんが遠くにいっちゃうみたいで、やだ‥」)
 複雑な乙女の心境である。
 ともあれ、第一次審査開始だ。
「あたしの感動を伝える、超薄荷(スーパーハッカ)イメージソングをご清聴ください」
 一番手チュチュ・ルナパレス(ea9335)が、ノリノリで歌いまくる。
「貴方のハート丸ごとGET!
 あたし スーパーハッカぁ☆」
 歌唱力は初心者に毛が生えた程度だが、ミントの葉冠で耳を隠した彼女のキレッぷりは審査員に「ミントへの愛」をかなり感じさせたようだ。
 二番手、シェゾ・カーディフ(eb2526)。優雅にミントティーを飲み、女性審査員に近づいて、しなやかな銀髪をかきあげて切なげに吐息をついてみせ‥
「私のため息は、ミントの香りとキミへの想いでできているのさ、フッ‥」
 女性審査員の瞳をハート型にさせた。
 続いてヨアン・フィッツコロネ(ea7727)。かなり緊張気味で、蒼く透き通る羽の動きもぎこちない。
「僕の趣味は読書です。ミントの葉を栞に使うと、爽やかな香りで内容が良く頭に入ります」
 実際に愛読書を持参し、ミントの葉を栞にして読み始めたヨアン。
 ‥‥
 そのまま時間経過。いつしか読書に夢中になったらしい。
「いつまで読んどるねん!」
 客席からツッコミが。ヨアン、はっと我に返って、
「あ、失礼しました。つ、続けます。夜眠る時にもミントの葉を傍に置きます。気分を落ち着け、気持ちよく眠りに入る事が出来ます」
 これも舞台にベッド代わりの籠とクッションを持ち込み、実際にやってみせ‥
「ほんまに寝とるがな!」
 前日まで緊張していたため疲れが出たらしい。
 学者ならではの浮世離れっぷりで、ツッコミどころ満載のヨアンだったが、かえってその純な性質が村人に伝わり、概ね好感を得た模様。
 続いてヲーク・シン(ea5984)。
 ミントをすり潰した超濃縮ジュースのイッキのみである。
「ぷはーっ‥も、もう‥いい」
 ミントへの愛を表現するため『もう一杯』と言うはずが、あまりの苦さにコメントが変化したらしい。
 続いてチェルシー。
 家事に慣れているらしく、ハーブの壁飾りの作り方や、ミントの葉を使った薬用酒の造り方などを披露した。髪型も、肩までたらした髪にミントの葉を編みこみ、いつもより格段に乙女らしい。
 その時、ヲークがコンテストの発案者でもあり、司会進行をつとめていたシフールの若者を押しのけ、解説者席を強奪!
「おおっとこれはキューツな美少女の登場だ! 家事の腕前も心配なし、彼女にしたいナンバーワンでしょう! 俺の彼女になってくれ〜」
 ヲークのコメントに、チェルシーが真面目に答えた。
「ごめんなさい、無理だよ。あたしがいないとおねーちゃん、ちゃんとごはん造れないもん。この、薬用酒の造り方もね、もし、おねーちゃんの結婚が決まったら、お祝い代わりに教えてあげ‥うっ‥‥ぐすっ」
 その時に姉と離れる寂しさを想い、チェルシーは泣き出した‥審査員たちがおろおろしながら慰めた。
 続いて、クララ・ディスローション(ea3006)。
「小さく可憐で、可愛らしい女の子だ!妹にしたいナンバーワンなら彼女でしょう! 俺の妹になってくれ〜」
 ヲークのコメント炸裂。
「ミントは、大好きなおばあ様との思い出の品なの。一緒にお料理を作ったり、薬に使う方法を教えてもらったり‥おばあ様にはもう会えないから‥せめてもの思い出に、ミントガールになりたいの」
「優しいおばあ様だったんだね‥おばあ様は、いつお亡くなりに?」
 司会者のシフールが、もらい泣きしながら質問した。
「ううん、旅行に行ってるの」
 天然コメントを元気よく発したクララ、ミントのイメージには十分な愛くるしさはあるものの、少々動機が弱かったようだ。続いてアデリーナ。
「ハーブにまつわる伝説は多くございます。中でもミントは、戦士達のキズを癒し、貴婦人達の肌を磨き‥‥」
 天然の気配はあるもののさすがは才女アデリーナ。サロンの趣で、ハーブティーを傾けつつミントにまつわる薀蓄を語る。舞台袖で「ファイトッ、GOGO、アッデリーナ〜」と歌い踊る筋肉男が不気味だという説もあったが、にこやかに語るアデリーナには男性のみならず女性にもハーブのイメージに近いと好評を得たようである。
「掴み所の無い不思議系お姉さまだ〜、結婚してくれ〜」
 ヲーク絶叫の一こまである。
 最後にエレナが登場し‥
「これはごく普通の発泡酒だ。人によっては麦の風味が強すぎて、飲みにくいという人もいる。ところがミントの葉をこうしていれると、夏に相応しい爽やかな風味となる。お試しあれ」
 普通の発泡酒と、ミント入りのものを観客や審査員にも試し飲みさせ、自らも毒見とばかりに、クイクイと呷る。
「っくぁ〜!最高!」
 エレナさん審査を忘れてご満悦。
「うぃ〜。こりゃええのう〜」
「おーい、誰かツマミもってこい〜!」
 威勢のいい彼女の飲みっぷりに釣られて審査員の村人連中、そして解説者? ヲークまで酔っ払い、突如舞台は酒盛り状態に‥てんやわんやの第一次審査、終了。

●ドレスでポン!
「第二次審査用の、ミントのイメージの衣装です。男性モデルはこちらのシャツとズボンとマント、それに帽子。女性モデルはこちらのドレスです」
 コンテスト仕切り役のシフールの若者に説明され、それぞれのサイズの衣装を手渡された冒険者一同は衣装が意外とまともだったので、ほっとしたりがっかりしたり(?)。
「私もドレスを着るのか?」
 エレナが戸惑った声を発した。彼女は男勝りの女騎士で普段着は男装に近い。若者は笑った。
「原則は女性はドレス着用ですが、あなたならば男装でもかえって女性票を集めるかもしれませんね」
「いいじゃん。着てみれば? せっかくのチャンスだし」
 と、ヲークが熱烈にエレナにドレスをお勧めする。
「なんか下心でもあるのか?」
「いやいや、舞台の下から脚線美をのぞこうなんて考えてないから!」
 ぱっこーん‥
 静かな村に、殴打音が涼しくこだまする。
「慣れてるし、男装で行くとする‥か」
 呟いて男性用衣装を手に取りかけたエレナだが‥
『僕が一人前になったら、僕の作った飛び切り綺麗なキモノを着せてあげるね。エレナは、自分が綺麗だって気づいてないだけなんだよ‥』
 あるジャパン人の少年に言われた言葉が心をよぎった。
 
 二次審査開始。
 女性は皆同色の、淡い翠のドレス姿。それぞれの個性を活かした着こなしにより審査することになっていた。
 髪を巻き上げてミントの枝をジャパンのカンザシ風に差したチュチュは西洋と東洋のコラボレーション風。ドレスの長さを短めにベルトで調節し、ブーツを合わせて活発に着こなすチェルシー。唇に淡く紅を差し、胸元にブローチ代わりのミントの枝を差し、少女っぽい色香を匂わせたクララ。純白の長手袋を合わせて淑女らしい凛とした存在感を漂わせるアデリーナ。皆それぞれに美しく、人々の目を引いたが‥
「誰? えっ、さっきのあの、イッキ飲みの人!?」
 一番人々を驚かせたのはエレナだった。無造作に垂らしていた金髪にミントの花枝を編みこみ、襟ぐりの広いドレスからあらわになった細いうなじを恥ずかしそうにうつむけている。若鹿のような敏捷そのものの肢体に、淡い翠のドレスが意外なくらいに映えた。
「ええい、ドレスとは歩きにくいものだな‥」
 と呟いていることは別にして、アデリーナの手で薄く紅を差された唇といい、つぼみが突然花開いたような華やかさだった。
 男性陣はといえば、帽子をちょいと傾けて、シャツの袖をまくり、元気良く粋に着こなしたヲーク。翠のマントの上にさらりと銀髪を流し、帽子のベルトにミントを枝を差した王子様風のシェゾ。そしてヨアンはシフール向けにマントの代わりに白いシャツの胸元に翠のスカーフをなびかせ、碧色の髪と瞳と相まって清清しい雰囲気。やがて、司会進行役のシフールの若者が、村人達の投票結果を読み上げた。
「ミントボーイは、ヨアン・フィッツコロネさん! そして、ミントガールは、エレナ・アースエイムさん!」
「えっ‥‥僕ですか?」
「えっ!? 私が!?」
 選ばれた者はそれぞれ、自分が選ばれるとは思っていなかったらしく、きょとんとしている。以下はそれぞれの受賞コメントである。
エレナ「皆、ありがとう。今までドレスは動きにくいので好きではなかったが、たまになら着るのも悪くないな。そして、皆と酒盛りが出来て楽しかった。以上だ」
ヨアン「え、選んで頂いて、あ、ありがとうございます‥緊張のあまり色々やってしまいましたが、色々な人と出会えて楽しかったです」
 拍手の波が、緑したたる素朴な村一杯に満ちた。