かけらをあつめて

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 62 C

参加人数:3人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月24日〜10月31日

リプレイ公開日:2008年11月17日

●オープニング

夕食の席で、『母さん』が何かいいたそうな様子なのは感じていた。
 いいたそうなのに、私たちを気遣って言い出せずにいる‥‥そんな感じ。
 だから、私は普段よりつとめて明るく振舞った。
「ねえ『母さん』、今日のお味噌汁の具、これ何?」
「あ‥‥ああ、キクイモの根っこさ。やわらかいだろ?」
 台所にいた『母さん』はぎこちない笑顔で振り向いた。
「うん。おかわりっ!」
 『弟』の菊也が元気よくお椀を突き出した。
「はいはい。菊はよく食べるようになったねえ」
 ほんとうに、菊は元気になった。『兄さん』が出て行ってから、ひどくしおれていたのだけれど、ここまで元気になれたのは『母さん』がいてくれたから、だと思う。
 だけど‥‥
 私は見た。
 『母さん』が、菊也の様子を見ながら、そっと袖で涙を抑えたのを。
 ‥‥
 やっぱり‥‥無理だ。
 ‥‥
 かたん。
 私はお箸をおいて立ち上がる。
 「ねえ『母さん』。私たちに、何か話したいことがあるんじゃない?」
 ぴくりと『母さん』の肩が震えた。
「なんでも、話して。ねえ、覚えてる? 私たちが『家族』になったときの約束。‥‥『家族』になるんだから何でもお話するって約束したじゃない? たとえそれが今日から『家族』をやめて、出て行くよって話でも‥‥って」
「‥‥お時ちゃん。わ、わたし‥‥」
 『母さん』は気の毒なくらいうろたえた。
 菊也はしっかりと私の着物をつかんで、『母さん』と私を不安そうに見比べている。
 やがて、『母さん』は深い深いため息をついて、言った。
「‥‥ごめんね。実は、お時ちゃんのお察しの通りなの。私‥‥ここの『家族』をやめるわ」
 菊也が息を呑む気配が、私の体に伝わってくる。
「誰か、いい人できたの」
「違うのよ、そんなじゃあないの。‥‥私、やっぱり『あの子』のお墓を守ろうと思って。西紀州の田舎に引っ込むことにしたの」
 さびしそうに『母さん』は笑った。
 『母さん』には、五条の乱で戦死した息子がいる。そのことは『家族』になったとき、聞いた。
 私は私で、『母さん』の話を聞いて、死んだ父さんと母さんを思った。
 私の両親は村を襲った盗賊に、命を奪われていた。
 父さんと母さんも、急ごしらえのお墓にとむらったきり‥‥ちくりと私の胸が痛む。
 菊也はどうなんだろうと思っていたら、菊也はいやいやと首を振って『母さん』の袖にすがりついた。
「やだよ、『母さん』、行かないでっ!」
 透き通るようなパラ特有の華奢な手だから、力はたかが知れている。でも、ふりほどいてもふりほどいても、菊也は『母さん』にすがりついた。
 だけど、ジャイアントの私の力に押さえ込まれると、菊也がいかに懸命にすがりつこうとしても、ひとたまりもなかった。
 しっかりと菊也を抱きかかえて、私は怒鳴った。
「菊也は私が守るから。行って、『母さん』」
 私の言葉に『母さん』は一瞬凍りついた。
 だけど、「ごめんね!」と一声叫ぶと、『母さん』は家から逃げるように走り去っていった。あとでわかったことだけど、
行李の底に置手紙と、私たちが一月は食べていけるほどのお金が残っていた。『母さん』は、最後まで精一杯、私たちの『母さん』でいてくれたんだ。

 
 『母さん』も私も、出て行った『兄さん』も、もともとは、同じボロ長屋の隣同士に住まう他人同士だった。
『‥‥そう。お時ちゃんは、ご両親を亡くされたんだねえ。‥‥わたしは子を亡くした親、お互いさびしい身の上、助け合っていこうじゃないか。なんなら、お時ちゃん。わたしを『母さん』って呼んでおくれな』
 そう、言い出しっぺは『母さん』だった。
 その次が『兄さん』。
『じゃ、俺はさしずめ『兄さん』ってとこかな。よろしく頼むぜ、お時ちゃんよ。それとも俺じゃあ耳がとんがってるし、髪も眼の色も黒くねえから、だめかい?』
 『兄さん』が属するハーフエルフとやらいう種族は、いろんな国で忌むべき存在として、つらい立場を強いられているそうな。
 寂しさを抱えた他人同士が、慰めあうために始めた『家族ごっこ』。
 最後に、五条の乱で親兄弟を亡くして途方に暮れていた菊也を、私が拾ってきて、『家族』は完成した。
 だけど、そんな急ごしらえの『家族』だから、崩れていくのは時間の問題だったのかもしれない。
 最初に『兄さん』が、旅に出た。
「『狂化』を抑える薬でも発明されりゃなあ‥‥」 
 さびしそうに言い残して。
 そして次が『母さん』。
 菊也が自分の息子の生まれ変わりみたいな気がするといっていたけれど、そうやって自分の子供の記憶を封印していくことに対する罪悪感がきっとあったのだろう。
 だけど、菊也は‥‥
 私は、私の胸に顔をうずめてしゃくりあげている菊也を抱きしめた。まだ8歳。
 この子には、まだそんな大人の心情を理解するのは無理だろう。
 この子には‥‥まだ『家族』が必要だ。
 もっともっとにぎやかな、もっと暖かい家族。
 「ねえ菊也。冒険者ギルドに行ってみよう」
 私の声に、菊也は涙に濡れた顔をあげた。
「新しい『母さん』になってもらえる人を探すの。
 『母さん』、味噌汁の味は最高だったけど、魚焼くの、下手っぴでよく焦がしてたものね、新しい『母さん』は、お魚焼くの上手な人がいいよね。‥‥ううん、『父さん』や『兄さん』や『妹』だっているかもしれない」
 私はつとめて明るい顔で、菊也をうながした。
「‥‥うん」
 菊也は立ち上がって、少し恥ずかしそうに私と手をつないだ。

●今回の参加者

 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5061 ハルコロ(30歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

●手と手
 依頼の始まりは朝。冒険者達は、ギルドから聞き知った古い長屋を訪れた。
木戸を叩いて見ると。
「‥‥はあい」
 幼い答えが返ってきて、扉は開いた。のぞいた顔はいずれも、幼い。ジャイアントの少女ーー姉貴分の「お時」ーーは、冒険者たちを一瞬じっと見つめると、きちんと挨拶をした。顔立ちもはっきりとした、意思の強そうな少女だ。
「えっと、あの‥‥初めまして、『父さん』と『母さん』、『姉さん』」
「まあ、しっかりしてるわね。こちらこそよろしくね。炊事はちょっと不器用だから出来ないけれど、他の事なら‥‥そうね、子守唄とお話で寝かしつけるのは上手いのよ」
 仔神傀竜(ea1309)が微笑みかけると、お時はどぎまぎしたように瞳をそらした。
 母親役として女性で通すのか、ギルドに意思を伝えていなかったため、お時はギルドを通して傀竜が男性であることを知っているらしい。容姿に恵まれすぎて女性にしばしば間違われることもあって、傀竜はあくまで人懐こく、お時に近づき、息がかかりそうな距離で話し続ける。ペットの犬たちに触れさせてリラックスさせてやろうという意図なのだが。
「お時ちゃん、犬は好き? この子は慶翁(けいおう)、こっちは五朗丸(ごろうまる)よ。仲良くなってもらえるととってもうれしいわ」
「あ、あの‥‥は、はい」
 どうもお時は傀竜に接すると、緊張して硬くなってしまうようだ。
 一方、『弟』の菊也は、人見知りするのか姉の背中に隠れて様子をうかがっているばかりだ。
 だが、そんな菊也に、
「背の高さは菊也君と変わりませんけれど、一応わたくしの役割は姉でございましょうか? ともあれ、仲良くしてくださいましね」
 にっこり笑ってハルコロ(eb5061)がぴょこんと頭を下げる。
 確かにハルコロと菊也の背丈はさほど変わらず、見上げずとも視線が合う。
 なので安心できるのか、菊也はハルコロにちらっとはにかんだ笑顔をみせた。
 明王院浄炎(eb2373)は、伴ってきた愛娘のチサト・ミョウオウインを菊也とお時に紹介する。
 温かい家庭を持つ浄炎としては、自宅に招待してにぎやかな家族に囲まれる経験をお時たちにもさせたかったのだが、お時はあくまで思い出の残っている自分たちの長屋への思い入れからか、固辞したのだった。
 皆がお時たちを囲むようにして自己紹介をする間にも、長屋には冷たい秋風が吹き込む。見れば、壁のところどころに鼠が齧ったのか、穴が見える。
「あの‥‥お白湯でも、飲みますか」
 お時が立ち上がって、小さな鍋に井戸水を汲み、火にかける。
 その小鍋で、二人の日々の食事ーーといっても野菜とわずかな穀類を煮込んだ雑炊がほとんどーーを作っているという。いかにも貧しい暮らしぶりだった。
「誰か、しっかりした養い親でも紹介してあげるべきかしらね。でなければお寺にでも‥‥」
 傀竜が心配そうに呟く。彼は僧侶として寺での慈善事業に携わったことがあり、その中には孤児たちの養育も含まれていた。なので、お時たちの不憫さに一層深い同情を寄せているようだ。
 だが、浄炎は首を横に振った。
「依頼期間の間に、二人に猟師・鍛治・木工を父の手伝いとして教えようと思う。適性があれば指導し、自立に心を向けさせてやろう。‥‥たとえ親に養われたとしても、いずれ巣立ちの時は来るのだからな」
 冒険者として家族を残し危険な場所に赴くこともある浄炎は、お時たちが大人に依存するよりもその方が幸せにつながると判断したのだった。
 「じゃ、私は菊也君に文字の読み書きを教えてあげることにするわね」
 傀竜が頷いた。
 ◆
 そうして互いの自己紹介を兼ね、話をしているうちに昼どきとなり、お時が手料理を振舞ったのだが、お世辞にも栄養十分とは言いかねる。裏庭で細々と育てている青菜や葱の類を刻みいれた雑炊なのだが、ほとんど重湯のようなものだった。
「これでは体が育つまい。菊也、狩に出かけてみるか?」
 浄炎が菊也を連れ出し、残る傀竜、ハルコロ、お時はわずかな衣類を繕ったり、洗ったりと家事をして時を過ごした。家事が一段落すると、傀竜は「お母さん」として、おもむろにお時に声をかける。
「お時、貴女、年頃なんだから、忙しくっても身だしなみはきちんとなさい。いいわ、『お母さん』がやってあげる」
 傀竜は美容の知識を生かしてお時の傷んだ髪を梳る。
「は、はいっ。あ、あのっ、自分でやりますっ」
「いいのよ、『お母さん』に任せなさい」
 お時は彫像のように固まって、傀竜のされるままになっている。いくら女っぽいとはいえ、美しい異性に触れられ近々と顔を寄せられては、18歳の少女にはたまったものではない。『お母さん』と思えというほうが無理かもしれなかった。
 ハルコロは黙って微笑しつつ、二人の様子を見守っていた。
 日もとっぷりと暮れた頃、浄炎が疲れきった様子の菊也をおぶって帰宅した。
「お、おかえりなさい、『お父‥‥さん』」
 ジャパン中に知られた冒険者である浄炎に、お時はまだ緊張気味に声をかける。
「夕飯は兎汁を作ってやろう。生姜も手に入れてきたゆえ、温まるぞ」
 浄炎の持ち帰った収穫は兎だった。ことのついでに菊也に罠を張り獣を捕まえるやり方を指導したのだと説明した。
「すごいじゃない、菊也!」
 興奮するお時に、浄炎の背中から降りた菊也ははにかんで応えた。
「でも、僕、罠を張るお手伝いしかできなかった。うさぎがすっごくあばれて、怖くて‥‥」
 はじめてみる野生動物の激しい抵抗に、菊也は怯えたそうな。浄炎に叱咤されたり励まされたりしながら、ようやく兎を袋に入れ、袋の口を縛り付けて収穫したのだという。
「だが、綱を林の木にめぐらし罠を形作るやり方は飲み込みが早くてな。
 何度か山道を行き来して、体力さえつければ、鹿や猪の肉も手に入れられるようになるだろう」
 浄炎に褒められると、菊也は頬を赤くした。だが、その一方で、心配そうに袋の中の兎をちらちら見つつ、問いかける。
「うさぎ‥‥殺しちゃうの? 僕たちが食べるために?」
「そうだ。‥‥食うとは他の生き物の命を奪う、罪深いことやも知れぬ。だが、その罪があると悟ることで、自らの命を大切にしようという心も芽生えてくるのではないかな」
「‥‥うん、『お父さん』」
 神妙に菊也が頷く。
 兎を調理したのはおもにお時だが、そのお時も調理の間中、傀竜に教えられた経文をずっと呟いていたようだ。
 ともあれ5人での食事は穏やかなものになった。
 初めて浄炎に連れられて山深く分け入った菊也は興奮して見たもの聞いたことをしゃべりまくり、傀竜とハルコロが優しく相槌をうつ。
 お時は猟のやり方について浄炎に教わりたがり、浄炎も知る限り詳しい知識を伝えた。
「ふぅん、猪猟は本格的な冬が訪れてからの方が脂がのっていいんですね。じゃ、冬になったら今度は私と菊也を連れて狩‥‥あ」
 お時は言いかけて、顔を曇らせて口をつぐんだ。
 冬が訪れる頃には、依頼期間は終わっている。つまり浄炎とは他人に戻っているのだと思ったらしい。
「いいとも、連れて行ってやろう。しっかりした草鞋を編んでおくことだ」
 浄炎がこともなげに応えたので、お時はふしんげに彼を見つめ返した。
「依頼が終えたら他人と言うつもりは毛頭ない。たとえかりそめであっても、ひとたび『家族』となったのは何かの縁。お前達の『家族』はここにもある」
「だけど‥‥『父さん』にはちゃんとした家がある。そうでしょ」
 お時は無理しないでくれと言うように目を伏せて言った。
「お前はどうなのだ? 俺たちと離れた後、俺たちがその後どう過ごしているか、お前は思い描きはせぬか? 菊也と思い出話や噂話をしたりはせぬか?」
 問い返されて、お時は押し黙った。
 孤独な生い立ちの娘である。優しくされた記憶は大切に心にしまっておくに違いなかった。そして、折に触れてそれを暖めなおすはずだった。
「家族なればこそ、離れていても心が通じ合うものだ」
 浄炎が言葉を継いだ。
 お時はしばらく沈黙していたが、かすかにうなずいたようだった。


●子守唄
「‥‥そして三郎太は、無事に柿の実を持って家に帰りました、とさ。おしまい」
 菊也に添い寝をしながら、傀竜が昔話を聞かせているようだ。さすがに僧侶だけあって抑揚のつけ方や話運びがうまい。菊也は満足げに眼を閉じた。
 お時はまだ眠れないのか、何度も寝返りを打っている。
 傀竜が声をかけた。
「お時ちゃん、怖い夢見そうならこっちで一緒に寝ない?」
「け、け、結構ですっ!!」
 お時は真っ赤になってせんべい布団に頭からもぐりこんでしまう。
  傀竜は苦笑した。
 もっと幼い子なら懐いたかもしれないが、いかんせんお時は年頃の娘だった。
 依頼期間は残すところあと一日。
 お時と傀竜の間柄がぎこちないのを除けば、菊也をはじめ一同はすっかり同居生活になじんでいた。傀竜に教えられ読み書きを覚え始めた菊也は自信がついたのか、最初の頃よりいくらか大人びたようだ。
 菊也を寝かしつけ、お時も布団にもぐりこんだまま寝息を立て始めたのを見澄まして、傀竜はそっと、囲炉裏の火を守る浄炎に近づいた。
「浄炎ちゃん、私、この二人に別れ際に、私の棲家を教えようと思うの。江戸まで訪ねて来てくれるかしらね」
「情が移ったか」
「違うわ、職業意識よ。私の本職は人形供養なの」
 傀竜は美しい横顔を見せて囲炉裏の火へと視線をそらす。
 二人がふと、お時をかえりみると、お時もぐっすりと眠りに落ちていた。
 だが、蒲団から片方の手がはみだし、その手はしっかりと菊也とつないでいる。
「いいお姉さんよね、お時ちゃんは」
「だが、何時か二人も互いの道を歩む日が来るだろう。二人にとって互いが『家族』であり『帰る場所』であることには変わりはあるまいが」
 その時のためにも、菊也には強くなってもらいたいと、浄炎は願っているようだった。
「お時ちゃんだって、いつか好きな人ができるかもしれないものね」
 傀竜が真に母親の心境で溜息をつく。
「俺もチサトたちには、同じくらいさびしい思いをさせているかもしれぬし、な‥‥子供といえど、試練は避けられぬといったところか」
 浄炎は火を見つめながらつぶやいた。
 命がけの依頼にも赴かねばならぬ冒険者ゆえ、子達には相当の不安や寂しさを味あわせているかもしれない。
 親を持つ子供とて、いつもいつまでも守られているわけではない。
 それゆえにこそ、たくましく未来を切り開く力を引き出すのが親としての務めだと浄炎は思った。
「菊也が心強く育ってくれるよう、願おうではないか」
「‥‥そうね」
 

●灯り
 冒険者たちの出立の時がやってきた。浄炎・傀竜・ハルコロはそれぞれに冒険者としての自宅に帰る準備をし、お時と菊也はそれを手伝った。が、寂しさは隠せないようだ。
「あたしたちは種族も何もかも異なるけれどこの絆だけは確かなものよ。寂しくなったらいつでもたずねてらっしゃい」
 傀竜はさらさらと江戸の住処の住所を書き留め、二人に渡す。
「‥‥本当に、行ってもいいの?」
 遠慮がちに聞く菊也に、傀竜は微笑み返す。
「もちろんよ。慶翁と五朗丸だって喜ぶわ」
「クゥン♪」
 犬と熊の子は、答えるようにそろって菊也に体を摺り寄せた。
「『お父さん』のところにも、また行ってもいい?」
 菊也が浄炎をふりあおぐ。
「もちろんだ。‥‥だが菊也よ、漢ならば家族を守る気概を持て。それが出来ぬようなら勘当だぞ」
 厳しい言葉に菊也は目を見開いた。
 だが、出がけに浄炎は傀竜を振り返り。
「これを‥‥あの子たちに届けてやってくれ」
 手渡したのは、見るからに暖かそうな毛糸の靴下。
「あら? 厳しいお父さんの割には心配症なのね?」
 傀竜はいたずらっぽく浄炎の横顔を覗き込む。
「‥‥む‥‥だ、だが、本格的な冬も間近‥‥あの子らに母の温もりを届けては貰えぬかな?」
「わかったわよ、『父さん』♪」
 片目をつぶって、傀竜は靴下を預かった。
「かたじけない」
 浄炎は言って、先に歩きだす。
 ちらと振り返ると、靴下を握りしめ、いつまでもいつまでも冒険者たちに向ってちぎれるほど手を振り続けるお時と菊也が見えた。
「一心頂礼万徳円満釈迦如来‥‥」
 傀竜はその二人の姿を瞼に浮かべながら唱えつつ、仲間たちと共に歩み続けた。