恋の争奪戦〜美人三姉妹はバトルがお好き〜
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■ショートシナリオ
担当:小田切さほ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月24日〜06月29日
リプレイ公開日:2005年07月04日
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●オープニング
美しい三人姉妹がいた。珍しい三つ子としてこの世に生を受けたため、三人は姿がそっくりなら、食の好みも、好きな遊びも同じ。
裕福な商人の家に生まれ、もって生まれた美貌と利発さゆえ、それはそれは周囲に愛されて育った。
三姉妹はいつも一緒だった。
同じ遊びをし、同じものを食べ、三人はとても幸せに暮らしていましたとさ‥‥
‥‥ところが。
姉妹が長ずるにつれ、そうは問屋がおろさなくなってきた。
何しろ、三人が三人ともあらゆる好みが一緒なのである。
果物やオモチャは分けあえても、人間はそうはいかない。
姉妹は、恋する年頃になっていた。
だが、いつも好きになるのが同じ一人の男。
それゆえ、たとえば姉妹の一人と彼氏が、姉妹の両親所有の牧草地にある樫の大木の下で、二人きりで恋を囁いていたとする。
「ほんとに? ほんとにあたしのことだけが好き?」
「うん。好きだよ、アマンダ」
見つめあい、ひしと抱き合うお二人さん。だが、そこへ不穏な影が――
「うそつきーっ!」
樫の枝から、彼氏にとび蹴りを放つ三姉妹の一人、ヘザー。
「こないだは、私が一番だって言ったじゃないのーっ!」
ドロップキックに続き、仰向けに倒れた彼の首に腕をまわし、ゴキッと締め技を決める。
「そ、それは‥‥キミたちがおんなじ顔してるし似たような性格だから、つい。がふっ」
「違うでしょーっ!」
遠くから牧草を食む牛を押しのけて駆け寄り、跳び膝蹴りを放つ三姉妹の一人、マリサ。いや、今度は彼氏ではなくヘザーとアマンダを狙ったのだが、二人がかわしたので、たまたま彼氏に命中してしまったというわけだ。
「そもそも、ジェイソン君はあたしの彼だったのよっ。それをおねーちゃんたちが横取りしたのよ!」
マリサの言い分に、姉妹はすかさず反論。
「何言ってんのよっ。取られるあんただって悪いのよ」
「そうよそうよ。女としての怠慢ってやつよ」
「まっ。盗人たけだけしいってこのことね?! 行くわよ!」
マリサの拳が唸る。が、迎え撃つ姉妹もただものではないらしい。
「姉妹に向かって盗人とは何よ!」
びゅっ。ヘザーのまわし蹴り。かわすマリサにアマンダの体当たりが襲い掛かる!
「どりゃー!」
「とぉー!」
「やーっ!」
‥‥三姉妹は、果てしなく戦いを続けましたとさ。
ある日、冒険者ギルドに、美しい三姉妹が訪れた。三人とも、体のあちこちに包帯を巻いたりアザがあったりするし、どこか疲れた様子だ。
依頼内容をたずねる受付嬢に、三人は口々に言った。
「私達、いつも同じ男を奪い合うのに疲れちゃったの」
「だから、私達が同じ男を好きにならないように、好みを修正してほしいのね」
「そのために、三人をそれぞれ、違ったタイプの男に誘惑してもらいたいの」
「それぞれ違うタイプの男の子と素敵な思い出が出来たら、これからはそのタイプを好きになるはずだもの」
「今後は、別なタイプの男を好きになれるようにね。仮の相手だから、種族はなんでもかまわないわ」
「ただし、あたしたちがそっくりだからって、こんぐらがって間違った相手を口説いちゃうような男はお断りよ?」
「あたしたち、怒ると怖いんだから。パパとママが、うちは裕福だから娘たちが誘拐でもされたら困るって、あたしたちに護身術を教えてくれたの」
「今じゃ、格闘術・回避術とも専門レベルだから、甘くみないでよね」
「第一、あたしを他の二人と間違えるなんてありえないわ。だって、あたしが一番胸が大きいのよ」
と、アマンダ。
「ふん。そんなの、何よ。一番脚がきれいなのはあたしよ」
と、ヘザー。
「なら、一番強いのはあたしよ!」
と、マリサ。
「何それ。女としての武器で勝負しなさいよ!」
「おだまりぃぃッ!」
またしても三姉妹バトル勃発。
受付嬢は途方に暮れて、三姉妹が疲れ果てて戦いをやめるまで、見守り続けていましたとさ。
●リプレイ本文
●お嬢様とお呼び!
とにかく大変なお嬢様たちである。黒髪に青い瞳のそっくり三人姉妹が、いずれも自分を一番キレイにして頂戴! と主張しメイク係のシルキー・ファリュウ(ea9840)を困らせる。
「もう〜、似たような格好ばっかりしたがるくせに無理言わないでよ〜」
明王院未楡(eb2404)がくすくす笑って助け舟を出した。
「お嬢さん達はこれから、違うタイプの男性とデートすることになります。その方達と、もし、本当の恋が始まったら、皆さんの個性もおのずと変化してくるはずですわ」
「あら、私達、男に合わせて服の趣味を変えるつもりなんかないわ」
三姉妹は口々に言った。が、未楡はふと遠い目になって、
「そうでしょうか‥恋をすれば人は生まれ変わることができますわ。私も、夫と出会うまでは、信じられませんでしたけれど‥」
それを聞いて、ふとシルキーが誰かのプレゼントらしい指輪に目を落として頬を染めていた。三姉妹の心にも、この言葉は恋の先達の忠告として留まったようだ。
未楡の言う通り、今日から三姉妹を、順番に、違ったタイプの相手がデートに誘いに来ることになっていた。最初にやってきたのは、エリック・シアラー(eb1715)、ガディス・ロイ・ルシエール(ea8789)。エリックが礼儀正しくヘザーに手を差し伸べた。
「ヘザーさんのお相手の、エリックとガディスです。今日はよろしく」
ガディスは細身の美形、エリックは射撃の名手らしく刃で削いだような鋭い眼に精悍な目鼻立ち。三姉妹はエリックを指差し、同時に叫んだ。
「やだ、この人超タイプ!」
全員目が点になる。三姉妹の元来の好みを調査しておかなかったのは少々まずかったようだ。
「この人は私の相手よ!」
またも三姉妹、拳の応酬。我勝ちにエリックの腕を引っ張り合う。
「いてて! こらっ、離せ〜!」
射手は腕が命。エリックは必死に腕を振り解いて一喝した。
「姉妹が男の奪い合いで喧嘩たぁ、見苦しい! 幻滅だ。俺は降りるぜ! ‥いてて‥」
くるりと背を向け、大またに歩み去っていく。タイプな男からの一喝で、三姉妹はしょんぼり沈み込んでいる。
「あの‥俺だけでもヘザーさんのお相手をさせてもらえませんか? ハーフエルフの俺でよければだけど‥」
一人残ったガディスが申し出た。ヘザーはたちまち驕慢な表情を取り戻した。
「いいわよ。どうせ今日は予定があいてるんだもの、暇つぶしにね」
次に、ヴァノイ・コテュ(ea8122)がのんびり現れた。
「よっ。俺はアマンダちゃんのお相手のヴァノイ。ん、どうした? せっかくの美人がしょんぼりして。よし、おれっちが元気の出るとこ連れてってやるよ」
ヴァノイの人のよさそうな目じりの下がった顔を観察したアマンダは、ちょっぴり横柄にうなずいた。
「いいわ。案内して頂戴」
最後にマリサを連れ出しに来たのは十野間空(eb2456)。艶やかな黒髪に品の良い目鼻立ちは、マリサもまんざらでなさそうだ。
「遅くなり失礼致しました。このあたりはまだ不慣れで‥‥」
「い、いいのよ。行きましょ」
「ふーっ。やっと第一段階終了だね」
シルキーがマリサを見送ってため息をついた。
●恋人未満たち
ヴァノイはアマンダをだだっ広い野原の真ん中に連れてきた。
「何よ、元気の出る場所ってここ?」
「たまにゃ、のんびり空でも眺めようぜ? ほらあの雲、何の形に見える?」
ヴァノイが空を流れる雲を指差した。
「‥何って‥うーん‥パイかしら‥りんご?」
「ハハ、アマンダちゃんは食いしん坊かな?」
「何よそれ!」
アマンダは頬をふくらませたが、本気で怒ってはいなかった。空を見ようなんて誘った男は初めてだ。胸に新鮮な風が吹き込んだみたいだった。たまにはのんびり、か。悪くないかもね。アマンダはヴァノイに寄り添って空を見上げた。
ヘザーはガディスに、裏通りの骨董市へ案内されていた。そこは数少ない貴族や商人を相手にした品物を扱った店で、ヘザーは古い皿を手にとって、興味深そうに眺めながら、
「へえ。あなた骨董屋さんなの。若いのにどうしてそんな仕事を?」
「モノに込められた思いが好きだから‥‥かな」
自分を見つめるガディスの瞳の薔薇色に、ヘザーは吸い寄せられた。 細身の美少年なんて弱そうで嫌いだったのに。こんな色の瞳をした人を初めて見たから? それとも‥
「古いモノを大事にするのは、造った人の心を大事にすることでもあると思うから‥変ですか?」
「変じゃないわ。あなたって面白い人ね。よかったら‥」
ヘザーは思い切って、ポケットから対になったコマドリのペンダントを取り出した。デートの相手が気に入ったら渡そうと思っていたものだ。
「よかったら‥これ、一緒に着けてくれない?」
ガディスは長い睫毛を伏せた。
「ハーフエルフの俺とお揃いじゃ‥ヘザーさんが変な目で見られませんか?」
ヘザーの表情が曇った。
「何よ、二言目にはハーフエルフって‥ああそう、断るのね。分かったわ」
「それは‥」
恵まれた環境で育ったヘザーは、ハーフエルフの苦悩など知るよしもない。
「依頼だから、仕事だから‥つきあってくれてるだけなんでしょ!」
ヘザーがバシッとペンダントをたたきつけた。避ける隙もなく、ガディスの頬に金属がかすめた。
「ヘザーさん!」
ヘザーは店を飛び出して行った。床に落ちたペンダントの片方が、淋しく光っていた。
マリサは空と花の咲き乱れる川沿いの道をそぞろ歩きながら、小さな淋しさを感じていた。
(「この人、優しいけど‥‥時々遠くを見てる」)
乙女の直感でもあろうか。事実、空には心に決めた女性がいる。そんな自分だからこそ冷静に恋の指導ができると空は思っていたのだが、女心としてはそれが距離を置いた優しさに映り、物足りない。
「ようよう、えらいベッピンさんやんけ〜。俺らと楽しい事せえへん〜?」
ガラの悪い二人連れ‥‥を演じているつもりの、実は空と同じく冒険者のアザート・イヲ・マズナ(eb2628)、鹿堂威(eb2674)が近づいてきた。カップル盛り上げ作戦としてマリサにちょっかいを出すフリ。だが、元来自然を愛する物静かなアザートと、アイドル顔の威ではいささか迫力不足かも。約束どおり空が威のパンチでやられた振りをして倒れる。マリサの腕をつかんで、威が、乱暴に引寄せるふりをすると、マリサは逆にその腕を手前に引き、近づいてきた威の胸に、思い切り肘鉄を見舞った。
「ウッ!(予想以上の破壊力‥)」
よろめく威の脚を、マリサが軽く右脚で払う。威は転倒した。
「いってー‥」
次いで左脚で蹴りを見舞うかと思いきや、マリサは威に手を貸し、助け起こした。
「お仕置きはここまでにしてあげる。さ、空さんに謝りなさい。それから少しだけ付き合ってあげる」
「は?」
「私に一目ぼれしたんでしょ?! だからあんな強引な遣り方で奪いにきたのよね、違うの?」
威はマリサの迫力に負けた。ガバと膝まずいて、
「そ、その通りでございます〜。ご、ご無礼の段は平に、お許し〜」
「まあ、私ったら罪な女。あら、よく見たら結構可愛い顔してるじゃない。ごめんなさいね空さん。家でねえやに手当てしてもらって頂戴」
マリサは嬉々と、威と肩を並べて歩き出した。
「一目ぼれされるなんて、ドキドキしちゃうな。私、いつも姉妹より目立たないんだもの。顔はそっくりなのに、なんとなく出遅れちゃうのよね。でも、貴方のおかげで自信がつきそう」
嬉しそうに話すマリサは、無邪気で可愛らしいと威は思った。こういうコとなら、マジにお付き合いしても楽しいかも‥‥
「何見てんのよっ。暑いから、エールハウスにでも案内してよね」
‥‥ちょっとキツイところは、いただけないが‥。
「デートの演出をするつもりが、逆効果だったようだな‥悪い。十野間‥」
アザートは空を助け起こしながら言った。
「私も今回は、読みを誤りました。女心は難しいですね‥」
空もほろ苦く微笑んだ。
その夜遅く。シルキーは、小さなエールハウスにいた。既に店の入り口の灯りは消えて、一人の青年が店じまいの支度をしている。
「シルキー! どうしたの? こんな遅くに」
笑いかける青年の胸に、シルキーはふわりともたれた。青年の頬が赤くなる。
「ど、どうしたのさ、本当に‥」
「依頼主に恋の相談されたの‥彼女、ハーフエルフの男の子を好きになっちゃいけないのかなって言うの。それで私、自分の気持ちに正直になるしかないよって言っちゃった‥」
前途多難の恋へと彼女の背中を押す形になってしまった。その責任を思うと、胸が苦しい。だけど、恋の衝動は理性で封じられるものじゃないと、今恋愛中である自分にはわかりすぎるほどわかるから‥
「みんな同じ位幸福になれたらいいのにね。一つのパイを分け合うみたいにさ‥」
シルキーの呟きに、青年がそっとその髪を撫でた。
同じ頃。夜半の風が独り身の背中に冷たい。三姉妹に引っ張られた腕はまだ痛むが、幸い脱臼はしていなかった。エリックは肩をすくめ、呟く。
「‥モテるって、結構怖いな‥」
射撃の狙いならば外さないその鋭い瞳も、今夜はちょっと淋しげ。だが彼が美しい恋人と星を見上げる夜も、きっと来る。
ある朝。ヘザーは薔薇色の瞳の若者が経営する小さな骨董屋を尋ねた。自分に正直にというシルキーのアドバイスをお守りよろしく胸に秘めて。
「この前は、ごめんなさい。‥‥私の気持ち、聞いてくれる?」
彼女は今何より好きな色、薔薇色のブラウスに身を包んでいる。今までは甘すぎると嫌っていた色なのに。
同じ頃、アマンダはヴァノイと野原で花を摘んでいた。すっかり日焼けした彼女を、もう他の姉妹と見間違う者はいないだろう。
マリサは威に一目ぼれされたと信じているせいか、ふるまいや表情に余裕が出てきたようだ。
恋は思案の外という。幸せな出会いは、きっと全ての冒険者に訪れるだろう。思いがけない形で‥