イケメン軍団夜に舞う!?

■ショートシナリオ


担当:小田切さほ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月03日〜07月08日

リプレイ公開日:2005年07月12日

●オープニング

 夏にご用心。
 夏はなぜか、人の心を開放的にする季節のようである。
 最近キャメロットの街に、主に夕暮れ時になると妖しい男達が現れるらしい。
 夕方ともなるとは防犯のためもあって、ほとんどの女性は外出を控える。が、夏はなんといっても暑い。
 水を汲むためや、涼をとるために、つい夕方まで外に出ている女性も増える。
 そんな女性達に、その男達は近づき、囁くという。
「こんばんは〜。あ、僕、夜盗とかじゃないから安心して? それより暑いよね〜、こんな暑いのに、しかも夕方なのにあなたみたいな綺麗なおねえさんが水なんか汲んでるのもったいなくない? ちょっと気晴らしにさあ、うちの店に飲みに来ない?」
 人を疑うことを知らない若い女性が主に狙われた。まれにであるが、イケメンには極端に弱いおばはん族も。
 男達の口車に乗せられた、そうした女性達は、キャメロット市街のはずれにある小さなエールハウスらしき店へと連れて行かれる。
 そこには、人間、エルフ、シフールにパラ、あらゆる種族のイケメンがいるという。あらゆる女性の好みに対応するためであろう。
 そんな若い男達が、争って女性客に話し掛け、奉仕する。
「フッ‥‥綺麗な髪だね、お嬢さん」
「ねえお姐さん。僕みたいな年下の男って、嫌い?」
「発泡酒をどうぞ〜」
 素朴な普通の若い女性なら、それだけで理性が吹っ飛んでしまう。浮かれてさんざん飲んだり食べたりしたころ、男達は豹変する。女性に、法外な飲み代を請求するのである。
 そんなとんでもない値段は払えないと抗議したり、さては詐欺かと女性が騒ぎ出したりすると、さっきまで紳士的に奉仕していた男達が形相を変えてすごむのである。
「なんやて!? ええ加減にさらせやネエちゃん。お姫様でもないアンタに、誰がタダで飲ましたり食わせたりするちゅうねん。ええ? ええ夢見さしたった代価はキッチリ払ろてもらうで。もっとも、命いらんっちゅうんなら話は別やで」
 とナイフをちらつかせたりするもので、女性達は大概両親に泣きついたり、夫に内緒で借金をしたりして泣く泣く支払うのである。
 一方、生活に余裕のある有閑マダムなどは、
「まあ楽しませてもらったし、仕方がないわね。ボーヤ達、お小遣いよ。オホホホ」
 と気持ちよく支払うこともあった。店も、そういう客は「上得意」として、値引きサービスや店外デートなど、サービスてんこ盛りを惜しまない。そのため店の評判が二極化し、この店の非道な実態が証明しにくくなっているともいえる。
 それに被害者達は最初、詐欺同然の手口で金を騙し取られたことを恥じて、表ざたにしない傾向があった。しかし、イケメン軍団の暗躍につれ、夫にばれて家庭争議になったり、店に泣きついて支払いを待ってもらおうとする女性まであらわれ、
「被害にあったのは、自分だけじゃないんだ」
 そう気づいた被害者達は、互いに連携し始めた。
 一人なら泣き寝入りするしかなくても、複数の被害者が連携すれば、奴らと対等に戦えるかどうかは不明にしても、何らかのアクションを起こすことはたやすい。
「あんな男達、許せないわ!」
「そうよ! あいつらに裁きを!」
 彼女たちは、『被害者の会』を結成し、報復へと立ち上がった。
 とはいえ、店にはファイター級の用心棒が数人おり、客として以外店に直接近づくことはできそうにない。
 それに、新たな被害者になろうとしている女性達に警告しようとしても、イケメン軍団の甘い言葉にからめとられた女性客達は、
「私だけは別よ。あの人達、フラれたから妬んでイジワルしてんだわ」
 と、受け付けてくれない。
 それだけイケメン軍団も学習して、騙しのテクニックが高度になってきたのかもしれない。
「このままじゃ、らちがあかないわ」
「そうだわ、冒険者ギルドに頼みましょう!」
 皆、イケメン軍団に搾り取られて残った財産は少なかったが、それでも何人か分を集めれば、一応はまとまった金額になった。
 ついに総意をまとめた被害者の皆さんは、ある日冒険者ギルドに押しかけた。
「女性の敵、イケメン軍団を葬って頂戴!」
 押しかけた被害者の皆さんの迫力に、さしもの居並ぶ冒険者達も怯えたとか、怯えなかったとか。
 ともあれ、女性の敵は可及的速やかに駆除すべきであろう。

●今回の参加者

 ea0643 一文字 羅猛(29歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea6900 フェザー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea6902 レイニー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea7149 レムリア・テトラモルフ(23歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 ea7794 エスウェドゥ・エルムシィーカー(31歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9840 シルキー・ファリュウ(33歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb2674 鹿堂 威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2934 アルセイド・レイブライト(26歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●刺もつ花
 夜。イケメン達が三人ばかり、今夜も女客を引いている。
 彼らが目をつけたのは、純白の髪を夜風になびかせ、果実の香がしそうな熟れた肢体に淡色のぴったりしたドレスをまとった長身の美女。
「ちょっとお姐さん。僕らの店に寄ってかない?」
「まあ、つまらない誘い文句だこと。せっかくだけどわたくし、頭の中身の淋しい方とは夜を共にしない主義なの」
 紅い唇から毒のあるセリフが飛び出し、イケメン達の目に凶暴な光が宿った。
「なにぃ、気取りやがって!」
 が、美女の背後から疾風のように拳が突き上げた。
「がはっ!」
「この野郎!」
 アゴを強打され、一人倒れる。他のイケメン達も反撃を試みるが、
「無駄な抵抗は腹が減るだけってねー♪」
 レムリアの背後に近づいていた背の高い若者‥‥鹿堂威(eb2674)が恐れ気もなくするりと彼らの懐に飛び込んだと思うと、さっと体を開いて右に拳左に蹴りを放つ。見る間に二人倒れ、最初に顎をやられた奴はとっくに逃げた。
「おーい、生きてる〜? 聞きたいことがあんだけどー」
 倒れた奴の耳を引っ張り、威は店の内部や売上金の行方について尋ねたが、大した情報は得られなかった。
「それなら、わたくしをあなた方の店に招待して頂戴。タダでとは言わないけれど、その分楽しませてね。でないと‥怖い夢を見ることになるわよ」
 紅い瞳の麗人‥‥レムリア・テトラモルフ(ea7149)は艶然と微笑した。

●危険な男達+α
 こちらは件の店。3日ほど前、他の町で同じような店に勤めていたという5人の男達が、こちらの方が報酬が高いからと転職してきた。  
 その新人達を目当てに、有閑マダム達が大勢店に通うようになり、貧しい客を大勢集めて脅して金を取る必要がなくなったほどだ。
 偶然にも? 店員数名が街頭で喧嘩して怪我を負って店に出られなくなった直後だったため、新人達の人気は上がる一方だった。
「私はフェザー・フォーリング(ea6900)。こちらにいる妹共々、よろしくお願い致します、お姉様方」
 流し目をくれ、「お姉様」――ま、まあ二十年位サバを読んだらそうかもしれない女性達――をキャッキャと喜ばせるシフールの美青年。そのフェザーの後頭部に、ゴキッとカカト落としを見舞う弟レイニー・フォーリング(ea6902)。
「俺は男だ弟だ! つーてんだろーが!」
「えっ、レイニーちゃんて男か女かどっちなん? ちょっと、確かめさせて!」
 興味深深で目を輝かせるお姉様? 方。
「これも試練だ、妹よ‥」
 と優しく見守る兄。
「わっ、脱がさないでー! ってか助けろや、クソ兄貴―っ!」
 こうして少年は何かを失うことで大人になってゆくのである。
 店の中央にしつらえてある舞台に立ち、しなやかに踊るジプシー青年、エスウェドゥ・エルムシィーカー(ea7794)。店の隅で女性吟遊詩人が奏でる竪琴に合わせて舞うその肢体は、骨が無いのかと思える程軽やかだ。そのくせ舞の合間に、見惚れている女性客の一人に手を差し伸べ、息も乱さず舞台に引き上げる。
「ようこそ、泡沫の夢の中へ。今夜はどんな夢にでも応えてあげる」
 ‥‥彼に微笑みかけられると、その女客は、彼にリードされ、魔法にでもかかったようにステップを共に踏み始めた。
「ねえ、エス‥あなたって、今まで会ったどんな男とも違うのね。私の夫みたいに退屈じゃない。なのに他の男友達みたいに子供っぽくもないわ」
 若い人妻らしい、かなり色っぽい女客は囁く。
「人は皆一人一人違うものさ。花が一つ一つ違うようにね」
「そう? 一晩中、愛してみたら確かめられるかしら?」
 女客は口元に艶めいた笑みを湛えて彼の目をのぞきこむ。
「愛されすぎると枯れてしまう花もある。野原で風に吹かれてなくちゃ、枯れてしまう花がね‥僕がそれさ」
 ふと謎めいた微笑を浮かべてみせ、彼女の手に口づけて離れてゆくエスウェドウ。
「うむ、近所の奥方がそのような悪口を? ‥捨て置きなされ。所詮妬みのなせる業。たいした害はありますまい」
 訥々とした口調で、客達の愚痴相談に乗っているジャイアント青年、一文字羅猛(ea0643)。がっしりとしたその肉体と相まって、巨木の木陰に寄り添うような安心感を客達に与えているようだ。時折、筋肉大好きと称する客達に肩や胸を撫で撫でされ、困った顔をしていることもあるが。
 店の奥にある厨房で料理を手伝っていたアルセイド・レイブライト(eb2934)は、先輩店員に声をかけられた。
「おい、またお前に指名入ってるぞ。お前、よくあの気難しいオバサンをてなづけたな。どんな手使ったか知らないけどよ」
 下品な笑みを浮かべて言うその店員に、アルセイドはさらりと返す。
「どんなって‥普通ですよ。笑顔で接するように心がけたはしましたけどね」
 その涼しげな笑顔がクセモノなんだとでもいいたげに先輩店員がにらみつけた。が、思いなおしたらしく、媚びた笑顔を彼に向けた。
「お前が連れてきた新人達も人気上昇中だしさ、お前、絶対店長に近いうち呼び出されるぜ。もし会ったら、俺も努力してるって伝えといてくれよ」
 アルセイドは笑顔でうなずいた。が、胸中は複雑だ。店への潜入は成功したものの、肝心の経営者の正体は、ほとんどの店員が知らないらしい。店員達の噂などを総合して見ると、ただ、店の売上に大幅に貢献した店員だけがある日、突然呼び出され、店長に会えるのだという。店長の正体については緘口令が徹底しているらしく、知っていそうな店員に水を向けても具体的な話は聞かれなかった。早く首謀者を見つけたいと、気持ちは逸るが、今はともかく接客だ。深呼吸して笑顔で指名客のテーブルに向かう。
「一曲、いかがです?」
 店の隅で演奏していた女性吟遊詩人‥‥シルキー・ファリュウ(ea9840)が、音楽のリクエストを聞くふりをして近づいてきた。
「ねえ、気のせいかもしれないけど‥あの掃除のおばさん、怪しくない?」
 囁くシルキーの視線の先に、テーブルの間を行き来してホウキを使う中年の掃除婦がいる。確かに、掃除婦にしては動きもなんだか機敏ではなく、店内をじろじろ眺め回していばかりいる。
「関係ないかな? ごめんね‥私も何か役に立ちたくて」
 シルキーは申し訳なさそうだ。
「いえ、何が役に立つかわかりませんからね。何でも知らせてください」
 とアルセイドが微笑してテーブルに向かう。が、テーブルにつく直前、件の掃除のおばさんがホウキで床を掃きながら近寄って来、どすんとお尻を彼にぶつけた。
「あっ、失礼‥」
「店が終わったら、一人で裏手の楡の木の下に来てや。ボーナスあげるさかい」
 おばさんが低い声で囁いた。アルセイドはとっさに応えが出なかったが、おばさんはそ知らぬ風で掃除をしながら離れていった。
 
●夜明け前
 閉店の時間になり、楡の木陰に、2つの人影が現れた。
 一つはあの、掃除のおばさんだ。ただし、ださいエプロンを外して見違えるような紫のローブを羽織り、化粧したその姿は、成金ぽいがどこかのマダムと言った風情だ。
「ほな、約束のボーナスやで。これからもガッチリ稼いでや」
 もう一つの人影‥‥アルセイドは、差し出された皮袋――ぎっしり詰まった金で膨らんでいる――には手を出さず、じっと相手を見つめ、哀しげに言った。
「まさか、女性が女性を苦しめて荒稼ぎをしているなんて‥借金で苦しんでいるお客さん達の気持ちを、どう考えているのですか?」
「ほっといて。ウチはお金もイケメンも好きやからこの商売してるだけや。それにしてもあんた、生意気やな。お仕置きや!」
 おばさんがぱちんと指を鳴らすと、店の用心棒達が物陰から現れ、アルセイドに迫る。用心棒が棍棒を構え、不気味に笑う。
「安心しな。痛めつけるのは体だけにしてやるよ。その綺麗な顔でこれからも稼いでもらわなきゃなんねーからな」
 棍棒がびゅっと重い風とともに振り下ろされる。その先をきわどくかわしたアルセイドを、別な用心棒が脚を狙って打ち込もうとする。と、高い笑い声が闇を裂いて響いた。楡の枝の上に立つ、レムリアだ。
「まさしく、女の敵は女‥だったわけね。でも、私は悩める女の味方よ。女の敵に悪夢を見せる、ナイトメア仮面とでも呼んで頂戴」
 艶めいた笑みとともに、うろたえた用心棒達の隙に乗じ、一人を締め上げる。思わず用心棒がうめく。
「ダンスがしたいのかい? なら、僕にまかせてよ」
 近くに潜伏していた冒険者達が駆けつける。その一人、エスウェドウがそんな言葉と共に、丸腰で微笑しつつ軽い足取りで近づく。用心棒が餌食とばかりに掴みかかる。が‥‥
「‥‥地獄行きのステップだけど」
 シュッという刃ずれの音とともに小太刀を繰り出す。ブラインドアタック。何も考えずに掴みかかった用心棒は無防備な喉元に刃を突きつけられ、ヘタヘタとうずくまってしまった。
 残る用心棒は、果敢に羅猛に棍棒で襲い掛かったものの、逆に棍棒をつかまれ、振り回された挙句、羅猛に高々と掴み上げられ、目を回している。
 イケメン軍団は、縛り上げられ、人通りの多い町中の四辻にさらし者にされた。女ボスも同様である。
 イケメン軍団の売上金は、全額とはいかなかったが、大部分が回収され、被害者達に返された。が、被害者達には、何よりも、レムリアの、
「男に女が惚れるようではダメなのよ。男に惚れさせるぐらいの女でいなさい」
 という忠告のほうが、心に響いたようだった。
 そして威が、女性達を励ます会と称して健全なエールハウスに被害者達を連れてゆき、お茶をおごってはナンパしまくったということである。
 そして残った問題。例の店は無くなったが、イケメン冒険者達は根強いファン達にしばらく追い回されたという‥‥
「もぉ男・女どっちゃでもええわ。レイニーちゃ〜ん! 好きやでぇ〜!」
「ひぃ〜!」
 イケメン達よ、永遠に‥‥?