かの者の噂は

■ショートシナリオ&プロモート


担当:小倉純一

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

 ここはキャメロット郊外、山中。
 始まりがあるものには必ず終わりが訪れる。
 どれほど熱い情熱をもって始めたことであろうとも、永遠に続くものは存在しない。

 きっかけ自体はささいなことなのだ。
 大成功を収め、もう考える必要がなくなったり、逆にどうしようもない失敗をしてしまいもう考えることも嫌になってしまったり、誰か中枢メンバーがいなくなって空中分解を起こしたり‥‥長いとはいえない時間が全てを掻き消してしまったり。

「そろそろやめにしませんか?」
 男が口にした言葉は、ちょうど最後の理由から出たものであった。『聖杯戦争』と呼ばれた戦いに兵士として参加し、敗れてからもうずいぶん時間が経った。
 追っての追撃を逃れ、山の中に隠れ住んだまではよかった。キャメロット近くに隠れ住んだのも、いざとなれば敵中枢部を狙い、大手柄をあげるためだった。
 だが、一度冷静になってしまえば現実はひどく残酷だ。聖杯戦争の後イギリス王国は急激に安定化を成し遂げ、混乱に乗じようという彼らの計画はあっという間に潰えた(最初からそんなものは潰えており、付け入る隙が完全になかったことが彼らにとって幸いだったとしてもである)。
 彼らは襲撃の淡き夢を持つことを諦め、ただ自分の心を慰めるように毎日武器と防具を磨きつづけた。‥‥そして、簡単な事実に気付くまでに、彼は実に一年以上の時間を費やしてしまったのだ。
「もう故郷に帰ろう。追っ手の姿もない。俺たちの実力じゃあ到底都を陥れることなんてできない。それに‥‥俺は聞いたんだ。モルゴース様はガウェインに殺されてしまったようだと」
 モルゴース ―― 一種、魔女のように妖絶な彼女の魅力は、多くの兵士達を突き動かした。山にこもっていたのもモルゴースが生きているとどこかで信じていたからである。
 だが、山賊まがいの行為で得た金を持ち、買出しにでかけた町で、彼らは事実を聞かされた。『モルゴースは、ずいぶん昔に円卓の騎士・ガウェインに殺されたのだ』ということを。

「‥‥逃げたいなら勝手に逃げろ。アーサーが流している情報に惑わされるな。俺は確かに見たんだ、町でモルゴース様を!!」
「‥‥‥‥‥‥」
 叫ぶリーダー格男の男を見て溜息を吐く部下。
 どうやら‥‥本当にこの潜伏生活も長くは続きそうもない。

 キャメロットの冒険者ギルドにはいつものように依頼が持ち込まれていた。
 内容は、わりとよくあるもので、キャメロットから歩いて3日ほどの山中に、5名ほど山賊が住みついているので、彼らを山から追い出して欲しいというもの。
 噂ではかつての聖杯戦争でアーサー王軍と戦ったオクスフォード軍の敗残兵らしいが、もう付近の村々や、通りすぎる馬車を襲うだけの山賊になっているという。
 ギルドの係員は冒険者達へと言う。
「遠慮はいらない。奴らを山から追い出し、周囲の安全を確保してくれ」

●今回の参加者

 ea3690 ジュエル・ハンター(31歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea7981 ルース・エヴァンジェリス(40歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8466 ウル・バーチェッタ(26歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4921 クラウディア・ウォルムニウス(25歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

マリー・プラウム(ea7842)/ 龍一 歩々夢風(eb5296)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451

●リプレイ本文

●若干の晴間
 穏やかな昼下がり、冒険者ギルドの前ではちょっとした交渉が行われていた。
「元敗走兵の山賊退治に使いたいので‥‥馬車を貸していただけませんか?」
 シルヴィア・クロスロード(eb3671)は手近な商人へと声をかけている。
 しかし、いくら頼んでも商人は首を縦には振らなかった。
 ジュエル・ハンター(ea3690)もできる限り相手の商魂を擽ろうと努力をする。
「荷車だけで良いからお願いできないだろうか。それに聖杯戦争の悪人退治に手を貸したとなればこのキャメロットでは商売がし易くなるんじゃないかな?」
 商人はそれでも首を縦に振らない。
 ディアナ・シャンティーネ(eb3412)がどれだけ丁寧な口調で諭そうとも、耳を貸す様子はない。
 彼女の名声をもってしても、だ。
 聖杯戦争の悪人と言えど、話を聞く限りでは今はただの山賊ではないか、というのが商人の言い分だった。
 ギルドからも貸してもらえず、冒険者達はどうしたものかと思案をしていた。
 しかし。
「なあ、あんたら」
 そこに声をかけてきた男が1人。
「よかったら馬車、貸してやろうか?」
「いいのか?」
 七神蒼汰(ea7244)がその言葉に答える。
 男は、旅の商人で、ある村へと帰る途中だったが、今まで冒険者達の話を立ち聞きしていたらしい。
「では、早速‥‥」
 出発の準備をしようとしたクラウディア・ウォルムニウス(eb4921)を商人は止め、無言で手を差し出した。
 その行動がどういった意味かを理解したルース・エヴァンジェリス(ea7981)がその掌の上に金の詰まった袋を乗せる。
 袋を懐に収めると商人はニヤリと笑った。

●遠雷
「よし、どこから見ても商隊だな。後はみんなのカモフラージュだ」
 ジュエルが荷馬車に積まれていた空の樽へと道具を隠し、額に流れた一筋の汗を拭うと、笑顔で皆へと言った。
「‥‥あの商人のような者を強欲というのか?」
 外套を羽織り、一般人を装ったウル・バーチェッタ(ea8466)が周囲へと問う。
 馬車は、随分と粗末な物であった。
「まあ、借りられたのだから良しとしよう。しかし‥‥」
 メアリー・ペドリング(eb3630)は表情を曇らせる。
 彼女が気にしているのは、馬車のことではない。
 敵である、オクスフォード軍の残党、そして‥‥酒場で聞いたモルゴース生存の噂、だ。
「残党という噂が本当でしたら、私達の知らない情報を握っているかもしれませんね」
 遠くを見つめ、ディアナは表情を引き締める。
「ガウェイン卿の下戦った者として、彼等を見逃がす訳にはいかないわ」
 山賊に襲われた場所等の聞き込み調査を行い、それをまとめていたルースがきっぱりと言い放つ。
「名誉ある騎士だった身が山賊に落ちぶれるとは‥‥彼らも色々思うことがあったでしょうが山賊行為自体は許容できません」
 クラウディアもルースの言葉に同意した。
「‥‥山賊行為は確かに許せませんが、最大限敬意は払いましょう」
 相手は仮にも元は名のある人々なのですからと、怒りを顕わにする2人を宥めるようにシルヴィアは言う。
 戦意が上がるのは悪い事ではない。
 だが、それ故に相手を死に追いやってしまえば話を聞くことも叶わない。
 最も相手があまりに強ければ、生け捕りにするなどという甘い事も言っていられないのだが。
 七神とルースが御者台に乗り、馬を走らせる。
 出発と同時に、遠くで雷が鳴った。
「荒れるかも知れないな‥‥」
 ウルが小さく呟く。
 それは、ある意味では予言のようなものであった。

●東の風雨
 郊外の山中は、薄暗く今にも雨が降りそうな天候であった。
 既に数日前に雨が降ったのであろうか、ぬかるんでいる場所も少なくはない。
「よく襲撃される‥‥っていう噂の場所はこの近くのようね」
 ルースのその言葉に冒険者達は気を引き締める。
「大分木が傷んでいるところもあるし、過去に襲撃があったみたいだ。気をつけて」
 少し前に一行から先行し、様子を見てきたジュエルが報告を行う。
 クラウディアが周囲を警戒する。
 かさり、という小さな葉摩れの音が聞こえた。
 これまでのただ風で葉が揺れているのとは違う。
 その証拠に、馬が、ぴくり、と何かの気配を察知したようだ。
 荷馬車の中に潜んでいたシルヴィアは武器を構え、外へと飛び出した。
 ルースが馬車に固定しておいた両刃の直刀へと手を伸ばす。
 七神の視界の端で金属の輝きが閃き、咄嗟に彼が避けた空間を金属の刃が通り抜けていく。
 その一撃とともに、周囲からは情報通りの数の山賊達が姿を現した。
 不意打ちで、確実に相手を殺し、奪い取るというやり方。
 いつもは穏やかなディアナも、その様子に眉を顰める。
「あなた方の行為は、騎士に有るまじき、恥ずべき行為です! 奇襲をし、無辜の民を襲い、その財産を奪うなど!」
 山賊の一部がざわめくが、そのリーダらしきものが彼らを一喝した。
「黙れ! 我々の‥‥オクスフォードの地を蹂躙したアーサーに比べれば! 今蓄えた力を使い、俺達はモルゴース様と共に立ち上がるのだ!」
 事実がどうであるかでは無い、彼はそう思い、それだけを信じ、憎悪の中で今までを生きてきたのだから。
 手持ちの剣を振り上げ、駆け寄ろうとしたリーダーに向かい、メアリーがクエイクを放つ。
「モルゴースは死んだのではなかったのか? 貴殿らはモルゴースの事を知っているのか?」
 メアリーの言葉にもリーダーは耳を貸さない。
「モルゴース様は生きている! 俺はこの目で見た! 貴様らの‥‥アーサーの配下の者が何を言おうと、俺が見たものだけが真実だ」
 やれ! というリーダーの言葉とともに、山賊達は武器を構える。
 ディアナが儀礼剣を構え、目の前の山賊へと問いかける。
「これ以上戦っても、無駄に命を散らすだけです‥‥大人しく投降してくれませんか?」
 命だけはとりません、という彼女の言葉に、僅かに山賊が揺らぐのがわかった。
 ジュエルはディアナが話しているのとは違う相手へ矢を射掛ける。
 怪我をさせてでも、捕まえる。それが彼の目的だ。
「この辺りは調査済みだ! 逃げられると思うなよ!」
 ジュエルが威嚇の意味も込めて叫ぶが、それを聞いていたリーダーがせせら笑う。
「なら、何故今まで俺達を放っておいたんだ? 俺達がどれだけの者を殺し、奪ったと思う? 侮るなよ! 貴様ら如きはこの俺1人で十分だ!」
 それを聞いたウルは苛立ちを隠しきれない様子で叫んだ。
「義を失い山賊に成り下がった敗残兵など見苦しいだけだ。さっさと剣を捨てて故郷へ帰って農業にでも精を出してろ!」
 だが、彼の戦うべき相手はこのリーダーではない。
 とにかく1人でもいいから敵を生きたまま確保せねばならない。
 ウルの放った矢が、山賊の1人の鎧の隙間に刺さり、相手は苦痛に呻く。
「俺達が依頼されたのはお前達をこの山から追い出すということだ。殺しに来たんじゃない」
 彼の言葉に更に山賊にどよめきが広がる。
 負傷した山賊の1人が降伏の言葉を紡ごうとした瞬間‥‥。
 ‥‥リーダーがその山賊を切り伏せた。
 地に流れる赤い液体。
「貴様‥‥ッ!」
 七神が抜刀術で切りつけるが、切っ先がわずかに掠めただけで、リーダーはそれを回避した。
 狂気じみた哄笑が響き渡る。
「貴様らの声に耳を傾け、モルゴース様への義を尽くさぬ者など、我々にはいらぬわ」
 長い潜伏生活は、彼の精神をも蝕んでいた。
 仲間を、既に仲間とも思わぬ、モルゴースへの狂信ともいえるべきもの。
 それが彼の根幹であろう。
 恐怖に周囲の山賊が浮き足立った。
 それを見計らったクラウディアが、両手に持った剣で近くの山賊を切り裂く。
 ルースは逃げようとしている山賊の足元めがけソニックブームを放った。
「逃がしません!」
 しかし対象となった山賊は手近な茂みへと転がり込む。
「なぜ、この地に執着するのです?」
 シルヴィアはリーダーへと対峙しつつ話しかけるが、彼女の言葉を相手は鼻で笑った。
 愚か者に自らの考えを説くように、彼は言う。
「アーサーの首を取るのに、これほど適した場所はあるまい?」
 彼女の斬撃をリーダーは防ぐ。
 ――強い。捕縛を狙える相手ではない。
 次の手を打とうとしていた七神は違和感を覚え、周囲を見渡す。
 敵の数が、減っている。
「‥‥! 山賊達は!」
「何処を見ている?」
 隙を見計らったリーダーの凶刃が七神を襲う。
 完全には避けきれず、彼の腕を刃物が切り裂く。
 いつの間にか、敵はリーダーのみになっていた。
「逃げられた事を悔いている場合ではない! 集中するのだ!」
 メアリーは仲間を叱咤し、グラビティーキャノンを放つ。
 転倒はしなかったものの、相手の隙を作るには十分だった。
 ジュエルとウルの矢がリーダーへと刺さり、怯んだところに、ルース、クラウディア、シルヴィアが斬撃を叩き込む。
「夢想七神流抜刀術奥義『霞刃』!」
 七神が気迫とともに刃を繰り出す。
 全ての攻撃を回避する事も出来ずに喰らったリーダーは、ニヤリと微笑む。
「これだけの攻撃を喰らっても、まだ動けるのか‥‥!」
 ジュエルが搾り出すように言ったが、リーダーはごぼりと血を吐いた。
「モルゴース様‥‥万歳‥‥ッ!」
 膝をつき、その場にくずおれ、鎧の隙間からはゆっくりと血が流れ始める。
 空からは、少しずつ雨が降り始めた。

●そして嵐が
 雨は土砂降りへと変わり、地に付着した血液を洗い流していく。
 ディアナがリカバーを使い、七神の傷を癒す。
 更には山賊の1名とリーダーにも使おうとしたものの、彼らは既にこと切れていた。
「リーダーはモルゴースを見たと言っていたが‥‥」
 メアリーは呟く。
 それが事実であったならば、ガウェイン卿が討ち漏らしていたとでも言うのであろうか?

 冒険者達の中に疑惑が芽生える。
 それは、土砂降りの雨のように、彼らの常識を侵食していく。
 ――モルゴースは、本当に倒されたのだろうか?