【聖ミカエル祭】しょうがないなぁ。
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月26日〜10月01日
リプレイ公開日:2006年10月03日
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●オープニング
●悪魔を退治した大天使を称える豊饒の祭り
「今年は聖ミカエル祭を盛大に行おう」
商人ギルドマスターは集まった代表者達に口を開いた。商人達は互いに顔を向け合い、何か言い淀むような表情だ。
「‥‥この時期に聖ミカエル祭を行うのですか?」
この時期に――。言いたい事はギルドマスターにも分かっていた。先の園遊会での噂はキャメロットはおろか、広い範囲に渡っている。
――悪魔の不穏な動きとラーンス・ロット卿のアーサー王への裏切りのような行為。そして円卓の騎士達の不和‥‥。
「9月29日に大天使ミカエルを称える『聖ミカエル祭』を各地で行なうのは慣わしではなかったか?」
――聖ミカエル祭。
秋の訪れたイギリスの商人達にとって一大イベントの一つである。
この祭りに欠かせないものに3つのGというものがあり、『手袋(Glove)』、『ガチョウ(Goose)』、そして『生姜(Ginger)』を指す。
手袋には、本来決闘を申し込むという意味があるが、左手の場合、市場に店を開く許可の印として成り立っていた。普段はきちんとした出店許可証が無ければ露店を開く事ができないが、この祭りに限って名目上は左手の手袋だけで済むのである。要するに、他のギルドに加入している者が出店していないかの簡単な審査はあるという訳だ。ミカエル祭の月に入ると巨大な手袋が街中に溢れ、活気に漲る。
ガチョウは、この時期収穫しやすい鳥で、饗宴などの主食として登場する。一度ローストしたガチョウに丁寧に羽を付け直してあたかも生きているような感じに見立てる料理が酒場でも見られるようになり、この料理を『イリュージョン・フード』と呼ぶ。
生姜は料理の中に添えられる薬の一つとして伝えられているが、何より、偉大な天使に捧げる供物の1つとして成り立っており、聖ミカエル祭では必要不可欠なものだ。
聖ミカエル祭が近づくに連れ、各地から露店を開くべく人々が街を訪れ、広場は活気に満ち溢れたものである――――。
商人ギルドマスターは再び口を開く。
「このように不穏な噂が流れる時だからこそ、人々の活気を向上させねばならない。聖ミカエル祭を大いに盛り上げて、噂など吹き飛ばそうではないか!」
確かに塞ぎ込んでいては、悪魔に付け入る隙を与えかねない。商人達は威勢の良い声を張り上げ、異論がない事を告げた。
こうして各地へ聖ミカエル祭を行う知らせが届けられ、冒険者ギルドには聖ミカエル祭に向けての依頼が飛び込むようになった。
●しょうがないなぁ。
そのオークは、朝から発生していた胃のあたりのムカツキがどうにも出来ないで居た。
そいつは、オーク仲間の中でも特に悪食だった。
食べられるものなら、土でも食べる。
特に昨日は人間の男と‥‥他に何を食べたのかは思い出せないが、とにかく暴食の限りを尽くした。
とにかく気分が悪い。でも、何か食べたい。
そんなオークの視界に入ってきたものは――生姜。
植物なら食べても大丈夫だろう。と、オークは生姜を食べる。
口に広がる辛味。
数分後、そのオークは何故か胃の調子が良くなった事に気づいた。
その日、ギルドにやってきたのは、老夫婦だった。
「ここがギルドですかねぇ、じいさんや」
「そうみたいだのう、ばあさんや‥‥なあ、そこのにーさん」
晩御飯の支度に思いを馳せていたギルドの係員は声をかけられた事ではっとした。
ちょっと心が食欲の秋だったらしい。
おばあさんが少し困った様子で話しかける。
「冒険者様にお願いしたいことがあるんですが‥‥よろしいですかねぇ?」
「ええ、いいですよ。どうしましたか?」
おじいさんが話を始める。
「じつは‥‥」
おじいさんの言うところによれば、聖ミカエル祭で捧げる予定の生姜を取りに行こうとしたところ、豚のような頭を持つモンスターが生姜を食べていたのだという。
驚いて逃げ出し、暫く経ってからまた様子を見に行くと‥‥先ほどまで1匹だったはずのモンスターが、5匹に増えていたという。
これでは、収穫どころではない。
「‥‥仲間でも呼んだんですかねぇ‥‥」
係員がもそりと言う。
おじいさんは更に続ける。
モンスター達は、毎日ではないものの、時々生姜を食べているらしい。
このまま居座られて食べられては‥‥聖ミカエル祭の為の収穫も間に合わないし、更に生姜が全滅してしまうだろう、と。
「‥‥確かに、生姜がないんじゃ、しょうがないですよね‥‥わかりました。モンスターの退治ということで、依頼を出しますね」
係員はさらさらと羊皮紙に書き綴る。
「‥‥あの」
これまでおじいさんと係員の会話を見ていたおばあさんが話しかけてくる。
「収穫ができたら‥‥聖ミカエル祭の饗宴用に出すジンジャークッキーを作るのですが、多めに作る予定なのでよかったら冒険者の皆様に食べていって頂ければと思います‥‥」
おばあさんは深々とお辞儀をする。
いいなぁ、俺もジンジャークッキー食べたいなぁ。
という心の声を抑えつつ、係員は掲示板に羊皮紙を貼り付けた。
●リプレイ本文
●ジンジャー
穏やかな日の光の下、その農場は佇んでいた。
「綺麗なところだねぇ。こんなところに生姜を荒らすオークがでてくるんだぁ」
李黎鳳(eb7109)が思ったままを口にした。
確かに見た目は、童話にでも出てきそうなほのぼのとした雰囲気の漂う場所である。
オークの存在に脅かされているようには、とても思えない。
「しかし、生姜をかじるオークですか‥‥オークもいろいろなものを食べるんですねえ」
乱雪華(eb5818)はとても意外そうに言う。
確かに普通に生の生姜を齧れば、辛味があり、食べるのは厳しいだろう。
「生姜、か」
呟くように物見兵輔(ea2766)が言う。
「アレは葛湯に入れて飲むと喉に良いとか、華国では薬として扱っているのではなかったかな?」
あとはエールに絞り汁を入れると独特の辛味が‥‥と、彼は生姜に関する知識を記憶の中から引き出す。
その表情は真剣そのものだ。
しかし隣を歩いていた極楽司花朗(ea3780)は、その話を聞かずにミカエル祭についての想像を色々としていた。
(「3つのG。うんうん、全部おいしそうだね。いいお祭りだ」)
‥‥極楽司。3つのGのうちの1つは食べ物ではないぞ。
想像をはたと止め、彼女はついでとばかりに物見に質問をする。
‥‥色々な事を話しているし、きっと沢山の事を知っているだろう、と思ったらしい。
「物見君、そんで、ミカエル様って誰?」
生姜に関する記憶を引き出す作業を中断された物見は、一瞬固まった。
一応説明しておこう。
ミカエル様は、平たく言うならとてもとてもすんごくエライ天使様、である。
極楽司には物見が丁寧に説明を行った。はずだ。
「ねぇ、ここのおばあちゃん達と少し話をしていこうよ。オークと戦う前に、あいつらがどんな武装をしているかも聞いておきたいし」
あいつらが良い獲物を持っていたら危険だものね、と李は注意を促す。
確かに、通常の戦力としてはたいした事がなくとも、武器によっては危険が増すことも少なくはない。
「それでは、依頼人の方のお宅にお邪魔しましょうか」
農場の端にある、小さな家の扉をノックしつつ、乱は仲間達へと声をかけた。
●じいちゃんの作るジンジャー
老夫婦は冒険者達がやってきたことを、とても喜んでいた。
「まぁまぁ、こんなお若い方たちがきてくれるなんて‥‥なんだか嬉しいですねぇ、じいさんや」
おばあさんは、なんだか孫が出来たみたいですと喜ぶ。
おじいさんは何故か特に反応をしない。
「今回のオーク退治、承りました」
乱がきっぱりと、その報告を行う。
その言葉に、おばあさんが宜しくお願いいたしますと丁寧に礼をした。
しかしおじいさんはやはり反応をしない。
「‥‥すみませんねぇ、この人、今あまりに生姜の事が気になって、他の事に気がまわらないんですよ」
少しだけ困ったように、おばあさんがフォローを入れたが、それでも雰囲気は変わらない。
その重苦しさに耐え切れなくなったのか‥‥それとも、元々ネタを仕込んであったのか。
極楽司がぽそり、と小さな声で言った。
「じいちゃんの作るジンジャーがいいんじゃー」
何を言ったのか解らず、疑問符を浮かべる李と、おばあさん。
何故なら彼女の言葉は‥‥ジャパン語とイギリス語を混ぜたものだったからだ。
韻を踏んでいる事くらいは2人にも解っただろう。
しかし何を言っているのか解った、解ってしまった物見と乱が固まる。
斬新さはえてして人の理解を得られないものである。
だが、その斬新なジョークを聞いたおじいさんは‥‥笑い出した。むしろ笑いすぎで噎せ始めた。
おじいさんは、ジャパン語を理解していたようだ。
極楽司のジョークは彼の心を和ませたらしい。グッジョブだ! 決してジャパンの恥などではないぞ。
笑いすぎで目に涙をためつつ、おじいさんが極楽司へと言う。
「おじょーちゃん、面白いのぅ‥‥それでなんだったかの?」
おじいさんの反応に、少しばかりその場に崩れそうになる冒険者達であった。
●オークも食べるジンジャー
「話で聞く限りでは、オークどもは大した武器は持ってないみたいだね」
詳細を聞いて来た李が皆へと話しかける。
どうやらオークは本当に食事に来ているだけのようだ。
これなら、初陣の腕試しには丁度良い相手かも、と彼女は呟く。
「数は私達より多いですが‥‥上手く罠をはれれば、有利に事が運べるかもしれませんね」
老夫婦から聞いた話を参考に、乱が罠をはるための場所を選定し、仲間への指示を行う。
冒険者達は、農場まで向かう途中に村なども存在した村で、オークを罠にかけるために使用する資材を手に入れていた。
流石に、狩猟用の罠は村でも現在使っているからという事で貸してもらえなかったが、食料を提供してもらえたのは幸運だったと言えよう。
「さて、これでどうかな‥‥」
物見は手にした木片にロープを通し、鳴子として使えるように調整をしている。
近くでは極楽司が必死で落とし穴を掘る。深さはさほどではないが、オークを転ばせる程度にはなるだろう。
てきぱきと冒険者達は罠を仕掛け、生姜畑から少し離れたところへと潜伏する。
生姜畑の近くは罠だらけとなった。
潜伏しはじめて暫くが経ち、冒険者達が流石に待ちくたびれ始めた頃、鳴子がからんからんと音を立てた。
オークがかかったのだろう。
物陰から様子を見る一行の前で、鳴子の音に驚いたオーク達は、周囲をきょろきょろと見回している。
動揺した1体が足を踏み出した瞬間、ずぼりと落とし穴へと嵌った。
「‥‥行くよ!」
極楽司が小さく、しかし鋭く言い放ち、落とし穴に嵌ったものへと近寄り、斬りつける。
苦痛に呻くオーク。
更に物陰から姿を現す物見と李に、オークは驚く。
だが、所詮自分達よりも数が少ないと踏んだのか、オークは逃げずに戦うつもりのようだ。
「戦意は買うが、俺達に勝てるつもりか?」
物見の刀が閃き、オークの身体に斬撃を与える。
「逃がしはしない‥‥よっ!」
落とし穴に嵌っていない1体を狙い、李が足払いをかける。
相手は見事に前のめりに倒れた。
オークたちの間に動揺が広がる。
乱が手に持った神事の儀式に使われるという「鳴弦の弓」をかき鳴らす。
ぴんと張られたその弦から放たれる音に、オークの動きが鈍った。
劣勢に気づき、逃げようとした1体が、見事にその場に仕掛けられたロープにかかり、転ぶ。
落とし穴に嵌ったものも必死で逃げ出そうとするが、罠の底に仕掛けられた油に足をとられて上手く逃げ出せないらしい。
さらにはこの弓の音――これが行動を阻害していた。
極楽司と物見がタイミングを合わせ、逃げようとした別の1体を斬りつけた。
残りの1体はあわてて走る――その方向は偶然にも生姜畑の方であった。
「そっちには行かせるものかっ!」
李がオークの後頭部に蹴りを叩き込む。
前のめりに倒れ、顔面から畑の端っこに突っ込むオーク。
乱は攻撃に加わるべきかを一瞬悩んだが、弓をかき鳴らし続ける。
少しでも行動を阻害できれば、という考えからだ。
その判断は正しかったのだろう。
まともに動けなくなったオーク達を、冒険者達は撃退する事ができたのだから。
●クッキーにもなるジンジャー
仕掛けた罠を物見があらかた回収し、乱が畑から少し離れた森の中にオークを埋葬する。
畑はほぼ無事だった。
李が周囲を見渡した限りでは、既にオークの影はない様子であった。
問題がなさそうなのを確認し、極楽司が老夫婦を連れてくる。
それでは収穫をしようかのぅ、とおじいさんは言うと、生姜の収穫をはじめる。
その場に居た物見は、男手が足りんからと言われ、作業を手伝う。
ある程度が収穫し終わったところで、おばあさんが生姜を持つと、家へと戻る。
「それじゃあ、ジンジャークッキーをつくりましょうかねぇ‥‥」
「それっておいしい? 食べたことないんだー」
わくわくと瞳を輝かせる極楽司に、おばあさんは勿論おいしいですよと答える。
「調理のところから見学させてもらおうっと‥‥料理人を志す者として、イギリス料理に興味があるしね」
李がぽそりと言った言葉に、おばあさんはあらあらまぁまぁと答える。
「どうせなら一緒につくりましょう。見ているよりもつくったほうが楽しいですよ?」
その言葉に李は一緒に作業をはじめる。
「私、炊事は苦手だから、食べるの専門で‥‥」
こそっと主張をした極楽司にもおばあさんはにこにこと笑顔を見せる。
「花朗ちゃんもそんな事言わずに。きっと将来子供が出来たときに、作ってあげると喜びますよ‥‥」
近くで水を汲んできた乱も、ついでとばかりに巻き込まれる。
「私も調理はあまりした事が‥‥」
せめてもの抵抗をしたものの、クッキーくらい大丈夫ですよというおばあさんの言葉に、乱は手伝う事を決意する。
とはいえ、彼女は調理には関わらない範囲で手伝うらしい。
「パンにも練りこめないかな‥‥?」
大雑把な範囲でクッキーの作り方を理解した李が、応用をしてみたいと考え始める。
色々と大騒ぎをしながら、クッキーが焼きあがる頃、漸く全ての生姜を収穫したらしいおじいさんと物見が帰ってきた。
「美味そうに出来ているみたいだな」
家の中に広がる香ばしい香りに、物見が表情を綻ばせる。
極楽司が家の外を見て、天気がいいのを確認し、言う。
「そだ。みんなでピクニック気分で外で広げるのも、楽しいと思うよ!」
おばあさんもにこにこと頷き、それに同意をする。
皆が外出の準備を始めたところで、李は何かを思い立ったらしく、自分の焼いた分のクッキーをそっと包みにわけた。
(「いつもお仕事ご苦労様‥‥だしね。味の程は保障しないけど」)
あのギルドの係員に僅かだがわけてやろうと思ったようだ。
彼女の優しさは、きっとギルドの腹へり係員へも伝わるだろう。