とりあえずブスリと。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:小倉純一

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月21日〜10月26日

リプレイ公開日:2006年10月29日

●オープニング

 彼はある日思い立った。
 困っている人を助けようじゃないか! と。
 ‥‥しかし、それにも色々種類がある。
 重いものがもてなくて困っているご老人を助けるとか、落し物をして困っている人の探し物をするとか。
 でも、どうせなら、人の命に関わるような大きな事をやるのがいいじゃないか。
 怪我をしている人とか、生命の危機にさらされている人を助ける俺カコイイ!
「‥‥そういう人ってどうやって探せばいいんだろうな?」
 彼は悩んだ。そして思いついた結果は‥‥‥‥。
 
「で、ブスリと刺そうとした、と」
 目の前に居るまだ幼さの残る少年――名をパロというらしい――の話を聞かされたギルドの係員は大きなため息をついた。
 どうやったらこんな阿呆が出来るのだろうか、と。
「だって、ブスリと刺せば困るじゃん」
 確かに困りますけどねぇ‥‥と係員は痛む頭をおさえる。
 どういう事かを説明すると‥‥彼はとにかく手っ取り早く命の危機に陥っている人を見つけたかったらしい。
 そこで‥‥通りすがりの人を刺そうとしたそうだ。
 刺して、その後救えば、俺は生命の危機にさらされている人を助ける事になるじゃないか、生命の危機にさらされている人を助ける俺(以下略)
 まさに発想の転換。ていうかアホじゃなかろうか。
「で、なんでここに来たんですか」
 係員は冷たい視線をパロに送る。
 ホントに刺してたらただではすまない。
 ていうか速攻で官警に引き渡す。
 そんなつもりで話を聞いていたのだが‥‥。
「いや、あのさ‥‥ブスリと刺そうとした相手がちょっーと悪かったみたいで、俺が命を狙われるようになっちゃってさ‥‥」
「‥‥‥‥」
 狙った相手はじーさんだったんだけど、ゴロツキのボスっぽいヤツだったみたいでさー、手下っぽいのが俺を狙ってきてさー、あいつら7〜8人いたかなーと気軽に言うパロの様子に、このまま見なかった事にした方が、イギリスの未来の為にはいいのかもしれないとちょっと思ってみる係員。
「なぁ、頼むよ。相手はゴロツキっぽいんだけどさー、なんつーか色々慣れてそーな連中だったからさー」
「‥‥‥‥」
 こわもてだったしー、なんか結構体格よかったしーと彼は悪びれる事もなく言う。
 係員はなんでそんな悪そうなヤツを刺そうとしたんだこのガキ、という言葉を必死で飲み込む。
 しかし、この依頼を受理していいものか、と彼は悩む。
 それに気づいたパロは、恐ろしい一言を言い放った。
「おっさん、あんたがさっきまで仕事サボってた事、上司に言いつけるよ?」
「‥‥‥‥ッ!」
 ――人の弱みに付け込むとはなんてむかつくガキなんだ‥‥ッ!!
 係員はそんな心の叫びを必死で押さえつけ、羊皮紙へとペンを走らせる。
「念のため聞く。お前、本当にブスリと刺してないだろうな?」
 パロをねめつけ、彼は問いただす。
「勿論。刺そうとしただけで、ブスリと刺してなんかいないよ。そんな事よりさっさと仕事に戻んなよ」
 本当にむかつくガキだという心の声を隠し、仕事へと戻る係員。
 そして張り出された羊皮紙にはこう書かれていた。
 
 パロをゴロツキから護ってください。
 ついでに、彼に命の尊さとか、人の救い方とか、そういうものを叩き込んでやってください。
 できればこの曲がった根性を叩きなおしてもらえると幸いです。ていうかイギリスの未来の為にも叩きなおしてください。

●今回の参加者

 ea8750 アル・アジット(23歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7226 セティア・ルナリード(26歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb7300 ラシェル・ベアール(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

エグゼ・クエーサー(ea7191)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ マルケルス・アグリッパ(eb2749)/ クァイ・エーフォメンス(eb7692

●リプレイ本文

「ったく、とんでも無えガキだな。この俺が直々にその捻くれた根性叩き直してやるぜ」
 依頼内容を思い、日高瑞雲(eb5295)がむすりと言う。
 その横ではグラン・ルフェ(eb6596)が、他人の痛みに鈍感なガキは大変苦手なのだがと頭を痛めていた。
「気が進まないわぁ」
 カイト・マクミラン(eb7721)は気分悪げに言う。
「正式な依頼じゃなかったらこんなガキ知ったこっちゃないんだけど」
 口々に言う彼らの前に、一人の少年が姿を現した。
「お前らが俺を護ってくれんの?」
 横柄な口調に一同の頭痛は酷くなる。日高の威嚇も効果を成さない。
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)が不快さを押し殺し、事のあらましを聞き出す。
「こう思うことは間違ってるとは思いますが、個人的にはゴロツキさんの方が被害者という気が‥‥」
 乱雪華(eb5818)が眉を顰めぽそりと言う。
「俺は依頼人だぜ?」
 嫌味たっぷりにパロは答える。
 誰が聞いても腹が立つ事請け合いだが、乱は堪えた。
 だが、堪えられない人もいたわけで‥‥。
「全くなんてアホなガキなんだ。いったいどーゆー教育されてんだか、親の顔が見てみたいぜ」
 ぶちりと何かの切れる音がしそうな勢いでセティア・ルナリード(eb7226)がパロへと迫る。
「つーわけで説教だ説教」
 彼女はパロをどこかへと引きずっていく。
 何すんだよ! 俺は依頼人だぞ! というパロの声を聞きつつ‥‥。

 三度傘を深く被ったアル・アジット(ea8750)はパロが刺そうとした老人と、その手下について調べていた。
 まず彼はギルドで仕事を請けた係員へと話しかけた。
「本人はゴロツキなどと言っていましたが、この方は極めて特殊な価値観を持つ方なので、実は商人や騎士様とその護衛いう可能性さえあります。ギルドが仕事を請けたことがばれると困るような方なので、ちょっと力を入れて他のギルド職員の方にもたずねていただけると助かります」
 特上の笑顔で言うと、係員は必死で頷いた。
 係員は日高の仲間に正座をさせられ、小一時間説教された後だったりする。
 アルに同行していたカイトが、話好きそうな者を見つけ、声をかけた。
「ねぇ、子供に刺されそうになった爺さんって知ってる?」
「知ってるぜ。強面な手下連れてガキを捕まえるって息巻いてたなぁ」
 それを聞き彼は続ける。
「そのガキ捕まえて連れてったら‥‥礼金ぐらい出してくれるわよね。どこに行ったらその爺さんに会えそうかしら?」
「自ら捜し歩いてるって話だぜ。礼は、あのじーさん強欲だし期待できないな」
 話を聞きまわっていたアルが、カイトに歩み寄る。
「既にパロさんの住居近くまで行っているみたいですね」
 老人達の行動範囲もある程度聞き出し、彼らは仲間の元へと戻ることにした。

「‥‥まず、人を傷つけるという事は絶対にやってはいけない。これは理屈じゃない。人が人として生きていく為の『決まり事』だ。行って良い理由がない行動は、全て行ってはならない事だ」
 セティアは既に1時間程語り続けていた。
「誰が決めたんだよそれ」
 パロが突っ込みを入れた瞬間、すぱぁん! といういい音が響き渡る。
 痛みに振り返る彼の後ろにはハリセンを持ったグランが仁王立ちしていた。
 既に何回ツッコミを入れたか。腹は立つが、口を開けば罵詈雑言が溢れる気がして、黙ってツッコミに徹する。
「そこで疑問に思うのは止めましょう。人として」
 乱が厳しく言い放つ。
「自分で怪我人作って助けるのは、よくないですよ」
「怪我人というのは増やしちゃいけないものなんです」
 偶然にも乱とメグレズの言葉が重なった。
「よく聞こえないなぁ」
 そもそも聞く気がなさそうだが、メグレズは根気よく話をする。
「誰かを助けたいというお気持ちは、分からなくはありませんが、あくまでこれは相手が助けを求めてきたら、であって自分が作るものじゃないんです」
 きちんと「教育」しておかねばと語るが、パロはそれを聞き流す。
 高らかに響き渡るハリセンの音。
「お前は悪い事をやったんだ。謝りに行くのならきっちり護衛してやるが、ゴネるなら勝手にしろ」
 腰に手を当て、セティアが吐き捨てる。
「俺、依頼人だぜ? 依頼失敗って今後に響くよなぁ」
 口の減らないガキである。
 そこに情報を集めてきたアルとカイトが帰ってきた。
 アルは仲間達へと集めてきた情報を丁寧に伝える。
 見かねたカイトがパロに話しかけた。
「あんたは人を助けるんじゃなくて、逆に迷惑をかけたの。わび入れれば許して貰えるかも知れないわよ?」
「仮に迷惑かけたとしても、善意でやった事にわびなんて入れたくねー」
 ゴッ! という鈍い音と共に、パロの頭に何かが打ち付けられた。
「ってぇ!」
 蹲りつつ視線を上げると、日高が煙管を片手に立っていた。
 打ち付けた物はこの煙管だったらしい。
「てめーさっさと死んでこいやコラ」
 彼は鋭い眼光でパロを射竦め、尻を蹴り追い出す。
「ちくしょー何しやがるこの役立たずども! もういい俺は帰る!」
 怒りを顕わにし、彼は何処かへと歩み去った。

 勿論、冒険者達はパロを放置はしなかった。
 セティアがリトルフライを使い、屋根を伝いながら監視し、グランと乱の2人も物陰に隠れ、後をつけている。
「うまく囮になってくれればいいんですが‥‥」
 一応護らないといけませんし、とメグレズが呟く。
 その時、先行していた3人が、皆へと軽く手を振った。ゴロツキのお出ましらしい。
 駆けつけ、ゴロツキの前へと立ち塞がると、パロは嬉しげに声を上げた。
「お前らさっさと退治してくれよ!」
 ゴロツキへと視線をやると、先頭には一人の老人が。彼がこの集団のボスであるらしい。
「相手が襲いかかって来ない限りパロさんが全面的に悪いんですから、攻撃しちゃ駄目ですよね‥‥」
 穏やかにアルが言う。
「なっ!?」
 動揺したパロを日高が押さえつけ、頭を下げさせる。
「この通りだ。許してやってはくれないか?」
(「これで事がすむとは思えねーけど、必要なことだからな」)
 セティアもパロの頭をぐりぐりと押さえつける。
「なにす‥‥」
 何かを言いかけたパロの頭を更に押さえつけ、グランが耳打ちする。
「人様に危害を加えようとしたなら、詫びるのが筋です」
 3人がかりで子供の頭を押さえつける様はさぞ滑稽だろう。
「残念だが、こちとら大層腹が立っておるでのぅ」
 老人の言葉と共に手下が跳びかかる。
 乱は敵の攻撃をひらりと避け、気絶させるべく拳を叩き込む。
 更に駆け寄ろうとした別の敵の足元へとグランが矢を撃ちこんだ。
 アルはひたすら回避し、日高が偃月刀の刃のない方で応戦をする。
 カイトが眠気を催す魔法を唱え、セティアの放った魔法が敵の影を固定した。
 眠りに落ちた者、動けなくなった者を見て、ゴロツキが動揺する。数名が逃げ出したが、まだ剣を構える者も居る。
「牙刃、剽狼!」
 裂帛の気合と共にメグレズが手近な敵の持っていた剣をへし折る。持ち主は青ざめ、慌てて逃げ出した。
 乱がちらりとパロの方を見る。彼は人事のように戦いを眺めているようだ。
(「反省してないみたいですね‥‥」)
 乱戦に巻き込まれたように見せかけ、手加減し蹴りをかます。
「げふっ!」
 パロがよろめいた先にはカイトが居た。
 彼もパロに向かい、拳をぶつける。
「がふゥッ!」
 更によろめき、倒れこもうとした先にはメグレズが。
 彼女は剣の柄を叩き込んだ。
「うごッ!」
 ふらつくパロに、残っていた敵の一人が、剣を振り上げる。
「危ねぇッ!」
 日高がパロを全力で突き飛ばして庇う。
「っぐあぁぁぁぁッ!」
 派手に悲鳴を上げ、その場へと倒れこむ日高。
 余計な相手を殺したと思ったゴロツキは慌てて引き上げていく。
「日高の大将ーッ!」
 グランが絶叫し、彼へと縋り付いた。
「大将! しっかり!!」
 日高は虚ろな視線でパロへと話しかける。
「解ったか‥‥? 人を助けるってのがどういう事なのか‥‥」
 その一言を紡ぐと彼はがくりと首を倒し、動かなくなった。
 グランがパロを睨みつける。
「馬鹿野郎! お前のせいで大将はッ! お前が謝ってさえいれば‥‥!」
 パロは僅かに動揺したが、すぐにいつものムカツクガキへと戻る。
「俺を護るのがお前らの仕事だろ? それにわざと俺の事殴ったりしただろ!」
 自分を最後に殴ったメグレズを睨みつける。
 しかし彼女は軽い口調であ、ごめんなさい、と言っただけだった。
「何でこんな事しやがる」
 その言葉を聞いた彼女は、きっぱりと言いきった。
「今の貴方の気持ちが、貴方が刺そうとした老人の気持ちです」
 たたみかけるように乱も続ける。
「貴方のその状態が、他人に与えようとした状況なんですよ。最悪の気分でしょう?」
 彼女らの言葉に、パロははっとする。
「で、でも‥‥」
 もごもごと口篭るパロにカイトがにっこりを笑顔を見せ、言い放つ。
「あの爺さんと今のあんたのどこが違うのかしらね。私、あんたに感謝されて当然じゃないの?」
 あんたの理屈だと、私はあんたの恩人なんだけど、と更に続ける。
「‥‥その、すまねぇ。俺、お前らの仲間、死なせちまったし‥‥」
 自分のやったことに漸く気づいた彼は始めて謝罪を口にした。
「死んでねぇよ」
 今まで死んだふりをしていた日高がパロの後ろへと立ち、頭を軽く叩く。
「騙したな!?」
「こういう一計も、時には必要ですよねぇ‥‥」
 日高に食い下がろうとするパロを見て、アルはのんびりと呟いた。

 数日後、パロを連れた一同は教会の前に立っていた。
「ここはねぇ闘技場から怪我人がバンバン運ばれて来るの。だから、しっかりお手伝いするのよ♪」
「一生頑張って奉仕しろよ」
 カイトと日高がニヤリと笑い、教会に彼を運び込む。
「もうあんな事しねぇよ! いや、しません! 一生奉仕なんて嫌だぁぁ!」
 響き渡る悲鳴。イギリスの未来はちょっとだけ明るくなったかもしれない。