【凄腕の剣士】民を護る剣として
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■ショートシナリオ
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月12日〜11月17日
リプレイ公開日:2006年11月20日
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●オープニング
――颯爽と森に現れては優麗な剣捌きで人々の窮地を救い、名も告げずに森へ消える凄腕の剣士。
その噂はキャメロットまで広がり囁かれるようになっていた。
どうやらキャメロットから2日程度の広大な森に凄腕の剣士は現れるらしい。
しかし、光輝の噂に彩られる剣士には不穏な噂も流れるものである。
――その人物とは何者だろう?
凄腕剣士の正体を突き止めるべく、数名の騎士が王宮から派遣され、ギルドに姿を見せる事となる――――。
その日、円卓の騎士ウィルフレッド・アイヴァンホーは、噂の凄腕の剣士が居るという森を捜索しようと準備をしていた。
きっと『彼』に違いない。
そんな予感に、ウィルフレッドは少しだけ憂鬱になる。
『彼』は本当に罪を犯したのだろうか? と。
軽く頭を振り、その考えを追い出す。今やるべき事は、ただ1つ。王命に従う事、だ。
キャメロット内を歩いているうちに、彼は1人の老婆と遭遇した。
彼女は助けを求めるようにウィルフレッドを見上げる。
勿論それを看過できるような彼ではない。
彼にとっては、全ての民はイギリスの宝なのだから。
「どうされましたか? ご老人」
彼はなるべく丁寧に老婆へと話しかける。
「実は私の茶飲み友達のじいさんが‥‥ある森へと出かけてしまったのです」
老婆の話をまとめると、その老人は「逆賊、ラーンス・ロットを捕らえるのぢゃ!」と叫び、一人モンスターが群れなす森の中へと出かけていってしまったのだという。そこで、その茶飲み友達を連れ戻して欲しい‥‥というのだ。
ウィルフレッドは僅かに悩んだ。
王命を優先すべきか、民の願いをかなえるべきか。
(「手間を取ったとしても‥‥民を救う為ならば、きっと、わが君も解ってくださるに違いない」)
自らに言い聞かせ、老婆へと笑顔を見せる。
「解りました。ご友人を連れ戻してみせましょう」
どうせ行き先は同じなのだ。多少手間が増えたところで問題はないだろう。
‥‥とはいえ、モンスターが多数いるようでは、自分1人では少々厄介かもしれない。
何がいるのかもはっきりとはわからないのだから。
それに‥‥場合によっては凄腕の剣士と刃を交えなければならないかもしれない。
そう思った彼は、ギルドへと向かう事にした。
「‥‥そういうわけだから、すまないが誰か同行してくれる人を探してくれないかな?」
笑顔で話しかけるウィルフレッドの言葉に、係員は素直に頷き、羊皮紙へと依頼内容を綴る。
途中思いついた疑問を係員はそのまま口にした。
「その森って‥‥あの凄腕の剣士が居るっていう噂の場所ですよね?」
彼の言葉にウィルフレッドは、そうだね、と答える。
おそらく『彼』ではないかという考えから、係員は考えを更に口に出した。
「もしもその人がラーンス様だったら‥‥ウィルフレッド様はどうなさるのですか?」
確か、捕らえるようにとの命が下っていましたよね、という言葉に、ウィルフレッドは表情を曇らせる。
「勿論、彼を探す事も私の目的の内だからね‥‥」
ラーンスは尊敬すべき騎士だった。誰よりも強く、誰よりも高潔だった。それが解っているだけに、ラーンスが罪を犯したとは信じたくはない。
きつく拳を握り締め、目を伏せ、俯く。
「‥‥私は、王命に従い、為すべき事を為す。それだけだよ」
自らにきつく言い含めるように、彼は言葉を紡いだ。
●リプレイ本文
穏やかな日の射す、小さな村。
目的の森まではさほど遠くはない。
柊静夜(eb8942)の、馬に乗れば迅速に移動できるのではないかという提案もあり、予想より早く森へつけそうであった。
しかし、急いではいたものの冒険者達は少しでも老人の情報を集めようと、ここに立ち寄る事にしたのだ。
「お仕事はちゃーんとしなきゃだわ」
ラックナック・アルイルシア(eb8694)が村人を尋ねまわる。
彼女は内心、騎士と知り合いになれるチャンスを利用せねばと思っていた。だが、それだけではない。
(「世間を騒がす噂の真相が解っちゃうかも!?」)
凄腕の剣士の正体にも興味があったからだ。
――話を総合すると、やはり噂の剣士が居るという森へ、老人は向かったらしい。
「狙っているものが狙っているものだけに一筋縄ではいかないでしょうね」
アイオル・リック(eb6472)の言葉にウィルフレッドが表情を硬くした。
見かねたソフィア・スィテリアード(eb8240)が声をかける。
「森の深みに捕まる前に、おじいさまを見つけなければいけませんね」
穏やかに笑むソフィアの顔を見て、ウィルフレッドはしっかりと頷く。
なるべく迷いを見せないよう、彼が気を張っているのは見て解る程だった。
そんな彼にアレクセイ・ルード(eb5450)は興味を示した。
(「ウィルフレッド卿も迷いを抱えているようだね‥‥面白くなって来た、という所かな?」)
「ウィルフレッド卿」
柊が彼へと声をかけた。
「なんだい?」
穏やかな表情を取り戻し、彼は答える。
「お名前はジャパンでも拝聴致しております、一手ご指南お願いできませんか?」
「‥‥解った」
村人に迷惑がかからぬよう、外れまで行くと、ウィルフレッドは剣を構えた。
柊も居合いの構えを取る。彼女の表情が険しいものへと変わった。
「来なさい」
ウィルフレッドの言葉を聞き、柊は間合いに踏み込み、隠していた刀を抜刀する。
簡単には避けられないはず攻撃を彼は回避し、手にした剣を柊の目前へと振り下ろし、止めた。
「流石は高名な円卓の騎士でいらっしゃいます、私の及ぶ所では御座いませんね」
勝負あったと、柊は納得したようだ。
「‥‥されど太刀筋に気が乗っておられませぬ、なにかお悩みが御座いますか?」
ウィルフレッドは僅かに俯く。
「‥‥その‥‥私は‥‥」
ラーンスは本当に罪を犯したのか、アグラヴェインの見た事は真実なのか、王命に従う事だけが騎士の務めなのか――。
上手く言えない想いに、彼は当惑する。
突然、彼の瞳を青色をした瞳が覗き込んだ。
「何か、思いつめてませんか?」
ラックナックがウィルフレッドをじっと見つめ、話しかける。
「煮詰まってる頭で考えても良い考えに辿り着けるとは思わないですよ。一度心を真っ白にして素直に考えてみるのも大切かも」
続けられた言葉は、彼にとってはあまりに衝撃的なものだった。
「何が自分にとって一番大事?」
国が大事だ。民が大事だ。王命が大事だ。我が君が大事だ。
‥‥本当に大切なものは?
はっきりと答えが出せず彼は口篭る。
あまりに深刻な様子にラックナックは話題を明るくしようと自分の『大切なもの』を語る。
「あたしの場合大事なのは雑貨屋を開くって言う夢! だから元手の為にこういう危ないお仕事もするし、有名人著名人と知り合えるチャンスは利用してるって訳なのですよ♪」
「いい夢だね。叶う事を心から願うよ」
ウィルフレッドはラックナックの夢を応援する半面、それを酷く羨ましく感じている自分に気づいた。
彼女の夢が叶う様は、まじまじと想像できる。だが、自分の未来は‥‥それだけではない、このヒビの入ったイギリスは‥‥。
彼の思考は再び同じ場所を巡る。
「ウィルフレッド卿、君は噂を信じる性質かな?」
穏やかな、アレクセイの声。
「アグラヴェイン卿が偽りを口にしているとは思わないが、人は見たいものしか見ないし、聞きたい事しか聞かない。彼の語る言葉が全て真実とは私には到底思えないね」
静かに、しかしはっきりと言い切る様は、ウィルフレッドすらたじろがせた。
例えばと彼は続ける。
「もし仮に薄着の御婦人に風除けのマントを差し出した騎士が居たとしたら、君はそれを責めるかい?」
「それは――」
騎士として女性を護るのは当然の事だ、と口に出そうとして、ウィルフレッドは何かに思い当たる。
アレクセイの言葉は、ただの比喩であったのかもしれない。だがもしかしたら‥‥。
これまで見ることが出来なかった側面が、姿を現しはじめたように彼には思えた。
「君はまだ何も知らない。だが、これから知ろうとするかは君次第だ」
「‥‥少し、考える時間をくれないか?」
ウィルフレッドの言葉に、皆は頷き、その場を離れようとする。
ふと、思い出したようにアレクセイが足を止めた。
「ああ、私は君の邪魔をするつもりはない。『彼』と会っても静観させて貰うよ」
そのまま振り向くことなく彼は歩み去った。
森へと再出発すべく、村の外れで冒険者達はウィルフレッドを待った。
姿を現した彼は申し訳なさそうに笑う。
「待たせてしまったね‥‥迷うより先に老人を救わねばね」
「食料も多めに分けてもらえましたよ」
アイオルが老人を回収する事も考え、気を利かせたらしい。実は彼自身の食料も足りなかったのは秘密だ。
「どのあたりから森に入ったのかも、きちんと確認してあるよ」
「特徴からしても、例のおじいさまに間違いありませんわ」
アレクセイとソフィアの言葉に、ウィルフレッドは一言「頼もしいね」と言った。
冒険者達の結束は固いように思われ、それが彼には眩しく映った。
昼なお暗く、茂る木々。
「情報どおり、ここから入ったみたいですね」
最近下草が踏み折られたばかりの跡があることにソフィアが気づいた。
「老人の足では移動もそう早くはないし、遠くにもいけないはずだよ」
手がかりを見逃さないよう気をつけねばね、とアレクセイは注意を促す。
足跡を求め、ゆっくりと歩みを進める。
ふとラックナックが足を止めた。
「何かあったのかい?」
問いかけるウィルフレッドを彼女は制する。
「今、お爺ちゃんの声が聞こえた気がしたの」
気のせいではない。確かに聞こえた。
一同は急ぎそちらへと向かう。
皆の視界に入ってきたものは、勇敢にも棒切れで複数のホブゴブリンと戦おうとしている老人の姿だった。
ウィルフレッドの剣が閃き、ラックナックのダガーが煌く。
柊は躊躇なくモンスターの首を刎ね、アレクセイが老人を護りつつも戦う。
ソフィアが魔法の重力波を発生させるべく詠唱を行い、バックパックから武器を取り出していたアイオルも遅れて攻撃に参加した。
モンスターを殲滅するのに、さほど時はかからなかった。
「ホブゴブリンにも勝てなかったあなたが、ラーンスに勝てるわけないでしょう?」
アイオルが老人へと説得を行っている。
流石に彼には荷が勝ちすぎると思ったのか、アレクセイはウィルフレッドも説得を行うように促した。
一旦剣を収め、ウィルフレッドは老人へと向き直る。
「彼を探すのは我々に――」
視界の端に、茶色の不定形の存在が映る。
一同が身構えるよりも早く、不定形の存在は一刀のもと切り捨てられた。
「何者かが襲われていると思って来てみれば‥‥冒険者だったか」
「‥‥ラーンス・ロット」
ウィルフレッドの口からその名が毀れた。
冒険者達は息をつめ、様子を見守る。
老人はラックナックとアレクセイが確保している。邪魔は入らない。
悩みを、今目の前にいる騎士へと全てぶつけてしまえば、真実の欠片が見られるかもしれない。
だが口をついて出た言葉は、そんな心に反するものだった。
「‥‥王から、捕縛するよう命が下っている。大人しく投降してくれないか?」
王命を、優先する。それが彼の生き方だったのだから。
ラーンスはその言葉に首を振る。
「残念だが、私はまだやるべき事がある」
それを聞いた途端、アイオルが土を蹴り上げ、目くらましをかけつつラーンスに攻撃を仕掛ける。
「相手にはならないでしょうが、これも一種の使命です!」
一瞬の後、アイオルは地へと伏していた。
「‥‥ッ!」
アイオルが倒れたのを見てウィルフレッドは剣を抜こうとする。
「お止めください、迷いがある太刀筋ではあの方には勝てませぬ、貴方様までを失ったら貴方の主君はどう思われますでしょう?」
柊が必死で彼を押し留めた。
「ウィルフレッド卿、私は、私の信念に基づき、真実を証明するまでは王宮には戻らぬ」
一言を残し、ラーンスは森の中へと立ち去った。
「先程は出すぎた真似をしました、申し訳御座いません」
ウィルフレッドを止めた事を柊は詫びた。
だが、彼はそれをさほど気にしてはいなかった。
アイオルも傷ひとつなく無事であった。どうやら転ばされただけのようだ。
「ですが主君を亡くした者としては貴方様を羨ましく思います‥‥良い主君がいて良い騎士がいる、この国は強い国ですね」
柊は仕えていた主君を思い出し、遠くを見遣りつつ彼へと語りかける。
「良い騎士、か‥‥」
「わたしはまだ旅をはじめて日が浅いので、詳しい事は解らないのですが、信じるに値する友人ならば、自らの心を裏切らない限り、必ず理解しあえる時が来るのではないかと思います」
ソフィアはウィルフレッドを見据える。
「どうかご自分の心だけは裏切らないで下さい」
「どの道を選んでも後悔する時はするんですから」
もし後悔する事になるならば、自分の信じた事をやるのが一番だろうと、ラックナックは言う。
自分にとって本当に大切な物は、真実とは、使命とは、信念とは、本当の強さとは、そして‥‥自分の心とは。
見極めねばならない。
ウィルフレッドは殆ど皆へと聞こえないよう呟く。
「‥‥ありがとう」
それは、彼が目を背けていた物へと気づかせてくれた冒険者達への礼だった。