彼女の冒険
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■ショートシナリオ
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 64 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月01日〜12月04日
リプレイ公開日:2006年12月09日
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●オープニング
おかあさんが、せきこんでいる。
げほげほっていって、苦しそう。
おとうさんが「おかあさんは今、熱があるから、そっとしておいてあげなさい」って言う。
ユニもかぜひくと、死んじゃうんじゃないかってくらい、苦しいもんね。
‥‥おかあさん、死んじゃったらどうしよう。
そういえば、ずっとまえにおばあちゃんが、森のおくにはなんでもなおしちゃうおくすりになる草がはえてるっていってたよね。
少女ユニは盟友であるぬいぐるみのポポンを連れ、こっそりと家を出る。
向かった先は‥‥冒険者ギルドだった。
いい加減寒くなってきたし、こんな日はさっさと家帰ってご飯食べて寝るに限るなぁ、と係員は空を眺めた。しかしこんな日に限ってやっかいな仕事が来るもので‥‥。
「おじちゃん!」
声の方を見ると、何処かで見たような少女が涙をうかべつつも、キッ! とこちらを睨んでいた。
(「‥‥俺、ナニモシテマセンヨー?」)
周囲からの冷たい視線に、内心の冷や汗を抑えつつ、係員は彼女に問う。
「どうしましたか?」
「あのね、冒険者さんにお手伝いして欲しいの! お母さんが風邪でね、つらそうなの。だからね、ユニね、昔おばあちゃんが言ってた『何でも治しちゃう草』を探しにいくの!」
彼女の言葉に係員は首を捻る。そんな薬草は聞いたことがないし、そもそもあったら高値で取引されているはずだ。
「どんな外見の草なのかな?」
彼の言葉にユニは懸命に訴える。
「緑色でね‥‥葉っぱが生えててね‥‥えーとね、えーとね‥‥」
話を聞く限りでは、どうやらマンドラゴラではないようだ。係員は一通り話を聞いたあと、更に質問を続ける。
「その草って、どこに生えてるの? ユニちゃんしか知らないかもしれないから、頑張って思い出してくれるかな?」
「向こうの森だっておばあちゃんは言ってた。よくユニが寝るときにおばあちゃんが話してくれたよー?」
‥‥ああ、いかん。これは完全に必殺おばーちゃんの寝物語だ。
つまり、作り話の可能性、大。ていうか多分作り話確定。
係員は必死に笑顔を作る。
「じゃ、じゃあ、冒険者の人に、薬草を取ってきてもらおうか」
熱さましの薬草でもあれば、それを飲ませればいいだろう‥‥と係員は思っていた。しかし。
「ユニも行く! おかあさんを護るのにユニも頑張りたいの!」
ユニいつかは冒険者になりたいし、おかあさんも助けたいし、頑張るの! と彼女は聞かない。
頭を抱えて座り込みたい気持ちを抑え、係員は必死で頭を回転させる。
(「あああ、仕方ない‥‥こうなったら‥‥!」)
「‥‥じゃあ、冒険者さんたちに頼んで、一緒に連れて行ってもらおうか」
彼の言葉にユニは元気に頷く。
係員は羊皮紙へとペンを走らせる。
ユニをつれて森まで行って帰ってきてください。
そして、テキトーに熱さましの効果がある薬草を取ってきてください。
何処にでもあるやつでいいです。
ちょっとやけっぱち気味だが、間違ってはいないだろう。
一通り書いてからふと彼は考える。
(「そういえば、あの森ってトレントがいるって話じゃなかったっけ‥‥まあ、荒したりしなければ大丈夫‥‥だよな」)
それよりも、なんで俺が担当の時に限ってこんな子供が来るんだろう‥‥となんとなく思ってみる彼であった。
●リプレイ本文
●彼女と出発
「わぁい、冒険者さんたちだー!」
とたぱたとユニが走ってくる。
「こんにちは、お母さんのためにも怪我などしないように頑張りましょうね」
「お母さんの為に頑張るの、偉いわね」
ソフィア・スィテリアード(eb8240)が笑顔で迎え、アリーン・アグラム(ea8086)も、ふわりと彼女の周りを飛び、頭を撫でる。
ユニは照れたように笑った後、ぺこりと頭を下げた。
「ところで‥‥」
セルゲイ・ギーン(ea6251)がユニへと問いかけた。
「お母さんは何の病気かの?」
ユニの目にみるみる涙が溜まる。
「あのね‥‥お熱なの。お風邪だってお父さんは言ってたの。苦しそうにしててね‥‥」
ふむふむ、とセルゲイが頷き、それを見た陰守森写歩朗(eb7208)は、そっと皆の輪から離れた。
涙が零れ落ちる前に、レイ・カナン(eb8739)はそっと拭ってやる。
「私もユニと同じくらいの頃に弟が風邪をこじらしてしまって、弟を護るんだって必死に頑張ったんだけど‥‥」
遠い目をする彼女を見て、ユニは再び涙を溜めた。
「‥‥死んじゃったの?」
子供故のストレートな表現に、レイは苦笑する。
「ううん。大丈夫だったわ。今は冒険者として頑張ってる」
今回も手伝ってくれてるのよ、という言葉に、ユニは安堵の表情を浮かべた。
(「シフールや魔法使いに憧れていたユニちゃんが、今度は自ら冒険に出ようとしているのですか‥‥着実に冒険者として前進してますネ」)
微笑ましげにボアン・ルフェ(eb9328)は彼女を眺める。
(「でも危険度もパワーアップしていますネ♪」)
「いい? 絶対1人で飛び出してったりしたらだめよ?」
先手を打ってジェラルディン・テイラー(ea9524)が言うと、ユニはちょっとだけむくれた。
「今回の冒険を唄にしても良いかな、小さな冒険者さん」
シア・シーシア(eb7628)の宥めるような言葉に、ユニはこくりと頷く。
「冒険譚は皆に聞かれる。一人前の冒険者として振舞わなければな」
「一人前の冒険者として‥‥?」
鸚鵡返しに問うと、シアは即座に答えた。
「一人前の冒険者としての心得は、依頼を達成するため仲間と協力しあう事。仲間を信じお互いを助け合う事。だから、一人だけ勝手な行動をしてはダメだ。ユニなら守れるな」
瞳を見据え、真剣に話しかけると、ユニは再び頷く。
「ジェニーお姉ちゃんもそういう事で言ったんだね! ちゃんとユニ言うこと聞く!」
懸命に主張する彼女に、ジェラルディンは穏やかに笑む。
ユニの様子を見て、シアは自分が冒険者になったきっかけを思い出す‥‥何十年前の事であったかは、本人も忘れているようだが。
「それじゃあ、行きましょう!」
皆を先導するようにボアンが歩みだす。
かくして、彼女の夢を、そして森の平和を守る為に冒険者達は出発するのであった。
●彼女と約束
暫し進み、一日目の野営を行おうとする頃。
ユニの家に向かい、その安否を伝え、更に母親の病状を聞いて来た陰守が合流した。
「よろしくお願いします、と言われましたよ」
照れくさそうに笑いつつも陰守は、きちんとお世話してあげなければいけませんね、と心に決める。
「ほらほらユニちゃん! イギリス王国博物誌を持って来たのよ。一緒に見ましょ♪」
アリーンが差し出すと、ユニは、まだご本読めないの‥‥としょげる。
ソフィアが朗読し、陰守は持っていた写本「動物誌」も参考に、と差し出す。
絵付きの本であった事と、ソフィアが丁寧に語り聞かせた事もあり、ユニは嬉しそうに笑む。
「立派な冒険者さんになったら、このまだ見たこと無い生き物とかにも会える?」
目を輝かせ、皆へと問う。
「そうじゃのう‥‥これから行く場所にも、色々な生き物がおるぞ」
セルゲイの発した言葉に、ユニは食いついた。
「どんな生き物いるの? 教えて?」
「今回の目的を忘れんように行動する事と、出会っても大人しくするならお話を聞かせてやろう。世にも不思議な、動く木のことをのぅ‥‥」
大人しくするから! とせがむ彼女の熱心さに苦笑しながら、セルゲイはトレントに関する話を聞かせた。
「怒ると怖いですが頼りになる森の守護者ですし、もし会えるなら、ユニさんにも会っておいて欲しいですね」
話が終わったのを見てソフィアが言うと、ユニはセルゲイをじっと見つめた。
「探しに行くなどと言い出してもダメじゃよ。お母さんのために薬草を探しに来たんじゃろう?」
「うん‥‥でも、いつか会ってみたいな」
残念そうな響きが混ざってはいたものの、優先すべき事はきちんとわかっているようだ。
「さて、ユニちゃん『何でも治しちゃう草』をみんなにも判るように絵を描くからもう一度詳しく教えてね♪」
ボアンの言葉に、ユニは首をかしげ、暫し考える。
「えーとね、緑色でね、葉っぱが生えててね‥‥」
意図を汲み取りつつも、ボアンは予め仲間から聞いておいた存在している薬草に近い絵を描く。
「うん! こんな感じ。ボアンお兄ちゃん、絵、上手だねー!」
「そうかな?」
ボアンは少しだけ笑みを見せる。
一同はそろって絵を覗き込むが、感想を誰1人述べなかったのが、少しだけ寂しい。
「あ、この植物なら見たことあるわ!」
薬草の姿を教えておいたレイが驚いたように言う。
「ホント!?」
「ええ、熱を下げたり、咳を止めたりできる薬草なのよ」
これでお母さんを助けられるー! とユニは喜んだが‥‥ぴたりと動きを止めた。
「‥‥いっぱいとっておいたら、風邪ひいた人、皆助かる?」
カクリ、とユニは首を傾げつつ問う。
「必要な物を要る分だけ頂く、それが採取の鉄則よ。欲張って沢山取ったりすると、それが森を枯らしてしまう事もあるの」
厳しい口調でジェラルディンが告げると、ユニは目を見開いた。
「森が枯れてしまうと、どうなるかわかる?」
ジェラルディンの問いに、彼女は再び首を傾げる。
「‥‥動物さん、ごはん無くなって、いなくなっちゃう? だからいっぱいとっちゃダメなの?」
答えが出せた彼女を、ジェラルディンはよくわかったわね、と褒めた。
「森は生きているものですから、薬草の採取も気をつけ、感謝してしなければいけませんよ?」
「そうそう。沢山摂っちゃったりして、森を傷付けると森の妖精さんが悲しむと思うのよ。だから荒らさないようにしましょ? そして薬草が見つかったら森に感謝しましょ♪」
ソフィアとアリーンが声を揃える。
「うん! わかった!」
ユニの元気な返事。
「さて、折角ですから、持ってきた本をもうちょっと読んであげましょうか」
陰守が言うとユニは彼の横にちょこんと座る。
ゆっくりと解りやすいように読み上げるうちに、気づけば彼女は陰守に寄りかかり、眠っていた。
「お母さんを護るのに、ユニちゃんが風邪を引いたら困ってしまうよ」
微笑し、彼はユニに外套をかけてやった。
●彼女の経験
森が間近になった頃、シアが苦しそうに呼吸を始めた。
「シアお兄ちゃんどうしたの?」
ユニが率先して声をかける。これも教育の賜物だろう。
「僕は体力に自信がないんだ。だからユニに手を繋いで歩いて貰えると心強いな」
彼女はにっこりと微笑むと、シアに手を伸ばす。頼られたのが嬉しいらしい。
森に慣れているソフィアが、先を行き、ロープを握ったボアンが続く。ロープの先には‥‥レイが結び付けられていた。
どうやら迷子対策、らしい。
「ちょっと肩を貸して?」
アリーンは一声かけると陰守の肩に乗り、テレスコープを使う。
視界にそれらしい植物を捕らえた彼女は、ユニに聞こえないようこっそりと仲間に教える。
森を荒さぬよう気をつけつつ、皆はその場所へと移動を行った。
アリーンが見つけたものが目的の薬草であると確かめた後、セルゲイはユニの名を呼ぶ。
「年で目が悪くてのぅ、ここを探してもらえんか?」
「‥‥あ!」
そこにあったのは、緑色で、葉っぱの生えている、ボアンが絵に描いた植物。
「コレだ、そっくりだ! ユニちゃんが教えてくれたから見つけられたんだね」
「ユニがしっかりと覚えていたから探し出せたのよ」
ボアン、レイの2人が頭をぐりぐりと撫でると、ユニは嬉しそうに笑った。
森を抜ける途中、トレントにも遭遇したが、傷つけぬよう気をつけた事もあり、戦わず凌ぐ事ができた。
はじめてみるそれに、ユニは暫し見とれる。どうやら言葉も出なかったらしい。
帰り際、ユニは少し有頂天になったのか、こんな事を言い出した。
「ユニ、冒険者になれるよね!」
彼女にとっては大冒険だった事もあり、そう思ったのだろう。だが、ジェラルディンがそれを制した。
「あのね、実際の冒険者は、物語の英雄とは随分違うの。気をつけないと怪我をしちゃう事もあるのよ? ユニちゃん、お父さん、お母さんに何も言わずに出てきちゃったでしょ?」
その言葉にユニは俯く。
「危険な事もいっぱいあるの。お母さんが心配だったのはわかるけれども、1人で勝手な事しちゃだめよ?」
「‥‥うん」
厳しい言葉だが、しっかり言っておかなければ、1人で「冒険」に行きかねない。
「‥‥でも、頑張ったわよ」
何気ないふりをして言ったジェラルディンの言葉に、ユニは顔を上げ、彼女にぎゅっとしがみつく。
ユニはきちんとその言葉を理解したのだろう。
「さて、と。ユニちゃん。これでお母様に少しでも栄養をあげてくださいね」
ソフィアはそっととってきた栄養のある薬草や木の実などをユニへ渡した。
「ユニちゃんのお母さんには早く良くなって欲しいですね」
陰守も穏やかに言う。
「よーし! 森への感謝の気持ちと、ユニちゃんのお母さんが良くなりますようにって気持ちを込めて、踊っちゃうよ!」
シアの奏する竪琴にあわせ、アリーンは軽く舞う。
2人の歌が夕暮れの空に響き渡った。
ユニの冒険は大成功に終わり、きっと母親の風邪も無事治る事だろう。
彼女にとって、この冒険は良い経験となったはずだ。