【揺れる王国】残された追従者
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■ショートシナリオ
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月13日〜12月18日
リプレイ公開日:2006年12月21日
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●オープニング
●派閥に揺れる王国
「王妃が見つからないのはラーンスといるからに違いない。あやつはグィネヴィアを余から奪ったのだ。騎士道を踏みにじるとは円卓の騎士としてあるまじき行為!」
戦の決意を高めるアーサー王に、ラーンス派は釈然としない面持ちだった。
王が本気で勢力を募れば、近隣から多くの騎士や公爵、伯爵が集まる事だろう。
しかし、ラーンスは本当に罪人なのか? 様々な憶測が流れるものの、未だ深い霧の如く全容は見えていない‥‥。
「私達はラーンス・ロット様が無実だと信じている!」
「あぁ、ラーンス様は我々を引き連れて従えたまま王妃とお会いしていたんだ。王妃とラーンス様は一線を踏み越えてはいない!」
「それよりもアーサー王だ。一線を踏み越えた確証もなくラーンス様を罪人扱いとは!」
「そうだ! ラーンス様にのみ怒りの矛先を向けるのは、どうかしている!」
ラーンスを支持する勢力は、王妃と騎士は一線を踏み越えてはいなかったと主張すると共に、ラーンス・ロットへ怒りを露に向けるアーサーへの不信感を募らせていた。
この問題は王宮内に注ぎ込まれた濁流の如き勢いで、瞬く間に広がったのである。
――仕えるべき王を信じるか?
――無実の罪を着せられたラーンス・ロットを信じるか?
森を彷徨う凄腕の剣士も予想通り、かの騎士だった。
――私の行為は決して王への信義、王妃への忠節、この国への忠義を裏切るものではない。
私は、私の信念に基づき、真実を証明するまでは王宮には戻らぬ――――。
ラーンスは冒険者にそう答えたという。
「しかし‥‥ラーンス様は騎士を切り殺したとも聞いたぞ?」
「否、あれは騎士として卑怯にも不意打ちを行った故、咄嗟の対応だろう。ラーンス様は責められる者ではない」
事態は深刻な状況へ向かっていた。
ラーンス・ロット派は王宮から離れ、信じる者が退いたと噂される『喜びの砦』へ向かおうと準備を始めたのである。
喜びの砦へは10日以上の日数が掛かるらしいが、彼らの意思は固いものだった。
このままでは王国は二つの勢力に分断されてしまう。この事態を鎮められるのは――――。
●それぞれの求める「真実」
深夜、キャメロットの外れにて。
「もうほとんどの者は行ってしまったようだな」
「出遅れた、という事か‥‥」
「いや、それでも少しでもお力になれれば‥‥」
「――は、王につくだろうな」
「森で見かけたラーンス様に投降を呼び掛けたというし、そうだろう」
「――は王の為ならば、どんな事でもする男だ。冒険者が制止しなければ、ラーンス様と戦うつもりでいたに違いない」
「今――はこの街にいる。気づかれればきっと我々も……せめて――に邪魔をされぬよう、深夜決行だ」
「邪魔をされたなら?」
「‥‥そうだな、その時は‥‥」
キン、という鞘に剣が擦れる金属音が響く。
一連の会話を聞いていた者が居た事にも気づかず、彼らはその場を歩み去った。
キャメロットの街に不吉な風が吹きわたる。
(「この国はどうなってしまうんだろう。ラーンス様は姿を消すし、アーサー王も酷く取り乱されているようだし‥‥」)
考えを巡らせ、小さくため息をついた係員だが、次の瞬間、全身に緊張をはりめぐらせた。
「すまないが、依頼をしたいのだけれども、良いかな?」
穏やかかつにこやかに彼に話し掛けたのは、円卓の騎士、ウィルフレッド・アイヴァンホーであった。
「どのようなご依頼ですか?」
緊張を隠せない係員を見てウィルフレッドは苦笑する。
「そうだねぇ‥‥少しばかり、説得を行なって欲しいんだ」
彼が語るところは、数日後の深夜、一部の騎士がラーンスの元へと向かおうとしているらしいので、それを止めて欲しい、というものだ。
「ウィルフレッド様ご自身が説得した方が、説得力があるのではないですか?」
冒険者よりも、円卓の騎士であることを考えればその方が有効ではないかと係員は言うが、ウィルフレッドは「うん?」と腕を組みしばし考える。
「‥‥いや、その者達の会話を聞いてしまったのだけれどね。困った事に私では多分彼らを逆撫でしてしまうだけだろうね」
私はアーサー王の配下の者だからねと彼は何事も無いように言う。
「‥‥ウィルフレッド様は、まだラーンス様の事を疑っておられるのですか?」
係員の言葉に、彼は「君も随分とラーンス卿の肩を持つのだね」と笑い‥‥小さな声で言った。
「私としては、正直に言うと、ラーンス卿が裏切りを行なったとは思えない」
「ならば‥‥」
ラーンス様に協力を‥‥と言い掛けた係員を彼は手で制した。
「残念だが、思うだけ、であって真偽の程はわからないし、わが君の事も気になるのだよ。それに、ラーンス卿を捕らえられなかった事で、私も少々立場が危ういからねぇ。‥‥自分の意志を通すにしても、通せる立場でいる事も必要だろう?」
成る程、と係員は納得をした。
「それに、騎士たちをラーンス卿の元へ行かせてしまえば、後々彼らの立場も悪くなってしまうやも知れない。出来る事なら、彼らに剣を抜かせる事なく穏便に物事をまとめて欲しいんだ。‥‥無理なら、せめて先に剣を抜かせないようにしてくれないかな?」
「それは冒険者に悪役になれと?」
ウィルフレッドの言いように係員は不愉快な表情を見せた。
「結果として、そういう事になってしまうね。しかし、私も冒険者だけに危ない思いをさせるつもりはない。できるかぎりの事はしよう‥‥そうだね。正体を隠して私も一緒に行こうか。普段と違う格好で、喋らなければ私とはわからないだろう? そうすれば、少しでも相手の刺激をせずに済むし、冒険者達の立場が悪くなりそうになっても、後でフォローする事もできる」
ひとしきり話を聞いて、係員は頷く。
「‥‥ところで、ウィルフレッド様の悩みは解決したんですか?」
ウィルフレッドは苦笑しつつ答える。
「今はまだ、全ては見えていないがね。自分のやりたい事をやってみようと思ったんだよ。私は私の心のおもむくままに、だ。事実を知れば、きっと行うべき事は見えてくるはずだからね」
穏やかに笑う彼は係員には、以前よりすっきりとした顔に見えた。
●リプレイ本文
「やあ、久しぶりだね」
穏やかな笑みで話しかけてきたアレクセイ・ルード(eb5450)に、黒一色に身をかためたウィルフレッドは、君も息災そうで何よりだ、と語りかけた。
「相も変わらず器用貧乏そうで嬉しいよ」
続けられた言葉に彼はごぶほッ! という音を立てて噎せる。
流石にその発言は予想だにしていなかったようだ。
「どんな結末かは解らんが『事実』を知る奴は絶対必要になる、よろしく頼むぜ」
手を差し出すラディオス・カーター(eb8346)の言葉に、ウィルフレッドは調子を取り戻し、しっかりと手を握り返した。
「やれやれ、このままでは戦になってしまいそうですねぇ‥‥」
ディディエ・ベルナール(eb8703)はのんびりと呟く。
そんな彼に向かい、ウィルフレッドは頷いた。
「それを食い止める為にも、君達の協力をお願いしたわけだよ」
ふむ、とアレクセイが僅かに首を捻る。
「探索に出た中では君が唯一王命を優先したのだったかな?」
争いを望むのは誰だろうね。と彼は続けた。
「王か、ラーンス卿か、それとも‥‥」
「彼らが望むわけはない‥‥はずだよ」
本当は誰も望むはずがない。国を、民を愛しているならば。
「国疲弊、する」
ウィルフレッドが口に出せなかった言葉を見越したように、佐伯小百合(eb5382)が言い、それに頷きつつ、アレクセイは続けた。
「君にそれが止められるかい?」
「止めるのが私の務めだよ」
型通りの返答にアレクセイは軽く肩をすくめる。
今回の相手も考えなしで清々しく思えるが、ウィルフレッドの実直さもある意味清々しい。
そんな彼の性格を察したディディエが口を開いた。
「若干陛下に対して失礼な言動があるかも知れませんが、聞き流してください」
一瞬の間をおき、ウィルフレッドはこれまでになく低い声で判った、と答えた。
「喜びの砦‥‥か」
話の流れを戻すようにクァイ・エーフォメンス(eb7692)が呟く。
(「私自身そんな話は聞いてないので、その砦とやらの存在自体疑わしいと思ってますが‥‥」)
リア・エンデ(eb7706)がラーンスが喜びの砦にいるという話の出所を探ったものの、それを知る者は居なかった。噂とはそんな物かもしれない。
‥‥とはいえ、今最優先でやるべき事は、噂に突き動かされる騎士達を止める事だ。
「内戦阻止」
ほぼ感情を出さない佐伯だが、その一言には決意がこもっていた。
――王国を、護るために。
深夜、月光がその場に存在する数名の人影を映し出していた。
「ウィルフレッドが居ると聞いていたが、このままなら邪魔されずに済みそうだな」
「ああ、ヤツは王命なら何でもするだろうからな。早く砦に向かおう」
出発をしようとした彼らの前に複数の人影が立ちふさがる。
「そこに行けばラーンス卿に会えるという真偽の定かでない噂を、本気で信じておいでなのですか?」
人影の1人――クァイの言葉に騎士達が色めき立つ。
「連れ戻す為、来た」
淡々とした佐伯の声が闇の中から聞こえた。
「私自身は過去の依頼でラーンス卿と共に、山賊退治を行ったことがあります。ですが、卿は同行を希望された騎士さまの申し出を断りました。そんな方が、貴方がたの結集や助力を願っているとは思えません」
「俺も卿と会った立場から言わせてもらおう。ラーンス卿はシロだと思うぜ。疑いが晴れたら仕合ってくれる約束だしな。騎士は約束は破らんのだろう?」
クァイが、ラディオスが自らの体験を語る。
「その騎士の力量が足りなかったというだけだろう。我々は決してあの方の足を引っ張るようなマネはしない! 冒険者風情に何がわかる! 我々は常にラーンス様の為に‥‥ッ」
ラーンスと行動したというクァイへの羨望と嫉妬が込められた言葉。
「あの方が罪を犯すわけが無い! 我々はあの方の疑いを晴らすのだ!」
ラーンスへの信心を僅かにでも揺るがせる可能性があるラディオスの発言を、封殺しようという言葉。
「真実、不明‥‥でも、決め付けてる、それ、願望」
佐伯の言う通り、受け入れがたいモノを必死で拒む姿は、あまりにも無様だ。
「‥‥とにかく、我々はラーンス様の為に、砦へと向かいたいのだ」
「あるかどうかも分からない場所へ行くにしろ、武器の手入れはしておいて損はないと思いますよ。いかがですか? 今でしたら無償で皆様の武器の手入れを行いますが」
存外に落ち着いた人物を見つけ、対話の隙を作る為にクァイが話しかけるも「間に合っている」というすげない一言でかわされた。
「君たちがこの都を戦火に巻き込みたいと望むのなら、私はあえてそれを止めようとは思わないよ」
アレクセイが一歩前へと歩み出る。
逃げ惑う人々、泣き叫ぶ声、夕日のように燃える殺戮の赤‥‥と、彼は謡うように語る。
「そして、民の怨嗟の声が君たちへの感謝の言葉となるだろうね」
血生臭い言葉に似合わず、穏やかな微笑。それがかえって凄みを含む。
「ああ、何も言わなくてなくていい。そんなつもりはないと君たちは言うだろう」
騎士達を制し、彼は続ける。
「だが喜びの砦に行くと言う事はそういうことだ。現実は甘くは無いよ‥‥?」
その声は、優しく甘い。だが現実を見据えたその言葉は、酷く厳しいものだ。
「まだわからねぇか!?」
ラディオスが声を張り上げる。
「おまえらが守らなきゃいけねぇもんはなんだ? アーサー王か? ラーンス卿か? 自分の信念か? ‥‥違うね、おまえらが守らなきゃならんのはイギリスの民だ。だからラーンス卿は一人、身を隠したんだろうが!」
本来守るべきものを見失い、願望に理由をつけて正当化する騎士達が許せなかった。
「ラーンス様の潔白を証明すれば、王も納得し、全てを鎮め‥‥」
「思考停止、いけない」
騎士の繰言を、佐伯が止める。
膨れ上がる騎士達の敵意。
「どう言っても解らんなら、行けないようにするしかねぇな」
ラディオスの持つ刀剣の輝きが見えた瞬間、騎士達も剣を振りかざし、それぞれの刃が闇に煌く。
「そんなの駄目です〜〜〜〜〜〜〜!」
言葉に表せない裡に秘めた想いを、リアは行動で表した。
‥‥彼らの前に身を投げ出すという方法で。
誰もが、剣を引けなかった。
そして誰もが、惨劇を予想した。
生温い液体が飛び散り、視界を緋に染める様を。
だが、それが現実になる事は無かった。
剣と剣の打ち合わされる鋭い金属音が響き渡る。
「女性が切り殺されるのは流石に看過しかねるね」
騎士達はその声に鋭く反応を示した。
「ウィルフレッドか! 王の為に、我々を殺しにでも来たか?」
意志無き王の狗めと罵られるも、彼は答えない。否定をしたところで騎士達は信じないだろう。
彼らの雑言を遮り、リアが考えを紡ぎ出す。
「‥‥私も考えたんです‥‥ラーンス様が仰った『王を頼む』という言葉の意味を‥‥」
ラーンスはきっと自分達の知らない、国に関わる重要な何かを知ったのではないかと彼女は語る。
公にすれば大切な人物が傷つき、名誉を失う。それを守る為、ただ1人努力しているのではないか。城に居る事の出来ない自分の代わりに、王と、国を守って欲しいと言っているのではないか、と。
「せめてラーンス様のお言葉だけは聞いて下さい‥‥思い出して‥‥自分が本当に護るべき人を‥‥」
彼女は魔力のこもった歌を唄う。
それは、騎士達の心を溶かし、本来護るべきものを、信じるべき言葉を思い出させた。
だが、根本では王への不信感は拭えない。
それまで成り行きを見守っていたディディエが口を開く。
「御自分が今の国王陛下と同じ境遇に立たされたとしましょう。冷静な判断がくだせますでしょうか? 側に居た男を疑ったり恨んだりするのが自然ではありませんか?」
国王も一人の男なのだと諭す。
そして、騎士達が結集し勢力を持つことでますます意固地になり、ラーンスを眼の敵にするかも知れない、と。
「陛下は取り乱しておられるのです。お諌めするのが家臣の務め、騎士の皆様方キャメロットにお留まり下さいますようお願い申し上げます」
言葉にあわせ、彼は丁寧に礼をする。
「それに、お前らもウィルフレッド卿のように『事実』を見つけるための努力でもしたらどうだ?」
ラディオスが、ウィルフレッドは単に王の為だけに動いているのではないと、騎士達に告げる。
暫しの沈黙の後、首謀者であろう騎士が口を開く。
「我々はキャメロットに留まり、成すべき事を見つけよう」
事実はまだ見えないが、彼らは事実を見つける為の一歩を踏み出した。
「それにしても、騎士の名誉も大切かも知れませんが、戦になって苦労するのは民だということを忘れていただきたくないものですなぁ」
「下が見えない奴が多くて困るぜ。力を持った奴の無責任な行動は、民衆や雑兵が被るってことを自覚してほしいもんだ」
騎士達を送り返した後、のんびりと言ったディディエの言葉に、ラディオスが同意をする。
「すまないね」
ウィルフレッドのどこか寂しげな声。
2人は決して彼に言ったつもりではなかっただろう。だが‥‥。
「私も、王命を優先する為に、護るべき者を護りきれなかった事もある。いうなれば殺したも同然だ。力あるものは、本当は堂々とそういった罪を引き受けるべきなのだろうね」
自分のこれまでの行いを思い、冒険者達へと告げる。
「ああ、それと‥‥リア」
名前を呼ばれ、リアは慌ててた。
「ええと、何か‥‥してしまいましたか?」
「‥‥二度と、あんなマネはしないでくれ。一歩間違えば、死んでいたかもしれないんだ‥‥護るべき民を護りきれなければ私は‥‥」
そして、彼は冒険者達全員に言う。
「皆も‥‥危険を顧みないような事はしないでくれ。頼む」
冒険者であっても、大切な民だという、ウィルフレッドの願い。
答えるならば、ただ頷くだけで良い。
だが、この先の冒険で命を落さないようにするのが、彼の願いへの一番の答えになるはずだ。