魔法の言葉は偽りの香り
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■ショートシナリオ
担当:小倉純一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:12月26日〜12月31日
リプレイ公開日:2007年01月04日
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●オープニング
近ごろはデビルの噂も聞くし、ロクな事がない。
‥‥そんな折り、ある一団が人々を救うといい、奇妙な言葉を広めていた。
「なあ、知ってるか? 呪われた者はブナサイラ! と叫ぶとどんな呪いでもたちどころに解けるそうだ」
「ボーナンターゴン! と叫ぶと不幸避けになるそうだぞ」
「ええ? 俺はマガダッダンハッポンポーと叫べば、急な発熱、歯痛、筋肉痛、赤子の夜泣や悪魔祓いに効くと聞いたが」
‥‥とにかく、胡散臭い。
しかし、どんなに胡散臭くても、よんどころない事情があれば、それに縋ってみたくなるのも人の性であろう。
「‥‥というわけなんです」
やや年配の女性が、ため息をつきつつギルドの係員へと話しかけていた。
御夫人曰く、彼女の住む村にひょろりとした、見るからに「私は魔法が使えます」的外見の人物が5名ほど現れ、彼らはなにやら怪しい言葉を「悪魔払いの呪文」「幸せを呼ぶ魔法」だと言って広めているのだという。
「どんな言葉ですか?」
係員の言葉に彼女は僅かに間を置き、思い出したように言った。
「確か、マガダッダンハッポンポーとか‥‥」
いくつか挙げられた単語は、係員が聞く限りでも本物の魔法とは思えなかった。
「村を通りすがった冒険者の方にも『それは魔法じゃない』といわれたのですが‥‥」
その一団は、どうも村にやってきてからというもの、怪しい言葉を村人に教えては代価を要求するのだと。
しかし村人達は、これで少しでも自らの身に降りかかる不幸を避けられるならばと、日々その集団の元に行き、僅かながらも金を払い、言葉を教えてもらう。
そしてほんの小さな事――例えば、普段よりも洗濯物が乾くのが早かったとか――があっただけでも、その集団は「我々の魔法が力を顕したのです!」と主張し、更にそれを信じるものが増えていく‥‥という寸法だ。
彼女の住む村は小さく、そして、貧しい。それゆえに、ほんの小さな事でも何か幸せな事が起こせるのなら、それに少しでもすがりたいと皆が思っているのだ。
‥‥それがまだ村人の中で少数の者が信じているだけなら良いだろう。
困ったことに、彼女の夫である村長もそれにハマってしまい、怪しい一団にかなり熱心に貢いでいるのだという。そして、村長自らが信じたことにより、村人の間でもそれが公認のようになってしまっているとか。
「‥‥効果が無かった場合はどうなるんですか?」
係員の言葉に、御婦人は小さく頷くと答える。
「効果がなかったら『効果がある時が切れたのです。新しい言葉を』というのです。勿論、新しい言葉を教えてもらうのには、お金がかかるので‥‥」
それ以上言うべき事はないだろう。
一回にかかる金額は僅かでも、つもりつもればそれは大変な事となる。
このまま続けば、皆の生活が破綻してしまうのは確実だ。
「それで、どうしましょうか。その胡散臭い連中、武力排除も厭いませんか?」
係員がさらに問えば、彼女は武力行使だけは避けて欲しいと語る。
元々が荒んでいるだけに、ヘタに戦いなどを起こせば、そこから更に村人の心が荒廃しかねない、というのだ。
「村の皆を、この『嘘』から解放して欲しいんです。そして皆を説得して、それが何の根拠もない『嘘』だという証明を‥‥!」
一刻も早く、何とかして欲しいという彼女の心からの叫びに、係員はペンを走らせた。
村の人々を説得により嘘の魔法から目を醒まさせてください。また、5人の胡散臭い人物に穏便に出て行ってもらってください。
追記。村は貧しいそうですので、現時点での唯一の希望を失えば色々と大変な事になるでしょう。少しでも彼らに希望を分けてあげてください。
●リプレイ本文
そこは、酷く寂れ、人気の少ない村だった。
「俺は今日、風邪が随分良くなったぜ」
「ああ、あの方々の魔法のおかげだ‥‥」
そんな言葉がそこらじゅうから聞こえてくる。
「引っかかるほうも、嘘を魔法だと言い張る方も、どっちもどっちな気もするが‥‥困ってる人がいる以上放っては置けないな」
エルナード・ステルフィア(eb9675)は村全体の微妙な空気に表情を曇らせた。
「信じる、ということは良くも悪くも力になるものですね‥‥その力、出来ればよい方向に向かっていただけると良いのですが」
ソフィア・スィテリアード(eb8240)が穏やかに言うと、後ろで様子を見ていたカミーユ・ライトブリンガー(eb3579)も頷いた。
信じる事は、物事を成功させる力にもなるが、盲信は不幸を呼びかねない。
村人の拠り所が今はその「嘘の魔法」なのだろうか? と導蛍石(eb9949)は考える。
「とはいえ、流石に騙して金を巻き上げるのはどうかと思うがな」
思ったことが口をついて出た。
「やはり、説法で村人の目を覚まさせるのが良いでしょうか?」
サラ・フランティス(eb9807)が意見を出す。
彼女は努力は必ず実を結ぶものだと信じている。だが、若干世間知らずな点もあるようだ。
‥‥現に、今回保存食を買い忘れ、出発時に購入したりもした。
「正面から向かうばかりが最良の策とは限らんのじゃよ」
わしに手がある、とカメノフ・セーニン(eb3349)がニッと笑うと、しびれを切らしたカミーユ・トライロッド(ea3919)が必死で訴える。
「もったいぶらないで教えろよ!」
だが、その直後彼女のローブがふわりと捲り上がった。
「じいさん、やったな!」
「風じゃよ風〜、うひょひょひょ」
サイコキネシスである事に気づいたトライロッドは顔を赤くし、激怒する。
「とはいえ」
コホン、と小さく咳払いをしたアルヴィン・アトウッド(ea5541)が場を治める。
「まずは、詐欺をしているグループに逃げられないように確実に足止めをしなければならないな」
彼の言葉に一同は表情を引き締めた。
「おはようございます」
手近に居た村人にソフィアが声をかけると、見慣れない人物だと警戒したのかあまり反応は良くなかった。
だが、彼女は笑顔のまま、柔らかな物腰で話を続ける。
「こちらに賢者の方がいらっしゃると聞いてやってきたのですが‥‥」
その穏やかさの為か、それとも、賢者という単語に反応したのか、村人は途端に相好を崩す。
「ああ、あの方達なら村長宅の近くに居るよ」
「どんな魔法を教えてもらったんですか? 折角だし、効果とか教えて貰えませんか?」
私も興味があるのでというと、遠巻きに様子を見ていた村人がどんどん集まってきた。
「私は洗濯物がいつもより早く乾いたわ」
「俺はばあちゃんの腰痛が少し良くなったぜ」
「おらは昨晩赤子が夜泣きをしなかったよ」
僕は、あたいは、ぼくちんは、アタシは、おいどんは‥‥と人々は口々に効果を並べ立て、ソフィアを囲む。
正直、怖い。村人の瞳がやけに輝いているあたりが更にブキミさを増している。
だが、彼女はそれに圧される事なく笑みを浮かべ、話を聞き続けた。
ソフィアから少し離れた所で話を聞き、詐欺グループの居場所を知ったアルヴィンは、彼らへの接触を図る事にした。
やけに立派なテントの様子にアルヴィンは僅かに眉を顰め、中へと入る。そこには青白くひょろりとした男が5名。
そのうちのリーダー格らしい、やけに派手な服装をした者が、所謂営業スマイルを浮かべ声をかけてきた。
「ようこそいらっしゃいました。何の魔法が必要ですか?」
「俺達も、同業者‥‥『魔法使い』だ。一泊村に滞在して明日にでも他所に行こうと思うのだが、今日だけここで商わせてもらってもいいだろうか?」
リーダーは表情を変えずに返事をする。
「それによって、私どもに何のメリットが?」
「‥‥我々には本物の魔術師が居る。そちらの魔法の太鼓判を押せば更に信用は深まるだろう? 代わりに、こちらの魔法も村人に信じるように太鼓判を押してもらえないか?」
彼の、本物の魔術師がいるという言葉が効いたのか、それとも、この村はすぐ出て行くが近隣にその噂が流れれば後々楽だから、という言葉が効いたのか――。
「いいでしょう。場合によっては、我々の魔法の話も他所で流れるでしょうし、そうすれば我々も助かりますからね」
リーダーは満面の笑みを浮かべ、快諾した。
「サラちゃん、ライトブリンガーちゃん、そっちを引っ張ってくれんかのう?」
テントを張るためにカメノフが協力を求めると、2人は快く手伝う。
「‥‥これで、何を行うのですか?」
ライトブリンガーが首を傾げつつ問うと、カメノフは愉快げに笑った。
「まじない屋をするんじゃよ」
持ってきた杖とローブを見せ、コレを身につければ魔術師っぽく見えるじゃろ、と彼は語る。
見慣れないモノに村人達は興味を持ち、様子を眺める。だが、眺めるだけで近寄っては来ない。
そこにエルナードが村長の妻を連れやってきた。
「私達も、魔法の言葉を知っているのですよ。よろしければお教えしましょうか?」
「まあ、本当ですか?」
多少わざとらしかったが、村長の妻は教えを乞う。
ソフィアが彼女の耳元で何かを囁いた。
直後に彼女の背についていた埃が風に舞い、飛んでいく。
「これが、わたしの魔法の力です」
魔法の力で埃を飛ばしたと、堂々と語るソフィアに周囲がざわめいた。
嘘じゃないか? 奥様は確か魔法使いの皆様に反感を持っていたはず。騙りに違いない‥‥。
小さな声ではあったものの、そんな言葉がざわめきに混じり聞こえてきた。
「なら、俺が証明しよう」
エルナードが近くに居た、手に怪我をしている村人を捕まえ、リカバーを使う。白く淡い光と共に傷が塞がっていく。
それを目にした村人達は更にどよめいた。
「ほっほっほ、どうじゃ。いろんなまじないを用意しておるよ」
柔和な笑みを浮かべ、カメノフは告げる。
謝礼など要らない。一般人でも使える。というソフィアとエルナードの言葉に、村人達が揺れているがはっきりとわかった。
「この魔法の効果は本当ですよ! 私もこれで冒険者になる勇気がでましたから!」
ライトブリンガーが声を張り上げる。
「それに‥‥」
人垣の向こうから、アルヴィンの声が響く。村人達が振り返るとそこには胡散臭い5名が彼と共に居た。
「彼らが我々の魔法を本物だと太鼓判を押してくれるそうだ」
「私がそれを確かめて見せよう」
導が胡散臭い連中へと向き直る。
「私のいうことを信じれば、お前らに幸運が訪れる。例えば、小金が入る、とかな」
胡散臭い連中はその言葉が嘘であるとわかっていた‥‥ハズだった。
だが、連中の1人が声を上げる。
「あっ! 俺の足元に金が落ちている!」
「マジか!?」
その一言と共に、混乱が訪れた。
金はサラがそっと転がしておいた銅貨だったが、そんな事は知る由もない。
こっちもだ! こっちにもだ!! と彼らは口々に叫ぶ。
「教えてくれ! 俺達に更にその魔法を!」
本性を現した胡散臭い連中に導は手を差し出す。連中は我先にとそこに金を積む。
村人達も冒険者達の魔法を本物だと信じた。
「どんな魔法を使ったんだ!? 教えてくれ!!」
その目を欲望にぎらつかせたリーダー格に向かい、ソフィアは聖母を思わせる笑顔を見せ、告げた。
「わたしたちは、魔法なんて使っていませんよ?」
静まり返る空気。
「これは、思い込みを利用した『嘘』だ」
アルヴィンが本当の魔法の概要を簡単に説明する。
胡散臭い連中の表情が見る見る青くなっていく。
「魔力とは目に見えるんじゃよ」
カメノフが茶色の光と共に、サイコキネシスを発動させ、連中の上で岩を暫し回した。
「これが本物の『魔法』じゃよ」
言葉こそお茶目な雰囲気を漂わせていたものの、その様を見た胡散臭い連中は縮み上がり、村人達は騙されていた事に漸く気づいたのだ。
「苦労して生活してる人間が多い中、楽して稼げると思うなよ?」
エルナードがぽきぽきと指を鳴らしながら、彼らに脅しをかける。
彼らの後ろではトライロッドが半切れ気味の怪しい笑みを浮かべていた。
ますます竦みあがる彼ら。
「個人的には形の無いものをサービスとして商売をしている人は他にも居るし幸福を得る代価として金銭を徴収することはそこまで悪いことではないとは思う」
様子を見ていたアルヴィンの呟いた言葉に、リーダー格の男が僅かに安堵の表情を見せた。
「こういう考え方もあると教える分には、相手が人生の勉強と言って納得するなら授業料として相応しい事もあるかもしれない。だが、あんたらがやってきたのは詐欺だ。どうせならその知識から、どうしたら詐欺に合わないで済むかの講義でもしたらどうだ?」
静かな怒りが込められた言葉に、連中は情けない声を上げる。そこに、村に幸せを運んできた魔法使いの姿はない。
「もういい、行きな!」
トライロッドが声を荒げると、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「本当は、あれも魔法なのですよ」
先ほどまでと全く変わらぬ様子でソフィアが話しかけると、それまで肩を落していた村人達は一斉に耳を傾ける。
「何かを信じることで自分の力を引き出す心の魔法‥‥正しく使えばどんな魔法より強い力になるんです」
ソフィアの言葉にエルナードが続ける。
「実際に幸運は訪れている。要は考えようであって、幸運なんていくらでも転がってるもんだ。こういう言葉はそれを助けるおまじないみたいなものだ‥‥と思うんだが。幸運が来ると信じ続ける考えは、希望へ繋がらないか?」
「信じて努力すれば、必ずむくわれますよ!」
サラも穏やかに笑む。
村人達は冒険者達の言葉に勇気付けられ、明日への希望を持てたようだった。
もしかしたら、言葉こそが、どんな魔法よりも、強い「魔法」なのかもしれない。