彼女のお願い

■ショートシナリオ


担当:小倉純一

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月26日〜03月03日

リプレイ公開日:2007年03月06日

●オープニング

 それは普段通りの日常が繰り返されている昼下がりの出来事だった。
「おい、ユニ、一緒に森に行って雪で遊んでこようぜ」
「でもモンスターが出るっていうし、お父さんも、お母さんも危ないから行かないようにって言ってたし、以前冒険者さんたちも、1人で飛び出してっちゃダメって言ってたし‥‥」
 ユニと呼ばれた少女は手にしたクマのぬいぐるみをしっかりと抱きしめ、少年へと訴える。
 彼女自身が針を糸を持ってつくったらしい酷く不恰好で、ボロボロのぬいぐるみに視線をやると、イラついた口調で少年が語りかけた。
「俺が一緒なら1人じゃないし、大丈夫だろう? それはともかく‥‥お前、なんでこんなのいつも持ち歩いているんだよ?」
「ええーだってポポンは大事なお友達だもん」
 大事な友達、という言葉が、何か少年の気に障ったらしい。
「生き物でもないモノを友達なんて‥‥こっちにソレ、寄越せよ!」
「やだー! ポポンをいじめないでよ!」
 涙ぐむ少女を見て、少年は僅かにたじろいだ。が、次の瞬間、少女の手にしたぬいぐるみを奪い取る。
「‥‥こんなもの、捨ててきてやるッ!」
 一声叫ぶと、彼は街の外に向かい走り出した。

 今日も寒いし、早く家に帰りたいなぁ、とギルドの係員は考えつつ受付にいた。
「おじちゃん! おじちゃん!」
 通常の視点よりも下の方からかけられた声に彼はふと我に返る。
 視線を声の方にやると、そこには目にいっぱいの涙を溜めた1人の少女が居た。
 ――訴えるようにこちらを見ている! どうする?
 既視感にそんな事を考える係員。こういうときは、いつもどおり穏やかに接する以外にない。ここで泣かれたら周囲の視線が刺るであろう事が容易に考えられる。
「ど、どうしましたか?」
 必死に営業スマイルと優しげな声音を作りつつ話しかける彼。
「あのねあのね、ポポンがね、ダウ君にさらわれちゃってね、ダウ君がどこかに行っちゃってね、それでねそれでね‥‥」
 要領を得ないが必死で聞き取ったところによれば、どうやらダウという少年が、彼女の持っていたクマのぬいぐるみ、ポポンを奪い取り、どこかに行ってしまったのだという。
「近くにいたおじちゃん達にポポンとダウ君見かけなかった? って聞いたら、ユニとダウ君とポポンでお出かけしようと思ってた森の方にいったみたいなの‥‥」
 彼女は今にも泣きそうだ。係員は頭を撫でてやりつつ、ふと考える。
 ――そういえば、あの森は、オーガ戦士が複数いるという噂だが‥‥。
「あのね、ユニ、ポポンを助けてあげたいけど、でもユニが行っても何もできないだろうから、冒険者さんたちにお願いしたいの。それにね、ダウ君、時々意地悪だけども、ユニがいじめられたときはいつも助けてくれるし、普段はとっても優しいの。だから、ダウ君も助けてあげて欲しいの」
 涙をこぼさぬよう堪える彼女に、係員は力強い笑みを浮かべる。
「わかりました。冒険者の皆に、ポポンとダウ君を助けてもらってきましょう」
 彼の言葉に漸くユニは安心したように、涙を拭き取る。
 そして、1つの質問を紡ぎだした。 
「ところで、おじちゃんに聞きたい事があるの」
「何ですか?」
「あのねあのね、ダウ君、普段優しいのに、ポポンの話とか、他の男の子の話をすると、いっつも意地悪するの。なんでかな?」
「‥‥‥‥‥‥」
 ――それは所謂恋というヤツですよ、と言いかけて、係員は固まった。
 無邪気に頭をかしげる彼女に恋と言っても多分わからないだろう。
 とはいえ、周囲から彼女に教え込むのも無粋というモノではなかろうか。
「‥‥それはね、後でダウ君に直接聞いてみると良いですよ」
 答えを濁すと、係員は羊皮紙に依頼内容を書き込んだ。

『ダウ少年を、オーガ戦士の居る森から連れ戻してください。ついでに、彼にユニへと想いを伝えるよう促してやってください』

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

デゴーズ・ノーフィン(eb0073

●リプレイ本文

●彼女の友達
 空気は冷たく澄み渡り、吐き出す息は白く煙る。
「噂どおり、あの森に向かったようですね」
 李雷龍(ea2756)が雪上に残った子供の足跡を見つけ、その先に存在する森へと視線をやる。
 鬱蒼と茂った緑色の上には白い雪化粧が施されていた。
「あのシフールに憧れたり、冒険者に憧れていたりした無邪気なユニちゃんがそろそろ恋のお年頃ですか」
 グラン・ルフェ(eb6596)が出発時の事を思い起こす。
 ユニは「ポポンとダウ君の事お願い! おにーちゃん達も無事に戻ってきてね! 絶対絶対だよ!」と釘を刺した上「ユニも何かお手伝いできない?」と首を傾げつつ尋ねてきたのだ。
 リデト・ユリースト(ea5913)が「もしダウくんがすれ違いに帰って来たら困るである。家で待つ人も必要である」と告げたところ彼女は「お留守番、任せてね!」と輝くような笑顔を見せた。
 以前のユニだったら間違いなくリデトの事を捕獲したり、意地でも冒険についていくと主張した事だろう。
「それにしても、好きな子の事ってついいじめてしまうものやろか〜?」
 藤村凪(eb3310)が、首を傾げると、マナウス・ドラッケン(ea0021)が微かな苦笑をその面に浮かべ答えた。
「ま、若い時には良くあることだけどな」
「そうなん?」
 マナウスはんもそういう事したんやろか〜? それともやられたんやろか〜? 等といった疑問が藤村の頭の中に増殖する。
 それを遮るようなタイミングで、ユリアル・カートライト(ea1249)が皆を鼓舞するように語りかけた。 
「とにかく、ダウ少年の安全確保と恋の行方の応援を頑張りましょう」
 かくして、ダウ少年救出&恋の行方応援作戦は実行されるのであった。
 
●彼と遭遇
 李が石を使い暖を取ったり、グランが野営時に不意打ちを食らわぬよう鳴子を張り注意をした事もあり、ここに来るまでは無駄な消耗を避ける事ができた。
「やつらは戦闘経験が豊富であるからな。気をつけんと危ないである」
 事前に聞いておいた森の地理とあわせ、主にオーガ戦士が居そうだと思われる部分を皆へと教え、リデトは注意を促す。
 出来る限り敵と戦わず済ませられるよう一同は物音を立てないよう静かに行動する。
 グランと李がそれぞれももやきと蒼雷に空からダウを探させ、マナウスが目で子供の足跡を辿る。
 小さな足跡は途中から、乱雑につけられた大きな足跡に踏み消されていた。
 どうやら近くをオーガ戦士が通過した後らしい。
「他の動物の足跡は少ないようやな」
 敵が隠れていそうな場所に注意を払っていた藤村が、小さく呟く。
 冬眠しているのか、それとも雪の為か。確かに先ほどから動物を見かけない。
 手近な木へとユリアルがグリーンワードで尋ねたところによれば、最近人が通ったのは間違いないようだ。
「‥‥?」
 ふと、グランが足を止め、耳を澄ます。
「今、子供の咳が聞こえた気がしたのですが‥‥」
「そういえば、俺も聞いたような気がしたんだが」
 グランが告げるとマナウスも同意をした。
「森は隠れるところが多いであるからな」
 咳が聞こえたという方をリデトが探ると、茂みの奥に鼻水をたらしたやんちゃそうな少年が座り込んでいた。
「ダウ君であるな?」
 リデトが声をかけると、少年はしっかりと頷く。が、次の瞬間僅かに咳き込んだ。どうやら風邪でもひいたらしい。
「森は子供一人では危いである。分かるであるな?」
「さっき、でっかいモンスターが歩いてたの見たから、解るよ」
 何とか立ち上がった彼の膝は笑っている。平静を装ってはいるものの、やはり怖かったらしい。
 彼は歩みだそうとした瞬間、足が縺れたのかその場へと転ぶ。
 ドサリ、という雪に身が沈む音は思いのほか森に響き、後方から野太い咆哮が聞こえてきた。
 ダウが転んだ音が聞こえてしまったのだろう。オーガ戦士のものと思しき咆哮は段々近づいてくる。
 李は念を集中し気を高める。
 敵の姿が射程範囲に入ったのを確認し、グランが手にした黒い弓をキリリと引いた。
 放たれた矢は皮膚の薄い部分へと突き刺さり、敵の1体が苦痛に咆哮を上げる。
「ユリアルくんはダウくんを連れて森の外へむかうである!」
 リデトの言葉を聞き、荷物の重みもあり、魔法を使う事が出来そうに無いと察したユリアルは、ダウの腕を引き、森の外へ向かう。
「しゃーないか」
 それぞれ、小太刀とダガーを手にし、藤村、マナウスの2人が身構えた。
 接近してきた敵の前に、オーラを纏った李が立ちふさがる。
「彼らが逃げ切るまでの時間を稼ぎましょう」
 敵が李に気を取られたのを見計らいグランが再び矢を放つ。矢は柔い部分を貫き、痛みに敵の手が宙を掻く。
 藤村の小太刀が振るわれ、敵は回避しようとする‥‥が、回避しきったと思った瞬間、金棒を持った太い腕に傷が口を開けた。
 ――フェイントアタック、だ。
 藤村に続きマナウスもダガーで切りかかる。
 敵は痛みに咆哮しながら、マナウスを金棒で薙ごうとするが、彼はそれを危なげなく避け、更にはカウンターで斬撃を繰り出した。
 別の1体は自らの進行を妨げている李に向かい金棒を振り下ろしたが、彼はそれを受け流す。
 オーガ戦士達は驚愕に目を見開き、僅かにたじろいだ‥‥ように見えた。
 それから暫し。
「二人が安心してまた来れるようにオーガを成敗しておきたかったのですがね」
「特に人里に被害を及ぼしたわけでもないし、戦う理由がないならあえてこっちから挑むメリットも無いさ」
 逃げ出していくオーガ戦士を見遣り、李が残念そうに呟くと、マナウスは無事追い払えただけでも僥倖だとばかりに答えた。

●彼にヒントを
「そもそもポポンをユニちゃんから取り上げて逃げるとは何であるか」
 ダウ少年の目の前には、腰に手を当てたリデトがいた。
 だが、ダウはぷい、と彼から視軸を逸らす。
「好きな女の子を独占したくて大切な友達を取り上げるなんて、まったく子供ですね」
 グランが追い討ちをかけるとダウは皆に背を向けてしまった。
「素直になるのが気恥ずかしいとか、周囲の目が気になるとか、そういうのは分からないまでも無いんだがな? 少年」
 マナウスの言葉に、ダウの肩がぴくりと揺れる。
「でもな、そういうのを言えずに別れを迎えたりした時、きっと後悔する。何で言えなかったんだろうって。‥‥何時も何時までも、今のままで居られるわけじゃないんだからな」
「‥‥わかんねぇよ。別れるなんて、考えらんねぇ」
 ぶっきらぼうに答えると、髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
 その様を見たユリアルは満面の笑顔でダウへと話しかける。
「女の子はこういう話に関しては男の子より進んでいますから、告白すればちゃんと受け止められるかもしれません。ユニさんは告白をきっと喜んでくれると思うので、勇気を出して告白をしてみては?」
「そんなんじゃねぇよ! 俺とアイツの仲はそんなんじゃねぇッ!」
 ダウは顔を真っ赤にし、素晴らしい勢いで反論をする。
「たぶん、ユニさんはダウさんのことを大好きだと思いますよ。でなければ、優しいとは言わないでしょう?」
 笑顔で続けられた言葉にダウは驚きを見せたが、即座にそれを取り繕った。
「そんな事あるわけねぇよ。こうやってポポンを持ってきちまったし」
 それはぬいぐるみというよりは、ボロボロの酷く不器用な良くわからないもの、だった。
「ユニちゃんが好きなら彼女の好きな物を好きになれないであるか? 彼女はポポンもダウくんも好きである。ポポンもユニちゃんが好きなダウくんなら、ダウくんを好きだと思うである。だから、ポポンと仲直りしてユニちゃんに謝るであるよ」
 ダウの瞳をじっと見据え、リデトが語りかける。
「‥‥ポポンと仲直り? でも、今更‥‥」
「ユニちゃんは、そんな君のことを心配して泣いていたぞ?」
 グランの言葉にダウの瞳が揺れる。
 どうにもまどろっこしく思ったらしい藤村がそっと耳元で囁いた。
「ええ事教えたるわ〜♪ あんなー、女の子にはな、優しくせんと好かれへんのんよー♪ 好きな子やったら特に優しくせんとな〜。
嫌われるの嫌やろ?」
「‥‥嫌われるのは、嫌だ」
「なら、その気持ちを素直に打ち明けたらどーやろかな? 喜ぶと思うんやけどなー」
 にこにこと微笑みつつ「ポポンは自分で返すんやで。きばりーよー?」と告げると、ダウは顔を上げる。
「ユニが喜んでくれるなら、俺、頑張るよ」
「さて、その前にそのボロボロのポポンを直してあげなければ」
 グランが裁縫セットを渡し、直し方を指示してやると、ダウは案外器用なのか、ポポンの形を綺麗に整えた。

●彼女に告白
「あ、ダウ君おかえりー! 怪我とかしてない? 心配したよー!」
 彼の姿を認めたつつユニが、涙を抑え駆け寄ってくる。
「泣くなよ。ほら」
 そういってダウがユニへと渡したものは綺麗になおされたポポンだった。
「あれー? これポポンじゃないよー?」
(「なんだって!?」)
 物陰から生暖かく見守っていた冒険者達に動揺が走る。
「お、俺がボロボロだったのをなおしたんだよ」
「そうなんだ〜。綺麗になってたからユニ、ポポンだって気づかなかった。ダウ君お裁縫上手なんだねー」
 えへへ、と笑う彼女にダウは必死で言葉を紡ぐ。
「あ、あのな‥‥」
 物陰でリデトが拳を握り締め、グランが息を呑む。李は微笑をもってそれを見守り、ユリアルとマナウスが微笑ましげな表情を浮べる。藤村に至っては聞こえない程度の声で「きばりー!」と声援を送っていた。
「ポポンの綺麗な直し方、俺、教えてやるよ。それと‥‥良かったら、これからも俺と仲良くしてくれるか?」
 ユニは一瞬だけきょとん、とした表情を浮かべたが、それは直ぐに笑みに変わった。
「ユニはダウ君の事大好きだもん。これからも絶対仲良しでいようね!」

 その後2人がらぶらぶバカっぷるになったのは言うまでもない。