シフール来たりて笛を吹く

■ショートシナリオ


担当:小倉純一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 72 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月24日〜03月27日

リプレイ公開日:2007年04月01日

●オープニング

たとえどれほど迄に騎士達の間では道徳観念が重んじられても、民の間では下世話な話も尽きないわけで‥‥。
ある日の事、一人のチンピラが女性へと絡んでいた。
「おじょーちゃん、俺といいことしない?」
比較的身なりのよかったその女性はチンピラの言う事が理解できなかったらしい。
「いいこと‥‥とは何ですの?」
一瞬の間が空き、チンピラは「それは決まってるだろ」と答え、具体的な内容を並べ立てようとした。
その時だった。彼が単語を口が発しようとした瞬間、甲高い笛の音が響き渡る。
チンピラが音の方を見れば、そこには一人のシフールが口笛を吹きながら宙に浮いていた。
「下品なのはいけないんだよっ! だから‥‥おしおきなんだよっ!」
彼女は声を張り上げる。
あっけに取られるチンピラを尻目に、彼女はすかさず何事かを呟き、片手で印を結ぶ。
直後、彼女の身は淡い緑光に包まれた。
「さ、お姉さん、早く逃げよう?」
「‥‥!!」
 まちやがれ、とチンピラは叫んだはずだった。だが、口は動くものの、声は出ない。
動揺するチンピラを尻目に、シフールと女性はその場を逃げ出した。

「護衛をお願いしますの!」
身なりのよい女性が受け付けへと詰め寄っていた。あまりの勢いに係員は及び腰だ。
「ええと、貴女の護衛をすれば良いのですか?」
係員が尋ねると彼女はかぶりを振る。
「わたくしを助けてくれたシフールさんをチンピラから護ってほしいのですの」
彼女は先日、チンピラに絡まれていたところを、一人のシフールに救われたのだという。
「シフールって、好奇心だけで動く者ばかりだとわたくし、思っておりましたが、彼女のような方もいらっしゃるのですね」
 女性はそのシフールに纏わる本人から聞いたという話をする。
 そのシフールは、一時期低俗な言葉を面白がって使っていたという。だが、ある日立派な身なりをした騎士に「女性がそんな汚い言葉を使うのは、いただけないねぇ」と言われ、そういった言葉への興味を失い、代わりに「汚い言葉を使わないようにする事」に興味を持ったのだという。
「わたくしが見た感じですと、むしろ、言葉を使わない事に興味がある、というよりは、その騎士様に興味を持っていて、注意を引きたい、という感じでしたわ。いつかそうやって活躍していれば騎士様の目に留めてもらえる‥‥と。でも、そうやって他の方の汚い言葉も使わせないようにしたのがいけなかったのでしょうか‥‥あのシフールさんはチンピラに狙われ始めてしまったみたいなのですの」
 ふむ? と係員は首を傾げつつ彼女へと問う。
「で、その守らなきゃいけないシフールはどちらに?」
 僅かに彼女は目を伏せる。
「それが‥‥わからないのです。口笛も時々聞こえてきますし、キャメロットにいるのは確かですの。ですから、危険がないよう、彼女を一刻も早く見つけて、守ってあげて欲しいのです」
「解りました。今すぐ依頼を出しましょう。ところでそのシフールのお名前は?」
「確か‥‥キンシさんといいましたわ」
 キンシ、か、なんか変わった名前だなぁ。とちょっぴり思いつつ、係員は何時ものように羊皮紙へと依頼を書き付けるのだった。
 
 ――シフールの女性をチンピラから護って下さい。なお、そのシフールは汚い言葉に極度に反応するようなのでお気をつけて。

●今回の参加者

 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1903 ロイエンブラウ・メーベルナッハ(25歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9639 イスラフィル・レイナード(23歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec1858 ジャンヌ・シェール(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●どんな人?
「キンシさんってどんな方なのかな?」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)が依頼人へと尋ねると、彼女は長々と語り始めた。
「キンシさんは、とても可憐で‥‥でも、凄く勇気のある方なんですの。それに――」
 依頼人の話が脱線し始めたのに気づいたロイエンブラウ・メーベルナッハ(eb1903)も更に尋ねる。
「いや、できれば特徴を教えてほしいのだが‥‥」
 依頼人は首を傾げると、地に何かを描きはじめる。
 暫し後、地面には1人のシフールが描かれていた。
「成る程‥‥こういう方なのね」
 うんうんと頷いた後、レティシアはファンタズムを使い、幻影を作り出す。それを見た依頼人は「そっくりですわ!」と驚きを見せた。
 レティシアが知っているシフールの姿に、依頼人の絵を参考に補正を加えた幻影だったが、どうやら上手く作れたらしい。
 一同は依頼人と別れ、捜索を開始する。
「汚い言葉を自分が使わないのは勝手だが、それを強制するのはあまり宜しくないな」
 イスラフィル・レイナード(eb9639)が心中を語る。元々が低俗な、チンピラのような人種に汚い言葉を使わせない事自体が無理のある事だと思うがと彼が続けると、ロイエンブラウも頷く。
「ふむ、確かに品の無い言葉は聞くに堪えぬが‥‥上手く使えばこれ以上無い睦言になると思うのだがな。例えば、生涯を誓った殿方へ言い募る時とか‥‥」
 彼女は何かを考え暫し言葉を途切れさせた。
「‥‥まぁ、それはともかくとして、仕事はしっかりこなさねばな」
 もしかしたら何かえろえろな事を考えたのかも知れない。
「人探しはとにかく行動することが一番の近道ですから私はあちこち走り回りますね」
「それじゃ、俺は上空から『通り』を手当たり次第当たってシフールの姿を探してみるよ」
 ジャンヌ・シェール(ec1858)が手近な人に声をかけに行き、シャノン・カスール(eb7700)はフライングブルームネクストをバックパックから取り出す。
 ――彼女はどんな方だろう?

●彼女は何処に居るのかな?
「すまないが、碧の髪のシフールが口笛を時折吹いているのを見たことはないか?」
 食事に立ち寄った店でイスラフィルが周囲の客へと尋ねた。
「このあたりではあまりないかな」
 彼は再度問う。
「では、どのあたりなら?」
「そうだなぁ‥‥もっとガラの悪い連中がいる辺りかな」
 あの子、面白いんだよねぇ、と客の1人は笑う。
「下品な言葉を凄く面白がっていたのに、今は他の人が使っただけで怒るしな」
「そのシフールさんを探しているチンピラが居るとも聞いているのですが、御存知ありませんか?」
 同席していたジャンヌも話しかける。
「以前オンナに声かけたところをジャマされたヤツか?」
 依頼人の事かもしれない、と思った彼女が更にその人物について聞くと、何やら予想外な答えが返ってきた。
「その後も何度かジャマされているみたいでな。あんたなら多分あのシフールには好かれると思うよ」
「汚い言葉に反応するだけではなく、礼儀正しいと好印象になる‥‥という事か?」
 ジャンヌの方をちらりと見つつイスラフィルが呟いた。
 2人は客に礼をし、その場を立ち去ろうとするが「ちょっとまってくれ」と呼び止められる。
「何かあるのか?」
 不思議そうにイスラフィルが声をかけると、客は続けた。
「シフールとチンピラ、どっちを探しているのか知らんが、気をつけた方がいいぞ。今、あのチンピラは徒党を組んでいるからな」
「忠告ありがとうございます」
 にこり、と微笑むジャンヌ。
「さて、このままではキンシさんが危なそうですね。他の皆の所へ行きましょうか」
 2人は下町に向かった仲間達のところへと向かう事にした。

 竪琴をかき鳴らし、明るくつい人が聴き入ってしまうような歌をレティシアは歌った。
 演奏が終わると同時に、拍手と歓声が上がる。いつの間にか大分聴衆が集まっていたようだ。
「ねぇ、皆に聞きたい事があるの。こんなシフールを知らない?」
 名前はキンシさんというのだけれど、と彼女はファンタズムで幻影を作り出す。
 品の無い言葉が多く使われるのは主に下町だろうという彼女の読みは当たったらしい。
「ああ、良く見かけるよ」
「こないだもチンピラを黙らせていたみたいだしな」
 彼女は汚い言葉を使った者をサイレンスで黙らせた後、その場を離脱し、相手を撒くという方法をとるらしい。
「それで‥‥我々と他に同じようなことを聞いて回っている者がいなかったか?」
 同行していたロイエンブラウが尋ねる。
「うん? チンピラ連中が探していたかな」
 いくら慣れっこのキンシでも、流石に複数の人間に囲まれては、逃げるのは厄介だろう。
「キンシに会いたいなら、下品な言葉を使う連中は少なくないし、気長にしていれば会えると思うよ。チンピラに会うのは悪いことは言わん。やめときな」
 それじゃあ、と話をしてくれた人々は立ち去る。
 丁度そこに駆け寄ってくるイスラフィルとジャンヌの2人。
 情報を分け合ううちに、それまでフライングブルームネクストで様子を見回っていたシャノンもやってくる。
「向こうの通りでシフールが諍いに巻き込まれてる。キンシさんかも知れないから、俺は先に行っておきます」
 一同は急ぎ、シャノンが告げた通りへと向かう事にした。

●シフールにかわっておしおきらしいよ?
「お前よくもこの俺に何度も何度も恥をかかせてくれたな!」
 大変人相の悪い人物が、碧髪のシフールを怒鳴りつけている。
「な、何を言ってるんだよっ! あのまま汚い言葉を使ってるほうが絶対絶対恥ずかしいよっ!」
 シフールもいい勢いで怒鳴り返す。
「まあいい、これからお前を‥‥」
「はい、少し待ってもらいましょうか」
 言葉を遮りつつ、フライングブルームネクストに乗ったシャノンがシュタリ、と地に降り立つ。
「なんだ? テメェは。俺らはこれまでこいつのせいで喋りたい事も喋れなかったんだよ。例えば――」
 更に何かを喋りかけたチンピラを、キンシの口笛が制した。
「げ、下品なのはいけないんだよっ! そーいう人にはおしおきなんだよっ!」
 印を結ぼうとした彼女の手を、シャノンが抑える。
「おにーさんジャマしないでよー!」
「なんだ、あんたも俺らと同じくコイツに恨みがあるクチか?」
 キンシとチンピラが同時に喋ると、シャノンはそういうわけではないのですが‥‥と答えた。
「あなた方はキンシさんに暴力を振るうつもりですか?」
 駆けつけ、キンシの前へと割り込んだジャンヌが語りかける。
「だったらどうす‥‥がっ!?」
 喋りかけたチンピラの1人がその場へとくず折れ、残りの者達に動揺が広がった。
「峰打ちだから安心するといい」
 日本刀に手をかけたままロイエンブラウが告げる。
「まあ‥‥こういう連中は、話を素直に聞くような輩ではないだろうしな。少し、痛い目を見て貰うか?」
 ミドルクラブを手にしたイスラフィルが淡々と喋る。正直、怖い。
「シャドウバインディングとか食らってみたいですか? それとも、ライトニングサンダーボルトがいいですか?」
 にこにこと微笑みつつスクロールを手にするシャノン。超怖い。
 自らの身に降りかかる運命を予想し、チンピラ達は竦みあがる。
「‥‥今後キンシに近付かない、それと、出来れば汚い言葉を使わない事を誓うなら、見逃してやってもいいが?」
 イスラフィルが出した案に、チンピラ達はただひたすらに頷いた。

●下品なのはいけないと思います?
「助けてくれてありがとうだよー」
 はふぅーと安堵の吐息をつき、シフールが言う。
「貴女がキンシさんですか?」
 丁寧にジャンヌが尋ねると、彼女はそうですーと元気に答えた。
「あまり無茶なことはしないで下さいね、今まではまだ良かったかもしれませんが、相手に反感を買い続けることは望ましくありません」
 シャノンが語りかけると、キンシはそれに反論をする。
「でも汚い言葉は直さないといけないんじゃないのかなーって思うの」
「汚い言葉とはどう判断するのですか?」
「私が以前使ってたような言葉のことだと思うんだけど‥‥」
 彼の切り返しにもキンシは答える。
「あなたがきれいだと思っている言葉であっても、使い方しだいでは暴言にもなります。逆に汚い言葉だと思っても、そう言う言葉使いしかできない不器用な人もいるのですよ」
 更に続けられた言葉に、彼女はむむ? と首を傾げた。
「そもそも言葉とは文化。品が無いという理由だけで言葉を否定するのは言葉を裁く事にも等しいの」
 真剣に論ずるレティシア。彼女はバードであるが故にどのような言葉でも大切に思う為、しっかりと訴えておきたかったらしい。
「そうなんだ‥‥否定しちゃ、だめなんだ‥‥」
 しゅんとするキンシを見かねたレティシアは笑顔でフォローをいれる。
「件の騎士さんにかっこいいところを見せたいなら、上っ面の言葉遣いよりも、例えば、女性の危機に割って入ったような気高い振る舞いの方が興味を引けるんじゃないかな?」
 恋の悩みなら相談にも乗れるよ、と彼女が告げると、キンシは顔を真っ赤にした。どうやら図星らしい。
「相手の騎士はどんな人物なんだ?」
「私もキンシ殿に影響を与えた方はの事は気になる」
 イスラフィルとロイエンブラウが興味を示す。
「王様の騎士だっていってたよー。名前は長いからウィルって呼んでいいって言ってた」
 でも、あれから一度も見かけないんだよー、と残念そうに告げるキンシ。
 ――それって、円卓の騎士なんじゃ‥‥? と冒険者達は考える。
「言葉って難しいね。これからは他の人の言葉を否定するのはやめる。代わりに、誰かがピンチだったら頑張って助けちゃうよー」
 非常に前向きなキンシ。
「困った時は微力ながらお手伝いしますが‥‥でも、本当に無茶なことはしないでくださいよ?」
 笑顔でシャノンが釘を刺す。

 キンシはきっと、正しく人の為になれるよう努力するだろう。