にゃんこを助けて!
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■ショートシナリオ
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月21日〜09月24日
リプレイ公開日:2007年09月25日
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●オープニング
●取り残された子猫
にゃーにゃーにゃーにゃー。
にゃーにゃーにゃーにゃー。
黒いにゃんこは必死で鳴いています。
少し離れたところでは大きな鳥が旋回しています。
にゃんこは移動したくても、近くに大きな川があってわたれません。
にゃーにゃーにゃーにゃー。
にゃーにゃーにゃーにゃー。
にゃんこは必死で鳴いています。
●やってきた飼い主
「助けてくださいっ! 助けてくださいッ!」
情けない声を上げてギルドへと駆け込んできた男に受付係はほとんど動揺せずにいつもどおりの対応を行った。
「一体どうされたのですか?」
受付係が問えば男は眉毛をへにょりと下げ、泣きそうな顔で訴え始める。
「うちの猫を‥‥助けてほしいのです」
彼が告げるところによれば、ある川の中州に子猫を落としてしまったのだとか。
それだけならただ自分で回収すればよいのだろうけれども、中州を移動中、巨大な鳥が2羽、襲い掛かってきたのだという。
彼自身は必死で逃げたものの、猫を回収しに戻るのは恐ろしい。
そこで、冒険者達の協力を得たいというのだろう。
幸運にも子猫はまだまだ小さく、中洲の石に埋もれて鳥には見つかっていないようだ。
とはいえ、このまま放っておけば子猫は哀れ鳥の餌となってしまうであろう事は想像に難くない。
「大きな鳥というと、どのような?」
受付係が問えば男は「鷹だったような気がします」と答えた。
場所はキャメロット郊外。3日あれば行って帰ってこられる位の場所だ。決して遠くはない。
とはいえ、あの場所は確かジャイアントトードも数匹生息しているところだったはずだ。
更に川の中州である事を考えると足場もあまりよくはないだろう。
「ああ、今頃あの子はお腹をすかせているのではないだろうか‥‥まさかもう鳥に食われてはいないだろうか‥‥考えるだけでも不安になって‥‥!」
男はぽろぽろと涙をこぼす。
受付係は彼の背中を軽くさすり宥めると出来るだけ優しく問いかけた。
「そういえば、まだ子猫の外見を聞いていませんでしたよね?」
しゃくりあげながら彼は語る。
「黒猫で‥‥名前はオブシダンといいます‥‥名前を呼べば返事をする賢い子なんですよぉぉぉぉ」
なんとかしてくださいよぉ、ご飯もあげてくださいよぉぉぉぉ、とおいおいと泣く彼に、受付係は確りとうなずいた。
「大丈夫です。冒険者達がきちんと助けてくれるはずです」
かくして猫を助ける依頼はギルドへと張り出されたのである。
●リプレイ本文
●にゃんこを迎えに!
「怖いのは分りますが、少し頑張ってみませんか」
ミッシェル・バリアルド(eb7814)はなるべく優しめの声で依頼人へと語りかけた。
だが問題の依頼人は既に涙目状態首を振る。
よほど怖い思いをしたのだろう。
「中州に一緒に戻ってみません? その方が早くオブシダンちゃんに会えますよ」
鷹らしき鳥は私達でなんとか近寄らせないように「努力」はしてみますからとミッシェルが言えば、依頼人は涙を拭い、彼の方を見る。
「本当ですか?」
「ええ、本当です」
とはいえ彼は絶対襲われないという保障はしていないが、守ってもらえるという事、そしてオブシダンに早く会えるという事に、彼の心の天秤は傾いた。
ビビりながらも着いてくる事を決めたらしい。
「うー、可愛いにゃんこがうちを呼んでる! 助けてくれと鳴く声が聞こえる! 待っててなー♪ にゃんこ〜、絶対助けるで〜♪ 助けて撫で撫でむぎゅむぎゅするんや〜♪」
ユウヒ・シーナ(ea8024)が保存食を買出しに行き、歌いながら戻ったところ、依頼人はものすごい勢いで動揺し、詰め寄った。
「ええッ! お、お嬢さん‥‥あなたうちのオブシダンの声が聞えるんですかぁぁぁぁ!?」
なんというか、怖い。すごく怖い。目が血走っているし。
だが、ユウヒは引かなかった。
「可愛いにゃんこの声はうちの心の鼓膜を振るわせるんや〜♪」
実際には聞えないハズだ。寧ろ、聞えたら困る。
にぱっと笑って告げた言葉に、依頼人は何かえらく感激したらしく、ユウヒに猫の愛らしさを語り始める。
‥‥ここに、依頼人とユウヒによる猫好き同盟が出来上がっていたりもするがそれはさておき。
同じく保存食を買い忘れ、買出しに行っていたウィンディオ・プレイン(ea3153)も準備は整え終わったようだ。
「さて、急ぐか」
速成を好むらしいディラン・バーン(ec3680)が告げれば、柊雪那(ec3723)も頷く。
「風邪を引いたりしては大変です、急いで助けに行きましょう」
彼女の優しさに依頼人が泣き出し、それを宥めるのに一手間かかったりもしたが、冒険者達はなんとか中州へと旅立ったのだ。
‥‥依頼人が足を引っ張らなければ良いのだけれどね。
●にゃんこを助けて!
前方に川が見えるほど近づいたところで冒険者達はそれぞれの馬から降りると、川辺に近づいていく。
雪那が依頼人から聞きだしたところによれば、川を歩いている途中で、鷹が降下してきたため、驚いて取り落としてしまったのだとか。
確かに遠くにはそれらしき鳥が2羽旋回している。
「そいじゃうちはにゃんこの確保に行くな♪ にゃんこ今行くで〜♪ 可愛いにゃんこ〜♪」
ユウヒが告げた途端、冒険者達にとって想像しても居なかった事態が発生した。
「あああ。私のオブシダン〜〜〜!」
依頼人が突如中州に向かって走り出したのだ。
ミッシェルも、鷹やジャイアントトードに対しては警戒をしていた。
だが、依頼人がまさかここにきて暴走するとは思いもしなかっただろう。
ある意味で、冒険者達は信頼されすぎていたのだ――確実に何があっても守ってくれるに違いない、という思い込みすら発生させる程に。
幸いにして川は浅く、流れも緩やかだ。
走る依頼人に、ウィンディオが追いつく。依頼人に向かい鷹が降下してきたと見るや彼は依頼人を無理やりに転ばせた。
「危ないっ!」
嘴でつつこうとしてきたところを彼は盾を使い防ぎきる。
転びはしたものの、怪我をした様子はない。
更にざばりという音と共に、水中から2匹のジャイアントトードがその姿を現す。
「依頼人に怪我をさせるわけにはいかないのでな」
「同感です」
ディランとミッシェルの2人はそれぞれ手にした弓をキリリと引き絞る。
次の瞬間、放たれた矢は見事依頼人を襲おうとしていた鷹へと突き刺さった。
攻撃を受けた鷹は戦意を喪失したらしく、矢がささったままであるにも関わらずその身を翻し、どこかへと逃げてゆく。
「深追いの必要はないだろう」
出来ることなら追い払う程度にとどめたい、とディランはそれを見送る。
「オブシダンちゃん!」
雪那が叫べば、人の声に反応したのか、微かだがにゃーとなく声が聞えた。まだ生きている。
中州に着き、子猫の鳴き声から場所を特定したユウヒが中州の石をかきわける。
黒く、ふかふかしたものが目に入ったところで、彼女はそれが何であるかをはっきり確認するより前に素早く抱き上げた。
迂闊な隙を作って鷹にさらわれては厄介な事になる。
ユウヒの手の中で、それはにごにごと動いた。視線をおろせばそこには噂の黒い子猫が居る。
「ええぃ、うちのにゃんこに手出しはさせへんで〜!」
猫の愛らしさに気合を入れた彼女は、降下してきたもう1羽の鷹へと、薄く、月光如く光る矢を撃ち込んだ。
一瞬は体勢を崩したものの、鷹は再び旋回をし始める。
更には水中から現れたジャイアントトードがもぞもぞと動き出したのを見て雪那が木刀を振るった。
「子猫にも、依頼人の方にも、怪我をさせるわけには行きません」
全力を込めて振り下ろした一撃は、ぐにょりという嫌な感触を手に伝えてはきたが、十分に手ごたえはあった。更にもう一撃。
ウィンディオは自ら依頼人とユウヒの盾となり、鷹の攻撃を受け流す。
先程のムーンアローで傷ついているにも関わらず、鷹は逃げることなく襲い掛かってきたのだ。
下降し、その爪でつかみかかろうとしていたが、飛来した矢が突き刺さる。
あわてて逃げようとする鷹。
なんとか依頼人達を守りきったウィンディオが矢が発射された方へと目を向ければ、弓を手にしたミッシェルがこちらへと軽く微笑んだ。
鷹が飛び去った以上、あとは邪魔をするものはジャイアントトード2匹のみ。
ディランは再び弓を引く。
風を切る音と共に放たれた矢はジャイアントトードへと突き刺さった。
それなりに傷を負わせたが、ジャイアントトードは逃げることなくその場へと居続ける。
ユウヒは猫をかかえたままに、再びムーンアローを放ち、同時に雪那の桃の木刀が振り下ろされた。
その一撃により先ほどから攻撃を受け続けていたジャイアントトードは再び水中に沈み込み、動きを止める。
だが、残りの1体はそれでも引くことなく冒険者達へと攻撃を繰り出した。
舌をムチのようにしならせ打ちかかるが雪那は手にした十手であっさりとそれを防ぎきる。
たった1体のジャイアントトードでは、冒険者達の敵ではなかった。
●にゃんこと帰ろう。
「ん〜、にゃんこええなぁ♪ にゃんこはええ。にゃんこは心を潤してくれる。人類の生み出した文化‥‥ではないな。まあともかくにゃんこはええな〜♪ そう思わへんか?」
ジャイアントトードを撃退し、撫で撫で撫でぎゅーと子猫を触りまくっていたユウヒが幸せそうに告げれば、依頼人も「ええ、そうです! 猫は良いものです!」と主張をする。
その依頼人の手はわきわきと動かされていた。
どうやら早く抱かせてほしい、という主張であったらしい。
漸くユウヒが子猫を依頼人へと渡せば、彼は「会いたかったよオブシダァァァァン!」と叫んだ。
一応感動の再会、になるのだろう。
が、途端ににゃんこは小さなくしゃみをする。
「風邪を引いてるといけませんね」
雪那が人肌程度に温めたミルクを指先につけて子猫の口元へともっていけば、子猫は懸命にそれを舐める。
思ったより元気で、食欲はある様子だし、多分風邪は引いていないだろう。
一方、ミッシェルとディランの2人は、倒したジャイアントトードを弔っていた。
この場で彼らなりに生活していたという事を思えば、僅かに心が痛む。
追い払う程度で済めばよかったのだろうが、必ずしも思い通りに行くとは限らない。
依頼を達成する上での障害として立ちふさがられた以上、命を奪わねばならないかも知れないという覚悟はしていたはずだ。
「そろそろ、帰ろう」
ウィンディオが告げれば2人もその場を離れ、帰り支度を始める。
依頼人も子猫を抱きしめたままに、帰還の準備を始めたが、そこに声をかける者がいた。
「あの‥‥」
遠慮がちにかけられた言葉に依頼人が振り向けば、そこには雪那が居た。
どうしましたか? と首をかしげながら依頼人が問えば彼女はおずおずと告げる。
「子猫を抱いてもいいですか?」
彼女の問いに、一瞬あっけにとられたものの、次の瞬間には依頼人はすばらしい笑顔で「勿論ですとも」と告げ、満腹になり眠気を催したのかおとなしくなった子猫を渡す。
オブシダンという名の通り、真っ黒な毛並みの、小さな生命。
雪那が落とさないように気をつけ、しっかりと抱きしめれば、小さいながらもぬくもりが伝わり、呼吸をする度に僅かにふかふかの毛が動く。
‥‥きちんと生きている証拠だ。
「‥‥ちょっと嬉しいです」
ふわふわの感触と温かさ、そして、前足の未だぷにぷにな肉球の感触を確かめ、雪那が笑顔を見せると、依頼人も嬉しそうな顔をした。
子猫を助けるために他の命を奪ってしまったけれども、そうでなければこの子猫の命がなかった。
自然の中においては弱い者は強いものに食べられるが道理。食べなければどんな生物でも生きていく事が出来ない以上、それはどうしようもない事だ。
この場においては、ジャイアントトード達よりも、冒険者が強かったという、ただそれだけの話でもある。
だが、今はただこの小さな生命を救えた事を幸せに思いたい。
‥‥しかしながら、その一方で、キャメロットに着くまでの間、依頼人とユウヒの2人がものすごい勢いで猫の愛らしさについて語りあったりもしていたが、それはまた別のお話。
にゃんこへの愛はきっと色んなモノを凌駕するのだ。多分。