キノコを狩れ! ひたすら狩れ!
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■ショートシナリオ
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月10日〜11月15日
リプレイ公開日:2007年11月18日
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●オープニング
イギリスの冬は厳しい。
小さな村では冬がくる前にある程度の貯えを用意しなければ冬を越すのは難しい。
その日、そろそろ冬の準備をしなければ‥‥と森に入った老人は視界に広がった光景に驚きを隠せなかった。何故なら――
「キノコがたくさん湧いたんでわしはたまげてしまってのぅ」
その日、ギルドの受け付けにはキャメロットから1日の所からやってきたという老人が張り付き、熱く語っていた。
「キノコ‥‥ですか?」
係員は不思議そうな顔をした。
食べられるキノコなら食料として申し分はないだろうし、食べられないものなら放っておけばいいだけの話だ、と彼は思ったのだ。
「それが、近づいたら凄い声で叫んでのぅ」
スクリーマーか、と係員は考える。こいつの叫びはひたすら響き渡って時として近くのモンスターを呼んでしまうから厄介だ。
老人の話をまとめると、どうやら冬支度の為に森に入ったところスクリーマーが大量に増えていた、という事らしい。
しかも、単に叫ばれるだけならまだしも、獲物にしようと思った動物は逃げるは、いつのまにか巣食っていたらしいコボルトは襲ってくるわ、ほうほうの体で逃げ出した、という状況だったのだそうだ。
「うちの村は年寄りばっかりの村でのぅ、若いもんはみなキャメロットに来てしまうだよ。だから、わしらがなんとかするしかないのじゃが‥‥流石に厳しくてのぉ」
ぷるぷると震えている様や、しわくちゃの顔を見て、係員は納得の表情を見せる。だが、老人にはそれが気に食わなかったらしい。
「こうみえても若い頃は波寄るモンスターをちぎっては投げちぎっては投げしたものなんじゃが。さすがに腰が痛くてのぅ」
このままではわしらは冬を越せんのぅ、と彼は語る。
「つまりスクリーマーとコボルトを退治してほしい、という事でしょうか?」
係員が問えば老人はぷるぷると首を振る。
「では何を‥‥?」
老人は答える。
「倒すついでにキノコを狩ってきてほしいんじゃ。食べられるらしいし、持ってきて貰える量が多ければ少しはもてなす事もできるでのぅ」
乾せば保存も効くし、生でも食べられる。きっと調理すれば美味しく食べられるであろう。よい食材になりそうじゃ、と老人は告げる。
つまり、沢山キノコを狩って持っていけば、たくわえとする以外のキノコは料理として冒険者達に振舞われる‥‥という事なのだろう。
「うちのばあさんの作るキノコのスープは美味いでの。きっと気にいってもらえるじゃろうよ」
そう告げると老人は機用に片目を瞑りウィンクをしてみせた。
上手くいけばちょっとしたキノコパーティーが開けるかもしれない。
きっと日ごろの生活に疲れた老人達の楽しみにもなるだろうし、冒険者達にとっても小さな秋の思い出をつくるいい機会にもできるだろう。
「わかりました。それでは冒険者達に声をかけましょう」
係員は大きく頷くと、羊皮紙に羽ペンを走らせた。
――キノコ狩りをして下さる冒険者を募集します。なお、本件は食事とコボルト退治も含まれます。
●リプレイ本文
●どのキノコ?
「採れ立てのキノコでキノコスープなんてすごくおいしそう‥‥」
フィムス・ルーン(ec4045)は少しだけ幸せそうな表情を見せた。
何しろこの頃は木枯らしが身に凍みる。身体を温めるキノコスープはきっと美味い事だろう。
「普通にモンスター退治するだけよりなんか楽しそうだよね!」
何しろキノコ狩りだよ? とスイ・スリーヴァレー(ec3994)も嬉しそうな顔をしている。
しかし、一点だけ不安もあった。
「って、引き受けてみたはいいけど‥‥キノコってスクリーマーの事?」
彼女の言葉に他の一同も首を捻った。
だが、とりあえずそれも村で一度聞いてみれば良い事だろうと思いなおし、彼女達は進む。
風は冷たいが、日差しは温かい。
「折角ですから1曲演奏しますね」
フィムスは手にしたオカリナでのどかな旅路と名づけた自作の曲を奏でる。
「ゆったりとした、いい時間ですね〜」
ぽわわ、とした雰囲気を漂わせながらミリア・ミリム(ec4062)が告げた。
ふと、フィムスのオカリナが止まる。
何事かとアロ・ディシュバラン(ec3974)が遠くに視線をやれば、視界の先には目的の小さな村があった。
●そのキノコ!
村は本当に老人だらけであった。
冒険者達は依頼人の爺様を探す。
「おじいさんが狩って来て欲しいキノコってスクリーマーの事ですか? それともスクリーマーとは別?」
スイが爺様を見つけ尋ねると、爺様は暫くぱちぱちと瞬きをし、のんびりと答える。
「近づくとでかい声で叫ぶキノコじゃ」
あれは確か食えるんじゃろ? 沢山生えているでのぅ、と爺様は告げる。
近づくと叫ぶキノコといえば‥‥と、マッパ・ムンディをぱらりと捲りながらディラン・バーン(ec3680)は考える。
「確かにスクリーマーのようだな」
どれくらいの数の敵が居るのかミリアが爺様に尋ねたが、爺様は首を振るばかりだ。
「なんだかキノコは沢山生えておったんじゃよ。全部狩って欲しいとは言わんが、出来れば沢山欲しいのぅ」
ではせめて、と彼女は図鑑が無いかを尋ねる。
「さすがに毒キノコはとりたくないですから、こういうのはあったほうがいいです〜」
「すまんのぅ。キノコ図鑑とかはないのじゃよ。こういうものは生活の知恵で何とかしてきたでのぅ」
折角依頼しておいて、何も手伝えなくてすまんのぅ、と老人は頭を下げたが、ミリアは、困っている方々を助けるのも騎士としての役目だとつげ、頭を上げるよう促した。
「できればコボルトさんと一緒にキノコパーティーできたらいいのになあ‥‥」
フィムスがぽそりと告げたが、老人はその言葉に血相を変えた。
「とんでもない。あやつらは逃げようとするわしらを嬉々として追いかけてきたでのぅ」
くれぐれも、確りと退治をしてください、と老人は含めるように言った。
●キノコを狩りやがれ!
「このあたりのようだな」
アロが皆を先導し森を往く。
視線の先には枯れた大地の色に似合わぬ毒々しい色をした大きなキノコが大量に生えていた。
「キノコお化け〜!」
フィムスが慌てて一同の一番後ろへと隠れる。
噂のスクリーマーであるのは明白だ。
だが、その間に普通のキノコもいくらか生えている。
ざっと見渡したディランは、自らの植物に関する知識を動員し、それらのキノコが普通に食べられるキノコである事を確かめた。
それにしても数が多い。
「地道に収穫していくしかなさそうだな」
軽くため息をつくと、彼は耳栓をし、その上から布を耳に当て、スクリーマーの叫び声で驚かされないようにと心積もりをする。
交代でスクリーマーをはじめとしたキノコを狩っていこうという彼の言葉に他の皆も頷く。
「村人を困らせるとはおいたが過ぎますよ〜」
直刀を構えたミリアがスクリーマーへと近づく。途端、けたたましい叫び声が森中に響き渡った。
ほぼ同時にディランがスクロールを広げて念じる。スクリーマーの集団のむこう側で何者かが動く気配があった。
効果時間がほんの僅かだったとはいえ、それらがこちらへとやってきている振動がはっきりと判る。
いや、それだけではない。遠くにあるスクリーマー達のものであろう叫び声が、徐々に近づいてくるのだ。
スクリーマーが移動をしない事を考えれば、何者かの進行する先々のスクリーマーが叫んでいる事になる。つまり、何者かはこちらへと接近しているのだ。
「おびき出せたようだな」
アロはバックパックからスタッフを取り出した。
キノコの間からアロの予想通り、犬のような顔をした、全身が鱗に被われている小型のオ−ガ――コボルト――が覗く。
フィムスは詠唱を行い、楽器を奏でる。コボルト達がキノコの間から完全に姿を現した時には彼女の詠唱は終わっていた。
「どうせですから一緒にキノコ狩りしましょう、ねっ」
一番前に居たコボルトに向かい、ウィンクと共にチャームの魔法を発動させる。
「お願いします〜」
ミリアもにこやかに声をかけたが‥‥コボルトは一同へとロクに手入れもされていなそうな剣を向けた。
「魔法が効かなかったみたいだよ。ごめんね」
フィムスが皆へと詫びながら、素早く後方へと隠れる。
「村の人のためにも残さないようしっかり退治しなければな」
掛け声と共にディランが縄ひょうを投げ、ロープの先についた刃がコボルトの皮膚を切り裂いた。彼はそのまま器用にロープを巻き取ると、素早く二撃目を加える。
アロが詠唱を行い、スイはダガーを手にコボルトへと接近し切り裂き、動きが鈍ったところでミリアが直刀を振り下ろす。
「このまま帰ってくださ〜い」
だが、未だコボルト達は引こうとしない。
ある者は苦痛にもがきつつ、ある者はただ我武者羅に剣を振り回したが、ただ無闇に武器を振るったところで早々攻撃は当たらない。
ディランは敵の攻撃をひきつけると軽々と全て避けきった。
隙を見計らいアロの魔法が発動する。巻き起こしたトルネードが容赦なくコボルトを巻き上げるが、直ぐにその身は落下し、地へと叩きつけられた。
既にかなりの傷を負っているものも居り、コボルト達は怯む。
ディランが縄ひょうを手に距離を詰め、同時にスイとミリアが武器を構えたまま足を踏み出せば、気圧されたコボルト達は慌てて逃げ出した。
コボルト達が逃げていった方からは暫くの間スクリーマー達の叫び声が響き渡っていたが、それも時が経つにつれ聞えなくなった。
「わ〜い、キノコキノコ〜♪」
それまで一同の後ろで様子を見ていたフィムスがはたはたと飛びながらキノコへと近寄る。
コボルトは退治したが、冒険者達にはまだキノコ狩りという仕事が残っているのだ。
●村の晩餐
一同はひたすらにキノコを狩った。
とはいえスクリーマーの団体様である。引き抜こうと近寄る度に全力で叫ばれるので、耳栓をしていても流石に声が耳につく。
「刈り残したらまたモンスターが集まるかもしれないから念入りに‥‥ね」
スクリーマーの叫び声に、スイは少々うんざりしつつも懸命に狩る。
普通のキノコを抜こうと頑張っていたフィムスが時折転げるのを支えてやり、ディランもスクリーマーを狩る。
少々食欲を削ぐ色をしているが、一応食べられるらしいし、大丈夫だろう。
「え〜っと、これが食べることができて〜‥‥」
時折ディランへと尋ねながらミリアは普通のキノコも回収し、ペットの馬に積めるだけ積んだ。
アロはキノコを持てるだけ持つと村へと運ぶ。
ついでに得る事が出来れば、と思っていたコボルトの肉を得る事は出来なかったが、キノコはとても大量に採れた。きっと村の人も喜んでくれる事だろう。
そもそもコボルトの肉は食用ではないし、まあいいか、と彼は考え直す。
村では既におじいちゃんの集団が薪に火をくべ、おばあちゃんの集団が野菜を大雑把に切り鍋へと放り込んでいるところだった。
「キノコを狩ってきたが‥‥我々だけではなく、村の皆にもお裾分けをしてもらえないだろうか?」
依頼人の爺様へと大量のキノコを差し出し、アロが告げると、爺様は「勿論その心算でしたじゃ」と答える。
答えを聞き、彼は少し心中で安堵した。しかし表面上の態度は変えることなく「では俺も手伝おう」と鍋をかき回すのを手伝う。
あれだけ毒々しい色合いだったスクリーマーが、次第に美味しそうな香りの漂うスープの具材になっていく様に、スイはごくりと唾を飲み込んだ。
「あの、お手伝いする代わりにキノコのスープの作り方‥‥教えて貰えますか?」
おずおずと告げれば直ぐ傍に居たおばあちゃんが笑顔で頷く。
「まだまだ小さいのに頑張るのねぇ、将来はきっと立派なお嫁さんになるわよ」
なんだか孫が出来たみたいで嬉しいわ、とおばあちゃんはスイに手際良く料理の方法を教え始めた。
スープが出来上がるまでの間、ディランとミリア、フィムスの3人はおじいちゃん達の話し相手にされていたりしたが、3人ともそれなりに会話を楽しめたらしい。
特にミリアは熱心に相手の話を訊いていたようだ。
暫ししてスイの「できたよー!」という声が村に響き渡り、スープが器によそられ、アロが皆へと配る。
他にも少し多目に取れたキノコはソテーにされたりして皆へと振舞われた。
ディランはスープを一口飲み「美味いな」と呟くように言葉を漏らした。
味付けは簡素なものであったが、あっさりした野菜のスープに取れたてキノコの風味が混ざりあい野趣溢れる秋の味だ。
大量のスクリーマーを必死で狩ったという事により、思いいれがひとしおだったというのもあるが、それを差し引いても美味い、と彼は思ったようだ。
食事が終わるとフィムスがオカリナを手に告げる。
「折角ですので1曲演奏しますね」
「村の晩餐」と名づけられた曲が冷たく澄んだ夜空へと響き渡る。
夜はこれから冷え込んでいくが、冒険者達と、村人達の心には今日の事が温かい思い出として残り続ける事だろう。