顔無き名無しの
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 97 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月30日〜07月03日
リプレイ公開日:2006年07月06日
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●オープニング
いけないよ。
月夜の晩に会った女の顔を見ては。
顔を盗られてしまうよ。
命と名前までもが盗られて。
そんな噂が一部の人々の間で流れていていた。
今日もギルドには依頼が飛び込んでくる。
モンスター退治のような深刻なものから、逃げ出した猫を集めてください、というようなちょっとしたものまで。
その中に、奇妙な依頼があった。
それは――。
「護衛を‥‥お願いできませんか?」
眠っていないのか目を赤く充血させ、大分やつれた印象の20代前半の男性が、やっとの事で立っている、という状態でギルドの受付へとやってきていた。
彼は自らをラクシスと名乗った。
ギルドの係員は彼に肩を貸しながら話を聞く。
「最近‥‥僕の友人達が、月が出た夜に友人達が、1人1人、殺されているのです。しかも、全員顔を剥ぎ取られて」
その猟奇的な様子を思い出したのか、ラクシスは身震いする。
「顔を剥ぎ取られて‥‥というと最近時々聞く噂みたいな感じですかね」
係員の言葉にラクシスはそうです、とうなずく。
「前の新月の夜を過ぎてから、男女関係なく、僕の友人達が。残っているのは、僕と恋人だけです‥‥そして、昨日他の友人と恋人の3人で外出した際に、丁度、それに遭ってしまったのです‥‥」
どういう事なのか、と問う係員に彼は答えた。
「目の前で、友人が殺されたのです。そして‥‥『次はお前の番だ』と‥‥! 慌てて逃げだしたのですが、恐ろしくて、あれから眠る事が出来なくなって‥‥!!」
心あたりはないのかと更に係員が問うが、ラクシスは何もないと主張する。
なにか不審な様子を感じ取った係員は更に問う。
「本当に? ‥‥分からない部分があると、あなたを救えない可能性もありますよ?」
係員の言葉を聞き、彼は考える。
そして‥‥。
「あの‥‥新月の夜には、僕の双子の兄が外出していたのですが、僕の友人達と酔った拍子に‥‥その、あまり大きな声ではいえないようなことをしたようで‥‥」
大きな声ではいえないような事?
「女性に、暴行をしたらしいのです‥‥翌日、女性の遺体が川に浮かんだと聞いて‥‥そのとき女性の顔には大きなやけどの跡があったそうなのです。兄は『自分は何もしていない。殺してもいないし、怪我も負わせてはいない』とは言っていましたが‥‥それ以上は語らずにキャメロットから逃げるように出て行きました」
つまり、その兄と間違えて自分が狙われている、という事なのだろうか? 相手は死んでいるはずだし、レイスか何かだろうか? と係員は首を捻る。
それにしてはおかしな部分もあるのだが。
所詮噂でしかないものの、ここいらで聞く話によれば、人を殺して顔をはがす殺人鬼の目撃証言はバラついている。
曰く、髪の長さが違う、色が違う、服装が違う、小柄な女だった、いや大柄だった、等。
「それで、相手の姿は見ましたか?」
分かる範囲だけでも情報を聞き出そうと、係員はラクシスに話しかける。
「一瞬だけ姿を見ましたが‥‥長い髪をした、女のようでした‥‥ただ、顔が‥‥」
顔が? と問いかける係員に、彼は続ける。
「顔が、なかったのです」
●リプレイ本文
●顔無き者は日中に探され
日中のキャメロット。
一見したところ街はいつも通りの平和な営みを送っている。
「月が出た夜に友人達が殺されている、でござるか。 時々聞く噂みたいでござるが‥‥」
御堂康祐(eb5417)の言葉にオルロック・サンズヒート(eb2020)は顎に手を当て、ううむと唸った。
「モンスターの類が起こす事件にしては、回りくどいのぅ」
「それにラクシスは兄が犯罪をしたからと言い張ってこそいるが、本当にそれだけだろうか?」
メアリー・ペドリング(eb3630)も疑問点を出す。
「‥‥実は弟さんがお兄さんで‥‥なんてな、冗談じゃ」
クラリス・ロイス(eb4710)がぼそりと言った言葉に、そういう事もあるかもしれぬとメアリーは頷いた。
ラクシスの不審な点を含め、裏を取るために一同は動いていた。
「とりあえず‥‥噂とか聞いてみようよ」
ストレー(eb5103)が言うと、デフィル・ノチセフ(eb0072)も同行を申し出る。
「拙者はメアリー殿と、無残な死を遂げたという女性のことを調べてくるでござるよ」
御堂とメアリーは雑踏の中へと歩み去った。
「さてと、わしらも行くかのぅ」
ラクシスの身辺も含め、色々調べなければな、とクラリスが歩みを進める。
聞き込みは開始された。
その頃。
アシュレイ・クルースニク(eb5288)はラクシス達に作戦の全容を伝えていた。
「申し訳ないのですが、ラクシスさんと恋人の方には囮役をしていただきます」
その言葉にラクシスとその恋人は顔をあわせ、震える声でアシュレイに聞き返す。
「失敗したら‥‥僕達はどうなるのですか?」
アシュレイは笑顔を見せると、はっきりと言い切った。
「私達はあなた方を護るためにいるのですよ。安心してください。さて‥‥私は迎え撃つに相応しい場所を探しに行きますね」
ラクシスを安心させるように、肩を軽く叩くと彼は外へと出かけていった。
●顔無き者は夕闇に語られ
「月夜の晩に会った女に顔をはがされて殺されるって噂、知ってるか?」
デフィルは自称事情通のおじさんに話しかけていた。
「ああ、知ってるよ。何しろ小柄な女だって言うじゃないか‥‥と、あんたがその女じゃないだろうな?」
少し引いたように見える相手。
確かにデフィルは小柄な女性である。
「別の人のが‥‥いいんじゃないかな」
ストレーは口数少なくデフィルに声をかける。
情報を引き出せないのを確信するとデフィルとストレーは他の人へと向かう。
噂はあまりに多様をだった。
曰く、深夜になると現れる。
曰く、月に雲がかかっているだけでも現れない。
曰く、長い髪をした女であった。
目撃証言は多数あれども、思いのほか素早く逃げるため、周囲があっけに取られている隙の犯行であるらしい。
ナイフを持ち、相手の喉笛を切り裂き、顔を剥ぎ取る。いや、実際にはこそぎ取る。
それが毎度の犯行パターンであるという話であった。
「でも、見た目が随分ばらついているな」
デフィルが首をかしげる。
髪が長かった、というのは全員共通しているのだが、体格に差があるのだ。
だが、そんな彼女に対し、ストレーはきっぱりと言い切った。
「俺ができることを‥‥するだけだよ‥‥人を‥‥なんて許せないしね‥‥」
その瞳には決意の色が浮かんでいた。
メアリーと御堂は2人で集めた情報を整理していた。
「ラクシスは恋人との関係も良好、少し気弱な性格、暴行などするようなタイプではない‥‥ただ、兄についてはどうも素行不良な部分があったようだな」
「無残に顔を焼かれて死んだ女性にはどうやら姉と恋人がいるようでござるな‥‥その他には家族はいないようでござる」
御堂はメアリーに話しかけつつ、女性の住んでいた自宅の場所を調べその家へと向かった。
戸を叩くと中から長い髪の女性が顔をだしたが、御堂とメアリーを見ると警戒の色を見せた。
知らない人に話す事はもうありません、と彼女は言うと、扉を閉めようとする。
「少し話を聞かせて欲しい!」
メアリーが必死で声をかけ、御堂が扉を開けようとするが、それは1人の男性に遮られた。
女性の恋人だった人物、らしい。
「俺達は散々な目にあったんだ。大切な人を失い、その後も周囲から好奇の目にさらされた‥‥これ以上、関わらないでくれないか?」
物悲しげな声に、御堂とメアリーも強制は出来なかった。
扉を目の前で閉じられ、これ以上話し合う事は不可能だろう、と2人は判断した。
オルロックとクラリスはアシュレイと合流し、相手をおびき寄せる場所を決めていた。
「味方が潜める場所があり、囮役の周囲にはある程度の見晴らしの聞く所‥‥じゃな」
「ああ、小さな公園がありますね。ここが良いのではないですか?」
オルロックとアシュレイの言葉にクラリスも頷く。
そこは多少茂みがあるが、見晴らしはいい。
公園の中央付近にラクシス達を立たせ、自分達は茂みに隠れれば大丈夫だろう。
場所は決まった。あとは一同が合流し、相手を叩く。
それだけだった。
●顔無き者は宵闇に踊る
空には雲ひとつなく、白く輝く月が昇り始めたところだった。
ラクシスとその恋人に、昼間見つけた公園へと向かわせ、ストレー、デフィル、オルロック、メアリー、御堂は茂みに隠れた。
アシュレイはラクシスの友人の振りをして彼らに同行し、クラリスは少し離れたところから追跡する。
オルロックはインフラビジョンを使い、赤外線視覚を得る。
見たところ、ラクシスとその恋人の体温に異常はない。
夜とは言え月は明るく周囲を照らしだし、ラクシス達の足元に影を作る。
彼らが、公園に着くや否や長い髪をした何者かがかなりの勢いでラクシスに走り寄る!
一同は一瞬あっけに取られたものの、アシュレイがラクシス達の前に立ちはだかり、御堂が駆けつけ、凶刃が振り下ろされる前に相手の首筋へと手刀を叩き込む。
「きゃぁっ!」
という小さな悲鳴をあげ、相手はその場にくずおれた。
女性だ。
「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花‥‥でござる」
相手が人間である事に気づき、御堂が呟く。
「正体は一体何だろう‥‥顔くらい‥‥見ておきたいね‥‥」
ストレーも女性へと近寄り、起こそうとする。
倒れた女性の正体を確かめようとした瞬間、御堂の視界の端で何かが動いた。
宵闇に煌く白刃。
気づけばラクシスの後ろに1人の長い髪をした男が立っていた。
その顔は白く、鼻も口もない。
ラクシスに突きつけられた刃はヘタに動けばためらいなく彼の喉を切り裂くだろう。
「‥‥なるほど、証言がばらついていると思ったら、別人が同一人物であるかのように見せかけていたんじゃな」
双子が入れ替わる、というだけではなくこういう事もあったか、とクラリスは呻く。
ストレーは間近に倒れている女性を見る。
こちらも長い髪をし、鼻も口もない。
その姿は確かに顔無き者であった。
「お前達もあいつらの仲間か。ならばまとめて‥‥殺してやるッ!」
長い髪の男はラクシスを殴り、気絶させると手近にいたアシュレイへと踊りかかる。
慌ててストレーが放った矢が男の顔にあたり、ぼろり、と何かが崩れ落ちた。
それは――白い仮面。
仮面の下から現れた顔は‥‥死んだ女性の家にいた、あの男。
見覚えのある顔にメアリーは声を張り上げ叫ぶ。
「貴殿も大切なものを奪われたのだろう? ならばこれ以上同じ思いをする者を増やすのは止めるのだ!」
「奪われたから奪いかえすんだ! 例えそれが許されない事であったとしても!」
デフィルがバーニングソードを使い、アシュレイの短刀に炎の力を付与する。
男がアシュレイへとナイフを振りおろし、アシュレイの短刀と男のナイフが鋭い音を立て、打ち合わされる。
「法が裁かぬから自分が裁く‥‥その善悪を問うつもりは無いでござる。しかし、それを許したら社会が乱れてしまうのでござるよ!」
「法! 社会! 知った事か! 人の安全すら守れないような社会など乱れればいい!」
御堂が呼びかけならがも、相手を殺さぬようスタンアタックを狙っていくが中々近寄れない。
男が僅かにラクシスとその恋人から離れたのを見計らい、クラリスがアイスコフィンでラクシス達2人を氷に閉じ込める。
動く事は出来ないが、敵の攻撃から身を守る盾の代わりになるだろう。
「何故そこまで相手を殺す事に執着するのですか! 正体を現しなさい!」
アシュレイは鍔迫り合いをしつつ叫ぶ。
「大事な者を殺された。故に殺し返す。それを決めたときに俺は名も顔も捨てた! 関わる者は全て‥‥殲滅するッ!」
ガキン! と鋭い音がして、アシュレイがはじかれる。
思いのほか力が強い。
そして、相手の思いは歪んではいるものの‥‥芯が通っているもの事実だった。
曲げることはできない。
ならば‥‥。
「俺の目の前で人を殺されてたまるか‥‥絶対‥‥倒すよ‥‥!」
ストレーが意を決し、矢を放つ。
矢があたったと思われた瞬間‥‥気絶していたはずの女が男の前に飛び出す。
矢は、女に当たり、思いのほかの深手を与えた。
「――!!」
男の慟哭が夜の市街地に響き渡った。
●顔無き者は暁に消ゆ
「結局、殺人鬼は恋人を殺された男と、殺された女性の姉、だったのですね」
昇ってきたばかりの朝日に照らされながらアシュレイが呟く。
「なんでこんな事になったんじゃろうな」
クラリスは残念そうに、ある墓の前に佇んでいた。
あの後、深手を負った女性と、男はその場で自害をした。
再び大切なものを無くす悲しみを抱えるくらいなら、と言い残して。
果たして、これも愛と呼べるのじゃろうかと、長い時を生きてきたオルロックも考える。
「もし何かあったとしても、ラクシスはさんはそんな事はしないでくれ」
デフィルの言葉にラクシスとその恋人が頷く。
そして今日も、キャメロットの街はいつも通りの日々を営みはじめる。
その片隅に悲しみを埋めたまま。