予後
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:小倉純一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 97 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月12日〜07月15日
リプレイ公開日:2006年07月18日
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●オープニング
苦しそうに呼吸をする彼。
もうどれだけの間、身を起こす事もできず、こうして苦しんでいるのだろうか。
何度も薬を与えて、何度も奇跡に縋って。
しかし目だった効果は表れなかった。
だが。
救わねばならない。
長年にわたり、自分を支え続けてくれた、我が親愛なる友を。
経過があまりにもよくないとはいえ、救う方法がないわけではない。
だから‥‥できる限りの事はしようと思った。
「えーと、薬草が必要なのですか‥‥しかも早急に、と」
係員は相手の話を聞きつつ羊皮紙にメモを取る。
薬草なら近隣にいくらでも生えていますから、それで問題ないのですよね? という係員に依頼人はこう言った。
「いや、ある特定のモノが必要なんだ」
彼が話すところによると、どうもその薬草、特定の病気にのみ効き目があるが、あまり生えていないものであるという。
「ふむふむ。それで他には?」
「周りに近寄ると叫ぶ毒々しい色をした巨大なキノコが生えている」
「近寄ると叫ぶ‥‥と。え? 叫ぶ?」
依頼人は肯く。
「以前近くに入り込んだがすごい勢いで叫ばれてな‥‥その声を聞いてか、体格がちょっといいゴブリンっぽいモンスターが急に集まってきて、命からがら逃げ出したよ」
ああ、スクリーマーか。と係員は納得する。
成程、アレが生えていてモンスターが襲ってくるのでは普通の人には手に入れるのは大変かもしれない。
他にも依頼人の話によると、近くの木には緑色のカビも大量に生えていたそうだ。
カビとキノコに阻まれ、目当ての薬草は手に入れられなかった、というわけだ。
「で、目当ての薬草はどんな感じなんですか?」
「ぱっと見は綺麗な小さな白い花なんだ。ただ、必要なのはその花の部分だけではなく、根っこの部分なので、掘り出して持ってきて欲しい。ついでに死体に根付くから、掘り出すとちょっと怖い事もあるかもな。それと‥‥」
依頼人は少し言いづらそうに続ける。
「その、薬草が必要な人物は、今体調がとても悪いんだ。できるだけ早く、持ってきてくれ。少しでも早く、救ってやりたいから‥‥そして、すまないが、この薬草が取れたら直接この家に持ってきて欲しいんだ」
彼は家の場所が載っている地図を渡すと話をしめた。
●リプレイ本文
●苦痛の淵から
ひゅう、という苦しげな音とともに、息が吐き出された。
冒険者達の前に居るのは、依頼人の友人。
不安げに見守る依頼人に冒険者達は話を聞いていた。
ここはキャメロットにある1軒のごく普通の家。
依頼人は多少の苛立ちと焦りを抑えつつ、冒険者達の質問に答える。
「‥‥何を話せばいい」
彼の言葉にシルヴィア・クロスロード(eb3671)とユウナ・レフォード(ea6796)は多少慌てる。
「目的の花の形状と、毒カビ、叫ぶ茸の見分けかたを教えてもらえませんか?」
「それとカビと茸の生えていた場所を教えて欲しいんです」
2人の言葉にはっとしたように依頼人は顔を上げた。
慌てすぎて細かい事を話していなかったかと、彼は大雑把にだが説明を行う。
「あと、体格がちょっといいゴブリンってどんなのだ?」
南雲要(ea5832)が質問をするが、どうにも要領を得ない。
普通のゴブリンよりも体格がよく、大柄な姿だったと依頼人は主張をした。
ホブゴブリンか? と南雲は考える。
「急いでくれ。この通りだ。このままではコイツは死んでしまう‥‥!」
依頼人は悲痛に叫ぶ。
彼の集めた薬草に関する資料を読んでいたキッシュ・カーラネーミ(eb0606)が微笑むと言った。
「あなたすごく健気じゃない♪ いいわよ、そういうことなら一肌脱ぐわ。任せなさい」
顔を上げた彼の前に居たユウナも、やれる限り頑張ってみましょうと微笑む。
「俺がどこまで出来るかわからないけど‥‥急がないと‥‥ね‥‥」
ストレー(eb5103)もどこかたどたどしくだが自らの意思を宣言する。
彼らは目撃情報を手に茸とカビの配置を調べ始めた。
イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)は市場で口元を覆えるサイズの布を全員分用意していた。
これを濡らし、カビを防ぐ、というわけだ。
彼女はギルドへ向かい、先輩冒険者に茸とカビの特徴を聞く。
一緒に居たアシュレイ・クルースニク(eb5288)は日が次第に高くなってきたのを見て、急がねばなりませんね、と呟いた。
「回り道にはなるけれども、しっかり調べて行動しなければ、全員の命が危機に晒されるからね」
イレクトラはアシュレイの言葉に頷きつつもそう言った。
リディア・フィールエッツ(eb5367)は馬に乗ってキャメロットから少し離れた場所に居た。
他のメンバーよりも先行し、森の様子を調べるのが彼女の狙いだ。
「友達思いの人だから‥‥なんとかしてあげたいな」
彼女は依頼人の事を思い出し、小さく呟くとそのまま森の中へと入る。
うっすらと漂うカビの臭いに、口元に布を宛がうと、注意深く様子を伺う。
少し離れたところに毒々しい極彩色の大きな茸が現れた。
「こっちからまわれば数が少ないから通れるかな‥‥?」
数は少ないが完全に通れるというほどでもない。
経路を考えているうちに彼女は遠くに白い花が咲いているのを目撃した。
●昼なお暗いその森で
翌昼。
冒険者達は例の森の側で全員が落ち合った。
腐葉土とカビの臭いが入り混じったその場所は、文明から酷く離れた場所のように思われた。
依頼人の言っていた『体格のいいゴブリン』の姿はない。
「凄い森だ‥‥蝦夷にも‥‥こんな森はないよ‥‥」
その荒廃した様子にストレーが出身国にあった森を思い出す。
しかし蝦夷の森はこんな悪意に満ちてはいなかった。
「‥‥一刻も早く薬草を取って届けなくては」
シルヴィアが昼尚暗い森の奥を見据え、呟く。
「さて、こっから先は要注意地帯、気をつけていこうか」
南雲は全員へと声をかける。
全員が頷き、イレクトラの用意した布を濡らしいつでも口に当てられるように用意をする。
あらかじめシルヴィアとユウナが調べておいた分布図とリディアが実際に見た光景をあわせ、移動先を決める。
しかし。
それでも毒々しい色をした茸が生えており、入りこもうとすれば叫ばれるのは確実であった。
その周囲の木には緑色をしたカビもしっかりと生えている。
「聞いた話によると、3m以内に近寄ると叫ばれるという事さね」
集めておいた情報を皆に伝えるイレクトラ。
「二手に分かれましょう」
アシュレイが一言声をかけ、予定していた進行ルートから外れたところにある茸を叫ばせるため、愛刀を持ち茸へと近寄る。
ゴブリンをこちらに引き寄せるのが目的だ。
イレクトラが言ったとおり3m近寄った瞬間に凄まじい絶叫が響き渡った。
がさがさと音がし、物陰から体格のいいゴブリン――南雲の予想通りホブゴブリンであった――が数体現れる。
「こいつらを‥‥引き寄せておかなきゃね‥‥」
ストレーとイレクトラが弓を構える。
「行くぜ…風裂く剣、三式・飛燕!!」
南雲が裂帛の気合を込め、手近な茸を吹き飛ばす。
「急ぐわよ!」
キッシュが口元を布で覆い、薬草を目指しカビが生えている場所を突っ切ろうとしたが、目の前には茸が立ちふさがる。
3m以上はなれたところからアイスコフィンを撃ち、茸が叫ばないようにし、その隙にリディアとシルヴィア、ユウナが先に進んだ。
ストレーがホブゴブリンの喉を狙い、矢を放つ。
ゴブリンよりは多少装甲が厚いとはいえ、弱点であろう部分を射抜かれたホブゴブリンは苦しそうに暴れる。
更にイレクトラが同じ部位を狙い撃つ。
ホブゴブリンは絶命しその場へと倒れる。
それを見たほかのホブゴブリン達は手にもった武器を我武者羅に振り回す。
手近な茸にホブゴブリンが近寄りそうになったのをみて、アシュレイはコアギュレイトを発動させる。
ホブゴブリンの1体が動きを止めた。
しかし振り回された武器により、緑の毒カビがもわり、と宙に舞う。
胞子を吸い込まぬように皆がそろって濡れた布で口元を押さえる。
冒険者達は吸い込まずに済んだものの、うっかり吸い込み倒れるホブゴブリンもいる。
こちらとて、気をつけねばタダではすまない。
だが、布は胞子を防ぐ事もできるが、水で濡らしてある以上呼吸も遮る。
ホブゴブリン達が動けなくなったのを見ると、彼らはその場を一時離脱し、先行した4名を追う事にした。
●白く可憐なその花は
キッシュが時折アイスコフィンを撃ち、茸やカビの動きを封じつつ4人は先へと進んでいた。
偶然にも樹の隙間から太陽光が差し込み、その場所には美しい白く可憐な花が1輪咲いている。
「きっと、あれだと思います」
「依頼人が言っていた通りですね」
リディアの言葉にシルヴィアもうなずく。
シルヴィアは依頼人に問いただしたときの事を思い出し、花の特徴を一致したのを確認する。
「それじゃ、掘り出し‥‥あたしそーいうのダメだから」
その場所に埋まっている物を想像し、キッシュは一歩あとずさる。
依頼人の話によれば、この花の下にあるものは――死体。
キッシュは周囲を警戒する事にして、ユウナが掘り始める。
暫く掘って出てきたものは‥‥人骨。
しかしその全体にはみっしりと細かい根が張り、まるで人体がそのまま腐る事なく埋められていたかのようであった。
心臓があったと思われる部分には丸い球根のようなものが出来ており、それが薬となる事を依頼人からは知らされていた。
丁寧に人骨の部分を取り除き、球根と、陸上にその姿を現していた花を採取する。
誘導部隊がうまくやってくれているためか、こちらにホブゴブリンが来る様子はない。
シルヴィアは1人ささやかに名も無き死者への黙祷を捧げる。
「ユウナさん、お願い!」
その顔を土に汚れさせながら採取した植物をユウナへと渡すリディア。
ユウナはそれを受け取り、フライングブルームを持つと念じる。
彼女の身体はふわりと宙に浮き、キャメロットに向かい飛んでいく。
それを見送った直後、ホブゴブリンを撃退していた4名も合流する。
「間に合え‥‥間に合ってくれ‥‥!」
ストレーの小さな叫び。
一同はキャメロットへと帰還する事にした。
――助かる事を必死に祈りながら。
フライングブルームの速度は思いのほか速かった。
いや、少しでも早く依頼人の友の苦しみをやわらげたいという思いが、フライングブルームにいつも以上の速度を出させている気がした。
キャメロットの依頼人が居る家へとたどり着いたユウナは疲労していたものの、その身に鞭打ち依頼人へと植物を渡す。
「もって、来ました‥‥!」
彼女の持った薬草を見て、依頼人は僅かに涙をこぼす。
「ありがとう‥‥これで助かるかもしれない‥‥!」
彼の言葉に何か危機的なものを感じたのか、ユウナは僅かに慌てる。
「何か、手伝える事はありますか?」
「いや、他の冒険者達も戻ってきていないようだし、中で休んでいてくれ」
家の中へと招かれたユウナは様々な処置が目前で行われるのをただ眺めるしかなかった。
●苦痛の淵から――再び
冒険者達は無事キャメロットへと帰ってきた。
全力でやった、だから間に合う、助かるのだと信じながら。
はやる気持ちを押さえ、依頼人の居る家へと向かう。
ノックをし、扉を開けると沈鬱とした雰囲気が漂っていた。
依頼人の友人は相変わらず苦しげに呼吸をする。
「そろそろ、薬草の効果が出る頃なんだ‥‥」
依頼人の言葉に一同が息を呑む。
そして‥‥呼吸が、止まった。
「そんな‥‥まさか!?」
リディアの口から悲痛な言葉が漏れる。
だが。
一瞬間を置き、彼は大きく呼吸をし、うっすらと目を開いた。
生きて、いる。
「そこの‥‥人たちは?」
彼は囁くような声で言う。
「お前を助けてくれた人達だ」
依頼人は涙を流し、冒険者達に礼をいう。
その様子にイレクトラが微笑み、キッシュが嬉しげに話しかける。
「お友達が元気になったら、ギルド宛てでもいーから、二人で報告しに来てよ?」
「ああ、勿論だ‥‥!」
依頼人は力強くうなずく。
彼の友人の予後は快方に向かい、2人は肩をならべ、キッシュとの約束を守るべくギルドへ足を運んだという。