創作料理? 和洋折衷?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:小倉純一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:07月17日〜07月20日
リプレイ公開日:2006年07月20日
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●オープニング
それはある晴れた日の午後のことだった。
ジャパンに憧れを持つ好事家アルーゴ氏26歳独身男性は膝の上に黒猫を乗せたまま、紅茶をすすりながら近くにいたメイドへと話しかけた。
「たまにはジャパンの料理を食べてみたいものだなぁ」
また始まったか、とメイドは眉1つ動かさずに答えた。
「しかしご主人様、ジャパンの食材は月道経由でしか輸入できない事もあって、殆ど貴族の方々が買われてしまいます」
我々ではそう簡単には手にはいりません。と彼女は少し厳しく言う。
それはこれまで何度もアルーゴとメイドの間で交わされた会話であった。
「そうだねぇ‥‥でも、ジャパンの料理の作り方さえわかれば、創意工夫でイギリスの食材でもなんとかなるんじゃないかと私は思うんだけれどね」
普段ならば「ごごごごめんなさい言ってみただけです」などとキョドりながら侘びを入れてくるのだがこの日は違った。
普段の斜め15度くらい上を行く回答にメイドは少し悩む。
主人の命令なら仕方がない。
だが一番の問題は‥‥。
「私はジャパンの料理の作り方は分からないのですが‥‥」
確かにジャパン出身者でなければ料理の仕方なども分からないだろう。
「うん、それなんだけれどね。ジャパン出身の人に手伝ってもらって作ってみればいいと思うんだよね。スシっていう料理があって、それはどうやら炊いた米に酢で味をつけて一口よりちょっと大きめのサイズ握って、上に同じ位のサイズに切った魚を乗せるらしいんだ。それなら簡単そうだから私達でも出来そうなんだよね。本来ジャパンでは‥‥」
アルーゴは延々とジャパンの『スシ』に関する知識を披露し始める。
危険だ。
こうなってしまうと誰にも止められない。
「それで、どうするのですか?」
誰に作り方を教わるのか、材料をどうやって調達するのか。
そういった意味も込めてメイドは主人へと質問をする。
「‥‥昔は酢を使わず発酵するに任せて後になってから‥‥ん? ああ、冒険者の人に手伝ってもらおうかなと。ああいう人なら見識も広いだろうし。パーティーみたいなのを開いて、んで皆でつくって食べてみようかと。ついでにオスイモノっていうスープがあるらしいからつくってみたいんだよね」
まだ蘊蓄は止まっていなかったらしい。
「さきほどのお話を伺った限りですと、醸造酢が必要そうですが‥‥」
「醸造酢がなければ果実酢を使えばいいよ」
「あと、米も必要そうですよね?」
「米がなければ麦を使ってみるのも手だろう?」
「醤を手に入れるのも必要そうですが」
「何の為に岩塩があるんだ。塩気なんて岩塩で十分だ」
「‥‥‥‥‥‥」
黙り込んだメイドを見てへらりと笑いアルーゴは言った。
「それに、もうギルドにはお願いしてきちゃったからね」
今日のアルーゴはメイドの考えの斜め45度上をキリモミ回転していた。
無駄な行動力に乾杯。
●リプレイ本文
●材料ゲット‥‥の前に。
「確かに、イギリスにある物で近いもの出来たらいつでも食べれますものね」
エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)は何時の間にやらジャパン風の服を着ている。
依頼人のアルーゴはそんな彼女に見とれ、鼻の下をのばしていた。
‥‥なんか沖鷹又三郎(ea5928)が少しムッとしている様子。空気読め、アルーゴ。
コホン、と1つ咳払いをすると沖鷹は言う。
「拙者もジャパン料理を家族に食べさせたいので研究するでござる」
そうですねと一生懸命頷くアルーゴ。
流石にこちらに見とれることはないが、彼の発言には酷く感銘を受けた様子。
何せ沖鷹は料理人。しかもジャパンの人。
ジャパンにあこがれてしかも料理が食べたい彼にはとても憧れの人なのである。料理目当てか。
「え〜と‥‥は、花嫁修行も兼ねて参加しました、サクヤです。宜しくお願いします」
全員の前で少し照れながら話すサクヤ・クロウリー(eb5505)
「恋人さんはいらっしゃるのですかッ!??」
アルーゴ、もう喋るな。
「私も花嫁修業です♪」
フィーネ・オレアリス(eb3529)の言葉にアルーゴが目を輝かせる。
だが、彼女の次の言葉に彼は膝をつき、へこむ事となる。
「こっ、今回は大好きな旦那さまのためにお料理の勉強をさせてもらいますね♪」
旦那様いるんだー‥‥と項垂れるアルーゴ26歳独身。
「今回はメイドじゃなくって、女将さんでいっくよ〜!」
こちらもジャパン風の服に身を包んだティズ・ティン(ea7694)
自分用の調理器具セットを持っているあたりがとても頼もしい。
そんな中ユウナ・レフォード(ea6796)はそっと喋った。
「私の料理の腕はダメダメで家庭料理の一つも作れないので‥‥でも『器』に関しては、足を棒にしてでも探し尽くしますよ!」
彼女の生業は好事家。アルーゴと一緒である。
‥‥ちょっと対抗意識を燃やしたかもしれない。アルーゴが。
「‥‥でも、ジャパンの『お寿司』を創作料理で作るのには限度があるのですわぁ」
ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)の一言で、正気に戻り膝を抱えて丸まるアルーゴ。
「い、いやでもやってみなければわかりませんぞ」
アドムン・ジェトルメン(eb2673)が必死で彼を元気付ける。
あ、立ち上がった。
「それじゃあ食材集め、行ってみましょうか!」
ヘンなポーズで格好つけつつ冒険者に向かって叫ぶアルーゴだった。
●材料ゲット!
フィーネはキャメロットの比較的近くにある漁村へとやってきていた。
目当ては海苔と新鮮な魚、だ。
彼女が手に入れたのは、どろりとしたペースト状の海苔。
これを乾燥させたら確かにジャパンの海苔風になるかもしれない。
「あとは、お魚ですね」
彼女は色々な魚を見て、どれを買うべきか吟味する。
漁村であるだけに、結構良い魚を手に入れる事ができた。
「さて、あとはキャメロットに戻って料理の仕込みですわ♪」
彼女は楽しそうにペットのグリフォンへと乗り、帰る準備をした。
「うーん、絵が入ってない、白く焼き上げられた器が欲しいんですが‥‥」
イマイチ気にいったものがないのか、ためつすがめつしながら器を見て歩くユウナ。
料理はあまり自信がない。しかし、料理は味だけではなく、見た目にも拘るべきだと彼女は思ったらしい。
「華美な装飾を廃した、その上で丁寧な仕事のモノが有ればいいんですけど‥‥」
ジャパン風の食器、しかもなるべく上質なものとなると、中々いいものが見つからない。
ユウナは自らの鑑定眼を信じ、探し続けた。
沖鷹に料理の作り方を教わったエヴァーグリーンはアドムン、ヴァンアーブルとともに市場を見て歩いていた。
「穀物は‥‥大麦、小麦位であろうか? あと‥‥ジャパンでは海草からダシなるものを取っているようだが」
アドムンの言葉にエヴァーグリーンも頷く。
「小魚や海草はフィーネさんが取ってきてくれるでしょうし‥‥私達は山のものを集めましょうか」
卵や肉、麦などを見繕う。
ヴァンアーブルはフルーツを少し買ってきていた。
「ヴァンアーブル殿‥‥それは何に使うのであるか?」
アドムンは不思議そうに首を捻る。
デザートを作るのだろうか? と考えた彼にヴァンアーブルは耳打ちする。
「ジャパンの『お寿司』を創作料理で作るのには限度があるのですわぁ。だから‥‥」
それを一緒に聞いたエヴァーグリーンも、面白い趣向だと思います、と返事をした。
サーモンが切り開かれ、綺麗なオレンジ色を見せた。
ティズが見事な手さばきでサーモンを切り開いているのだ。
サクヤは大麦と酢の相性を確かめつつ酢飯と似た味が出るものがないか試している。
その後ろでは沖鷹がジャパンの豆腐を作り、さらには白身魚をすり身にし、塩をつなぎにして蒸しかまぼこを作る。
「ジャパン食でござれば寿司に拘らずともと思うでござる」
アルーゴの、とにかくジャパンの料理を食べてみたいという雰囲気を感じ取った沖鷹は色々作ってみようと思ったらしい。
「今日はまだ下準備‥‥と。大麦、こんな感じでジャパンのご飯っぽくなるかな‥‥」
炊いた麦を口に含む沖鷹とティズ。
「‥‥やっぱりジャパンのご飯とはちょっと違うね」
「‥‥で、ござるな。でもこの程度なら許容範囲だと思うのでござるよ」
ただ、少し粘り気が足りないという事で、小麦粉を練り、米粒大にしたものを混ぜて炊く事で米のような食感を出すようにする事に決めた。
●愛があればだいじょーぶ(多分)
ある意味でこの日は決戦の日だった。
ジャパンの料理スシ、そしてオスイモノなどをイギリスの食材で作る――それはある意味でヘタなドラゴンと戦うより難しい‥‥かもしれない。
沖鷹の包丁が輝き、軽快な音を立て食材を刻む。
エヴァーグリーンがそれを手伝い、卵焼きを作ったり、手馴れた様子で海老をからりと揚げ、ジャパンで言う天麩羅を作っていく。
ティズの手元からはなにやら白い湯気が出ており、手元にある大きな鍋でロブスターを茹でていた。
和服を身に付けたフィーネは先日用意しておいた、魚をペースト状にしたものを焼いている。
「愛がありますもの♪」
そういう彼女の発言が危険に思えるのはきっと額の必勝鉢巻のせいに違いない。
昨日とってきた海苔は多少乾燥が足りないせいか、ジャパンの海苔のようにはならなかった。
「拙者に任せるでござる」
そういうと沖鷹はフィーネの持つ湿気た海苔を火であぶる。
磯の香りを僅かに漂わせつつ海苔はきちんと乾燥し、寿司に使えそうなものとなった。
フィーネはそれを受け取ると麦飯を海苔の上に広げ、更に先ほど焼いていたものをのせ、海苔で巻き込む。
サクヤはイギリス人の口に合うように、スシのネタになる魚を薄く切ってフライにしてみたり、様々な工夫をする。
オスイモノにも一工夫。僅かに塩気を効かせた上でオニオンスライスを入れてみたのだ。
作成中に一口味見。
「うん、これなら大丈夫そうですね」
彼女は笑顔で頷く。
その横で必死で器を探してきたユウナが盛り付けをしていく。
審美眼はこんなところにも生かされていた。
ヴァンアーブルは創作料理を作っていた。
更に彼女は料理が出来ないらしい。その時点で彼女はジャパンの料理を再現するのは諦めていた。
「アドムンさん、手伝ってくださいですわ」
アドムンの手を借り、用意したパン生地に2人でクリームを塗り、切ったフルーツを鏤める。
パンの外側には焼き色をつけ、アドムンと力をあわせて巻く。
完成‥‥らしい。
●愛があったからだいじょーぶ
家主にもかかわらず何故か家の外へ追い出されていたアルーゴに声がかかった。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
ティズが女将の様にアルーゴを家へと招き入れる。
彼女の言葉に何か凄い勢いで照れるアルーゴ。
テーブルの上にはユウナとアドムンの手で綺麗に盛り付けられ、飾られた料理の数々が‥‥。
彼が希望していたスシ、オスイモノをはじめ、天麩羅、だし巻き卵。
更にオスイモノにいたっては数種類用意されている。
スシは創作料理っぽいものまで含め複数。
どれも綺麗な出来だ。
「すすす素晴らしいです!」
感動のあまり涙を流すアルーゴ。ちょっと鼻水出てる。
ユウナの用意した器もシンプルなデザインで、ジャパンのイメージがしっかり活かされていた。
それを見て取ったらしいアルーゴはちょっとだけライバル心を燃やしたらしい。
何せ好事家だから。
「それじゃあ、皆さんで頂きましょうか」
一斉にあがる頂きますの声。
「これはおいしいですな」
アドムンがスシを頬張りながら言う。
ユウナも器の選択が上手くいった事も含め、嬉しそうだ。
フィーネが笑顔でオスイモノを飲む。
「いつかは、代替品でない材料でオスシを作ってみたいものですね」
ぽそりと言ったサクヤの言葉にアルーゴも頷く。
「でも、皆で苦労した甲斐はありましたよね、うん」
エヴァーグリーンも何かを納得したように言う。
一通り口にした後、ヴァンアーブルが何かを持ってアルーゴの方へと飛んできた。
手に持っているのは‥‥彼女の創作料理
「お寿司ではないけれど、誰でも簡単に作れるし、キャメロット人にあった味付けならばそれが『お寿司』なのですわ」
「斬新な発想の物にこれは参考になるでござる」
沖鷹はこれはこれで関心したらしい。
アルーゴはそれを頬張りながらへらりと笑い、言った。
「ジャパン限定じゃなくても、料理は愛がこもっていればおいしいものですね。皆さんの努力と愛情、受け取りましたよ」
当たり前の事かもしれないが、それは大切な事だと思う冒険者達であった。
「というわけで、またつくってください」
「何ぃッ!??」
だってレシピがないんだもん、と呟くアルーゴにドスの効いた総ツッコミが入る。
「ごごごごめんなさいッ!!」
アルーゴの裏声の悲鳴がキャメロットに響き渡った。
南無。