しふーるになりたい。

■ショートシナリオ&プロモート


担当:小倉純一

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月15日〜08月18日

リプレイ公開日:2006年08月22日

●オープニング

 それはある昼下がり。
 ギルドの係員は退屈そうに空を眺めていた。
「ねぇねぇ、おじちゃん」
 足元から、小さな女の子の声がする。
 見るとそこには、くまのぬいぐるみを抱えた、年齢が1桁くらいの人間の少女がいた。
 何をしに来たのだろう、と不思議に思いつつも、係員は彼女に話を聞く。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「あたしはね、ユニっていうの。それからこっちはポポン」
 彼女は手に持っていたくまのぬいぐるみの名前も紹介してくれた。
「それで、ギルドに何のご用時なのかな?」
 係員に向かい、彼女は笑顔ではっきりといった。
「あのね、私、シフールさんになりたいの。だからね、冒険者のシフールさんから色々お話を聞きたいの! いつか、私の背中から羽が生えて、立派なシフールさんになるの! それでね、お空を飛ぶの!」
 はぁ、と係員はあいまいな返事をする。
「いまはね、蛹なの。でもいつか立派なシフールさんになるの。だからね、色々お話聞きたいの!!」
 地団駄を踏みそうな勢いだった。
 人間はシフールになれない。
 そんな当たり前の事を言っても、彼女は納得しないだろう。
「お家のお父さんとお母さんは、どういっているのかな?」
 係員の言葉に彼女は寂しそうな顔をする。
「人間がシフールになれるわけがないだろう!! って怒られたの‥‥だから、ポポンと一緒にお家出てきちゃった。今はポポンだけがお友達なの。あのねあのね! ポポンの傷をなおしてあげたこともあるんだよ! 針と糸で! すごいでしょ!!」
 子供特有の論理の飛躍。
 しかし、いやな顔でもしようものなら彼女はきっと泣き出すだろう。
「お裁縫が得意なんだね‥‥すごいねぇ」
 係員は必死で褒める。褒めながらも、必死で考えをめぐらす。
 どうしたら彼女を納得させられるだろうか。
 考えは1つしかなかった。
「じゃあ、シフールの皆に、色々聞いてみようか。きっと色んな話を聞かせてくれるよ」
 係員は満面の笑顔で彼女に話しかける。
 
 まだ文字も大して読めないだろうと踏んだ係員は、彼女を騙す事に僅かな申し訳なさを感じつつ、羊皮紙に依頼内容を書き込み、掲示板へと貼り付けた。
『ユニにシフールになる以外にも様々な生き方が出来る事を教えてあげてください。また、自宅へと送り届けてあげてください。報酬は私が自腹で払います』

●今回の参加者

 ea0255 ハボリュム・フォルネウス(51歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea7996 ソール・ロヴン(27歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb5926 フルーティ・フール(33歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●彼女の暴走
 少女ユニの前には甘い菓子と果汁が用意されていた。
 フルーティ・フール(eb5926)が自腹を切って用意したものであるらしい。
 彼女はうきうきと話しかけてくる。
「それで、おにーちゃんたちが私にシフールさんになる方法を教えてくれる人なの?」
 彼女の言葉にソール・ロヴン(ea7996)が尋ね返す。
「しふーるになりたいのでぇす〜?」
 ユニは間髪いれずに更に答える。
「うん!」
「何で、そんなにシフールになりたいんだ? 俺に聞かせてくれないか?」
 アザート・イヲ・マズナ(eb2628)は淡々と話しかける。
(「俺があの位の頃は‥‥」)
 ユニを見て、アザートは夢を持つ事すら許されなかった自らの過去を思い出し、僅かに‥‥ほんの僅かに顔を歪めた。
 普通なら気づかない程度の歪め方。
 だが、ユニは気づいた。
「おにーちゃん、どこか痛いの? それともご病気?」
 心配するユニに、なんとも無い、とアザートは言い切る。
 更にメアリー・ペドリング(eb3630)もユニへと話しかけた。
「私は生まれた時からシフールゆえ、他人がシフールになりたがる理由は純粋に興味がある」
 そんな様を見て、ユニはにこにこと微笑んだ。
「あのねあのね、私、お空飛びたいの。シフールさんになれば何処までも飛んでいけるでしょう? それに、シフールさんの羽、綺麗だし、ちっちゃくてかわいいし‥‥」
(「‥‥大体言ってる事はわかりますが‥‥一応、何が言いたいのか正確に知っておく必要がありそうですね」)
 言葉の通じないものでも意思疎通ができる事ですし、きっと効果があるはず、とフルーティはユニに向かってテレパシーを使う。
 発動の瞬間、彼は銀色の淡い光に包まれた‥‥そこまでは良かった。
「あー、おにーちゃん銀色で綺麗ー! シフールさんだからそういう事できるの?」
 ギクリとするフルーティ。
 その瞬間、その場にいた一同が明らかな危険を感じた。
「わーい! 綺麗! 綺麗!! 綺麗!!!」
 ユニは激しくはしゃぐ。とにかく暴れる。
 こぼれる果汁、そして飛び散る菓子の欠片。
 ‥‥勿論、本人には一切悪気は、ない。
 なだめるのにしばしの時間がかかったという。

●彼女の自宅
「ここがユニの家か‥‥」
 住宅街にある比較的立派な家の前でハボリュム・フォルネウス(ea0255)は足を止めた。
 ドアをノックすると30代前後の女性がその姿を現した。
 ユニの母親らしい。
「あの、どちら様でございますか‥‥?」
 母親はハボリュムを不審そうに見る。
 ハボリュムはギルドで受けた依頼の話を一通り行う。
 それを聞くと母親は大きなため息を付き、肩を落とした。
「あの子はまたそんな事を言って他所の方に迷惑をかけているのですね‥‥今すぐ連れ帰りますので、何処にいるのか教えてもらえませんか? 夫が帰ってきたらユニには厳しく言い聞かせておきますから」
(「生活状況は悪くはない‥‥がどうやら家庭が厳しすぎて夢見がちになったようだな」)
 家庭環境によってユニの夢見がちな性格がつくられた、と彼はユニの母親の様子を見てそう判断した。
「まあ、待ってもらえるか? 俺もこれでも色んな経験をしてきている。娘さんの説得、俺達に任せてくれないか?」
 報酬はギルドから貰っているし、きちんと最後までやらせてくれという彼の言葉にユニの母親はしぶしぶ頷いた。

●彼女の説得
 ハボリュムが仲間のもとについた時、ユニは既に落ち着いた後であった。
 疲労しながらもフルーティが自分の体験したシフールの苦労話をしており、それに興味を持ったのか、ユニは大人しくしている。
「‥‥で、小さいからという事で酒場で席についているのに気づかれなくて他の人に座られた事もあるのですよ。他にも‥‥以前飛んでいたら正面を見ずに歩いていた人間の方がいましてね、その人が口を開けて歩いていたせいでうっかりその人の口に入りそうになった事もあるりますし‥‥」
 フルーティは面白おかしく語り、そして最後に言った。
「人の方が便利な事もありますよ? さっき話したような目にあう事がないですからね」
 一通り聞いたあと、ユニは暫く考える。
「う〜ん。確かに人の方が便利かもだけれども、私やっぱりシフールさんってステキだと思うの」
 決意の固さに、じゃあ、とフルーティはユニに耳打ちする。
「これは秘密なんだけど、シフールに変身するには物凄い苦労を重ねないと出来ない。おとーさん達はユニさんにそんな苦労をして欲しくないからなれるわけ無いと否定するのです。だから本当にシフールになりたいのならば誰にも知られずに影でたくさん努力せねばなりませんよ?」
「それでもユニはシフールさんになりたいのー!!」
 わしり、とフルーティが捕まれそうになった瞬間、ソールがユニに話しかけた。
「きいてほしいのでぇす〜」
 ユニの意識がソールの方へとそれた瞬間、フルーティはひらりと飛び、逃げ出す。
 ソールは話を続ける。
「私は、生まれた時からしふーるなのでぇす〜。だから〜、人間からしふーるになる方法知らないのでぇす〜」
 凍りつく空気。
 涙目になるユニ。
「でも、空を飛ぶなら、何かの魔法で飛べたりするかもなのでぇす〜♪ 一生賢明勉強すれば、魔法使いにならなれると思うのでぇす〜♪」
 さっきフルーティさんが綺麗に光ってたのも魔法の一部なのでぇす〜♪ と、ソールは続けた。
 それにならぶようにしてアザートは頷く。
「魔法使いの中には、空を飛ぶ力、想像したものに変身する力、そういったものを持つ者もいると聞く‥‥空を飛べる魔法のアイテムも希少ながらあると聞いた」
「ホント?」
 ユニは既に半泣きだ。
「ああ、本当だ」
 アザートの言葉に、ユニは安心したように微笑む‥‥しかし数分後、ユニは、どうやったら魔法使いになれるんだろう? と言い出した。
「ユニ殿。これを見て欲しい」
 メアリーはユニに呼びかけると、水の入った器に油を流し込む。
 何をやるのだろう? とユニは興味を持ってそれを眺めていた。
 油は流し込んだだけではもちろん水と混ざりあう事はない。
「いくらかき混ぜても、このように混ざり合わないものというものはあるのだ‥‥だが‥‥」
 錬金術の知識がある彼女は、持っていた物質を流し込む。
 ユニの見ている前でそれまで油が浮き、キラキラと輝いていた水面は白く濁り、油と水は混ざり合う。
「貴殿が手段を考えたことは正しいが、その手段よりももっと良い手段がある可能性がある。今の説明でいうなら、今の貴殿は油と水をかき混ぜている状態かも知れぬ。だから‥‥一緒にもっと良い手段を探さぬか?」
 それまで黙っていたハボリュムもユニが持っていたくまのぬいぐるみを軽く撫で、出来る限りの笑顔を見せる。
「お裁縫が得意なのだし、そっち方面に進んだらどうだい? 魔法使いを目指すにしても、そこから色々勉強して、できる事があるかもしれない」
 メアリーの行った実演にびっくりしていた彼女だが、ハボリュムを見上げ、満面の笑顔を浮かべる。
「うん! おじちゃん、ありがとう。私頑張るね!」
「ユニさんが進むべき方向を見つけた記念に、とりあえず、踊ります〜♪」
 ソールがくるくると空中で回転しながら踊る。
 それにあわせフルーティは持っていた竪琴を奏でる。
 もっと踊ります〜♪ もっともっと、踊ります〜♪ という言葉とともにどんどん速度を上げていく。
 仕舞いには彼女は目を回してしまい、アザートが介抱する事となった。
 ユニは笑顔でぱちぱちと手を打ちあわせ、大喜びしていた。
 ハボリュムは実家においてきた息子のことをなんとなく思い出す。
 もしかしたら、案外息子も途方も無い夢を持ってそれに向かい頑張っているのかもしれない、と彼は僅かに思った。

●彼女の努力
 日が落ちかけ、空が赤く染まり始めた頃、冒険者達はユニを自宅へと送っていく事にした。
 ユニはアザートとハボリュムの手を離さなかった。
「ユニさん、頑張るのでぇす〜」
 ソールの言葉にユニは深呼吸をすると大きく頷く。
 冒険者達とユニは1つの決め事をしていた。
 それは『両親にはきちんとなりたいものの話をする』という事。
 勿論冒険者達もフォローはする。
 しかし自分で言う事も大事だろう。
「お父さん、お母さん、ただいま‥‥」
 ユニは恐る恐る家の奥に向かって声を投げかける。
「何をしていたんだ! また馬鹿な事を言って他所の人に迷惑をかけていたそうじゃないか!」
 父親が怒鳴りながら家の奥から出てきた。
 冒険者達の姿を認めた母親もそれに続き言う。
「本当にすみません。この子にはきちんと言って聞かせま‥‥」
 母親がそこまで言ったときの事だった。
「ユニ、お勉強したい!!」
 渾身の力を込めた叫びに、両親はあっけに取られた。
「まずは、得意なお裁縫からでもいいの。それから色々な事をお勉強して、将来魔法使いさんになりたいの」
 涙目になりながらユニは訴える。
「子供の夢を否定するだけでなく、ともに考えてあげることも大切ではないか?」
 メアリーのその言葉に両親ははっとした様子で顔を上げる。
「子供は考えていくことで成長する。それを受け止めてあげることが親としての態度ではなかろうか?」
「それに、まだまだユニには夢を叶えるだけの時間があるはずだ」
 アザートも口添えをする。
「そうかも‥‥しれんな」
 父親は小さくそう呟く。
 それは、小さな夢が一歩を踏み出した証拠だった。

「私が立派になったら、一緒に冒険してね!」
 夕闇に冒険者達を見送りつつ、ユニは手を振っていた。
 冒険者達もそれを見て手を振り返す。
 彼女は別れを惜しみはしたが、暴れたりはしなかった。
 そして、いつの間にか、彼女の夢は、魔法使いになり冒険者達とともに冒険をする事へと切り替わっていた。
 きっと、冒険者達が必死で自分へと接してくれた事が嬉しかったのだろう。

 今回の件で、ユニは大きく成長したはずだ。