【聖夜祭】あの人に愛を込めて
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■イベントシナリオ
担当:小椋 杏
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月21日
リプレイ公開日:2008年12月25日
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●オープニング
そろそろと寒さが足元から忍び寄る季節になった。
たまには遊びに行ってもいいかしら? とシフール便を送ってよこした友人、レイファ・メナンシードに、彼女――リナリアーチェ・フォロッドは快く返事をして。
「やっぱりこの時期は、お屋敷から出るものじゃないわね?」
返事を受け取った翌日、早速とばかりにやって来たレイファ。
「そうかしら? わたくしは冬も好きですわ」
窓の外を眺めつつ応じるリナリアーチェ。
共に貴族の娘である。
年頃の娘が顔を合わせれば、口に出るのは恋の話――と相場が決まっているかどうかは定かではないが、二人もやはりそんなお年頃。メイドが運んできたお茶を口にして、先に話を振ったのはメイファだった。
「ねえリナ、知ってる?」
「――何を?」
「今、あちこちで話題になってる『クリスマス』のこと」
リナリアーチェは頷いた。
「大変な話題ですものね。街を歩けば必ずその話題に行き当たる――と聞きましたわ」
何でもウルティム・ダレス・フロルデン子爵のお屋敷で、ある天界人の提案により、大々的なパーティが催されるとか。それを念頭に置いて、リナリアーチェは言ったのだが。
「そうそう。それでね――」
レイファがにこり、と笑みを見せる。こういう表情をするときのレイファは、ちょっと油断ならない――ということが、近頃になって漸くリナリアーチェにも解ってきた。
「贈り物をするんですって」
「――贈り物?」
「そうなの。恋人同士が、お互いに相手への愛を込めて」
――どこで拾ってきた情報なのか、実に楽しそうな笑顔でレイファは。
「もちろん、乗るわよね? こういうイベントに乗らない手はないわよ〜」
きょとんとしているリナリアーチェに、レイファは追い討ちをかける。
「リナだって立派な恋人同士だもんね? リュートと」
途端に、見る間に耳まで赤く染まったリナリアーチェだった。
結局。
レイファに押し切られる形で「リュートへのクリスマスの贈り物」を買いに行くことにしたリナリアーチェだったが、実際、これまで男性への贈り物など買ったことなどないリナリアーチェは、どのようなものを選べばよいものか、皆目見当もつかず。そこでレイファが提案する。
「いろんな冒険者がいるんですもの。きっと恋も百戦錬磨な方がいらっしゃるに違いないわ♪」
と、そんな訳で――。
恋愛初心者・リナリアーチェのお買い物に付き合ってくれる人を探すべく、冒険者ギルドへと足を運ぶレイファだった。訳も解らず付き添うリュート・テトルサナス(メナンシード家騎士見習い)の横顔を盗み見て「この幸せ者め」と内心で呟きつつ。
●リプレイ本文
買い物に付き合ってくれる冒険者たちを待つレイファ・メナンシードとリナリアーチェ・フォロッド。楽しそうにうきうきとした様子のレイファに対し、心なしかリナリアーチェの表情は硬い。
「‥‥リナ? どうかして?」
問われてリナリアーチェはぶんぶんと首を振る。
「いいえ、何でもありませんの。ただちょっと――」
緊張して、と続けようとしたとき。
「1ヶ月振りですね、レイファ殿」
エリーシャ・メロウ(eb4333)がそう声をかけ、騎士の礼をした。
「初めまして、リナリアーチェ殿。成る程、貴女がリュート殿の‥‥。失礼、申し遅れました。私はトルク家が騎士エリーシャ・メロウと申します」
エリーシャの挨拶にレイファが意味ありげに笑う。それを横目にリナリアーチェも優雅に礼を返した。
「こちらこそ初めまして。リナリアーチェ・フォロッドと申します。今日はお付き合いいただいて嬉しく思いますわ」
「さてさて、お買い物ですね〜、予算の中でがっつり買いましょう。ふっふっふ、消費行動を活性化させ、経済効果の増加を狙うことこそが地球におけるクリスマスの真の意義。それをウィルで実施することはすなわち、ウィルの経済活性化を促す絶好の機会です!」
信者福袋(eb4064)の、拳を握り締めての天界人らしいコメントに、リナリアーチェは驚いたように瞳をぱちくりとさせた。
「さあ、れっつ買い物!」
彼女の反応を意に介した様子もなく信者が言い、それを合図にしたように一行は歩き出した。
「プレゼントをあげるというのは自分の気持ちを伝えるのと相手に喜んでもらうの両方だからね、それを一番に考えないと」
言いながらアシュレー・ウォルサム(ea0244)がリナリアーチェに言う。真剣な面持ちで頷く彼女は、彼が隠し持っているデジタルカメラに気がついた様子はなかった。アシュレーがデジカメを隠し持っている理由は‥‥また後ほど。
「プレゼントで考えるのは、相手の趣味・好きな事・大事な物に関係する物かな? もし、それらの情報があまり無いのならば、レイファ嬢経由で、それとなく尋ねるとか」
続いてリール・アルシャス(eb4402)が言った。
「見習いのリュート殿へ贈る品を騎士として助言させて頂くなら、新しいマントやマント留め、手綱といった騎士に相応しい品なら、恋人からという『私』だけでなく騎士たる『公』としての喜びも得られ、また常に身につける事でより一層精進する拠り所となるかもしれません」
さらに口を開いたのはエリーシャ。次々に出てくるアドバイスに、リナリアーチェは深刻に考え始めた様子。
「それなら、その彼のイニシャルを刺繍するとか紋章の図柄に因む意匠の品はどーぉ?」
ラマーデ・エムイ(ec1984)が言うと、彼女はますます難しい表情になった。それに拍車をかけたのは、信者のアドバイスだった。
「何を買えばいいか、それは相手と自分の距離感を考えればいいのですよ。相手とまだそれほど親密ではなかったり、相手に負担をかけさせまいとする場合、花やお菓子、名産品のような消耗品がよろしいかと存じます。それが相手との距離感を詰めていくにつれ、インテリアや宝飾品など形に残るものにして、相手に対して自分の印象を強めていくわけです」
「まあ、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない? とりあえず見ただけで思い出してくれるような装飾品なんかどうだろうね?」
アシュレーが気楽な様子で言った。それを受けてレイファが言う。
「とにかくいろいろ見て回りましょう。悩むのはそれからでも遅くはないでしょ」
力強く手を引かれ、レイファに従うリナリアーチェだった。
あちらのお店を覗いたり、こちらの露店を冷やかしたり――と、真剣に悩みつつあれこれ見て回るリナリアーチェとレイファの様子を見守りつつ、それぞれに気になった品物を手に取ったり眺めたりする冒険者たち。誰に贈るつもりなのか、髪飾りや香水、絹の手袋などを物色するアシュレー。中でも気に入ったものを次々に購入している模様です。
「見ていて気持ちがいい買いっぷりね。さ、私たちも負けていられなくてよ」
どんな対抗意識なのか、レイファの瞳には赤い炎が見えるようだった。
「んー、こうして一緒に買い物してると昔を思い出すわね、エリりん♪ あの頃は『ラマおねーちゃん』っていつもあたしの後をついて来て‥‥」
当時を懐かしむような目をするラマーデに、エリーシャは僅かに俯いて。
「ラマーデ殿、その呼び方と昔の話は‥‥‥‥‥‥(恥/////)」
相当恥ずかしがっている様子。
辺りの店を一通り眺めたところで、レイファの発案で近くの料理店で昼食を取り、少し休むことにした。食事を終えてデザートを突付きつつ、レイファがため息をつく。
「なかなか難しいものね。殿方への贈り物って」
まるで自分が恋人への贈り物を選んでいるような彼女の発言に、一同は思わず苦笑した。
「ぴんと来るものがないのであれば、手作りの物も良いのでは? 材料を購入して、どなたかに教わり、お菓子を作るなど」
リールが真剣に助言する。それにやはり真剣に頷くリナリアーチェ。
「そうですわね――。それもいいかもしれませんわね」
その様子を見ながら、アシュレーが呟く。
「まあ、私をプレz――」
リールががたがたと椅子を鳴らし立ち上がると、慌てた様子でアシュレーを店の隅に連行した。なにやら小声で諭されて(?)いるようだが――。
「あの‥‥アシュレー様は何を仰りたかったのでしょう?」
一人リナリアーチェだけが、不思議そうに首を傾げたのだった。
「まあまあ――それよりも、皆さんは今回のイベントには乗らないのかしら?」
そう水を向けるレイファに。
「いえ、私は騎士の務めに忙しく恋愛どころではありませんので」
真面目な様子で答えるエリーシャと。
「あたし? まだ勉強の方が楽しいから、恋人云々って気にはならないのよねー」
あっけらかんと朗らかに答えるラマーデに。
「そう。案外冒険者ってつまらないのね?」
とレイファが応じた。彼女の中では何かの認識が激しく間違っているような――。そんな女性陣の楽しげとも言える会話を耳にしつつ、信者は静かに茶を飲んでいる。
やがてアシュレーに何事かを言い含めたリールと、それにめげた様子もないアシュレーが戻って来た。
「で。何を買うのか決まったの、リナ?」
「――――――」
なにやらまだ悩んでいる様子のリナリアーチェに、リールが言った。
「自分の場合、最終的には、心を込めた物であれば、何でも嬉しいと思うな。それを選んでいる所や作っている所を想像したりして‥‥」
心に期するものがあるのか、その言葉には説得力があった。
「そう――ですわね。レイファ、もう一度見てみたいものがあるのだけど。いいかしら?」
「もちろん。喜んで付き合うわ。そろそろ出ましょうか?」
再びお店巡り。見てみたいものがある――と力強く宣言した割には、やはり決めかねているリナリアーチェと、それに根気よく付き合うレイファ。冒険者たちも辺りで思い思いに買い物を始めた。近くにあった菓子店に入り、焼き菓子や飴、干し果物を物色するリールは、ふと背中に視線を感じて振り返った。
「‥‥どういうつもり?」
慌てて何かを隠したアシュレーに気がついたリールは、思わずきつい口調でそう尋ねていた。
「いや‥‥別に――」
「‥‥‥‥‥‥大体何を考えているかは想像がつくが、意味はないと思うけど?」
そう言いながらリールは楽しげにお菓子の物色を続ける。やがて彼女は木の実が入った焼き菓子を袋に詰め、リボンをあしらったものを、まとめて十ほど店主に注文した。
「‥‥そんなお菓子ばっかり買って、どうするのさ?」
「友人に配るんです」
リールの答えに心なしかがっかりしたようなアシュレー。せっかく隠し撮りの用意までしていたのに、どうやら空振りに終わったようで。
(「あの方へのプレゼントはもう用意したのだが――それでよかったみたいだな」)
アシュレーの背中を見ながら、内心でそう呟いたリールだった。
「へええ。こんなお店、初めて入ったよ」
騎士御用達――との評判らしい服飾品を扱う店に入り、ラマーデは感心したように呟いた。辺りには立派なマントや意匠を凝らしたマント留め、上質の手綱など、一人前の騎士ならば身につけていて当然と思われる品々が行儀よく並んでいる。エリーシャの視線を辿って、ラマーデは小さくくすりと笑った。
(「マント留めかぁ。おねーちゃんからエリりんにクリスマスの贈り物にしようかな☆」)
そんなことを考えていると、同じ店にレイファとリナリアーチェ、護衛を兼ねて彼女たちに付き添っていた信者が、連れ立って入ってきた。
「やっぱりこういうものがいいと思う?」
レイファに問われたエリーシャは、そうですね、と静かに頷く。それを聞いてリナリアーチェが軽く咳払いをして。
「それでは――こちらをいただけますでしょうか?」
そう言って彼女が示したのは、一組の革の手袋だった。それを袋に詰めてもらい店を出たところで、たまらずラマーデが尋ねる。好奇心に溢れた眼差しを向けつつ。
「――で、他にも何か買ったの?」
「絹のハンカチを――。それに、わたくしが彼のイニシャルを刺繍しようかと」
「それはきっと、喜ばれるでしょう」
エリーシャも頷いた。
買い物が済んで夕方。
一日付き合ってくれた冒険者たちに、リナリアーチェが丁寧に礼を述べた。
「いろいろとありがとうございました。おかげ様で贈り物も購入できましたし――」
「あとは渡すだけ、ね?」
レイファが口を挟むと、リナリアーチェはやはり見る間に赤くなった。
「幸運を祈る!」
別れ際に力強く言ったリールに、しっかりと頷いて見せたリナリアーチェだった。遠くなる後姿はうきうきと楽しげで、それだけで気分が明るくなるような――。
贈られる人だけではなく、贈る人も嬉しくなれる――。
それが「贈り物」の本質――なのかもしれない。