●リプレイ本文
天界人・彩鈴かえでの発案により始まったクリスマスパーティ。冒険者ギルドを通じて集まった冒険者たちが手伝いに奔走し、ウルティム・ダレス・フロルデン子爵邸から聞こえるのは、詰め掛けた人々の楽しげな歓声。先程始まったダンスの音楽は、夜風に乗って軽やかに辺りに響いている――。
盛り沢山のイベントをほぼ一人で取り仕切るのは、司会進行役の信者福袋(eb4064)。
信者はパーティでのプレゼント交換として、天界ではスタンダードな、音楽に合わせて全員のプレゼントをリレーしていき、適当なところで音楽を止め、その時手にしていたプレゼントをもらう――というものを密かに想定していたのだが、何しろここはアトランティス。そもそも天界風のクリスマスパーティが開かれること自体が初めてということで、参加者の多くはプレゼントなど用意しているはずもなく。
「それではここで、パーティへの参加者の皆さまへ、プレゼントと参りましょう!」
結局、太っ腹なスポンサー・ウルティムに、発起人であるかえでが頼んで用意したプレゼントを、ミニスカサンタ衣装に身を包んだスタッフが配る、という形になったのだった。プレゼント交換――という意味ではやや盛り上がりに欠けるが、それも仕方のないこと――と自分に言い聞かせ、司会進行に全精力を傾ける信者。いやはや、立候補してのこととは言え、彼の尽力がなければパーティがこれほど盛り上がることはなかったでしょう。
子どもたちに対しては、サンタの衣装に身を包んだアシュレー・ウォルサム(ea0244)がプレゼントを配って歩いた。彼の思惑としては、サンタの衣装に身を包み、ソリを空飛ぶ絨毯に乗せて鈴をつけたグリフォンに引かせて、しゃんしゃんしゃんと鈴を鳴らしながら空からファンタスティックに登場する――予定だったのだが。
こちらもまた、アトランティスでは馴染みがなかったためか、子どもたちが騒ぎ出して思うような演出とは行かなかった。それでも何とか無事にプレゼントを配り終え、その上ささやかなプレゼントを受け取り、アシュレーは満足だった。その足で今度は会場のあちこちでパーティを楽しんでいる友人たちへ、プレゼントを配って歩く。
「メリークリスマス!! プレゼントを届けにきたよ」
――という言葉を添えて。
*
ダンスパーティの会場にて。
見事にドレスアップしたリール・アルシャス(eb4402)は、会場のそこかしこで友人を掴まえては先日用意したお菓子を「プレゼント」として手渡していた。一通り渡し終え、さらにもう一人の友人を探してきょろきょろとあたりを見回す。忙しそうに動き回る赤い衣装の友人を見つけ、急いで歩み寄った。
「ここだったのか! これ、受け取って欲しいのだが。日頃のお礼だ」
そう言ってお菓子の包みを差し出す。差し出しながら、リールは尋ねていた。
「それにしても‥‥その格好は?」
「サンタだよ。サンタ。んじゃ俺からも、メリークリスマス!!」
リールの差し出した包みを受け取りつつ、アシュレーは言いながらぱっと小さな布袋を渡した。
「じゃ、忙しいから!!」
そう言い残してあっという間に行ってしまった。包みを解いてみると、中からは銀の髪飾り。それを手にしたまま、リールは小さく呟く。
「‥‥これじゃ、お礼にならないではないか――」
既に遠くなった背中に、思わず笑みがこぼれた。そんな彼女の肩をぽん、と叩いたのは、先日依頼を通じて知り合った貴族の娘、レイファ・メナンシード。
「別人かと思いましたわ。あまりにお綺麗で」
「レイファ殿――。本日はリナリアーチェ嬢は‥‥?」
問われてレイファはくすりと笑った。
「ここには来ていないわ、残念だけど」
「では、プレゼントは――」
「それならご心配なく。ちゃあんと渡していたわよ? 何なら、彼に聞いてみる?」
レイファがちらりと視線を投げた先にいたのは、今夜は彼女の護衛として付き添っているリュート・テトルサナス。盛装した立ち姿だけ見れば、立派な青年である。
「本当はこういう場でリュートとリナを躍らせてあげたかったんだけど、リナのお父様は厳しい方でね。どこの誰がやってくるかも解らない――得体の知れないパーティなぞには行かせられない――って、そういう訳なの。リュートはダンスはまだまだだから、下手をすると私、今夜は壁の花になりそうよ」
そう言った先から知人らしい男性にダンスのお誘いを受けたレイファは、それじゃあ、と手をひらひらさせてホールの中央へと歩いて行ったのだった。
*
その頃、珍獣屋敷の面する通りでは――
「あちらは確かフロルデン子爵の屋敷‥‥? やけに賑やかな‥‥」
そう小さく呟いたのはエリーシャ・メロウ(eb4333)。所用で近くを通りかかったのだが、その賑やかさに惹かれるようについ立ち止まり、屋敷に視線を送る。
(「ああ。天界のクリスマスという祭りを祝うのは今日でしたか」)
屋敷を眺めつつ、先日のことをふと思い出す。真剣な面持ちで想い人への贈り物を選んでいた貴族の娘――。
(「――となると、今頃はリナリアーチェ殿からリュート殿に贈り物がされている頃でしょうね‥‥。ん――?」)
屋敷から出てきた人影に、見覚えがあった。
「あれは――ラマーデ殿‥‥と、ギエーリ殿、ミーティア殿――?」
にこにこと笑顔を浮かべてエリーシャに歩み寄ったのは、彼女とは縁深いラマーデ・エムイ(ec1984)、ギエーリ・タンデ(ec4600)、ミーティア・サラト(ec5004)の三人だった。
「あ、居た居た。やっほ〜、エリり〜ん! やっと見つけたわ」
手を振りながらラマーデが言った。
「パーティには参加しないの? 楽しいよ♪」
「ええ、まあ‥‥。抜けられない用事がありまして」
――イムン分国の貴族の屋敷が会場なので、おいそれと近寄る気にならなかった――という本音を隠し、エリーシャは言葉を濁した。代々仕えるトルク分国とは長年の宿敵であり自身も隔意を抱いている、ということをわざわざ告げて、楽しげな雰囲気を壊すこともなかろう――との思いもあった。
「そっか‥‥。なら仕方ないね」
無理に誘おうとしないあたり、ラマーデもエリーシャの気持ちを察しているのかもしれなかった。なにやら荷物をごそごそと探りながら。
「えっとね。はい、コレ。あたしからのクリスマスプレゼント」
言いながらラマーデが差し出したものを、エリーシャはおずおずと受け取った。
「私に、クリスマスの贈り物?」
「こないだの子達は恋人同士が贈り物をする日って言ってたけど、天界の人に聞いたら仲の良い友達とか家族からも普通に贈るんだって。だからおねーちゃんからエリりんに☆」
にこにこと人懐こい笑顔を浮かべるラマーデと、手に乗ったプレゼントを交互に見比べつつ、エリーシャが呟く。
「いやしかし‥‥成る程、そうだったのですか。――開けてみても?」
後半はもちろん、ラマーデへの問いである。
「これは‥‥」
中から出てきたのは、メロウ家の紋章、翼のあるライオンをかたどったマント留めだった。
「エリりんに似合うと思って。うふふ、喜んでくれたらそれだけでおねーちゃんは嬉しいの☆」
「買い物に同行した時に私が言った事を覚えていてくれたのですね‥‥。ありがとうございます、大切にしますね、ラマーデ殿‥‥‥‥その、ラマ姉さん(照/////)」
そんな二人のやり取りを嬉しそうに見つめるギエーリとミーティアの後ろから、サンタ衣装のアシュレーがぬっと顔を出した。
「こんなところで何やってるのさ? 会場に入れば?」
「いえ、私は所用があります故、ここで」
「ふ〜ん。それじゃあ、これも持って帰ってよ」
アシュレーがぽんと放ったものを、エリーシャが受け取る。プロテクションリングだった。
「メリークリスマス!」
それだけ言うと、アシュレーは「ああ忙しい忙しい――」と口にしながら去っていく。思わずその後姿をぽかんと見送る四人だった。
*
エリーシャを見送り、会場へと戻ってから、しみじみとギエーリが言った。
「エリーシャさんに喜んで頂けて良かったですねぇ」
「うん」
子どものように無邪気に頷いたラマーデに、さらにギエーリが続ける。
「それでは此方は、僕からラマーデお嬢さんへのクリスマスプレゼントです。クリスマスというお祭りで贈り物をする事をラマーデお嬢さんからお聞きして、ミーティアさんと示し合わせてみたのですよ」
「はい、これは私からラマちゃんへのクリスマスプレゼントね。この前ラマちゃんがエリーシャさんと一緒にプレゼントを選ぶ手伝いをしたって聞いた後、ギエーリさんと相談してみたのよね。ふふ、驚いたかしらね?」
二人からのプレゼントを手に、きょとんとして立ち尽くすラマーデ。
「――って、え? ギエーリとミー先輩からあたしにくれるの?」
自分が貰う事は思いつきもしなかったらしい。
「えぇ、お嬢さんが図面を引くのに描き易いよう、ペン先の良いものを探した羽根ペンです。喜んで頂ければ幸いですよ」
「私からは髪を飾るリボンね。ラマちゃんったら、可愛いのにいつも自分のお洒落には無頓着なんだものね。はい、結んであげるわね」
ミーティアにリボンを結んでもらって、ラマーデの笑みはますます大きくなって。
「わーい、2人とも大好きよ♪」
二人に抱きついたラマーデだった。
「はいは〜〜〜〜い、邪魔してごめんよ〜」
そこに割って入ったのは、またしてもアシュレー。
「こちらの皆さんにも、メリークリスマス!」
そう言ってアシュレーは、ラマーデにファー・マフラー、ギエーリにさえずりの蜜、そしてミーティアに工具箱[電気]をほいほいほい、っと手渡すと、またしても風のように去っていくのだった。‥‥お忙しい中いろんな方にプレゼントを用意しているあたり、かなりの気配り上手ですね、アシュレーさん。
*
盛況のうちにパーティも終わり、賑やかだった珍獣屋敷も急に静かになり、寂しいくらいだった。
「お疲れさん」
司会進行役としてパーティの間中ほぼ喋り通しで、疲れきって椅子に座っていた信者に声をかけたのは、やはりパーティの間中、あちこち飛び回って落ち着く暇もなかったアシュレーだった。
「ああ、アシュレー様。貴方こそお疲れ様でした」
笑顔でそう応じるも、その疲れは隠しようがなかった。
「はい、メリークリスマス」
そんな信者に、アシュレーから差し出されたのは、高級葉巻。
「やや――、これはこれは。私にまでプレゼントがいただけるとは、夢にも思いませんでした。遠慮なくいただきますよ」
信者はそれを受け取って、今し方まで大勢の客で賑わっていた会場から、窓外に目を向けた。ひらひらと静かに、雪が舞い降りている。
「素晴らしいパーティでしたね」
クリスマス振興はウィルの経済活性化という野望のため――と公言し続けてきた信者だったが、その言葉以上に、盛況だったパーティに満足しているようだった。
「そうだね。皆楽しそうだったし」
スタッフとして大活躍だったのは、アシュレーとて同じことである。彼もまた満足そうに、そっと降る雪を見ていた。
「‥‥最後にもう一仕事――ですね」
「――ああ。まあ――よろしく」
二人は自然と握手を交わしていた。
会場確保から始まった、この「天界風クリスマスパーティ」全般に関わってきたアシュレーと信者。ささやかながらの「お疲れ様会」のあとには、撤収作業が待っている。
あともう少しだけ、【聖夜祭】は続くのだった――。