祭壇への道を復旧せよ
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■ショートシナリオ
担当:小椋 杏
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月10日〜02月17日
リプレイ公開日:2009年02月18日
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●オープニング
その森の奥には、大変美しい湖があった。
湖の畔には季節折々の花が咲き、蝶が舞い、森では小鳥が囀り――、かつては高名な画家が風光明媚なその光景を絵筆にて見事に描ききったと言う。
湖からは清水が滾々と湧き出で川を為し、流域に住む全てを豊かに潤している。川の流域に沿うように人々が移り住み、いくつかの集落ができ、やがて農業が行われ――どの集落でも実りは豊かで、次第に人が増えた。下流域の開けた平野には大きな街さえ出来るほどだった。
枯れることのない清水と、豊かな実りをもたらすその湖には、いつの頃からか水精霊が棲んでいるに違いない――と考えられるようになった。あれほど美しい湖なのだから間違いない、実際に水精霊を見た――と興奮気味に話す者も幾人か現れた。
さて、その川の流域でも最も上流――つまり最も湖に近い集落に、古い時代から連綿と受け継がれてきた因習があった。月霊祭が無事終わった頃に、湖の畔に設えた祭壇に捧げ物をし、水精霊を祀る、というものである。豊かな清水が絶えることのないように――との思いを込め、水精霊を祀るのである。だからその集落では、今頃は祭壇の清掃や捧げ物となる香木を集めるのに余念がない、はずであった。――例年の通りならば。
年が改まってからと言うもの、どういうわけか、やたらと雨が降るのだ。土砂降りのように強く降るときもあれば、霧のような細かい雨のときもある。強さはまちまちだったものの、とにかく、雨が降るのである。
集落の人々は水精霊に何かよくないことが起こり、雨が続いているのではないかと恐れ、例年よりも盛大に祀りを執り行おうと話し合った。まずは祭壇の清掃を――と、祭壇への道を辿って行くと、土砂崩れが起こっていて、通れなくなっていたのである。
自分たちだけでこれをどうにかしようと思ったら、一体どれほどの時間がかかるのか。途方に暮れかけたその時、一人の男が呟いた。
「‥‥冒険者ギルドに依頼して、ゴーレムで助けてもらうことはできないだろうか?」
「ゴーレムとは戦闘に使うものなのだろう? こんな山の集落のために、来てもらえるのか?」
もう一人が疑問を差し挟む。
「しかし――これではいつまで経っても水精霊を祀ることが出来ないではないか」
「そうだ。ここでの異変が他の地域にも広がれば、大変なことになりかねないぞ」
「あの湖で水精霊を見た人間もいる。我々の祀りが長く続いてきたのも、清水が守られているのも、湖の水精霊のおかげだ。こういう時にこそ、水精霊のために祀りをやらずにどうするのだ」
「その通りだ。早く何とかしないと――」
人々は口々に言い合い――。
「駄目で元々だ。とにかく急いで、ギルドに向かおう」
ということに話は纏まったのだった。
●リプレイ本文
●移動――現地まで
集落から少し離れた、開けた平地にフロートシップが着陸した。空からは粒の細かい雨がしとしとと降り、肌寒い。道案内として集落からやって来た二人の若者――ルアンとフィローが、感嘆とも畏怖ともつかぬ声を上げ、降り立ったストーンゴーレム・バガンを見ていた。ゴーレムなど生まれて初めて見るのだから、その反応にも頷ける。
今回、土砂災害の復旧のために貸し出されたバガンは、作業の内容など考え合わせ二体。それに対して騎乗者は三名なので、ヴァラス・シャイア(ec5470)と越野春陽(eb4578)が二人で交代しながら一体に乗り現地まで行き、後の一体はキース・ファラン(eb4324)が休憩を取りつつ移動、一体を運び終えたところで迎えに来る――という、少し手間のかかる移動となった。
「それにしても――ゴーレムとは、なんだか恐ろしいような気がします」
ルアンが馬車を操りながら言う。
「主に戦いに使うものだからね。でもこれからは、こういう利用の方法が増えてもいいと思うよ」
交代要員として馬車に乗り込んでいたヴァラスが言った。
先に現地に到着した春陽とヴァラス。ヴァラスはキースの手助けに向かい、その間春陽はフィローと共に災害現場へと向かった。
「これは――集落から離れていて、幸いでしたね」
山になった土砂を見上げて、春陽は呟く。
「時間の許す限り、復旧に努めましょう」
しばらくそこで明日からの作業について確認し、集落に戻り二人の到着を待った。
やがてキースとヴァラスが到着した。明日からの作業に従事する集落の若者達と、事前に現場を見てきた春陽が大体の状況を説明する。
「初めの三日間は土砂の撤去に専念して、後の二日間は土砂の撤去と同時に柵の設置を行う――ということでどうかしら?」
春陽の提案に、キースが応じた。
「土砂や瓦礫をどこに運んでおくかも重要だと思うな。二次災害が起こったら厄介だ」
「そうね。明日確認しましょう。それから実際の騎乗順ですが、ヴァラスさん、私、キースさんの順でいいわよね?」
「私はどのような形でも構いません。こういう作業をこなすのも、ゴーレムを動かせる者には必要な事だと教わった事がありますので、頑張ります」
ヴァラスの言葉にキースと春陽も頷くのだった。
「土砂の量から考えてみても、完全に撤去するのは難しいだろうから、新たに道を整備するような形になると思うのだが」
そう言ったのは、集落の長、タヒム。それを受け、春陽が言う。
「そうですね、その方が早く行き来できるようになるでしょう。柵の設置の他に、植栽なども考えられるとよいかもしれませんね」
続けてキースも提案した。
「道を整備する――ということなら、ある程度土砂を撤去した後に、ゴーレムで踏み固めておくのはどうだろう。そうすれば少しは通りやすい道になるだろう」
「馬車は無理でも、せめて荷車は通れるくらいの道が出来るとありがたいのだが」
――と、意見を交換しつつ、大まかな作業の流れや土嚢作り、柵作りなどの分担も決まった。
「では、明日から頑張りましょう」
ヴァラスが言って、打ち合わせは終わった。
●土砂撤去作業
翌早朝から、早速土砂の撤去作業が始まった。崩れた土砂の中でもまず大きな岩や瓦礫の撤去から始めた。運び出した岩は少し離れた平らな場所へ、崩れないように次々に運んでいく。春陽と交代したヴァラスは、集落の人々が用意した休憩所に入ると、火に当たりながら言った。
「‥‥それにしても、本当に雨が降りますね」
温かいお茶を受け取りつつヴァラスが言う。交代時間を待っているキースも横幕の隙間から改めて外を見た。早朝よりも雨粒が大きくなったようだ。
「本当にねえ。どうしてこんなに降るんだか‥‥」
中年の女性、メイロウが困惑気味に答えた。隣でスープの鍋をかきまぜつつ話に加わるのは、やはり同じ年頃のサティファ。
「水精霊様のお祀りも終われば、きっと止むわよ」
そんな風に雑談していると、土嚢作りや柵作りに励んでいる若者達がどやどやとテントに入ってきた。サティファとメイロウが彼らにスープを配る。
「身体が濡れると、一段と冷えるでしょ? さ、これを食べて温まって」
若者達は火に当りながらスープを食べ、しばしの休憩の後に直ぐに作業に戻るのだった。
土砂撤去作業はひたすら続く。時にはバガン二体で岩や瓦礫を撤去し、人力では運べない物を運び終えると、続けて土砂を運び出した。共に作業に関わるうちに集落の人々とも打ち解け、互いに協力し合って作業は順調に進んだ。時折雨脚が強くなると、二次災害への警戒から作業の手を休め、土嚢作りや柵作りを進めた。特に設計スキルを持つ春陽は、より強固な柵を作るために、休憩の合間にも柵作りに協力するのだった。
三日目の作業を終える頃には、大まかながら新しい道筋が出来つつあった。
「これで柵の設置が進めば、安心して通れるようになるでしょうね」
先ほどまでバガンに騎乗していたヴァラスが、やや疲れたような表情で言う。
「気を引き締めて作業に当たりましょう」
「明日からはもっときついだろうけど、頑張ろうな」
春陽とキースも口々に言い、作業を終えた若者達と共に集落へと戻るのだった。
●土留め柵設置作業
四日目の朝。現地にやって来て、初めて雨の降らない朝となった。連日の作業で疲れはたまっているものの、作業の進み具合が目に見えてくると、やる気も違ってくるものだ。今日から土留め柵の設置も行うので、朝からヴァラスとキースがそれぞれにバガンに騎乗し、柵の設置に当たった。設置された柵をしっかりと固定するために周りを土砂で埋め、さらに土嚢を置いてゆく。その間に若者達は、新しい道となる部分の余分な土砂を運び出し、通行しやすいように平らにならしていく。二人が休憩に入ると、交代でバガンに騎乗した春陽が、道を踏み固め、あるいは余分な土砂を取り除いていく。そうして柵の設置と道の整備を進め、土砂に埋もれていた道は次第に新しい道へと生まれ変わってゆくのだった。
「もうすぐ通れるようになると思うと、気分も明るくなりますね」
作業に当たる若者達にも、少しずつ笑顔が増えていく。彼らはバガンに騎乗する三人以上に疲れがたまっているだろうに、不平不満もなく作業に当たっていた。その姿に三人も、意欲的に作業するのだった。
その日の作業は、用意した柵を全て設置したところで終わった。土砂と土嚢でしっかりと固定された柵が並んだことで、道の整備作業を進めるにも、安心感が増したのだった。
●そして祭壇まで
最終日。霧雨の中で、四日目と同じくできる限りバガンを使い、少しずつしっかりと道を踏み固めていく。昼食を挟んで作業すること数時間。新しい道の整備が終わった。
土砂崩れの以前と比べると、盛り上がった土砂を踏み固めての整備なので、小さな山をひとつ越えるような形にはなった。だが、山側には柵も設置され、道自体もバガンで確実に踏み固めたことで、人や荷車が通っても足を取られる心配もない。
「本当に助かりました。共に祭壇まで行かれませんか?」
作業終了を見守ったタヒムが言い、三人はタヒムと数人の若者達と共に祭壇まで歩いた。
「以前より多少道幅は狭くなったが、これだけの道なら何の問題もないですな。ありがたいことです」
整備し終えたばかりの道を歩いて、タヒムが笑顔を浮かべる。その笑顔に三人もまた笑みを浮かべるのだった。湖の畔までやって来た。霧雨が靄のように辺りに立ち込めている。
祭壇そのものは、続く雨に洗われているためか、それほど荒れている印象はない。しっとりと濡れてはいるが、かえって美しく光るように見える。タヒムは「おお‥‥」と声を上げた。
「やはり水精霊様をお祀りする祭壇ですな。濡れていてもなお美しい――」
ただ、じっくりと見ると所々に濡れた枯葉がへばりつき、強い雨に打たれたときに泥が跳ねた様子も見られた。
「すぐにお清めをして、祀りの準備にかからなくては――。しかし、その前に、作業の無事を報告しよう」
タヒムは言うと、祭壇に向かって土砂撤去と土留め柵設置作業が、事故もなく無事に終わったことを報告した。
「祭壇の清掃など、お手伝いできればよいのですが――」
春陽が言う。タヒムはそうですな――と呟いた。
「一日でも早く祀りを行うためには、とにかく時間が足りません。いつもなら一月余りの時間をかけて準備するわけですから。それはまた改めて、冒険者ギルドにでもお願いしようかの。そういった頼みも、聞いてもらえるのでしょう?」
「ああ、問題ないだろう」
キースの答えに、タヒムは安心したように頷いた。
●作業終了――帰還
全ての作業を無事に終えた三人は、来たときと同じようにバガンに乗って集落を出た。集落の人々が見送る中、移動の都合上、迎えに来たルアンとフィローが馬車を出してくれた。迎えのフロートシップに二体のバガンを積み込むと、ルアンがおずおずと言った。
「あの‥‥実は、お願いしたいことが」
「何でしょうか?」
「水精霊様のお祀りの準備のお手伝いを、冒険者ギルドに募ろうという話になったのですが、ご迷惑でなければ一緒にウィルまで連れて行っていただけないでしょうか?」
「それは構いませんよ。ただ――」
協力者が無事に集まれば、またフロートシップでここまで来ることは可能だろうが――その保証はない。その旨を告げると、ルアンは答えた。
「その時はその時です。とにかく一刻も早く、冒険者ギルドに向かいたいので――」
「解りました。では、どうぞ」
そうして――フィローの見送りを受けたルアンを共に乗せ、フロートシップはウィルへと帰還するのだった。期間中、出来うる限りバガンで作業を続けたキース、春陽、ヴァラスの三人は、ぐったりと疲れた身体を、思い思いに休めているのだった。