【黙示録】止めよ長雨――水精霊への助力

■ショートシナリオ


担当:小椋 杏

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月29日〜04月05日

リプレイ公開日:2009年04月04日

●オープニング

 冒険者ギルド。
 ルアンはやや覚束ない足取りで、受付カウンターに近寄った。その様子に――受付係は気を引き締めた。
 何か、よからぬことが起こっている。
 そう直感した。
「どうぞ、まずはおかけになってください」
「――ありがとう、ございます」
 勧められるままに椅子に腰掛けると、ルアンはふう、と息をつく。受付係は、ルアンに何かしらの言葉をかけようとしたが、咄嗟に今の状況に似つかわしい言葉が出なかった。
「今日は――援軍を募りに来ました」
「援軍――ですか」
 ルアンはこくりと頷く。彼の住む集落からウィルへと向かうフロートシップの中で、彼は冒険者たちから詳しい話を聞いていた。
「湖に棲む水精霊様が、助けを求めているのです。戦う術がないのだそうで」
 受付係は真剣な面持ちでルアンを見ていた。
「戦う相手は――やはり」
「カオスの魔物――だそうです」
 知らず受付係も、息をつく。ペンを持つ手にも力が入った。
「どうぞ――よろしくお願いいたします」
 深々と頭を下げ、それから顔を上げたルアンに、受付係は厳しい表情のまま、ひとつ、頷きを返すのだった。

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9419 木下 陽一(30歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec5470 ヴァラス・シャイア(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●サポート参加者

ラマーデ・エムイ(ec1984

●リプレイ本文

 現地へ向かうフロートシップにて。
 前回、調査に携わったヴァラス・シャイア(ec5470)が口を開く。
「集落の方々からの依頼ですが私からもお礼を言わせて下さい。皆様今回は水精霊様の加勢のため集まって頂き本当にありがとうございます」
 その後、打ち合わせをし、集落へ帰る依頼主のルアンと共に、セシリア・カータ(ea1643)、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が集落へと立ち寄り、他の面々は一足先に水精霊の元へと急ぐ。集落へ立ち寄った二人が合流してから、態勢を整え、全員で『穴』の奥に潜むであろう魔物の討伐に向かうことになった。



 フロートシップから降り立った三人――セシリアとリュドミラ、ルアンは、さらに先を目指す船を見送り、集落に向かう。
 集落にて、彼らを迎えた長・タヒムにリュドミラが言った。
「依頼の間、可能な限り香木を燃やし続けて頂けませんか?」
 彼女の丁寧な物腰に、タヒムは勿論、と力強く頷く。それから仲間たちが一足先に水精霊への元へと向かっている旨を告げ、すぐに出発するのだった。



 ヴァラスの記憶を頼りに、目的地付近までやって来たフロートシップ。安全面を考えると接近しすぎるのはまずい。
「魔物は多数、精霊はお一柱。その上出来るだけ早くとおっしゃられたならば、精一杯急がねばなりません」
 エリーシャ・メロウ(eb4333)の言葉に皆が頷いた。彼女の脳裏には、出発前に励ましてくれた友人、ラマーデ・エムイの言葉が蘇る。
 ――頑張って精霊様を助けてきてね!
 エリーシャのグリフォンに木下陽一(eb9419)、導蛍石(eb9949)のペガサスにヴァラスが同乗し、雀尾煉淡(ec0844)は自らのペガサスで、シファ・ジェンマ(ec4322)はジニールに頼み、フロートシップから飛び立つ。
 陽一のウェザーコントロールの効果で、先ほどまでしとしとと降っていた小雨は止んでいた。しかし上空に垂れ込める厚い雲は晴れず、いつまた雨が降ってもおかしくはない。ヴァラスの案内で、程なく一行は『穴』を目にすることとなる――。



 『穴』の入口までやって来た。蛍石がデティクトアンデッドを使い、突入する。しばらく進み魔法の効果が切れると、すかさず蛍石はデティクトアンデッドをかけ直し、再び先を目指した。
 と――。
 蛍石が声を上げた。
「下っ端のようだが、十数体の魔物がいるようだ」
 陽一も双眼鏡を取り出し、確かめる。
「もしかして、あの少女が水精霊?」
「まずは水精霊をお助けしなくては」
 シファが言い、今まさに魔物と相対そうとしている水精霊・フィディエルの元へと急いだ。



 水精霊に迫っていたのは、邪気を振りまく者と、醜悪なる小人、合わせて十数体。陽一がヘブンリィライントニングを使って雷を落とし、魔物たちに先制を加える。
「バニッシュバインド!」
 攻撃を仕掛けてきた邪気を振りまく者に、デッドorライブ+カウンターアタック+フェイントアタック+スマッシュEXの合成技で対抗するシファ。エリーシャとヴァラスはスマッシュで、落雷のダメージが残る魔物たちを撃破する。大半の魔物は消滅し、残った数体も退散した。後を追い倒すことは簡単だが、何よりもフィディエルが気になる。武器を収め戦闘態勢を解くと、改めて歩み寄った。
「うわー、美人‥‥じゃない、美精霊。うーん、昔話じゃ天女とか精霊は綺麗って決まってるけど、本当なんだな」
 小さく呟く陽一。その言葉にちらりと視線を動かしたフィディエルは、不機嫌そうに眉間に皺を寄せ。
「遅いっ!」
 六人を一喝した。
「なるべく早く、ってお願いしたでしょ? 香木の香りがなかったら、今頃あたし、どうにかなってたわ!」
 誰も何も言い返せない。息をついたフィディエルに、改めてヴァラスが言った。
「遅くなって申し訳ございません。集落の方々が依頼を出して下さったおかげで加勢を連れてくることができました。後は引き受けますのでよろしくお願いします」
「依頼で参りました僧侶の雀尾煉淡と申します。魔物の撃退に加勢します」
 煉淡の挨拶にも、機嫌を損ねたフィディエルは無言。想像とは多少異なる性格の持ち主に困惑気味の者もいたが、気を取り直し現在の状況を確かめた。
「‥‥‥‥‥‥そうね、間を置いて十数体ずつ、って感じかしら? 倒したのは初めてだから、向こうも変だと思ってるかも」
「ちなみに今まで現れたのも、先ほどと同じ魔物でしょうか?」
 エリーシャが尋ねる。
「そうよ。きっとまた来るだろうから、キミたちが警戒してね?」



 セシリアとリュドミラを待つ間、二度ほど魔物たちの襲来を受けた。しかしその後は姿を見せず、緊迫感が薄れそうになる。それを察したフィディエルが声をかける。

「ほら、もうちょっと背筋を伸ばしなさいよ」

「気を抜いたらやられるわよ」

 その度に気を引き締め、二人の到着を待つのだった。



 セシリアとリュドミラが到着した。二人にもしばしの休息を――と、交代であたりを警戒しつつ、準備を整えた。
「では――先へ進みましょう」
 ここから動きたくない、とごねるフィディエルを、魔物の討伐に向かう間の御身が心配ですので、と説き伏せ、周囲を護りつつ、奥へと進むのだった。



 血のように赤い空の下、会話もなく黙々と進む。エリーシャの持つ『石の中の蝶』がゆっくりと、しかし確実に羽ばたいて、警戒を強めた。前後に長い楕円の隊列のすぐ傍で、突然、火柱が上がる。
「な――っ!」
 火を振り払い臨戦体勢となる。蛍石が高速詠唱デティクトアンデッドで、姿の見えない魔物の存在を探知した。その間に煉淡は高速詠唱ホーリーフィールドで仲間たちを包む。
「――あそこだ」
 蛍石の言葉に目を凝らすと、何もいなかった場所に黒い靄のようなものが立ち、やがて一体の魔物が姿を現した。
『何とも――厄介な』
 火のついた松明を手にした魔物の頭は――人間、黒猫、蛇の三つ。その異様さにしばし言葉を失う。
『お前か、邪魔をしていた精霊は』
 冒険者たちに護られるように中央に立つフィディエルに、魔物が言った。
「そうよ。いけない?」
 負けずに言葉を返すフィディエル。その間にも、周囲に邪気を振りまく者や醜悪なる小人がにじり寄る。
 前衛にて攻撃を仕掛けるセシリアとエリーシャ。チャージングで先に仕掛けたエリーシャの攻撃を、三頭の魔物は難なく受け止めた。セシリアは自身にオーラパワーを付与し、両手に構えたノーマルソード+1で斬りかかる。後方にも新たな魔物たちが現れた。
「皆さん、こちらを見ないで下さい!」
 リュドミラが叫び、サンシールドを構えて念じた。強い光が魔物たちの目を眩ます。陽一がヘブンリィライトニングを使い、ヴァラスが斬り込む。魔物たちは次々に倒れ、消滅していった。
 蛍石の身体が淡く白い光に包まれ、ホーリーを発動させた。対峙する魔物たちが不気味な呻き声を上げる。続けて煉淡のブラックホーリー。これは致命的だろう――誰もが思ったが、三頭の魔物――真ん中の人間の顔――が、にやりと口許を歪めた。
『同じ手ばかりは喰わぬよ』
 直後、三頭の魔物の周囲が黒い球状の炎に包まれた。さらに攻撃を仕掛けてくる!
「バニッシュバインド!」
 シファが躍り出て、三頭の魔物の動きを封じようとバンパイアキラーを振るった。しなやかな鞭が松明を持つ手に絡む。その隙にエリーシャとセシリアが詰め寄る。黒い炎が身を焼くが構いはしない。
「たあっ!」
『無駄よッ!』
 魔物は炎を吐いて反撃した。直撃は免れたものの、二人は火傷を負った。
「‥‥くっ」
 先ほどから煉淡は魔法を試しているが、黒い炎に包まれている間は効果がないようだ。三頭の魔物を残し、手下の魔物は全て消滅し、退散していた。体勢を立て直すために一箇所に集まり、蛍石がリカバーでセシリアとエリーシャ、シファが負った傷を癒す間に、三頭の魔物を包んでいた結界が解けるも、間を置かず再び張られてしまう。
「ダメージを覚悟で、直接攻撃するしかない」
 突撃するエリーシャ、セシリア、シファの背後で、リュドミラが再びサンシールドを構え、三頭の魔物の目を眩ました。陽一とヴァラスは自らを盾にフィディエルを護り、蛍石と煉淡は魔物の結界が解ける隙を狙い、魔法を仕掛けようと呪文を詠唱した。
「はあッ!」
『ぬうっ』
 目が眩んだまま魔物は炎を吐いた。三人は怯まなかった。黒い結界の内側で繰り広げられる攻防――やがて、結界が消えた!
「今だ!」
 煉淡がブラックホーリーを、蛍石がホーリーを放つ!
『何を――っ!』
 三頭の魔物は自らに浴びせられた魔法に、絶命の悲鳴を上げ――跡形もなく消滅した。ダメージを省みず攻撃を続けた三人は、思わずその場に膝をついた。
「‥‥なかなかやるじゃない。お疲れ様」
 三頭の魔物を倒した冒険者たちに、初めて優しくフィディエルが声をかけた。



 その後、蛍石のリカバーで傷を治し、しばし休息した後、フィディエルを中心に退路を進む。
「キミたちのお陰で助かったわ。ありがとう」
 フィディエルが改めて礼を言った。自分たちが出てきたばかりの『穴』を見つめ、リュドミラが問う。
「この『穴』はどうなるのでしょうか?」
「んー。よく解らないわ。開けたヤツがいなくなったとは言え、また他の魔物に利用されないとも限らないし。ま、キミたちの頑張りのおかげで、しばらくは静かなんじゃない?」
 あたしも気をつけるし――フィディエルは言って、にっこりとした。
「じゃ、気をつけて帰ってね。集落の皆にもよろしく伝えて頂戴。それから――また何かの時には、助けに来てよね?」
 フィディエルに念を押され、任せてくださいと応える冒険者たちだった。



 気がつくと、あれほどに分厚く空を覆っていた雲はすっきりと晴れ、柔らかな春の日差しが森を包んでいるのだった。