身分違いも恋は恋

■ショートシナリオ&プロモート


担当:小椋 杏

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月04日〜11月07日

リプレイ公開日:2008年11月11日

●オープニング

 リュート・テトルサナスは騎士見習いである。
 今はまだ主の屋敷で雑用程度の仕事しかしていないが、ゆくゆくは立派な鎧騎士になり、国のために役に立つ人間になりたいと思っている。
「リュート! ねぇ、リュートったら、いないの?」
 ――今彼を呼んだのは、主の娘、レイファ・メナンシード。リュートのことを自身の家来のように思っている節があり、あれやこれやと雑用を言いつけるのであった。
「いかがなさいましたか」
 それでもリュートはいやな顔ひとつせず、忠実に彼女にも仕える日々であった。


 レイファは舞踏会が好きだった。
 何のかんのと理由をつけては、最低でも月に一度、多いときには二度も三度も、自宅で舞踏会を開く。会の規模は様々で、普段着でダンスを楽しむためのものから、たくさんの客人を招いて華やかに行われるものもあった。その日は彼女の誕生日ということで、盛大な舞踏会が催されることになっていた。使用人は誰も忙しく立ち回り、もちろんリュートも例外ではなかった。
「リュートは、はい、これを着てね」
「――はい?」
 にこにこと笑顔で礼服一式を差し出したのは、給仕係を務めるミュシカ。
「リュートはほら、見た目もそう悪くないしなんたって若いんだから、会場でお客様のお世話係をするのよ。そのためには服装だって重要でしょ」
 ああ忙しい忙しい――ミュシカはそう口にしながらばたばたと駆け去ってしまった。礼服一式を手にやや茫然と佇むリュートだったが、自分の務めをしっかり果たそうと気を取り直すのだった。

 その日の舞踏会は、会場に人が入りきれないほどの盛況ぶりであった。招かれた客人は誰も手に手に贈り物を携え、レイファのご機嫌伺いをしている。使用人たちはそれぞれに与えられた責務を淡々とこなしている。
 宴もたけなわを過ぎた頃、中庭で客人の頼む雑用をこなしていたリュートの背中に、突然誰かが凭れ掛かった。何事かと振り返ると、真っ青な顔色の女性が胸の辺りに手を当てている。
「駄目。‥‥吐きそう」
 女性はその場に倒れそうになった。はっしと細い身体を受け止めてリュートは、彼女を中庭の片隅の茂みまで連れて行く。身を屈め苦しそうな背中をさすり、様子を伺う。どうやら吐き気は収まったようだが、相当酔っているのだろう、まだ動けないようだった。しばらく何も言わず近くに控えていると、女性が静かに振り返った。
「‥‥ありがとうございました。もう、大丈夫です」
 そして彼女はにこりと笑顔を作る。無理をしているのがはっきりと解る微笑。だけどそれがあまりにも美しくて彼は一瞬、言葉を失った。
「‥‥手をお貸しいたしましょう」
 やや間を置いてリュートが手を差し伸べると、彼女は礼を言いながらその手を取った。その瞬間、彼は恋に落ちたのだった。手を取り合ったまま、しばらくじっと互いを見ていた。彼女もまた、彼と同じだった。

「‥‥‥‥‥‥」
「――――――」

 二人が互いを見つめ合っていたのは、時間にすればほんのひと時のこと。しかし当の二人にとっては、永遠とも思えるほどの長い長い時間だった。
「リュートぉ! リュートったら! どこにっ‥‥――!――」
 彼を探しに来たミュシカが、二人の姿を目に留めてはっとした。
「いかがなさいましたかっ?!」
 ミュシカは慌てて駆け寄ると、「痛いところはないか」「苦しいところはないか」「何か不手際でもあったのか」――と彼女を質問攻めにした。彼女は少し困ったように「少し具合が悪くなったので、風に当たっていたところを介抱してもらったのだ」と説明している。ミュシカはほっとした様子でリュートにお帰りのお客様のお手伝いを申し付けると、女性に手を貸して歩き出した。リュートは女性に軽く会釈をし、足早に屋敷へと向かうのだった。


 次に二人が顔を合わせたのは、やはりレイファが舞踏会を開いたときだった。門番をしていたリュートに気がついて、彼女は軽く会釈をした。
「先日は――ありがとうございました」
「とんでもないです。それほどお役にも立てませんでしたから」
 リュートが顔を上げると、彼女はにこりと華のような笑顔を向けて、屋敷へと入って行った。――そんな風に幾度か顔を合わせているうちに、リュートは彼女がフォロッド家の一人娘、リナリアーチェだと知った。初めの頃は一言二言交わす程度だったのが、次第に交わす言葉は増え、そしてついには、リナリアーチェはレイファを訪ねると必ずリュートにもこっそり会いに来るようになっていた。

 そんな二人の様子に最初に気がついたのは、当然ながらレイファだった。レイファは単刀直入にリュートに問うた。
「貴方、リナとのことは真剣なの?」
「‥‥‥‥‥‥それはどういった意味でしょうか?」
 まさか自分と彼女のことがばれているとは思っていないリュートはそう応じたが、レイファはにやにやしながら言うのだった。
「まさかバレてないつもりだったの? わたしに解らない訳ないでしょ? で? 本気なの?」
 リュートは答えに詰まる。もちろん本気だ。本気だが――
「身分違いの恋だもんね。ちょっとやそっとの『本気』加減じゃあ、為るものも為らないわよ」
 レイファの言い分は至極もっとも。
「騎士見習いもいいけど、リナに相応しい人間になるためには、もっと色んなところを磨かなきゃねぇ。磨く?」
「――――――はい?」


 ――そんなわけで。
 半ば以上強引にレイファにお供をさせられて、リュートは冒険者ギルドへとやって来ていた。
「――で。こちらの方に礼儀作法や所作振舞を叩き込んで欲しい、と?」
 受付嬢はちょっと困ったようにレイファに確かめた。騎士見習いをしているなら、ゆくゆくはそういったことも身についていくのでは――? そう思ったからだ。
「ゆくゆくじゃ困るのよ。だって、もしかしたら明日にでも、あの娘のお父様と会うことがないとも限らないでしょ? ただの騎士見習いじゃ『けしからん!』てことになるかも知れないけど、作法や振舞がちゃんとしてれば、当面はお付き合いを認めてもらえるかも知れないじゃない?」
 確かにそうかも――受付嬢は声に出さずに頷いていた。もちろんそれ以上に大切なことはあるけれど、貴族というのは、往々にしてそういう部分を大切にするものだ。
「だから、お願い」
 にこにこしているレイファと、少し困ったように佇むリュートを交互に見つめてから、受付嬢は頷いてペンに手を伸ばしたのだった。

●今回の参加者

 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

 メナンシード家の門を叩いた三人を出迎えたリュートは、彼らを一目見てすぐに冒険者だと悟った。

 それもそのはず。

 どんと飛び抜けて大柄な――しかもアフロヘアに仮面といういでたちの男に、ひょろっと細身ながら旅装束に身を包んだ男、そしてやや小柄ながら凛とした雰囲気の女性の取り合わせは、日常ではまずお目にかかれないと感じたからだ。
「リュート・テトルサナスと申します。よろしくお願いします」
 リュートは改まって頭を下げた。
「我輩こそ美と愛と真実を貫く仮面の幻騎士、マスク・ド・フンドーシである!! こちらこそよろしく頼むのだ」
 快活にそう言ったのは、マスク・ド・フンドーシ(eb1259)。さっと略式の礼をしたのは、エリーシャ・メロウ(eb4333)だ。
「エリーシャ・メロウと申します。想い人に釣り合わんとする心はより一層己を高める力となるでしょう。私も修行中の身ではありますが、一騎士として後進の力になれる事を嬉しく思います」
「ギエーリ・タンデと申します。優れた騎士が、いえ見習いであろうともその献身と心の正しさを竜と精霊が嘉し給い、試練を潜り抜け貴婦人との真実の愛を得て。ついには結ばれその騎士に相応しき地位に昇る‥‥いやぁこれぞ騎士道恋愛物語の真髄というもの。このような場面に出会えて僕の詩人の魂は打ち震えておりますとも!」
 ギエーリ・タンデ(ec4600)の朗々とした科白が終わるのを待って、リュートが言った。
「レイファお嬢様がお部屋においで下さいます様にと、申しております。ご案内いたします」


「よくぞいらしてくださいましたわ」
 私室で出迎えたレイファに、エリーシャは騎士の礼をしてから言った。
「リュート殿は良き主に巡り会えたようですね」
「そう? リュートには立派な騎士になって欲しいと思っただけよ、リナのためにもね。それよりどうかしら? 見込みはありそう?」
「それはもちろん。きっとリュートさんは立派な騎士になられるでしょう!」
 調子よく言ったギエーリを横目に、小さくこほん、と咳払いをしたエリーシャが続ける。
「そもそも騎士修行に近道はあり得ませんが、それにしても三日間は短いですね。しっかり打ち合わせて、時間を有効に使いましょう」
 結果、リュートは日常通りの務めに就き、その傍らでエリーシャが彼の振舞に注意を払い、務めを終えた後は、リュートの私室にてマスクから徹底的に社交ダンスの指導を受けることになった。
「僕には、騎士様の作法などお教え出来よう筈もありません。ですから物語に詠われる騎士様が、どのようにして試練を潜り抜けたかという例をお話しします」
 食事時や休憩中にはギエーリが騎士の物語を披露することに決まった。
「皆様、どうぞよろしくお願いいたしますわ。マスクさんとギエーリさんには、お待ちいただく間、部屋を用意させましょう。リュート、手配をよろしくね」
「はい、かしこまりました」
 一礼し部屋を出るリュートに、エリーシャは影のように従うのだった。

「大切なのは姿勢と指先。ピンと伸ばすように。言葉や振舞の成長は間に合わずとも、見る眼あらば其処に心根を見てくれるでしょう」
 せっせと務めに励むリュートの傍らでエリーシャが言う。少しでも弛みが見えようものなら、容赦なく打つ彼女に、リュートはしかし応えようと懸命だ。彼に厳しい指導を与えるエリーシャに、メナンシード家の使用人たちは一体何事かと思ったものの、それがレイファの発案だと知ると、誰も何も言わなかった。むしろ温かく見守るような雰囲気さえ感じられた。午前中の務めを終える頃には、リュートはいつもの何倍もの疲れを感じた。
「姿勢を正すとは、つまりはそういうことなのです。大分よくなってきましたよ」
「はい、ありがとうございます」
 エリーシャの言葉にリュートが頷く。

 昼食時には他の使用人が幾人か同席する中、ギエーリの物語が始まろうとしていた。
「それではギエーリさんが食事を取れないのでは?」
 心配そうに尋ねたリュートに、ギエーリは調子よく応じる。
「いえいえ。僕の心配など無用です。リュートさんがお務めの間、僕には充分な時間がありますからね」
 やや遠慮がちに食事を始めたリュートに、ともに食事を取りながらもエリーシャの視線は厳しい。その隣でマスクは遠慮なく美味そうに食事を平らげていく。
「それではまずは、剣で勇敢に魔物と戦った騎士の話をいたしましょうか――」
 ギエーリは身振り手振りを交えて、騎士とは如何に勇敢な存在であるかを語り続けるのだった。

 午後も同様にリュートの務めは続いた。務めを終え、自室に戻ることを許された頃には、リュートの両手には赤い痣ができていた。ギエーリの騎士物語を傾聴しつつ――ある騎士が知恵を持って難局を乗り越えた、という話だった――、夕食を終えた。リュートはくたくたに疲れていたが、この後はマスクのダンス指導が待っている。
「リュート坊、お務めご苦労。エリーシャ殿もお疲れであろう。後は我輩に任せて、ゆっくり休むのだ」
 リュートの部屋にやって来て、早速マスクが言った。
「ここで休ませてもらいながら、見学させていただきましょう」
 エリーシャはそう応じて、部屋の片隅で椅子にかけているギエーリの隣に腰かけた。
「ダンス指導の前に、まずはリュート坊、君の知っている礼儀作法について、我輩に教えてくれたまえ」
「ええっ!? 礼儀作法、ですか?」
 突然問われて、リュートはうろたえた。
「まずは――、礼と挨拶を重んじる。相手の失礼にならないよう、受け答えは相手と正対してはっきりとする。話の途中で口を挟まない。女性に対しては特に親切に――というくらいでしょうか‥‥」
 それは礼儀作法の内でも、最低限のものだった。マスクは一人うんうんと頷く。
「必要最低限は身についている、というところだな。少し待っていてくれ」
 言うとマスクは部屋の隅でごそごそと準備を始めた。仮面を取りアフロを梳き、礼服に着替えて――身支度が整ったところでマスクの全身が淡いピンクの光に包まれた。オーラエリベイションの発動で気合の入ったマスクが声を上げた。
「紳士としての淑女のエスコートは、騎士としての努めです。社交ダンスのエスコートに、流行や文化、美術への深い知識にウィットに富んだ会話。些細な振舞すら、ご婦人方の評価の対象ですよ。知識面はこれから磨いていくとして、まずは一曲、最後まで社交ダンスを踊りきれる事が目標です。さあ、背筋を伸ばし体のすみずみまで気を張りなさい!」
 マスクは手拍子をしながら、リュートにダンスのステップを教える。リュートは慣れないステップに悪戦苦闘した。その合間にも背筋が伸びていないだの指先が為っていないだのとエリーシャから厳しい注文が飛び、ギエーリは「社交界で女性を立派にエスコートした騎士の話」を持ち出して、リュートを激励したのだった。

 二日目、三日目――指導は続く。エリーシャに打たれる回数が次第に減り、マスクのダンス指導も心なしか楽しいと思えるようになったリュートだった。そして何よりも楽しみだったのは、ギエーリの物語だ。
「――そう、彼は素晴らしい騎士でした。愛する女性にかけられた呪いを解くべく、単身旅に出たことは然ることながら、その目的を遂げ、無事に女性の元へと戻ったのですから。彼の物語が今もってなお語り継がれているのは、その知恵と勇気が真に賞賛に値するものだからなのです――」
 ギエーリが心を込めて語る事々は、食事に花を添える――というレベルを超え、リュートの心に「そのような騎士になりたい」という気持ちを湧き起こさせるのだった。

 三日目の夜、オーラエリベイションの効果も切れ、ダンス指導を終えたマスクが言った。
「‥‥ふ〜、イケメンモードはマジ疲れるのだ〜」
「ダンス指導の総仕上げはレイファさんの部屋にて行います。さあ、これに着替えて」
 ギエーリに促され、礼服に身を包んだリュートがレイファの部屋を訪れると、同じように礼装したレイファが彼を待っていた。
「リナを呼んで舞踏会を――という案もあったんだけど、それはまだ早い、ってことになったの。わたしが相手じゃ、不満?」
「まさか。勿体ないことです」
 レイファの言葉にリュートはふるふると首を振った。まだまだ硬さは見られるものの、リュートは騎士の礼をして、レイファに手を差し出した。
「お嬢様、お手をどうぞ」
 レイファをエスコートし、ギエーリの手拍子で踊り始めたリュートの背中には、わずかながらも騎士の風格のようなものさえ感じられるのだった。

 全ての指導を終え、屋敷を出る三人をリュートが見送る。
「騎士ではありますが、私も女性。その身から言わせて貰えれば、どんな障害があろうとも真っ直ぐ自分だけに心を向け、その為に努力を怠らない男性には惹かれます。頑張りなさい」
 言葉の最後に、にこりとして、エリーシャが激励した。
「遥か伝承に伝わるのみであったり、数十年前に確かに起きて先人が詩に詠って広めた出来事であったり様々ですが――いずれにしても共通するのは、騎士様が誠実な心を持ち、心より貴婦人を愛し、己の知恵と力と技を駆使し、真摯に試練に立ち向かったという事。未だ入口ではありますが、同じ様に幸せな未来に辿り着くお姿を楽しみにしております」
 ギエーリの大げさな調子にも、リュートは真剣な面持ちを崩さない。
「お守りとして、我輩秘蔵のロクシャクフンドーシをプレゼント! これを締めて頑張るのだ!」
 六尺褌をぎゅっと両手に押し込むマスクに、なんと応じたらよいか迷った末、リュートは、はい、と頷くに留めたのだった。


 こうして三人の指導は無事に終わった。今後もリュートは彼らの教えを守り、精進を続けることだろう。立派な鎧騎士を目指して――。


 マスクが贈った六尺褌が、その後活かされたかどうかは――また別の話。