本日の食材 〜叫ぶ者〜

■ショートシナリオ&プロモート


担当:長 治

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2006年10月17日

●オープニング

●飽食の美食家
 ここは、若い女主人の館。
 腕利きの商売人である彼女の唯一の趣味は、食事。ことこれに関してだけは、彼女は一歩も譲らない。
 来る日も来る日も、金にあかせて贅沢な食事を料理人に要求する彼女。
 料理人達も、必死になって主の要求に答えた。
 しかし、毎日毎日贅沢をしていると‥‥?

『ガシャーン!』
 今日もまた、豪商の館からは皿を割る音が聞こえてくる。
「わたしはもっと美味いものが食べたいのだ! 舌を蕩けさせるような、一流の料理を!」
 一口しか口を付けていない料理を床にぶちまけ、その上に唾を吐きかける。
 台無しになった料理は、決して不味い訳ではない。ただ、女主人がお気に召さなかっただけ。
 その館に仕えはじめて日が浅い料理人は、ただ貝のように口を閉ざし、その叱責に耐えていた。
「お前は、こんな不味いものをわたしに食べさせようというのか?」
「‥‥‥‥」
 黙りこくったままの新人料理人に対して、彼女は更に罵声を浴びせ掛ける。
「お前はクビだ! もう二度とわたしの前に姿を表すな! この、下手くそが!」
「そんな‥‥」
 料理人の呟きが聞こえなかったのか、ものすごい剣幕で料理人をどやしつけた豪商は、そのまま食堂を後にする。
 が、その前に扉から少しだけ顔を出した。
「一度だけ、チャンスをやる。一週間後に、もう一度作りに来い。その時にわたしが満足できなかったら‥‥」
 いわずもがな。間違いなく、二度とチャンスは訪れない。
 料理人は、ただ黙って溜息を付いた。


●困った事があった時は、冒険者に頼もう
「という訳なんです」
 暗く沈んだ面持ちで言葉を紡いだのは、件の料理人の青年だった。
 彼は主人に叱責を受けた後、そのままここまでやってきたらしい。
「失礼ですが、これほどの腕前なら、他にいくらでも就職口があるのでは?」
『自分の腕を見て貰うために』と言って差し出されたランチの残り物を頂きながら、係員。
 実際の問題として、この料理人の腕はかなりのものだ。自分で店を開くなり、またどこかに雇われるなり、再就職先には困らないだろう。
「いいえ、それでは駄目なんです」
 弱弱しく頭を振る料理人。
「それはまた、どうして?」
「ご主人様が、その、とてもお美しい方でして」
 彼はしどろもどろになりなりながらこう続けた。
「僕、ご主人様の事が好きになってしまったみたいなんです」


●では、依頼内容を
「モンスターを、ねぇ」
 依頼用掲示板に貼り付ける応募用紙を書いていて、係員はふと筆を止める。
 依頼主の料理人は、これから下ごしらえがあると言って帰った後だ。
 今しがたなぞったインクの後をぼんやりと眺める。

『依頼内容:スクリーマーの捕獲。数は四個程度。ただし、極力傷の無い物を』

 まず間違い無く、使うのだろう。スクリーマーを。料理に。 
「確かに、スクリーマーは食べても問題ないらしいですけど‥‥うーん」
 スクリーマーが発生している場所の確認はできていた。キャメロット近隣の森に発生した叫ぶキノコを駆除してくれという話が来ていたからだ。
 ついでに退治すれば一石二鳥ではある。
 が。モンスターを料理に使う。こんな依頼を受けてしまったけれどいいのだろうか?
 空を眺めると、いい秋晴れの天気。
 引き受けてしまったものは仕方ない。そう割り切る事にした。今度からは、悩むのはもう少し早くしよう。
「きっと大丈夫でしょう。うん‥‥おっと」
 頼まれていた事を思い出したらしい係員は、依頼に少し、文章を書き加えた。

『依頼内容:スクリーマーの捕獲。数は四個程度。ただし、極力傷の無い物を。
      あと、荷物の引き取りの時に、恋の悩みの相談に乗ってください』

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2698 ラディス・レイオール(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5188 ベルトーチカ・ベルメール(44歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

小 丹(eb2235)/ パラーリア・ゲラー(eb2257)/ ララーミー・ビントゥ(eb4510)/ エレイン・ラ・ファイエット(eb5299

●リプレイ本文


 ●キノコ狩りの準備‥‥中の再会
 冒険に行く前。
 とある兄弟が、もみくちゃになっている姿があった。
 自己紹介をしている最中、カルル・ゲラー(eb3530)を、別れていた姉が見つけ、その後現在に至る、というわけである。

 そんな微笑ましい様子を横目に見つつ、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は、スクリーマーの対抗策として耳に詰める綿を準備していた。ついでに、側にいたベルトーチカ・ベルメール(eb5188)と雑談を始める。
「スクリーマーを料理にねえ。大丈夫なのかねえ」
「まぁまぁ。あたしも煩いのは嫌だけど、料理人クンのために頑張って採ってこなくっちゃ」
 味も苦手だと思うんだけどね、とこっそり付け加える彼女。ヒースクリフは嘆息して準備に戻る。
「ま、アレは結構迷惑な物だし、駆除するのは良いんだけど」
 彼が視線を戻すと、同じように準備を行いながら、今回の依頼人エドワーズと話しているラディス・レイオール(ea2698)がいた。
「スクリーマーは時折料理店からの採取依頼が来るほどですし、モンスターと考えない方がいいですよ」
「そ、そうなんですか? 少し、安心しました。料理人仲間から話を聞いただけだったので」
 少し安心した様子のエドワーズに、リデト・ユリースト(ea5913)が言葉を続けた。
「そうなのである。私達がスクリーマーを採ってくるのである。心配せずに待っているといいのである‥‥だから、余分に取ってきた分で私達の分も作って欲しいのである」
「そんな、こちらからお願いしたいかったくらいです。改めて、よろしくお願いします」
 目をうるうるさせながら懇願するリデトの申し出に、エドワーズは快く承諾した。と、
「わわわわっ!?」
 そんな彼のうなじに、ふっと息が吹きかけられたのだ。
「そんなに硬くなる必要はないわよ?」
「え、ええと?」
 いつの間にか、エドワーズの後ろには、艶っぽい微笑で会釈をするアレーナ・オレアリス(eb3532)の姿が。
 彼女は、エドワーズの手をぎゅっと握って
「大丈夫。そっちもこっちもうまくいくわ。きっとね」
 ウィンク一つ。エドワーズは、ちょっと顔を赤くして頷いた。
「もう、しゃきっとするの。やればできるわ。きっとね」
「は、はい‥‥」
 そんなかんじで、しばらくの間、恋のレクチャーが続いたのだった。

「皆さん、お気をつけてー」
 そんな風な事があった後、エドワーズに見送られ、冒険者達は旅だった。


●キノコ狩りに行こう!
 さて、肝心のスクリーマー収集の方だが、こちらはあっさりと片付いた。
 どんな経緯か説明すると。

「わしは一度、スクリーマーを狩りに行ったことがあるぞい」
「私もである。スクリーマーは湿ったところにいるのである。だから、湿った所を重点的に調べるのである」
 と、カメノフ・セーニン(eb3349)とリデトが経験を活かし、皆を先導。
 発見すると、シェアト・レフロージュ(ea3869)のテレパシーで味方同士の連絡を取る。
 改めて、カメノフがサイレンスをかける。
 これで叫び声が無効化された。念のために耳栓をして、一行は集中して採取に臨む。
 あとは、傷の無い物を選んで採取するだけだった。

 ちなみに、あっさりと片付いたのは収集の方だけで。

「しかし、暇なものよね」
 ベルトーチカは、カルルがスクリーマーと戯れている(ように見える)側で見張りをしていた。
 スクリーマーの声が聞こえないおかげか、獣が近寄ってくる様子は見られない。
「よいしょ よいしょ」
 一生懸命、不気味な色をしたスクリーマーを引っこ抜こうとするカルル。
 ふと視線を上げたベルトーチカは、不意に妙なものがいるのに気付いた。
「あれは、何をしてるんだろ?」
 視線の向こうでは、カメノフが匍匐前進をしていた。その先には、スクリーマーを確保しようとしているラディスと、シャドウバインディングを使ってスクリーマーを拘束(もともと動かないのだが)しているシェアトの姿。
「‥‥ううん‥‥思わずごめんなさいと言いたくなるような‥‥エドワーズさんは、この叫びを聞いてもお料理したいのでしょうか‥‥」
「どう、でしょうね?」
 二人で会話しているせいか、後ろから這い寄る物体には気付いていないようだ。
 しばし眺めていて、ふとある事実に思い当たる。
「そういえば、あのお爺さんの称号って確か‥‥」
「‥‥‥‥っ!」
 声無き悲鳴が上がったのと、シェアトのスカートがはためいたのとは、ほぼ同時だった。
(「スカートめくり爺、カメノフ。侮れないある」)
 更に向こう側にいたリデトも、ちゃっかりと恩恵を享受していた。
「何をするんですかー!」
「風じゃよ風〜、うひょひょひょ」
 そんな声が、秋の風に乗って流れていった。

「何をやってるんだかねぇ」
「まぁ、いいんじゃないかい?」
 ヒースクリフとアレーナは、こっそり顔を見合わせた。
「さっさと終わらせてしまおうか」
 スコップを使って、最後のスクリーマーを確保するヒースクリフ。
 その後、皆で集めたスクリーマーを馬やロバに積み込み、そのままキャメロットへと帰還した。


●キノコ狩りの報告
 冒険者達がギルドに戻ってくると、そこにはエドワーズが待っていた。どうやら待ちきれなかったらしい。
「お帰りなさい。あの、スクリーマーの方は?」
 寝ていないのか、それとも若干胃に来ているのか、顔色が悪い。
「大丈夫ですよ。ちゃんとこちらに」
 シェアトが馬に乗せていた袋を指差すと、彼は慌てて中身を覗きこみ、嘆息する。
「エドワーズ殿、試食の分も取ってきたのだ。だからお願いするのだ!」
 リデトが、出発前の約束を持ち出すと、もちろんと頷いて返すエドワーズ。
 他のメンバーも次々と参加の意思を表明する中、ベルトーチカだけは申し出を断った。
「あー、あたしは遠慮しとくよ。ちょっと野暮用でね」
 そそくさとその場を去る彼女を見送った後、一行は、エドワーズが勤めている館へと向かった。

 なお、道中にこんな会話があったという。
「ねぇリデトさん。なんでその時食べられなかったの?」
「聞かないで欲しいのである。思い出したくないのである」
「どうしたの? リデト、顔色が悪いわよ?」
「なんでもないある。キニシナイアル、キニシナイアル」
 彼に幸多からん事を。


●キノコ狩りの後に
 ここは、セリーナの家にある、使用人が使う食堂。今日はセリーナが家にいないため、こっそりと使っているらしい。
 一行は料理の並べられたテーブルを囲んでいた。
「おおー‥‥」
 誰かが感嘆の吐息を漏らす。
 テーブルに並べられた、キノコ料理。これがあの絶叫するキノコだとは、ぱっと見てわからない。この辺りはきっちりしている。
 ちなみに、テーブルにはキノコ料理以外の料理も並べられている。リデトが、取ってきた秋の味覚をこっそりと渡していたおかげだ。
「おいし〜♪」
 料理を一口ほおばって、幸せそうな笑顔を浮かべるカルル。
 その言葉を聞いて、頬を緩ませるエドワーズ。
「そう言って貰えると、こちらも準備した甲斐があります」
「うん。確かにおいしいのである。あとは‥‥当人の体調や気分、様子を考えて料理を出すと良いであるかな」
 言いだしっぺのリデトも、満足そうに微笑みながらアドバイスをしている。 
「そうだねぇ。好みの味付けなんかは、他の仲間にも聞けるだろうしねぇ」
 とはヒースクリフの言葉。それで、と続けようとした時に、食堂の扉が開く。
「ごめんよ、ちょっといいかい?」
 入ってきたのはベルトーチカだった。
「どうかしたんかの?」
 カメノフの問いかけに、ベルトーチカはぽりぽりと頬を掻く。
「ちょっとね。セレーナさんの事、色々と聞いてきたのよ」
 手近な椅子を手繰り寄せて座っている間に、そういえば、とシェアト。
「あの、私も色々とお話は聞いていたのですけど‥‥」
「あら? アンタも聞いてたの?」
「ええ、出立前に」
 二人の間で会話が取り交わされる。どうやら、シェアトの方は前もって情報を集めていたらしい。
「なにを話しているんですか?」
 ラディスが、不思議そうな顔をして二人の顔を交互に見やる。
「や、ちょいとね。二人ともその辺りで調査してたんだなって事」
「ええ。調べていた事は違いましたけれど。私は、他のお店で話を聞いたんですけれど、他ではエドワーズさんから聞いたような事はしていないようですわ」
「あたしは、セレーナさんの故郷の事について調べたんだけど‥‥」
 ベルトーチカの意見は、セレーナの故郷の味を再現するといいのではないか、という意見だったらしい。
「あたしも長い船旅に出てるときなんか、無性に陸の味が恋しくなるから、その気持ちわかるわ」
「奇遇だね。私も同じ事を考えていたんだよ」
 うんうんと頷くベルトーチカに、ヒースクリフもその言葉に続ける。どうやら、続けようとしていた言葉はこれだったらしい。
「あんたの言葉を聞いて、調べてきたのよ」
 苦笑する彼女に、彼は笑って返す。事前の打ち合わせが、このように良い結果を生んだのだ。

「後は、これで愛情を加えれば完璧なのである」
「そう。一番の調味料は『恋』。人を思いやる心が素材をおいしくするんです」
 リデトの後に、アレーナが続く。
「できれば、セレーナさんともお話したいんだけど‥‥いないんじゃ、仕方ないわよね」
 ちょっと肩を落とすアレーナ。
「でも、この後、がんばってね」

 そんな風に、意見の交換会と試食会は幕を閉じた。
 帰る前に、数人が言葉を残していく。
「そういう人の場合はまず絶対的な信頼を勝ち取る事が先決でしょうね。第一歩として、郷土料理の意見はいいかもしれません」
 これは、ラディスの意見。
「確かに言葉はきつくても それは貴方に伸びて欲しいから、ではないでしょうか? 味に自信があるなら、胸を張ってご自分の意見を言って欲しいと思っていらっしゃるのではないでしょうか。だって、お好きなら‥‥恋人同士となるなら 目の高さは同じでしょう? 私も迷ったり、申し訳ないって思ってばかりで 偉そうな事は言えないのですが‥‥折角のチャンス。それが何よりの贈り物でしょう? 心を込めて‥‥セリーナさんの舌だけでなく、心を蕩けさす料理を、作ってくださいね」
 そう言うと、シェアトはしっとりと微笑んで、その場を後にした。
「君の想いをその料理に込めるしかあるまい。己の魂を込めずして、どうして相手の魂を揺さぶる事が出来よう?間違えては行けない。君も料理人ならそれで彼女の気をひこうとか言った雑念を込めるのではないぞ?相手に美味しい料理を食べさせてあげたい。この料理で幸せを感じて貰いたい」
 その想いをこそ込めるのだ!とヒースクリフ。
「愛しとるんじゃったら、一発突撃じゃ!」
 とは、カメノフの一言。
 そして、屋敷から少し離れた頃に。
「‥‥ま、わしが言っても説得力がないがのう」
 ぽつり、つぶやいた。

 ベルトーチカは、去り際に空を見上げた。
 辺りはすっかりと暗くなり、空には万点の星。
「‥‥ねえ、あたし達のこと、見守ってくれてる?」
 夫へのその言葉は、きっと届くだろう。


●きのこがりにっき
 こんかいは キノコがりに行ったんだ。いっしょうけんめい、キノコをとってきたんだよ。
 キノコを取ってる時に、スカートめくりをしていたおじいちゃんがいたよ。スカートめくりはよくないんだよ。おじいちゃん。
 そのあとに食べたキノコのお料理はおいしかったな。
 そういえば、あの後、エドワーズさんが来たよ。ちゃんとおやしきにのこれたんだって。よかったね。エドワーズさん。
 でも、告白は失敗しちゃったんだって。
 なんだか、
「思いをこめて料理を作った」
「まだまだ力ぶそくだったみたいです」
 って言ってたような。
 次はがんばってね。

  以上、カルル・ゲラーの日記より抜粋