Strom Runaway!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:長 治
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月08日〜11月13日
リプレイ公開日:2006年11月16日
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●オープニング
●寒い時期の熱い依頼
そろりそろりと冬が近付いているのが、肌で感じられる季節になった。
係員は、しっかりと閉めた扉の向こう、風の音を聞いていた。
こんな日は、暖かくしてのんびりしたい。しかし、仕事をさぼるわけにはいかない。
「皆さんのための仕事ですからね」
ひとりごちながら、入れておいた白湯を口に含む。もうぬるくなっていた。
どん!
何かが、壁にぶつかる音。この風で何か転がってきたんだろうか? それにしては大きな音だが‥‥
(「壁が傷つくと、修理が面倒なんですよねぇ」)
心の中で嘆息し、扉の方に向かう係員。
どんどんどん ばん!
と、唐突に扉が開いた。どうやら、先ほどの音は扉を叩く音だったらしい。
そして、中に転がり込んできた人影が叫んだ。
「頼む、こいつをどうにかしてくれ!」
「離してくれコリン、嫁が、妻が、エレナがー!」
それは、友人だろうか、喚いている青年を羽交い締めにしている、中年の男からの依頼だった。
●豊穣の便り
羽交い締めにされていた方の男はデューイというらしい。
していた方はコリンと名乗った。彼らは、同じ仕事場で働いている友人同士だという。
仕事というのは、デューイの護衛。事情はこうだ。
それは今朝の事。
「デューイさんにお手紙ですよー」
「ああ。デューイなら留守にしてる。オレが預かるぜ」
変わりに受け取ったコリンは、差出人の名を確認する。差出人は、彼の妻であるエレナだった。
そういえば、デューイは、生まれた村に妻を残して出稼ぎに来ていたと言っていたような気がする。
「ひゅう。アイツんとこはお暑いねぇ」
独身のコリンは、あとで茶化してやろうと思って、手紙をテーブルに置いた。
もう雨が降り出した頃にデューイが帰ってきた。彼に手紙を渡してやると、飛び上がって喜んだ。
「ありがとうコリン! ちょっとすまない、すぐに読み終わるから‥‥」
焦る必要はないんだがね、と思ったコリンだが、食い入るように手紙を見つめる彼に声をかけるのは無粋と思い、黙って見ていた。
するとどうだろう。彼の顔が徐々に喜色に包まれ、不意に立ち上がった。
「デューイ、どうした?」
「子供が、ぼくとエレナの子供が、もうすぐ生まれそうだって‥‥」
熱に浮かされたような口調で、デューイは呟いた。
そういえば、そんな話をされたような気もする。延々と聞かされていたから、頭の隅にこびりついていた。
ふと気が付くと、いつの間にか、ふらふらと扉の方に歩いていくデューイ。
「おう、行くのか」
見送ろうとしたコリンは、ある噂を思い出した。確か‥‥
彼は、衝動的にデューイを羽交い締めにした。
「待て! 今あの辺りで山賊が出るって話だ。一人で行くのは危ねぇ!」
デューイはばたばたと暴れる。
「行かせてくださいコリンさん! ぼくは、妻のために行かなきゃならないんだ!」
「人が集まるまで待つくらい大丈夫だろう!」
「エレナはきっと不安になってるに違いない、一刻も早くエレナを安心させてやりたいんだ!」
「にゃろう、今から出て行くなんざ、死にに行くようなもんだぞ!」
「大丈夫! ぼくは妻のために絶対に死なない!」
「死ななくても怪我ぁするかもしんねぇぞ?」
「絶対に無いっ! エレナのためならぼくは無敵だ! 待っていてくれエレナー! 今行くよー!」
もう、何が何やら。
●秋風の如く
今朝の事やその村の事やを一通りの話し終わると、コリンは深く頭を下げた。
「こいつはこんなですが、奥さん思いのイイやつなんだ。金は出せる。できるだけ早く、なんとかしてやってくれねぇか?」
当のデューイは、先ほどよりは落ち着いたが、せわしなく辺りを見回し、隙あらば駆け出そうとしているようにも見える。
コリンが見ていなければ、すぐにでも出て行ってしまうだろう。
「確かに、放っておいては余計危なさそうですし‥‥確かにあの街道には今、山賊の出没が確認されています。
こちらでもそろそろ討伐に出ようと思っていたんですよ」
係員は、依頼用掲示板に貼り付ける用紙に書き込みながらコリンに説明すると、彼は不安そうな顔をする。
「なぁ、具体的にはどこに出るんだ?」
「ええと、そうですね。ここキャメロットとその村の最短距離の街道があります。その間に森があるのですが、そこに出るらしいですね。
まぁ、冒険者が付いていれば大丈夫‥‥」
「うおおおおおエーレーナー!」
「いいから落ち着けぇい! 体力も無いくせに今から暴れるなー!」
そろそろデューイの我慢も限界らしい。ということで、早い所仕事を出す事にした。
『急ぎの依頼:街道を行く旅人を、目的地の村まで護衛。
途中山賊の目撃情報有り。敵の情報は下記。
なお、依頼人が途中で疲労困憊して動けなくなった時のために、体力がある人がいるとなおよし』
『山賊の人数は5人。その中でも、体格のいい、髪をそり上げているのが頭だと思われます。
木々の間に隠れて奇襲を仕掛けられたとの報告有り。十分に注意されたし』
「ふう、こんな感じでいいですかね」
一息ついて顔を上げると、どうにも妙な感覚を覚えた。
はて。一人足りないような。ついでに、もう一人は床の上でのびている。
とどめに、開け放たれた扉から、風に吹かれて舞い上がった木の葉が飛んできた。
ああ、あとで掃除するのが面倒だなぁ‥‥
「じゃなくって! みなさーん、急ぎのお仕事ですよー!」
係員は、慌てて人を探し始めた。
●リプレイ本文
●メンバー分散
今回、冒険者たちは二手に別れて行動する事になった。
先発隊がデューイを追い、後発隊が情報を集めた後に合流という形である。
●急げ後発隊
先発隊を見送った後発隊と、見送りの人々。
彼らは、見送った後に各々の仕事へと向かう。
後発隊の面々は、情報収集を終えた後、急いで先発隊の後を追った。
セブンリーグブーツや韋駄天の草履を豊富に準備していたため、冒険者たちの移動速度はかなり速い。
先発隊がデューイの足止めをしてくれているはずだから、合流にはそれほど時間はかからないはずだが‥‥
「森の中ほどで、森ん中から矢を射掛けてきて、罠はなし、と。デューイがひっかかってなけりゃいいんだがね」
聞いた情報を反芻しながら、ラディオス・カーター(eb8346)は街道をひた走った。
「間違ってデューイ殿以外の人を捕まえていなければいいんだけどな」
デューイの外見を聞き込んでいた眠夏風(eb1301)が、立てていた作戦を思い出して少し、不安げな顔をする。
しかし、ふと思い直す。街道をひた走っている、もしくは疲れている人を一人一人当たっていけば、問題ないだろうと。
そして、聞いていた森までの距離から少し離れた場所で。
先ほど分かれたばかりの面々が待っているのが見えた。
キララの知り合いが言った、『簀巻きになったデューイが見える』。実現してしまったようである。
「やっぱり、説得は無理だったみたいだな」
「だな」
ラディオスと夏風は、揃って嘆息した。
●急いだ先発隊
さて。デューイが簀巻きにされた経緯はこうである。
街道にでてしばらくの事。
テレスコープを使用して先を偵察してたアリーン・アグラム(ea8086)は、爆走している人影を発見した。
乗っていたキララ・マーガッヅ(eb5708)の愛馬の上から、仲間に報告する。
少しばかりの後に、声が届く距離まで追いついた冒険者たちは、デューイの説得を試みようとした。
「デューイ様〜、一人では危ないですの、落ち着いてご一緒に行きましょうですの〜!」
キララが呼びかけると、デューイらしき人物は一瞬振り返るが、彼はそのまま走り続けた。
「危なくとも、オレはマイワイフの元に行くんだー!」
が、彼も愛のために走る男。嘘のように速力を上げて逃げ出す!
このまま追いかけっこを続けて、森に辿り着いてしまっては元も子もない。現に、アリーンの視界にはすでに、件の森が見えていた。
「‥‥仕方がない。キララ殿!」
陰守森写歩朗(eb7208)が、後ろを走る
「しかたありませんね〜」
キララは、嬉々としてプラントコントロールを唱えた!
デューイは、木の根に足を取られてすっ転んだ!
で。少し遅れて、サラス・ディライン(eb8307)が追いついた。森写歩朗の馬を彼の代わりに引いていたため、少し遅れたのだ。
そして彼女は、デューイの顔を見て、一言。
「何をそんなに急いでいるのか知らないけど、素人が山賊のいる森を一人で抜けるなんて無茶もいいところ」
「うおー離してくださーい! 子供が、子供が生まれるんですー!」
「? ‥‥よく解らない。生まれてからいくらでも会えると思う‥まあ、いいけど」
「よくなーい! 妻が、ぼくのラブワイフが不安がっているんだー!」
と、サラスとデューイが話している間に、森写歩朗が簀巻きにしたのだった。
●落ち着けお父さん
「と、いうこと。とりあえず、疲れてたみたいだから食べるものをあげて、今は大人しくしてもらってるよ」
アリーンから事の次第を聞いた後発隊の二人は、ははぁと頷く。
側では、馬の荷物になっているデューイ。疲労でぐったりとしているが、まだ意志の光が消えていない。
放って置けば、疲労回復した後にそのまま走って行きそうだ。
「仕方ない。デューイ殿。奥さんを落ち着かせたいのはわかるが、肝心のあんたがどっしり構えて、焦らず無事を確保しないと、奥さんも帰ってきたあんたがボロボロじゃ安心は難しいし、安産だってできやしないぞ」
「デューイ、あんたいいテンションしてるじゃねぇか! けど、少し落ち着いて、奥さんにかける言葉でも考えてくれ。な?」
徐に、簀巻きにされたデューイに説法を説く夏風と、説得を始めるラディオス。
しばらくして、偵察に出ていたサラスと森写歩朗が帰って来た。
で、一言。
「何が合った?」
「何があったの?」
「すんません。オレ、自分の事しか考えてませんでした」
泣き崩れるデューイと。
「何、おいら達がきたからには貴殿を無事に奥方の下に送り届けるからな」
それを支える夏風とラディオス。その側で、曖昧な笑顔を浮かべているキララと、面白そうに三人を眺めているアリーン。
偵察の結果を聞く前に、偵察に行っていた二人への説明が必要だった。
●見つけろ山賊
ともあれ。偵察の結果と集めてきた情報を照らし合わせ、一行は早速動き出した。
森の中、少し入った所で森写歩朗が偵察時の状況を説明する。
「自分が見てきた時は、この辺り森の中に数人潜んでいたが‥‥」
「わかった。トパ、魔法使ってあたしに教えて。怖そうな人たち、どこにいるの?」
その言葉を受けて、アリーンがペットの精霊、トパーズにお願いする。
トパーズは曖昧に頷いて、幾度かブレスセンサーを発動させた。
「わかった?」
何度目かのアリーンの問いに、森の一角を指差すトパーズ。
すかさずテレスコープを使用。そちらを見ると、木々の間、五つの人影がこちらをうかがっていて‥‥
「あ」
「あ」
目が、合った。
100mの距離ならありえないことではない。
ともあれ、一瞬間があった事は間違いなかった。
●戦え山賊
「出てこいよ禿頭! 隠れてないと怖くて戦えないか!?」
「なぁにおぉう! 野郎ども、やっちまえー!」
ラディオスの挑発にまんまと乗ってしまった禿頭の頭は、部下達に命令を下す。
そうるすると山賊達は、木々の間を縫ってこちらに接近してくる。
敵の数は五。その中で敵の弓兵は三。装備していた弓は両方粗末なものだったため、冒険者たちは近寄られる前に迎撃の準備を整えた。
先に攻撃を開始したのは冒険者達。
「‥‥‥私の邪魔をするには、キミたちじゃ十年早い」
サラスの放った矢が、鎧の隙間を縫って弓兵の一人に突き刺さる。
悲鳴を上げて倒れる仲間を見て、一瞬敵の足が止まった。
「今だ!」
ラディオスの号令と共に、武器を構えた戦士達が敵に向かって走りだす。
「大人しくおいら達にお縄にされることだな」
クラブを振り回し、向かってきた山賊の一人を打ち据える夏風。だが、山賊も一撃では倒れない。
「だから、大人しく眠っておけ!」
二撃目、三撃目の攻撃が飛んできて、足取りが危くなる山賊。
「サラス、あそこ!」
視界確保のために森を飛び回っていたアリーンが、敵の位置を補足する。
そこにサラスの放った矢が飛んで、 憐れ一人目は昏倒した。
ラディオスはボスに迫る。
「へへん、図体ばっかりでかくてもよ!」
ラディオスの剣が、ボスに向かって振るわれる。
「これは伊達じゃねぇよ!」
が、その剣は、大降りの鉈でやすやすと受け止められ逆に、受け止めた刃で切り返してくる。
「だな。禿も伊達じゃないってか?」
「これは剃ってるんだ!」
そんな掛け合いというかじゃれ合いをしていると。
「さて、あとは二人。貴殿と部下がお一人ですか」
いつの間にやら弓兵を倒していた森写歩朗が、増援に向かってくる。
これで戦況は二対一だ。
「くっ……覚えてやがれ」
不利を悟った山賊の親玉は、月並みな台詞と共に、背を見せて逃げ出す!
「あ、待てこの!」
その後を、ラディオスが慌てて追う。
が、敵の足は速い。敵の早さを見てとった夏風が、キララに正確な敵の位置を伝えた。
「こっちだ! あの大木の影!」
「わかりましたわ〜」
即座に呪文を唱えると‥‥
キララはプラントコントロールを唱えた!
山賊の親玉は、見事に絡め取られた!
後はもう、いわずもがなということで。
ちなみに、残りの一人は怖くなって投降したそうな。
●走れお父さん
戦闘の間、木の影に隠れていたデューイは、気が気ではなかった。
今すぐにでも走り出したい。けれど、邪魔をするのは‥‥
先ほどまでの気合が入った自分ならともかく、今の自分には走り出す自信などない。
どうしようかと悩んでいるうちに、戦闘は終息を向かえた。
夏風が魔法で皆の手当てをしている間、デューイはおろおろするしかなかった。
と、戦いを終えたラディオスが、デューイの元に戻ってきた。そして、徐に履いていた靴を脱ぐ。
「ここからは安全だろ? だいぶ我慢させちまったし、いけるやつで行ってやってくれや」
笑みを浮かべて、靴を差し出す。
デューイの心に、再び熱い炎が灯った。
妻への愛という熱い炎が。
「あ‥‥ありがとうございます!」
ひったくるように靴を受け取り、履いたかと思うとすぐさま走り出すデューイ。
「では、お先に失礼しますね〜。後の事はお願いします〜」
「ファイト、急げー!」
のんびりと、彼を追走するキララ。引いている馬の背には、ちゃっかりとアリーンが戻ってきていた。
森写歩朗と夏風も何事かと後を追い、森写歩朗の馬を預かっているキララも後に続いた。
「‥‥え?」
いつの間にか、ぽつんと取り残されるラディオス。
実は、彼以外は移動速度を向上させる履物を持っていたのである。
そして、彼が残っている事に気付いた幾人かの仲間が戻ってくるまで、一人寂しく後処理をするラディオスなのであった。
●生まれた幼子
村では、小さな宴会が開かれていた。
元々、身内だけでの小さなお祝いにしようとしていたところに、後から追いついたラディオスが一肌脱いだのだ。
で、飲み物と食べ物を調達して、後は村の人と仲間とで祝いの宴というわけだ。
「おめでとう。元気な男の子だって?」
森写歩朗の祝いの言葉に、デューイは顔を綻ばせた。
「本当に、ありがとうございます。我が子の顔を、そして生まれる前に妻を励ましてやれたのは、貴方方のおかげです」
お礼の言葉と共に、深く深く頭を下げる。
「いいんですよ〜 それがお仕事ですから〜」
キララが、ふんわりとした笑顔でそれに答える。
その後ろに、何かの包みを持ったサラスがいた。
「‥‥おめでたいことがあったときは、祝儀をだすものらしい」
ずいっと突き出された包みには、50cが入っていた。
「‥‥‥‥おめでとう」
「ありがとうございます。すみません、こんなにしてもらって」
デューイは、ありがたそうに包みを受け取る。
主賓席近辺では、二人の男が騒いでいた。
「おーい、飲んでるかー!」
「主賓ー、ちゃんと主賓席にいろー!」
酒が回った夏風とラディオスだ。
「今行きますよー!」
デューイは今一度頭を下げ、宴会の輪の中に戻っていく。
見れば、輪の中央ではアリーンが踊っていた。
見ていて心が安らぐような舞。それは、子供の未来を祝福しているようだった。