小鬼退治のわりに厄介な話
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■ショートシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月14日〜06月21日
リプレイ公開日:2004年06月23日
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●オープニング
小鬼――海の向こうではゴブリンと呼ばれるこの鬼は、ジ・アースの世界に広く生息している醜悪な怪物である。子供のような体躯の彼らは力こそそう強くはないが、集団で行動することで非常に厄介な存在である。彼らは人里離れた山野にウサギ穴のような洞穴を作り数十人の集落を成して生活している。独自の言葉を話し、道具を使う知能も持ち合わせてもいる。人を食うことこそ稀だが、生肉を好み、里を襲っては人々を殺し、奪う。
時にその群れの中に用心棒として茶鬼(ホブゴブリン)の混じることもあるが、大抵は数人の徒党を組んで村を襲う。冒険者からすれば腕試しをするには手頃な相手だが、力の無い老人や子供ばかりの村からすればこれは脅威である。それ故に駆け出しの冒険者の多くが小鬼退治を依頼され、その経歴の最初に経験するのだ。
今回の依頼も、そんな有り触れた依頼の一つに思われた。唯一つ違ったのは、ある面倒な条件をクリアせねばならないということだ。
「村を襲う小鬼は近くの洞穴に30人からの集落を作って暮らしております」
平均的な小鬼の集落としては小さい部類に入るが、これはまだ駆け出しの冒険者にとっては一時に相手をするには手に余る数だ。
「ですが村を襲うのはきまって4〜5人の小人数で、特に茶鬼や豚鬼(オーク)を連れていることもなく、また特に夜討ちや朝駆けをする訳でもなく決まって無用心にも日の明るい内に襲って来ます。襲うのも村の蔵と決まっているので待ち伏せするならそれもうまく行くはずです」
「とすると‥‥人質でも取られているとか?」
「いえ、特にそういうこともないのです」
冒険者の一人の質問に応えて村の長老はおずおずと切り出した。
「申し上げにくいのですが‥‥その、ただ討伐するのではなく、村の若い衆の見ている前で一つ派手に片付けて欲しいのです」
話はこうだ。以前に小鬼が襲ってきた際に村の若い男がこれを追い返そうとして返り討ちに合い、大怪我を負ってしまった。この村の若衆は以来すっかり怖気づいてしまい、彼らのされるがままになってしまっているのだ。男手を集めて当たれば臆病な小鬼のこと、今のようにそう易々と村に手出しをする訳にもいかなくなる筈だが、誰もそんなことを言い出す者はいないのだそうだ。
「茶鬼や豚鬼の混じらぬ群れなら協力して当たれば追い返せるということを、皆様方で身を持って示して頂きたいのです。どうぞ、よろしくお願いします」
●リプレイ本文
「まったく、どいつも揃いそろって腰抜けばかりかい」
田崎蘭(ea0264)は苛立っていた。若衆は端から当てにならないと踏んでいはしたものの、女子供や村の誰しもが協力には応じなかったのだ。もっとも男達が怖気づいていると言うのだからそれも無理からぬことではあるのだが、生来の男勝りの彼女からするとどうにも気に入らない様子だ。
「足手纏いだろうが、要は手前で何とかして見せるって心意気を見せてくれりゃ、ちったぁ若衆も奮い立つだろうにねぇ」
「私も若い人たちに声を掛けてみたけど、どれもダメ。後でイロイロ付き合ってあげる♪って言ってるのに、みんな怖気づいちゃっててやんなっちゃうわよ」
遠く大陸から流れて来たというレリーナ・チェスター(ea3195)は金髪に碧緑と、この東国では見ない美貌の主。その彼女が色仕掛けで持ってしてもまるで誰も動こうとしないと言うのだから、これは相当腰が引けていると見て間違いなさそうだ。ついでに言うとレリーナが声を掛けたのはどれも若くてカッコイイ男ばかりというのは秘密の話、もう一つ言うと更に村娘にまで手を出そうとしたのはもっと秘密の話だ。
「蘭さんの言うように腰抜けじゃこっちから願い下げよ。仕方ないからせいぜい小鬼でも『引っ掛け』て憂さを晴らしましょ」
小鬼が襲うという蔵に冒険者達は身を潜めている。村人達に抵抗が無いと油断し切っている彼らは昼間から蔵を襲うらしい。そこを奇襲して返り討ちにしようと言うのだ。
「現れましたね」
秋月雨雀(ea2517)は蔵の奥で壁に背を預け、刀を立てて腰を下ろしている。逸早く気配に気づいた彼が立ち上がり抜刀する。駆け出しの冒険者である彼らにとってはこれが初陣。いよいよ冒険の幕が開ける。
「貴様らの悪事、神皇様の名において断罪する。我が名は秋月雨雀‥‥悪を断つ剣なり!!」
辿り着いた小鬼たちが蔵を開けたと同時に、戸の向こうで待ち構えていた秋月が機先を制して一匹を袈裟懸けに斬りつけた。大声量で名乗りを上げ、怯んだ所を畳み掛けるように彼は蔵から躍り出る。二刀をかざしてレリーナが、蘭も得物を手にそれへ続く。遠巻きに村人の見守る中、戦いは始まった。
「ウギャギャギャ!?」
「アギ」
「グァガガ!」
突然現れた三人の冒険者に小鬼は途端に浮き足立った。彼らにすればこの反撃はまったくの予想の外。とくればこれは好機だ。三人はここぞとばかりに攻勢を仕掛けた。
「さぁて! いっちょ手早く畳んじまおうかね!」
「バッサバッサと派手に薙ぎ倒してご覧に入れるわ♪」
現れた小鬼は5匹。内の一匹は秋月の初撃で手負い。だが単純に数の有利は大きな壁となって彼らの前に立ちはだかる。手勢が僅かと気づくや小鬼たちは反撃に出た。
「しまった‥‥!」
それぞれが一人と切り結ぶ間に、残る二匹が後ろへと回り込む。背から斬りつけられ秋月が苦悶を浮かべた。
「ですが村人へ助けを呼ぶ訳には行きません。たとえこの身を刻まれようとも戦い通しましょうか‥‥」
覚悟を決め秋月は仲間へ背を預けた。既に小鬼から回りを囲まれる形になっている。退路はない。
「きゃァ‥‥!」
均衡はレリーナの叫び声と共に崩された。小鬼は鎧を身に着けていない彼女に狙いを定め、二匹掛かりで襲い掛かったのだ。
(「掛かったわね――ヒロインの超絶大ピンチ! 私に好意を寄せる男の子女の子たちも、これで勇気を振り絞って私を助けに来てくれるのよ!」)
だがこれはレリーナの芝居。破けた着衣からは白く透ける肌が露になり、そこに傷跡が赤く口を空けている。一際芝居がかった声でレリーナが叫ぶ。あえて敵の攻撃を受けて窮地を演じ若者を奮い立たせる大博打だ。肉を切らせて骨を断って‥‥くれるといいなぁ。そんな感じか?
(「‥‥きっと、多分‥‥おそらくは‥‥」)
「ウッギャガがガガグァ!」
「ううっ、ちょっと心配になってきちゃった‥‥」
案の定というか、血を見た村人達は更に怖気づいた様子で助けに来る気配など見せず、レリーナは再び小鬼の振るう白刃に晒される。まさしく目論み以上の絶体絶命超絶大ピンチ!
「待てぃ、でゴザル!」
あわやという所を救ったのは蔵の上から掛かったその声だった。振り返ると屋根には男が一人。男は忍び装束に身を包んでいる。
「アギャ‥‥!」
小鬼の一匹から悲鳴が上がった。見るとその脚に手裏剣が刺さっている。飛んできた方を振り返るとそこには地面から垂直に伸びる一筋の縄、その上に立つは同じく忍び装束の男。
「それ以上の狼藉は」
「拙者が許しはしないでゴザル」
小鬼、そして村人達の見守る中、二人の忍者が口上を上げる。
「我、影の元、正義とともに在り! フランク・景山、只今SANJOU!!」
「同じく十三代目九十九屋です」
と同時に跳躍し、景山ふらんく(ea2612)と十三代目九十九屋(ea2673)は飛び降りた。これで互いに5対5と数は互角、この二人の登場によって戦況は劇的に変化を見せる。
「我ら忍びの者の術をお見せしましょう、『大ガマの術』!」
九十九屋の術で巨大なガマガエルが呼び出され小鬼を襲う。
「数さえ負けなきゃこんな奴ら怖かないんだ。行くよ!」
この加勢を受けて蘭たちも奮い立った。
「どのみち村人は頼りになんないんだ、私らだけで片付けるしかないんだからね!」
「それなら。私に妙案有り‥‥ですよ」
九十九屋が意地の悪く微笑んだかと思うと、素早く彼は姿を消した。
『この村から出て行け!』
『小鬼だけならオラ達だって‥‥!』
そのすぐ後に遠巻きに見守っていた村人達の中から声が上がり、小鬼へ向けて石つぶてが放たれた。九十九屋得意の声色だ。
「つぶてぶつけるくらいなら女子供でも十分加勢になる、こいつぁ頼もしいねぇ!」
村人がざわめき出した。そこへ姿を現した九十九屋が傍に立つ村娘に目を細めて微笑む。
「に、忍者様‥‥」
九十九屋が彼女へ石を握らせ、無言で力強く頷いて見せた。それに後押しされ、村の女衆が手に手に石を取り小鬼へ向かって投げつけ始めた。
「ガグガガぇ!」
たまらず一匹が村人の方へ棍棒を振り回して駆け出した。だが次の瞬間、小鬼は情けない悲鳴を上げて派手に転んで見せることになる。
「ふっふっふ。決まったでゴザル!」
景山が事前に用意していたのは蔵の周り中に仕込んだ落とし穴。すっかり怯んだ一匹が後を追うが、その前には村人の中から歩み出た一人の浪人が立ち塞がった。
「おっと、それ以上はやらせませんよ」
すらりと剣を抜き放つと露木涼(ea1456)は小鬼の喉下に狙いを定め切っ先を向けた。
「ただ戦って倒すだけではいけないというのも面倒な話ですが、村人たちに活気と自信を取り戻して貰うため、一肌脱ぎましょうか」
屈託のない笑顔を覗かせると、彼はふっと首を巡らせて背後の村人達を見遣る。
「この方たちには、指一本触れさせませんよ?」
涼はくすりと笑みをこぼした。
「これで思う存分戦えるでゴザルよ。ユー達、覚悟は出来たでゴザルか?」
忍者刀を振るい、女達の石つぶての援護を受けながら景山が小鬼に対峙する。村人の護衛は涼に任せ、九十九屋も忍者刀を手に仲間の加勢に飛び出した。
「まぁ、責務は果たしませんとね♪」
この時点で勝敗はほぼ決した。その気配を読み取り、蘭が最後の仕上げに入る。
「女達ですら、この村護ろうと頑張ってんのに、一番力のある手前らがそんなザマかい。情けないねぇ。本当に男かよ」
唇を捲り蘭が挑発的に笑った。ここで助けねば男がすたる。あとレリーナも脱ぎ損である。
「こうまで言われて黙ってられるかよ!」
「オラ達の村は、オラ達で守る!」
これに焚き付けられるかたちになって、ようやく男衆も立ち上がった。手に手にクワやスキを構え、小鬼と対峙する冒険者の周りを村の若い衆が固める。
『ガガ‥‥』
『‥‥ウギャギャ‥‥』
『‥‥‥ギャゥウ‥‥』
初めて見せた村人達の反撃の気配に小鬼は浮き足立った。元々臆病な性格をした小鬼達、こうなってはもう総崩れである。一匹が苦し紛れに村の男へ襲い掛かったが。
「これで怪我でもされては、元も子もありませんから」
すかさず涼が刀で打ち据え、近づけさせない。もはやこれまでと見て残りの小鬼は一斉に囲みを逃げ出しに掛かった。その背に涼が剣撃一閃。仲間達もそれぞれに小鬼を止める。一匹が囲みを抜け出したがそれも――。
「グギャガガぁア」
秋月の展開したバキュームフィールドによって止めを刺され、小鬼は残らず息の根を立たれたのだった。
「意外とあっけなかったでしょう?」
鞘に剣を収めながら涼が微笑んだ。結果として仲間に手傷を負ったものが出はしたものの村人に被害を出すこともなく、また村長の頼みにも何とか応えることができ、万々歳である。
「ふっふっふ! 名乗るほどのものでもないでゴザルよ‥‥ではさらばだ!」
それだけ言い残し、いの一番に景山が消えた。まだ誰にも名前を聞かれちゃいないのでイマイチ決まらなかったりするが、それは初仕事ゆえと言うことで済ませておこう。
「また何かお困りのことがあれば何なりとこの『九十九屋』に御一報下さい、万暗躍いたしますので‥‥」
刀を納め着衣を整えた九十九屋が報酬請求の証文をしたため村長に手渡す。その顔からは先までの血生臭い忍びの表情は窺えず、浮かぶのは商人笑み。
「‥‥‥‥あ、有難う御座いました!!」
村長が深々と頭を垂れ、逸れに習って村人達が皆に頭を下げる。
「何はともあれ、めでたしめでたしです」
それに笑顔で返すと、報酬を受け取り涼がふらりと踵を返す。
「よし、帰るよ!」
蘭が岐路につき、皆がそれに続く。村人達の感謝の声を背に冒険者達は村を後にした。村を守るために戦った彼らの勇姿はしっかりと刻まれたようだ。
「忍者ってカッコエエ‥‥」
「んだ‥‥」
ちょっと景山たちの印象が強すぎたようではあるが、そこはご愛嬌。ともあれ、こうしてちょっぴりだけ厄介な小鬼退治は幕を閉じたのだった。