●リプレイ本文
「ヤクザねぇ‥‥色々と面倒なものだな‥‥」
鋼蒼牙(ea3167)は果し合いを申し込みにヤクザの元を訪れていた。
「そちらもぼーっとするわけにはいかんのだろ? ならば果し合い‥‥決闘だな。それで全て晴らそうではないか」
鋼が提案したのは三人ずつ一対一の決闘で決着とするものだ。話を聞くと、親分は鋼を蔑むように含みのある笑みを浮かべた。
「冒険者がなんぼのもんだってんだ。こっちも侠売る稼業やってんだ。売られた喧嘩は買うぜ」
そして当日。
「さて‥‥、少しばかり厄介な仕事だな」
河原には天風誠志郎(ea8191)たち冒険者の姿がある。
「とりあえず高利貸しがお縄ンなるまでのケツ持ち連中とのお遊びかい。遺恨のこしちゃナンネェとなるとまた面倒だねぇ‥‥。ま、やるだけやってみっか」
集まったのは渡世人の田崎蘭(ea0264)ら8人の冒険者達だ。ヤクザの親分は彼らを横目でじろりと睨め付けた。天風が睨み返す。
「心配するな。ただここで見ているだけ、だ」
果し合いを受けた以上は向こうにも面子がある。口実さえ与えなければ卑怯な真似はできないだろうが、用心に越したことはない。風月陽炎(ea6717)が含みを持たせて試すように言う。
「私達は唯の見届け人、気にしないで下さい。‥‥卑怯な真似をするようなら、黙っては居ませんけどね」
「こっちとしちゃ、あんたらが応じてくれたダケで満足してるンでね。これで最低限の、高利貸し対する義理ぁ果したコトになるだろ? 勝ち負けじゃネェんだよな」
そこへパラの九十九嵐童(ea3220)が両者の間に進み出る。
「‥‥正面からやりあうのは向いてないからな‥‥立会人でもさせてもらうよ‥」
どちらかが気絶、或いは降参した場合はその場で勝負アリとする。遺恨を残さぬようトドメは刺さない。嵐童がそう説明し、ヤクザが一番手の男を前へ出した。冒険者も先鋒の瀬戸喪(ea0443)を送り出す。闘気を身に纏った鋼が固唾を呑んで見守る横で、素浪人の神田雄司(ea6476)が暢気に欠伸を漏らした。時折のんびりと空を見上げてはどこかこの状況を楽しんでいるようにも見える。鋼もやれやれとばかりに空を仰ぐ。
「さて‥‥どうなる事か」
「なんだ? テメェらの一番手はこの女みてぇなヤツか?」
先鋒のヤクザは、線の細い喪へ一瞥をくれると切っ先を突きつけた。喪も霞刀を抜いて構えを取る。
「では、いきましょうか」
先手を打ったのはヤクザだ。その剣撃を霞刀で受け止めると明るく火花が散る。敵も一家を背負ってこの場に立つだけあって、かなりの使い手だ。喪も攻防の両道に長け、その腕は決して引けは取らない。だが手加減してお茶を濁そうとしていた喪は認識の甘さを思い知らされる結果となった。
出鼻を挫かれれば後は弱い。見に徹するのか、はたまた全力で向かうのか。迷いを抱えて剣を振るったまま敵う相手ではなかった。
「けっ。歯応えもねえ」
次第に劣勢に追いやられた喪は、遂に堪え切れずに地に伏した。倒れた喪へ男は切っ先を振り下ろす。
「‥勝負はもう着いている‥」
立会人の嵐童が小柄で牽制する。咄嗟に男が剣先を薙いだ。刃は嵐童のすぐ鼻先を掠めた。
「邪魔すんな! なんならテメェから殺ってもいいんだぜ!?」
「‥それ以上やるなら‥‥覚悟は出来ているか?」
平静を装いながら嵐童が口にするとヤクザは舌打ちしながら刀を納めた。
「ちっ。だが、この調子なら次で片がつきそうだな?」
「よぉし! 次は俺だな!!」
冒険者側の二番手は佐竹康利(ea6142)だ。仲間の調べでは次峰は示現流の使い手。三本勝負、もう後はない。だが佐竹は防戦一方だ。
「なんだ、達者なのは口だけか冒険者?」
痺れを切らしたヤクザが不意を打って土を蹴った。目潰しだ。佐竹はその瞬間を待っていた。守勢の佐竹を攻め続けた疲れは男の知らぬ間に四肢へ纏わりついていた。僅かな隙へねじ込むように佐竹は重い一撃を叩き込む。全体重を乗せた刀身は受けた刀ごと薙ぎ倒さんばかりだ。男がたたらを踏む。佐竹が攻勢に転じた。
「戦うからには手加減できねぇからな! 覚悟しろよ!!」
傾いた流れは容易には変えられない。無論、佐竹にも変えさせようつもりなどない。激しい応酬が繰り広げられる。
「礼を言うぜヤクザさんよ! おかげさんで―――――!」
遂に強烈な峰打ちが男の脇腹を捉えた。
男がくずおれたのと佐竹が踵を返したのはほぼ同時だった。
「――いい勝負ができた!」
「一進一退か。冒険者さんよ、俺らも筋の通らねえことはしねえ」
勝負は最終戦にもつれ込んだ。天風はヤクザ連中が何かしでかさないかと警戒していたが杞憂のようだ。ヤクザはあくまて筋を通すつもりのようだ。それだけ自信があるということだろう。
「男に二言はねえ、次の勝負で片をつけるぜ。だがな、次はウチで一番の使い手だ。アンタらの大将はどいつだい」
親分に問われて冒険者達は顔を見合わせた。
「やれやれ、最終戦までもつれこむとはな‥‥」
天風が小太刀を抜いた。時を同じくして両の金属拳を打ち合わせて陽炎も一歩進み出る。蘭も思わず刀へ伸ばしかけたが、その手を引っ込めた。
「‥‥なんだい」
「田崎か天月が出るつもりだったのか。ならおれは引っ込むが。数が揃わないなら出る気だったがな」
「いえいえ、私も希望者がいるなら傍観者に徹しますよ」
「いや、天月こそ‥‥」
「テメエらで果し合いの喧嘩売っときながら段取りも決めてネェのか!」
まごついている三人へ親分が一喝する。
「まずいことになりましたね‥‥」
雄司がそっと呟いた。その額を汗が伝う。この失態を前にして子分達も殺気づいている。ぴりぴりと肌を刺すようなその気配を感じながら雄司は刀に手を掛けた。
「この分だと、衝突は避けれませんよ‥‥」
もうのんびりなどしていられなかった。雄司の懸念はすぐに現実のものとなった。
「これ以上つきあう義理はねぇな。野郎ども、やっちまえ!」
「数に任せる卑怯な真似はするなと、釘を刺したはずなんですけどね‥‥それとも、死ななければ解りませんか?」
陽炎が金属拳を構え、嵐童達も応戦の構えを見せる。その時だ。
「そこまでだ。この勝負、俺に預けさせて貰う」
割って入ったのは木賊真崎(ea3988)。
「ンだ手前は。すっこんでろ!」
「奉行所が動き出した」
ヤクザ達の顔色がさっと変わる。その反応を確かめると真崎は続ける。
「町人達が窮状をお上へ直訴した。高利貸しはもうお終いだ。ケツモチのヤクザとの関係を示す証拠はまだ出ていないらしいが、こんな所で立ち回りを演じようものならすぐに調べがつくだろう。こちらも現に騒動を起こしている以上――」
河原を見回して、真崎は用意していたその台詞を言い放った。
「――お上に踏み込まれては厄介だ。此処は互いに手を引くべきだと見るが」
「この訴状の通りで相違ないな?」
奉行所では大神森之介(ea6194)が資料を携えて訪れている。
「はい。相違ありません。これが調べた全てです」
森之助はギルドへ依頼を持ち込むに当たって調べた資料を差し出した。資料自体は依頼の際にギルドへ事前情報として持ち込まれているので冒険者たちは一度目を通しているのだが、事の発端から関わった森之介にとっては事件にかける思いは一入だ。幾つかの確認の問答があった後、森之助ははっきりとこう口にした。
「ヤクザが裏で一枚噛んでいるという所まで調べはつきましたが、一家の名前などの背後関係までは及びませんでした」
遺恨を残さずに手打ちとするなら、相手から手を引くという状況が望ましい。真崎が狙ったのはそこだった。事前の調査では既にヤクザと高利貸しの関係は調べ上げられているが、真崎の案で資料からは該当の部分が削除された。
「お上の手が回ったのは金貸しだけだ」
真崎は親分へ止めの言葉を突き立てる。
「今手を引けば互いに傷は軽くて済む。だがまだ続けるようなら――」
冒険者もこのまま果し合いの現場をお上に押さえられては咎は否めない。どちらも危ない橋を渡っているのだ。痛み分けであれば辛うじてヤクザの面子も保たれる。万事窮すかと思われた間際のこの一手で事件は急展開を迎えた。
「そろそろ手打ちにシネェかい?」
頃合を見計らって蘭が間に入る。
「素人に尻尾捕まれるような奴とつるんでも、そっちが損するだけだぜ? あの高利貸しも尻尾つかまれてまもなくお縄なんだ。心中する気ネェんなら、とっとと手ェひくことだね」
こうして土壇場で事件は収束を見た。果し合いは有耶無耶のうちに終わったが、解決に向けての策は既に打ってある。いずれ金貸しへは取調べが行われ、ヤクザとの背後関係についても口を割るだろう。直訴で事が判明しては依頼人への報復は避けられないが、あくまで口を割ったのが高利貸しであれば話は別だ。後は芋蔓式に御用となれば厄介も根こそぎで解決する。そこまでを見越した策だ。絡まった糸の中を針で一通しにしてしまうような、そんな妙案だった。ただ一つの誤算を除いては。
高利貸しは口を割らなかったのだ。
数日前。
「あのぅ‥‥これを旦那さんに渡して貰えませんか? 悪い話じゃないと思うんですが‥‥」
高利貸しの屋敷を男が一人訪ねていた。冒険者の使いでやって来たというその男は、一通の手紙を主人へ送り届けた。ケツモチのヤクザを決闘の場へ出させる旨が記された果たし状である。人遁の術と声色を駆使した風森充(ea8562)の仕事である。
これにより直前に冒険者の動きを察知した高利貸しは、偽造した証文などの一切を隠蔽した。高利貸しは捕縛の手をまんまと逃れたのだ。しかし充を責めることはできない。鋼が一人で喧嘩を売りに行った所で、ヤクザが御前試合のような素人とのお遊戯に乗る訳がない。充の仕事がなければ果し合いに持ち込むことすらできなかっただろう。だが今となっては責任の所在など瑣末な問題だ。冒険者達は事を仕損じたのだから。
この世に悪の栄えた試しはないとはいうが、渋柿の長持ち、憎まれっ子世に憚るのが世知辛い世の常だ。結果として急場凌ぎだけは成したので町人達はなけなしの金を冒険者に吐き出すことになった。前にも増して苦しい生活の中でいつあるとも知れない報復に怯えながら過ごすのだろう。泣くのはいつの世も弱い立場の庶民たちである。高利貸しは今ものうのうと暮らしている。