【目指す光の】 街へ土産を買いに寄り

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月18日〜06月25日

リプレイ公開日:2005年06月27日

●オープニング

 宿場町に若い侍の姿がある。馬を止めると青年は宿を探して宿場を歩いた。馬には旅荷のほかに大きなズダ袋がくくられている。彼の名は藤道志郎。ひょっとすると江戸界隈の冒険者ならその名を耳にしたことがあるかもしれない。一連の那須動乱で己の道を見出し、侍としての道を歩み始めた一人の若武者である。
「ふぅ。暫くはこの街に腰を落ち着けてみるとするか」
 九尾復活の報を江戸に届け、後に義勇軍を率いて那須で鬼の群を討った所まではギルドに記録が残されているが、その後の足取りを知る者は少ない。今、道志郎は藤の姓を捨てて出奔し、修行と見聞の旅に出ている。道志郎がズダ袋を開けた。中には百両箱が幾つも入っている。那須戦役で義勇軍を募るために実家の蔵を売り払って得たものと、一つは与一公から遣わされた報奨金だ。
 やがて宿に身を落ち着けると、道志郎は重たいズダ袋を引き摺りながら表へ出た。慣れない足取りで繁華街へと入っていく。
「何がいいだろうな。弱ったな」
 露天商を覗き、土産物屋を回る。ちょっとした約束で、彼は旧知の冒険者へ贈り物をすることになっていた。今日はその品を探しに来たのた。少女の顔を思い出して道志郎は少し顔を赤らめた。軍資金はこの通りだ。後は道志郎のセンス次第だが、放っておくとどうなることか。ぐるぐると繁華街を回ってもよい品は見つからず、道志郎は疲れ果ててその日は宿へと戻った。
「仕方ない。明日にまた出直すか。早いこと選んでしまわないと‥‥」

●今回の参加者

 ea0264 田崎 蘭(44歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0889 李 焔麗(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea2480 グラス・ライン(13歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea4889 イリス・ファングオール(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1540 天山 万齢(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2004 北天 満(35歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

南天 輝(ea2557)/ 音無 藤丸(ea7755

●リプレイ本文

 宿場町には様々な人が行きかう。
「にしても道志郎。買い物につきあってくれって、ねぇ?」
 田崎蘭(ea0264)とは以前にちょっとした事件でともに戦った中だ。李焔麗(ea0889)も同道している。道中で馴染みの顔を道連れにしながら、今日は既知の冒険者へのちょっとした贈り物を選びに。道志郎は市を探して歩いている。
「で、そっちのお嬢ちゃんは?」
 市で出くわした旅行者達を指して蘭が道志郎を振り返った。傍らの焔麗が一礼する。そこに懐かしい顔を見つけ、道志郎は思わず声を上げてた。
「グラス! 奇遇だな、こんなとこで会うなんて」
 エルフの少女――グラス・ライン(ea2480)は懐かしさを抑えきれず満面に笑みを浮かべている。
「道志郎さん久しぶりやな、元気にしてたん?」
「ああ。こうして元気にやってるよ、グラス。こっちは冒険者の田崎さんだ」
「はじめましてやな。李さんも久しぶりや」
 相変わらずの無邪気な様が可愛らしく、焔麗も思わずひとり頬を緩ませた。那須行のことは蘭も道志郎から話に聞いている。彼女が焔麗と同じくその仲間だったと知り、蘭は素直に驚きを口にする。
「へぇ。このおチビちゃんがねえ。立派なもんだ」
「うん。うちな今日は小さな3人組で動いているんよ」
 グラスは連れ立っていた仲間達を振り返った。
「‥‥小さなは余計だよグラス」
「ほう、この人が噂で聞いた‥」
 子ども扱いされて羽雪嶺(ea2478)はむくれているが、友人達もグラスと旅を共にした彼に一度会ってみたかったらしい。
「何でも、随分と無鉄砲な人‥‥だとか」
 パラの北天満(eb2004)が言うと、道志郎は苦い顔。蘭が肘で小突く。
「あんな真似してちゃあそう言われンのも仕方ねェやな。ま、己の信念に基づいて行動すんのはキライじゃねぇけど」
 この間の茶屋での喧嘩のことを持ち出されては、道志郎も苦笑するしかない。そこへグラスが割り込んで道志郎の手を取った。
「あのなあのな、うちな、あれからたくさん冒険したんよ」
 楽しそうに語るのは会えなかった間の話。春の初めに別れてからもう四半年と経つ。
「いつか道志郎さんの力になれる様に依頼たくさん受けて魔法も巧くなったし、いろんな術も扱えるようになったんよ。あのな、それでな――」
「グラス、そんなに一遍に話したら道志郎さんも困ってしまうよ」
 雪嶺達は共通の知り合いを通して時に行動を共にするようになった仲だ。今日はグラスと満の買い物につきあって街を訪れたのだそうだ。ふと思い出したように、雪嶺が漸くその言葉を口にする。
「そうだ。道志郎さん、今日はこんなとこで何していたんだい?」


 ちょうどグラスも市に用がある。皆で買い物を一緒にすることになった。
「またこうして道志郎さんや皆さんと出会うとは、これも縁(えにし)と言うものでしょうか」
 こうしていつの間にか大勢に囲まれている道志郎を前に焔麗が眩しそうに目を細める。積もる話もある、お互いの近況に始まり、雑談をまじえながら、のんびりとした時間が流れる。
 グラスが道志郎の手を引いて露店を巡る。
「うちの衣装な、いまノルマンにおるインドーラの老師が贈ってくれたんよ♪ どうかな? 似合う?」
 真珠をあしらったティアラに真っ白なブーツ。いずれも異国の装飾品だ。透き通る白い髪にはアーモンド型のブローチが彩りを添えている。
「で何買うの?」
「それが、こういうこと自体初めてなんだ。女の子にあげるものなんだが、だからもう、何を選んでいいのやらさっぱり」
「なるほど、女性への贈り物なのですね。そのくらいの事は‥‥‥‥」
 自信満々に焔麗。が、言葉半ばで頬に手を当てて焔麗は黙りこくった。そういえば武術の修行に明け暮れて観光などもロクにしたことがない。土産選びについても推して知るべしである。
「‥‥‥そういえば経験がありません」
「ったく、だらしないねェ」
 無難な所で櫛や簪あたりだろうか。そう言うと焔麗と道志郎の二人が真面目に頷くものだから蘭は苦笑を堪えきれない。
「女の子なんやから綺麗な物がいいよ、うちも老師から貰って嬉しかったし♪」
「ふむ。なるほど」
「一理あるな」
 それにも二人は揃って真面目な顔で頷いた。どうも本気らしい。
「ねえ、満さんからは何かあるかな?」
「未熟ですが、私は占いを嗜んでいまして」
 占具を取り出し、満は道志郎へ向き直った。
「贈り物を届けるその人はどのような方ですか? 趣味とか好きな色とか、何か教えられる範囲で構いませんので特徴をお教え願えますか?」
「その‥‥ちょっと親しくしている冒険者で‥‥‥歌が巧くて、と、とても綺麗な声をしている」
 それを聞いて頷くと、満は無言で卦を読んでからやがてこう告げた。
「赤いものが運気を呼び寄せますね。女性ならたとえば、紅などどうでしょうか。折角なら古を想わせる品なんて素敵だと思いますね。それに甘い物も‥‥おっと。私の好みの話になってしましたか」
 満は声の調子を上げて道志郎へ目配せした。表情が読めないので冗談を言っているとはすぐには分からない。満が愛犬の七星の頭を撫でる。
「そうか。赤いものか‥‥よし」
 道志郎は一頻り頷くともう一度土産物屋を回り始めた。焔麗も熱心に品を手に取りながらそれに続く。
「そうですね。実用性の高い物などどうでしょう? 嵩張らない物、或いは食べ物などなら、貰っても困るということはなさそうです」
 自分の考えに自信が持てないのか、いまいち普段と比べて語気も弱い。道志郎もなかなかこれというのが見つからないで困り果てていると。そこへ。
「よう。何か探しもんかい?」
 同じように露店をうろついていた男が声を掛けた。
「土産か? 好きな女にやるんだろ。俺に任せな。お代は、そうだなあ。百両でどうだ?」
 如何にも胡散臭い男の様子。流石の道志郎も警戒心がたつのかズダ袋を引き寄せて身構える。
「冗談だよ、冗談。ダメだよォ。そうやってな、肩肘張って杓子定規な生き方してるから土産の一つも選べねえのよ。仕様がネエナ。俺が息の抜き方って奴を伝授してやる」
 そういうと男はもう道志郎の肩へ馴れ馴れしく手を回している。
「俺は天山万齢(eb1540)ってんだ。ああ、その前に。土産やる相手ってのはどんな奴なのよ?」
 そうやって懐から絵筆を取り出すと、道志郎から聞きだした話を元に手早く似せ絵を描いて見せた。
「ほぅ。器用なものですね」
 覗き込んだ焔麗が道志郎と一緒に感嘆を漏らす。
「よし来た! こっちだ」
 その二人を連れて天山が強引に案内する。やって来たのは。
「‥‥茶屋? いや、違うな。天山さん、ここは?」
 道志郎は何だか分かっていない様子だが、そこは出会い茶屋だ。昼間っから何をしているんだか。天山は得意顔でこう口にする。
「ナーニやってんだ。いいか、横に女がいて、嬉しい。気持ちを隠しちゃあいけねえ」
「―――天山さん?」
 焔麗は流石に連れ込み宿くらい知っているのか、難しい顔で横目に睨んだ。射竦められて天山はおどけた風に苦笑する。
「って、姿が見えなくなったと思ったら、ンなとこで油売ってたのかい」
 そこへやって来た蘭がやれやれとばかりに嘆息した。
「その様子じゃまだ決まっちゃいねえみてぇだが」
 天山をまじえて再び市へと足を踏み入れる。そうさね、と蘭。
「そう高価じゃネェモノを贈ることを薦める。今は放浪の身なんだ、ンなときに高すぎるモノなんざ贈ったら喜ぶより心配しちまうだろ」
 親しくしている相手なら尚更だ。何も高価な品を贈るばかりが気持ちではない。
「いいものを贈ればみんな喜ぶってぇワケじゃねぇ。もらう側の気持ちも考えネェと」
「土産なら、そうだな、こっちの服‥は十年早えな。髪飾りとかで十分じゃねえか? 相手はお子チャマなんだろ?」
 もう一度露店をぐるりと回る。天山や仲間達とああでもないと相談しながら物色する。やがて道志郎は朱塗りの櫛に目を留めた。 
「なかなかいいのを選んだな」
 天山が自分でも手にとって値踏みする。値が張るというほどではないが、安物でもない。他所へ出しても恥ずかしくないしっかりした品だ。一頻り見定めると天山は満足そうに頷いた。道志郎も笑顔を零す。
「みんなありがとう。それじゃ、これに決める」

 買い物が終わったのは日も暮れようという頃だった。一行は揃って宿へと向かった。道志郎へ雪嶺が並ぶ。
「那須の事件は僕も別な形で関わったしさ、興味あったんだよ」
 那須戦役では武勲もあげた道志郎のことだ、些細な噂話から妖孤の暗躍を嗅ぎ付けたという話を知る者も少なくはない。
「俺も話ができて嬉しいよ。持ち上げられると恥ずかしいな。俺は結局、陰謀を止められなかったんだからな。与一公からも取り立てて認められた訳でもなし」
「そんなことないよ。目的があったから人もついてきてあれだけの事が出来たんだよね」
「あの活躍は正直なところ俺の力というより、付いて来てくれた仲間のお陰が大きいんだ」
 道志郎は懐かしそうに目を細めた。
「この贈り物も、一緒に旅をした仲間への物だ。長いこと一緒にいたと思ってたのに、いざ贈るとなるとどうしていいものか分からなくなるから不思議なものだな」
「僕もそう。良くわからなくて悩んで悩んで結局悩みすぎて極普通の物を渡すんだよね、後でしまったとか思うんだけどね」
 二人は揃って肩を竦める。雪嶺が口にする。
「そうそう、彼女なのその相手ってさ? もしかしてグラスさんは知ってるかな?」
 その言葉に道志郎はドキリと身を強張らせた。同じく身を竦めたのがもう一人。ちょうど一行を遠巻きにして、店の影から着物姿の娘がコソコソと窺っている。気がついた道志郎が振り向くと人影は一目散に逃げ出した。追う道志郎。逃げ切れないとみると、娘は足を止めて。
「コアギュレイト!」
 道志郎の体が神輝の戒めで縛られる。振り返らずに去ろうとしたその背を道志郎の声が呼ぶ。
「イリス」
 変装して後を尾けて、でもやっぱり見つかって。何をしているのか自分でも分からなくなって、イリス・ファングオール(ea4889)はどぎまぎしながら振り向いた。
「‥‥秘密の依頼で、他に30人位の冒険者が動いてて、だから気付いても話しかけたらダメですよ‥」
 真顔で言って本人はとぼけたつもりだが、道志郎は黙って贈り物の包みを差し出した。紅の入った小鉢と、櫛は桜をあしらったもの。イリスがコクリと頷く。
「ありがとう‥‥」
 それだけ口にするのが精一杯で、後は真っ赤になってしまって言葉が出てこない。その代わりに、イリスは荷袋から何かを取り出して寄越した。ふさふさの飾りがついた根付、それに真新しい羽織。前に道志郎へ贈ろうと思っていた品。羽織は街を回って選んだ物だ。
「ありがとう。イリス。大事にするよ」
「なんや、贈り物の相手ってイリスさんやったんか」
「お久しぶりです」
 イリスがペコリと頭を下げる。二人の間へグラスが滑り込むと、両腕を広げて手を繋いだ。
「二人は仲いいんやな♪」
「これも何かの縁ということでしょうね」
 焔麗が微笑む。束の間の再会と、また暫しの別れ。そんな生き方だからこそ、自分の大切な何かを相手に身に着けていて貰いたい。そんな思いが芽生えるものなのかも知れない。グラスに手を引かれて道志郎は仲間を振り返る。
「折角だ。イリスの話も聞きたいな。夕飯でも一緒にさ」