三人多い

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月18日

●オープニング

 大した依頼ではないのだ。江戸からそう離れていない村で鬼退治をしてくるというだけの簡単な仕事である。駆け出し程度の腕前なら梃子摺るだろうが、腕の立つものに声を掛けてあるから協力して事に当たれば何も難しいことはない。余程に油断して足元でも掬われない限り失敗することなどないだろう。
 鬼が出るというのは村の手前にある小さな山だという。村から里へ至るにはその山を抜けなければならない。鬼どもはその山道を荒らしているという話だ。江戸からの行商も怖がって遠のいてしまい村人達も難儀しているようだ。特に薬などが入ってこないのは時として生き死にの問題にもなる。村人の話を聞くに山鬼の群れのようだ。
「ひい、ふう、みい‥‥」
 集まった冒険者を数えながら番頭は気まずそうに苦笑いをこぼした。
「‥‥弱ったな。悪い、こっちの手違いでどうも多く雇い過ぎてしまったようだ。どうも3人程多く声を掛けすぎてしまったな」
 元々がそう難しくもない仕事。さらに人数が増えても取り分が減るだけだ。とは言え、旅の準備を済ませて集まった者達へ今更帰れとも言えない。そもそもこの中から除外する3人を選ぶのだって一苦労だ。
「仕方ない。報酬は少し目減りするがこのまま行っては貰えないか? その分は楽をできるし、何ならこの人数で完璧に仕事をこなして追加報酬を貰うよう村へ掛け合ってもいい」
 それに冒険者達が顔を見合わせる。各々考える所はあるようだが、こう多くては意見が纏まるのを待っていたらどれだけ時間が掛かることか。
 番頭がもう一度頭を下げた。
「まあ何だ、その代わり弁当くらいはこっちで出すから今回は大目に見てくれ。な、頼む」

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0561 嵐 真也(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2413 聰 暁竜(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 作戦前日。
「‥‥さてと」
 山道の入り口で馬を降りると、風羽真(ea0270)は冒険の舞台となる小山へ視線を向けた
「どっちかってーと鬼が気の毒に思える依頼だが、油断は禁物だからな。気ィ引き締めて行こうか」
「我ら義侠塾生に油断の二文字はないでござるよ」
 山歩きに慣れた久方歳三(ea6381)が先導して二人で山へ分け入っていく。形勢は有利と言え、地形を調べ上げた戦いやすい場所を選べばなお磐石だ。二人は先行の偵察隊。後続の本隊が到着する前に、今日一日で山鬼の活動を調べ上げるのがその役割だ。
 その日の夕方には、里へ回っていた凪里麟太朗(ea2406)も合流した。愛馬の黒皇号を木に繋ぐと仲間を振り返る。
「余裕があるからこそ、冒険者の威厳を保つ為には、万全な任務遂行を求められるというものだな」
 里では山鬼に襲われて引き返したという者から話を聞くことが出来た。鬼は全部で三匹。武装したボス格と、二匹の子分。峠道を歩いている所を三匹の奇襲で旅人を殺して荷を奪う。山向こうの村でも超美人(ea2831)が聞き込みを行ったが、おおむね同じような内容を聞くことができた。
「鬼の装備は古びた鎧と鍬とのことだ。鍬の方は村から盗まれ物らしいな」
 山鬼が出没するのは峠を下り始めて気が緩んだ頃合。以前は日が沈んでからの出没だったが、最近は気が大きくなったのか大胆にも昼間でも動き回っているらしい。
 それにしても、と超。
「人数の手違いか。私は戦闘経験を積めれば良い」
 報酬が目減りするのは癪だが、今はそれよりも冒険に身を置くこの生活に胸が高鳴る。いずれにせよ完璧に仕事をこなすことだけだ。一意専心。今は確たる結果を出すのみ。
「住民も薬も届かぬのでは不安であろうからな。任されたからには期待は裏切らん」

 後続の冒険者達は江戸から徒歩で山を目指している。隊列を崩さぬよう仲間に続きながら、嵐真也(ea0561)は伸びをするように首を巡らせた。遠く見える山々と、道沿いに覗く花々や小川のせせらぎ。けたたましい蝉の声。隣ではケイン・クロード(eb0062)が驢馬のディアスを引いてのんびりと歩を進めている。のどかなものだ。再び路傍の草花へ視線を落とし、嵐はふと表情を緩ませる。
 こんな気持ちで遠出するのも随分と久しぶりだ。いつもの過酷な修行の旅ではこうして景色を楽しむ余裕を持てるなどなかったことだ。
 もっとも、と内心で嵐。
「先行した仲間の事を思えば、足を止めて楽しむ余裕が無いのは残念だな。帰り道にでもゆっくり楽しむとしよう」
 山では義侠塾の同輩でもある真たち3人が待っている。嵐は少しだけ歩調を速める。先頭では聰暁竜(eb2413)が黙々と先を歩いている。口数が少なく何を考えているか読めない男だが、時折後続を振り返っては歩調を揃えている。
 不意に聡が足を止めた。
「――――――――到着だ」
 視界の向こうに仲間達の姿。一行が山の麓で合流したのは二日目の夕刻だった。テントから顔を出した久方が聰らを出迎える。
「こちらの人数が多いでござるか? 8人もいれば十分すぎるでござるな」
「人数に関しては今更とやかく言うつもりはない。人であれば誰しも間違えることはある」
 荷物を纏めて聰は早々にテントへ入っていく。続いた霧島小夜(ea8703)が久方の肩を叩いた。
「まあ、どんな依頼であれ全力を尽くすのが依頼人への礼儀‥‥だな、久方?」
 人差し指で久方の髪を弄くって笑うと、長身を屈めてテントへと消える。嵐が荷物をおろして一息をつく。
「確かに詰まらん失敗はしたくないな。有利な状況だからこそ油断せず。これも、修行と思えば慢心する事無く、当たろう」
 山の陽は落ちるのが早い。麓で一夜を過ごし退治は翌朝の運びとなった。そして翌朝。準備を整えた一行は二手に分かれて作戦を開始した。
 偵察隊が囮となり峠道を進む。その後を続く本体が木々に隠れて山鬼の動きを警戒し、敵が現れたら奇襲で手早く片をつける。地形に慣れない仲間達のために久方が後続の隊につき、その分の不足は超が補う。狩りを嗜む彼女がついていれば心配はない。勿論、昨日の内に山を歩いて回った真も先導を務める。
「敵は三匹、対する俺達は一騎当千のもののふだ。負ける道理はない。そうだよな、麟太朗?」
「無論だ。義侠塾の名に恥ずかしくない行いを心がけるぞ、真君」
 鬼の出没する場所は既に知れている。超ら三人の囮に鬼達はすぐに食いついてきた。
「現れたでござるよ」
 久方が仲間へ警告を発する。話に聞いていた峠道。やはり下りに入って気の緩んだ所を狙っているらしい。もしも鬼を振り切って逃げようとすれば高低差がそのまま圧し掛かる形となる。だが今回はそれがそのまま鬼達のとなる。
 霧島が得物の忍者刀へ手を掛けた。
「お出ましだな‥‥さっさと片付けさせてもらうぞ」
 人の利に加えて地の利も冒険者にある。いよいよ大詰めだ。鬼達が峠道へ飛び出したと同時に冒険者達も一斉に行動った。

「我流・飛燕剣のケイン・クロード、全力で行きます!」
 真っ先に飛び出したのはケインだ。敵が状況を呑み込む前の速攻で片をつける。鬼へ迫ったケインが愛刀・飛燕へ手を掛けた。
「飛燕剣参式‥‥翔けろ、飛燕!」
 横薙ぎの一閃。鬼が咄嗟に飛び退く。そこへ刀身から巻き起こった剣圧が真空の刃となって鬼を切り裂いた。武装した山鬼へは超が切りかかっている。鬼達もすぐに迎撃の構えを見せるが、最後の一匹へも霧島が攻撃を仕掛けた。
「避けさせはしない、【狐爪】」
 居合いの構えから大胆に狙うは敵の喉笛。鋭く爪を振るうが如く、弧を描いた切っ先が肉を裂く。山鬼は仰け反って避けようとするが避けきれない。体勢を崩した鬼がよろめき、血の華が霧島の頬を染める。だが手元に残った手応えの軽さに彼女は舌打ちした。
「皮一枚か。まだまだ私も修行が足りないな」
 喉笛を掠めた切っ先は皮一枚で致命傷には至らない。鬼はすぐさま起き上がろうとするが、既に真が待ち受けている。
「‥‥これも仕事だ。悪く思うな‥よっと!」
 日本刀が鬼の太股を突き、耳をつんざく悲鳴が木霊する。足を殺してしまえば後は容易い。霧島も攻勢に出た。敵の反撃は見切りでかわし、肉を殺ぐような斬撃が鬼を切り刻む。
 ケインも鬼を追い詰めている。外套を目晦ましにした斬撃で攻め、敵の攻撃は慎重に受け止めて通さない。
「壱式‥‥舞え、飛燕!」
 その斬撃は確実に鬼の体力を削いでいく。ジリ貧になった鬼は防御を捨てた捨て身での反撃に出た。初撃を辛うじて受けるが次が持たない。そのケインの窮地へ久方が咄嗟に助太刀する。
「加勢するでござる」
 鬼の攻撃を盾で受け止めると久方は果敢にもその巨体へ掴み掛かる。だが弱っているとはいえ鬼の体力だ。掴み合いからの一瞬の切り返しで久方は坂へ転がった。辛うじて受身を取るが、這いつくばった久方の体を影が覆う。鬼が太い腕を振り下ろし、次の瞬間、そこへ飛び込んだ影がそれを押しとどめた。
「‥‥‥大丈夫か」
 振り返ったのは聰。視線を動かして戦況を把握すると、反撃を試みた山鬼の鳩尾へ強烈な突きを見舞う。勝機と見るや、躊躇なく踏み込んで攻めに転じる。怯んだ所を今度こそ久方が掴んで投げ飛ばした。
「って、久方さん! こんなとこで投げたりなんかしたら‥‥」
 投げ飛ばされた鬼は斜面を転がった。だが既に聰が駆け出している。体術で斜面を駆け下り、逃さない。勝敗はもはや決しようとしていた。時を同じくして、ボス鬼との戦闘も勝負の山場を迎えていた。切り結んでいた超の剣撃が遂に鎧の留め具を弾き飛ばしたのだ。霧島も相手取っていた鬼を屠り、加勢に回る。
「今度こそ‥‥【狐爪】」
 しかしやはりボス格の鬼。霧島の大振りを難なくかわしてみせた。お返しとばかりに鬼は強烈な反撃を繰り出す。辛うじて刀で受けた霧島がたたらを踏む。
「まだだ。油断するな! 確実に仕留めるんだ」
 超が日本刀を振るって牽制しながら援護に回る。防具を崩したとはいえその膂力は単純に厄介だ。形勢は有利と言え一人であたるの危険だ。超が油断なく周囲の仲間へ視線を送る。超の後ろには凪里がつけている。
「私も援護する! 連携を取って戦うぞ!」
 手にした松明からは炎が細く伸び、鬼が隙を見せようものなら炎の舌が表皮を焼き焦がす。幻惑するように焔の鞭が鬼を牽制する。警戒した鬼は防御の構えを取って間合いを開けた。そこをすかさず拳が打つ。鬼が振り返ると離れた位置に嵐が構えている。ミミクリーで腕を伸ばしての攻撃だ。ケインも刀の柄へ手を当てたまま、じりじりとすり足で間合いを詰める。気づけば山鬼は冒険者達に完全に囲まれいた。
「飛燕剣参式――」
 ケインの衝撃波が先手を打つ。そこに山鬼の注意が逸れた。その一瞬の隙を突いて、凪里の焔が縄となって鬼の体に巻きつく。超と霧島、そして真が三方から一斉に止めの突きを見舞う。長い断末魔の咆哮が木霊し、遂に鬼は息絶えた。


 こうして山鬼退治の依頼は無事に完遂された。そして今。冒険者達は仕事を終えた山で一息ついて涼を取っている。
「巣穴の確認も済んだぞ。」
 囮隊の三人はその足で鬼の残党の有無を確認して来た所だ。
「残党がいれば事件が再発する。村や里に関わる者達が本当に安心出来る為には、徹底的に撲滅させないといけないからな」
 三人が帰ってきたのと時を同じくして、依頼人の村人達も冒険者の元へやって来た。手にした風呂敷包みは今日の分の弁当だ。超がそれを受け取りながら事件の顛末を報告する。
「私達で隈なく調べたので当分の間は大丈夫だろう。行商も安全にできるし薬の心配もしなくていいぞ」
「ありがとうございます。皆さんもお怪我がないようで何よりです」
「あはは、日頃の鍛錬の成果だね」
 ケインが飛燕の手入れをしながら笑顔を覗かせる。峠道を逸れた木陰には茣蓙が敷かれ、冒険者たちは戦いに火照った体を休ませている。村人達がそこへ重箱を広げる。今日の弁当はいつもの味気ない保存食ではない。山の幸を使った村の郷土料理だ。料理好きのケインは早速箸に手をつけ、舌鼓を打つ。超も持参の日本酒をあけて一杯やり始めた。
「納得の行く仕事が出来た。うむ。こうして飲む酒もまた格別だ」
 木漏れ日の下ではささやかな宴会が始まった。久方が宴会芸を披露し、笑い声が夏の空に木霊する。陽だまりには夏の太陽が濃い影を落としている。木々を抜ける涼風が一行を撫で、遠くには蝉の音。見上げれば吸い込まれそうな青空。そして見渡す限りの緑。嵐は箸を休めて山の風景へ目を落とした。
「時には、花鳥風月を楽しむ余裕も必要だろう」
 ふと聰の視線を感じて、嵐はバツが悪そうにして姿勢を正す。
「‥‥似合わないのは重々承知だがな」
 それに、聰はほんの少しだけ表情を緩ませた。嵐と同じように夏の情景へ視線を向ける。
「確かに事前の話とは違う仕事ではあったが。自分は勿論、短い間とは言え、行動を共にする仲間が傷つかずに済むのであれば、それは喜ばしいことだ」
 相変わらず表情は読めないが機嫌の良さは何となく窺える。
「万が一の事が起こるのが冒険者稼業。時にはこうしてゆっくりするくらいの贅沢は許されるだろう」
「まあ、たまにはこう言う手違いもあるか。これもまた一興」