祀りの華
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月12日〜11月17日
リプレイ公開日:2005年11月20日
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●オープニング
秋とは実りの秋である。この収穫の季節に人々は五穀豊穣を神へ感謝した。それが秋祭りである。この武蔵国でも概ね収穫の終わる10月から遅くとも11月初旬に各地で秋祭りが行われている。この日ばかりは村中が仕事の手を休め、農作業の大変さを労いあい、皆で酒を飲み、笑いあう。このように秋祭りは所謂「ハレ」の日として村中が待ち望む大事な娯楽の場。祭りの行われる境内は一年を通じて最も華やぎ、人々は日ごろにたまった鬱憤をここぞとばかりに発散した。
そんな訳だから、今年の祭りが中止になったその村の沈みようといったら、随分なものであった。
事の起こりは、一月近く前。ちょうど収穫の作業が終わろうという頃だ。村の社に一通の文が投げ入れられた。差出人の名はない。そこには拙い文字でこう書かれていた。『むらまつりをやれば、かぐらのまいてをころす』、と。秋祭りの目玉は何といっても奉納舞だ。噂は広がり、村を訪れる筈だった旅芸人や神楽舞はみな奉納舞を拒否したのだ。事を重く見た神主は、大事を取って秋祭りを取りやめることを村の者へ告げた。
「でもよォ、宮司さん。やっぱり何とか村祭りをやってもらってはなんねぇか」
「だめだ。秋祭りとはいえど神事。万が一のことがあってはならぬ。だいいち、肝心の奉納舞の舞手がおらぬのでは秋祭りもあるまい」
「それなら‥‥」
と、村の者の一人が口にする。
「実は、何とかならねぇものかって、江戸の冒険者ギルドっちゅうところに依頼を出しただ」
「村長もそれならばって、村祭りをやってええちゅうとるだ。それに冒険者に頼めば、舞手も見つけてくれるし、何かあっても守ってくれるに違ぇねえ」
だが‥‥。
「ならん、ならんぞ! 社の承諾を得ずに祭りを行うというなどはもっての外、祭りとは即ち祀り。神職を蔑ろにして村人だけで行おうなど神への不敬極まる!」
「だけんど、村じゃ祭りをやるちゅうことでもう話しが纏まってるだ。祭りの日は境内を使わして貰うことになっとるだで」
「あとは村のもんが楽しみにしとる奉納舞ができれば文句なしだ。神楽舞は冒険者に手配を頼めても、神事は宮司さんにしか頼めねぇ」
縋るような村人の目。しかし宮司は取り付く島もない。
「勝手にせい。だが間違っても社を血で穢すようなことはあってはなならぬ。絶対に神事は執り行わぬぞ」
●リプレイ本文
村祭りはいよいよ今晩へ迫っている。
境内では着々と祭りの準備が進められているが、そこに神職の姿はない。説得もうまくいかぬまま、神事の段取りなしで夜を迎えようとしていた。
トマス・ウェスト(ea8714)が件の脅迫状を摘んで嘆息する。
「何か、子供が描いたような字だね〜」
慣れない者が字を書くと筆に余計に力が入るというが、これもそんな印象を受ける。トマスの見識では書き手の年までは流石に窺えないが、どうも大人の筆圧のような気もする。文面を前にトマスは思案気に眉を寄せる。ふと、一緒にそれを見ていたアゲハ・キサラギ(ea1011)が立ち上がった。
「やっぱり舞は気持ちよく踊りたいもんね。ボク、神職さんを説得してくる!」
トマスの制止も聞かず、勢い社務所へ駆け込んだアゲハ。
神職を捕まえると早口でまくし立てる。
「脅迫状は他の皆が調べてくれてるし、きっと犯人は捕まるはずです! 奉納舞だってボク達がやるし、血で穢すような事は絶対やりませんから!」
「しかし‥‥」
「――だって村人さん達がか可哀想だもん‥‥楽しみにしてた祭りが中止だなんてさ。そりゃ神事なんだろうけど、大事な娯楽なんでしょう? 絶対やらないと!」
哀願するアゲハは縋るような目つき。神職が困り顔で視線を彷徨わせる。
‥‥四半刻ほど後。
社務所からアゲハが戻ってくると、待っていたトマスが顔を起こした。
「もーあの分からず屋! アッタマ来るー!!」
「こんな紙切れ一枚のおかげで、来年の収穫は望めなくなったね〜。まったく誰のせいだろうね〜」
息巻いたアゲハの様子を見れば結果を聞くまでもない。トマスが肩を竦める。摘んだ脅迫状をぴらぴらとさせながら人事のように笑い声を上げた。
「今ならまだ間に合うかもしれんがね〜、けひゃひゃひゃ」
問題は山積み。だが一つひとつ当たるほかない。久方歳三(ea6381)は浦部椿(ea2011)や仲間たちと共に旅芸人に奉納舞の楽士の約束を取り付けた所だ。
「次は犯人の調査でござるか」
兎も角も村での聞き込みだ。凪里麟太朗(ea2406)も一緒になって家々を回って歩く。
「義侠塾では留年決定の今だからこそ、私はのびのびとギルドからの任務に励むぞ」
ヤケクソ気味に笑うと、同じ塾生の久方も釣られて苦笑を漏らした。
「それはさて置き、犯人の目星にござるが」
久方は代書屋という職業柄、多くの人の字も目にする。脅迫状を見た印象では男の文字のように久方には感じられた。村八分になっていたりと村そのものへ恨みを持つ者の可能性を疑ったが、そのような者は見当たらない。村人の誰もが村祭りを心待ちにしている。祭りの中止で利する者も捜査には上がらなかった。
凪里が思案げに俯いた。
「どちらにせよ目星がついても証拠不十分だな」
「では‥‥」
不安そうな久方。それに凪里は首を横へ振って返す。
「祭りの最中に現場を取り押さえるしか、手はないだろう」
そして夜。
境内に灯りがともる。村から続々と人が集り、境内は賑わいを見せる。参道には屋台が並び祭りの灯りがきらびやかだ。その喧騒から離れて凪里はじっと境内を警戒している。
「犯人は必ず妨害に現れるはずだ」
愛馬である黒皇の手綱を握り、辺りへ視線を走らせる。
ふと凪里は社を振り返った。
(「長引いているのか、まだ」)
社では奉納舞を目前に最後の説得が続いていた。
「この通りでござる。村人たちも楽しみにしておるでござるよ」
久方が頭を下げるが神職は頑として聞き入れない。
「祭りは娯楽ではない、五穀豊穣を祝う祭事だ」
「しかし宮司殿。今年だけ行わないのも酷な話でござる。これではかえって、神様の不興を買うのではなかろうか?」
そういうと久方が懐から書簡を取り出した。
「心配は無用にござる。大方の調べはついているでござるよ」
神職がそれを広げると、そこには昼間の聞き込みの成果が纏められている。書簡へ落とした視線が上下し、思わず神職が唸り声を漏らした。だがそれを丁寧に畳むと、久方へ丁重に返してのける。
「だが、できぬ。万に一つのことがあれば、誰が責任を取れるのか」
二の句が継げず久方が圧し黙る。不意に訪れる沈黙。
その時だ。
凛とした声が空気を震わした。椿だ。
「当職も八百万の御神に仕える身なれば」
ずいと身を乗り出すと、その手を襟元へ掛ける。両手で襟口を開くと椿は首を差し出した。神職がたじろぎながら尋ねる。
「その首差し出して、神のお怒りを鎮めると?」
答えはない。ただ椿の瞳は真っ直ぐに神職へ向けられていた。
「祭は祀り、それはご尤も。されど神事と舞を奉る神は本来誰でありましょうや?」
二人の視線がぶつかり合う。椿の鋭い眼差しに神職は気圧された風に身を引いた。唾を飲み下すゴクリという音が社に響いた。
同じ頃。
舞台袖ではアゲハがその時を待っていた。
「説得、まだ終わらないのかなあ。もう奉納舞始まっちゃいそうなんだけど‥‥」
犯人は未だ捕まらず、仲間が守ってくれるとはいえ身の危険を伴う。
(「でも、これでもプロなんだし。しっかりしないと」)
祭りの空に笛の声が響き、鼓の音が辺りを震わす。いよいよ祭りは最高潮へ差し掛かった。境内へ人のざわめき。舞台の周りには徐々に村人が集り始めている。警備中の凪里のこめかみを冷たい汗が伝う。
「始まったか、しかしまだ犯人は――」
笛の音色に誘われて舞台へアゲハが進み出た。神事は行われぬままに、だが精一杯にアゲハが舞を披露する。内心の不安は表に出さずに笑顔を振りまく。村人達もまた楽しげな雰囲気。その人だかりの中に、ひとり落ち着かぬ様子の男がいる。
その視線はきょろきょろと辺りを泳いでいる。ふと男がビクリと肩を震わせた。視線の先にはトマス。肩越しに振り返ったトマスは男を見るとニヤリを笑う。
「けひゃ」
すぐさま男は踵を返した。人込みを掻き分けて逃げ出す。その背へトマスが追いすがった。
「コア・ギュ・レイトォ!」
けひゃひゃとトマスの笑声が響く。体の自由を奪われた男は受身も取れずに頭から派手に転ぶ。その時だ、舞台の人垣からわっと歓声があがる。
振り返ると舞台には装束に着替えた神職の姿。舞台ではアゲハが踊り、その神楽囃子に乗せて神職は祝詞を奏上する。そこへ装束に着替えた椿が踊り出た。舞装束の椿がアゲハと交差する。すれ違いざまに視線が合い、椿が目配せを送る。アゲハも不敵な笑みをこぼす。
ふと観衆を見遣ると遠くに仲間の姿。凪里とトマスは男を取り押さえたようだ。男の傍には鬼火が浮かび、それが尾を引いて縄のように周りを飛んでいる。凪里のファイヤーコントロールだ。男は逃げられず観念した様子、事件は解決したのだ。アゲハを見て凪里が無邪気な笑顔で返す。
鼓の音が高らかに鳴り響いた。舞は最高潮を迎える。アゲハと椿の二人舞も激しさを増す。祭りの熱は高まり、村人達からも喝采があがる。舞う椿もいつしか微笑を浮かべている。
祭りとは祀り。収穫を鎮守神へ感謝する祭事の場なれど、祭神はなにも鎮守神だけにはあらず。村の祖霊もまた祭神なれば、父祖の御霊に収穫を報告するのもまた祭りの場。神職は神と人との仲立ちをし、村人はそれに取り持たれて氏神と語らうのだ。
一月遅れの秋祭りはこうして大成功を見た。人々は祭りの夜に祖霊と語らい、収穫の喜びを報告する。舞い手は語らいの場の華となり、祖霊と共に村人は豊作を喜ぶ。陽気な神楽囃子は乗って、人々の笑い声は冬空にどこまでも高く伸びていった。
祭りが終わって。
「村じゃ今年も豊作だってのに、うちの畑だけ実りが悪くてよ‥‥」
捕まった男はぽつりぽつりとそう訳を話した。
「ほんとは悪さする気もなかったんだ‥つい出来心で」
豊作で賑わう村の者がつい妬ましく、男はほんのイタズラのつもりであんな脅迫状を送りつけたのだという。ただ
殺すなどという気持ちは端からなく、事が大きくなってしまい言い出せなくなってしまったのだそうだ。男は久方らに伴われて神社と村人へ侘びを入れ、事情を汲んだ神職と村人から許しを得た。来年こそは秋の収穫の時期に祭りが行われることだろう。
冒険者の活躍で事件は穏便に解決を見た。村人達の笑顔も戻り、村中から感謝されて一行は村を後にした。こうして事件のあらましと共にその報告書はギルドの棚に眠ることとなる。