心は一つになった!(今さっき)

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月18日〜08月23日

リプレイ公開日:2004年08月27日

●オープニング

 冒険者と一口いっても、様々な種類の者達が居る。武芸に秀でた者、様々な魔法を使いこなす者、知識、技術、己の素質に加えて様々な技を駆使して彼らは困難な仕事をこなすのだ。時には厄介な状況の中、特別な技を持つ者達がそれぞれ身に付けた技芸を駆使して事件を解決することもある。この事件も、そんな話の一つ、だ。
「巷で暴利を貪る高利貸し、こいつを懲らしめるってのが今度の依頼だ」
 その男、地回りのやくざ者や博徒と裏で繋がって相当に甘い汁を吸っているともっぱらの噂で、庶民から巻き上げた高い利息でかなり羽振りのいい暮らしをしているらしい。
「数日後、その高利貸しの屋敷へ、日頃深い付き合いのある親分衆が招かれて一献交わすという話だ。それに乗じて客に混じって屋敷へ潜り込んで、ちょっと懲らしめてやるって寸法よ」
 それぞれ子分を連れて屋敷を訪れるとなると、自然、人の出入りも多くなり事も起こし易い。
「ただ、それは人に恨まれることの多い金貸しよ。何かあっちゃまずいってんで、常より厳戒な警備を敷くだろうよ。その警戒の目を掻い潜って潜入するってぇなると、こりゃ一苦労だ。ただの冒険者にはこなせねぇ仕事だ」
 ここで必要とされるのは。警備の目を騙し、また時に闇に乗じ、人の目に触れず闇から闇へ、隠密裏に事を済ませることが出来る者。
「つまり。――相当に影の薄い人間だぜ」
(「‥‥忍者だろ」)
(「忍者だろ」)
(「‥‥‥‥‥‥」)
「しかもだ。賊の襲撃を恐れた奴は、客の親分衆にも屋敷への武器の持込を禁じるってぇ話だ。護衛の子分供も皆、門を潜るときにゃ腰の物を預からせて貰うらしい。だが奴の雇ってやがる用心棒は皆帯刀した手練揃い」
 万が一に潜入したことがばれてしまった時、こちらは頼れる武器などなく丸腰で敵の刀と向かい合うことになるのだ。だがそこであっさり殺られてしまうようでは話にならない。そんな状況でも十分に戦える者がこの場面では必要とされるだろう。
「分かるな? ――気合が足りてねぇと怪我するぜ?」
(「‥‥‥‥‥‥‥‥素手‥?」」)
(「‥‥‥魔法使えるヤツとか‥‥」)
(「せめて武道家を‥‥」)
「だがいかに手練の冒険者達で臨んだとしても、さすがにこの状況では分が悪い。手傷を負うってぇことも十分に考えられるだろうな」
 その不利を覆せる人材となると。
「――余程に根性の座った奴だろうな」
(「‥‥耐えんの?」)
(「僧兵だろ‥‥」)
(「‥‥‥‥」)
「まあざっとこんなもんよ。ちっと特殊な状況なもんだから無理難題つきつけることになっちまったけどよ。影が薄くて気合の入った根性の太い奴、3つの条件に合った人物に依頼をしてぇ」
(「一人?」)
(「一人?」)
(「一人?」)
 依頼を前にして、ここで遂に冒険者達の心は一つになった! 仲間達の心がしっかりと合わさった今、どんな困難も乗り越えられるはずだ!
「かっかっか。しっかり懲らしめて来てくんな。報酬は弾むからよ!」

●今回の参加者

 ea0233 榊原 信也(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0352 御影 涼(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0541 風守 嵐(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0561 嵐 真也(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0889 李 焔麗(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4598 不破 黎威(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4889 イリス・ファングオール(28歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

堀田 左之介(ea5973

●リプレイ本文

 闇の中に、一筋の白い帯が揺れている。
「暴利を貪る高利貸し‥‥典型なワルだ」
 暗がりに溶け込む様に立っていたのは風守嵐(ea0541)。忍び装束に映えるその白は長鉢巻。屋根伝いに闇夜を飛び、いま風守が被害者達の無念を胸にし屋敷を望む。
「‥‥オレは許さん」
 因果応報は物事の常、弱者を食い物にする下種には相応の報いを。その相貌に決然と義憤を宿し、彼は塀へと飛び移った。鮮やかな手際で屋敷へ侵入し更に屋根へ‥‥と飛んだ風守がなぜか瓦に塗ってあった油に足を取られ真っ逆様に。
「おっ、うわ‥!」
 ドサリと鈍い落下音に瓦の割れる音、そしてくぐもった呻き声が聞こえたきり塀の向こうはまた静かになった。その様を聞き耳を立てて窺い、屋敷の裏手に回っていた不破黎威(ea4598)は小さく頷いて見せる。
「やはり罠が張られていたか」
 昼間と前日の夜にも偵察に行った際に、屋敷で何か動きがあったのを不破は目撃している。侵入者を警戒して直前になって更に警備を強化したようだ。
「行動は屋敷の門をくぐって始まるが、仕事は依頼を受けた、その瞬間からだ」
 にやりと笑むと、不破は塀に駆け寄り、布に包んだ刀を中へ放り投げた。手早くそれを済ませた不破は何食わぬ顔で表へと回って行った。
「なるほど、刀だけ先に屋敷へ持ち込んで潜入後に回収か」
 その様子を遠巻きに窺いながら榊原信也(ea0233)も罠を考慮して侵入の算段を始める。そろそろ招かれた親分衆とその手下が屋敷を訪れる頃合とあって通りが騒がしくなっている。不破はそのドサクサに紛れて門から中へ入るのだろう。
「ん‥あれは、李‥‥だよな‥?」
 ふと、通りにめかし込んだ李焔麗(ea0889)の姿が目に入った。首だけ出して様子を窺うと、客人達に混じってちらほらと顔見知りの冒険者達の姿がある。各人様に得意分野を活かした手段で潜入を開始したようだ。
「‥‥さて、こっちも一働きするか‥」
 

 イリス・ファングオール(ea4889)は大変な努力家であった。そんな訳だから彼女もまた依頼のために労力を惜しまず臨むのは自然な成り行きなのであった。
「こんにちは。よろしくお願いします」
 まだ幼さの残る彼女は夜ともなれば空を仰いでは歌を楽しみ、月や星々を遠く眺めては心を遊ばせる心根の優しい少女であった。そんな自分ではヤクザ連中に混じって屋敷に入り込むのはさすがに難しいと自覚はしていたらしく、何とか用心棒として雇って貰えはしないものかと「他の仕事でも何でも良い」と自分なりに頑張って売り込んだところ大変親切な親分に拾って貰うことができ、いま彼女は一人前の用心棒として親分のお供に付いて行けるよう下積みの修行にあくせくと励んでいた。
 一家の掃除や洗濯をこなしている内に、やっぱり来る所を間違えたかもとか、よっぽど皆が戻ってくるまで歌でも歌って外で待っていた方が良かっただろうかなどと思うこともあったが、持ち前の大らかさでイリスはしっかりと留守を預かるのであった。
「イリスの姿が見えねぇが、流石にコネもないじゃ用心棒に加えて貰うってのは難しかっただろうなぁ?」
 依頼を受けていない時は用心棒として口に糊する風羽真(ea0270)が屋敷の警護増員に混じって一員に加わるのはさして難しいことでもなく、今彼は数人の用心棒と屋敷の裏手の警護に当たっていた。
(「てか、んなことバレたらもうこの仕事続けらんねぇだろうなあ、こりゃ」)
 仮にも雇い主である高利貸しを裏切ることになる訳であるから噂にでもなれば信用を失い兼ねないのだが、ギルドの依頼を受けた以上、真は覚悟を決める。
「‥‥ったく、向こうはお楽しみ中だってのに、素面じゃやってらんねーよなぁ」
 懐に忍ばせていた酒を取り出して勧めると、自然と仲間の顔にも笑みが浮かぶ。
「ま、へべれけにならない程度に呑む分は構やしないだろ?」
「程ほどにしておけよ。それよりもあっちで小火騒ぎだそうだ。旦那もこれだけ厳重に警備して尚ちょっかいかける奴が出るってんだから、大した人徳の成せる業だな、やれやれ」
 夜も更け行くにつれ侵入した冒険者達が次々に騒ぎを起こし、警備の動きも俄かに慌しくなった。座敷では余興として賭場が立てられていたが、流石にこう外が騒がしいではいよいよ客人たちも落ち着いて賽遊びに興じてもいられなくなる。親分達のお供に来ていた若い衆が動こうかという時だった。
「なに。与太者如きの浅はかな企み、時期に収まるだろうよ」
 そのヤクザ者に混じって、何処かの親分の妾の振りをして紛れ込んだ焔麗が座を囲んでいる。
「それとも何かい、ここで客人が動いて旦サンの面子を潰す気かい?」
 幸い素性を尋ねるような野暮な者もおらず、姉御肌な口調も板についてすっかり場に溶け込んだ焔麗を疑う者はここにはいないようだ。
「それにしてもたかが与太者にこの大騒ぎ、みっともないたらありゃしないよ。ところで先から、旦さんの姿が見えないようだね」
「そういえば急な商用とかで奥に行った切り帰って来ねぇな」
 使いの者が何やら耳打ちして席を外したのがつい先刻のこと。
「ほんの少々の時間‥‥損はさせない商談です」
 金貸しにとって固い職業の者は貸逸れのない上客である。神皇家に仕える志士であり普段は学者もやっている御影涼(ea0352)が連れて来たのは、奇妙な三人組だった。
「今仏像修復をしてる寺といえば分かるか」
 くたびれた風体の小僧とこれまた小汚い僧兵風の柄の悪い男。外で待っているもう一人は借金取りだという。
「寺の金を使い込んじまって困ってんだ。事が公になると大事なんだよ」
「ってワケだ。内々に頼む、ぜ」
 道から外れ放蕩生活を送る破戒僧と借金取りに追われる仏師という触れ込みで嵐真也(ea0561)と伊珪小弥太(ea0452)はさる大寺院の関係者を騙り、高利貸しを引っ掛けようというのだ。賭場で知り合った涼が縁あって保証人となり借入を依頼に来たと説明すると、男は途端に目の色を変えて見せた。
「ほう、これはこれは」
 学者の保証人つきで大寺院の者ともなれば目先の利子など度外視で十分に旨みのある話だ。当の寺院や、また志士でもある涼の人脈と儲け話の種は尽きない。
「して、いかほどご融資致しましょうか。早速にでも証文を書かせて頂きます」
 男が証文を取り出し、受け取った伊佳が言われるままに判を押す。その様を見ながら男が浮かべた笑みは何とも卑しい気持ちの悪さであった。


 暗闇に紛れて何やら悪巧みをしてきた信也は屋敷の至る所に仕掛けられていた罠で既に傷だらけだ。散々痛め付けられながらも、いよいよ彼は一番の狙いである借金の証文と帳簿を探して蔵へ忍び込もうという所だ。
 案の定、周囲には幾重にも罠が張り巡らされ近づくのは容易でない。幸い屋敷の各所で起こった騒ぎに人手を取られここは手薄になっている。見張りの注意を逸らせておいて当身を浴びせて気絶させると、その隙に門へ駆け寄り手早く錠を開ける‥‥筈が錠にもこれまた仕掛けが施され思いの他に手間取ったが最後は棒手裏剣で強引に錠を壊し、何とか信也は蔵へ侵入した。
 一方、警護の真も蔵の側に賊が入ったと聞き他の用心棒達と連れ立って蔵へと向かう。それぞれの目的へ向けて屋敷を取り巻く夜は更け行こうとしている。
「ちょっと、宜しいですか」
 いよいよ保証人の判を押そうと言う段になって不意に涼が語気を強め、手を止めた。
「今しがた気がついたのですが、ここの所の利率が先に説明されたのと違うのではありませんか?」
「おや、これは大変失礼致しました。すぐに書き直させ――」
 愛想笑いを浮かべた男に、不意に嵐と伊佳が印を結び念仏を唱え始める。
「お、お客人‥‥」
「‥仏罰を喰らいたいのか!!」
 数珠を掲げた伊佳が一喝したかと思うと行灯が独りでに壁際まで吹き飛び、調度品にぶつかって張り紙を破いた。
「坊主に歯向かうとは、何て奴だ!」
「罰が当たっても知らんぞ!」
 安っぽい脅し文句ではあるが嵐と共に息巻きながら詰め寄ると、破れた和紙を灯火が燃やし、焦げ臭さと強い灯りで室内は異様な雰囲気となった。危険を感じた男が手近な算盤に手を伸ばすが、それを素手で涼が叩き割り大声を上げさせる間もなく手拭で口を塞ぐ。
「神仏と志士そして神皇家を敵に回すか?」
 凄みを利かせた脅し文句を口にしながら、身を固くしている男の着衣を涼は整えて見せる。行灯の張り紙が燃え尽き灯りが弱まった中、怯える男を前に涼が証文を掴んだ。
「見て見ぬ振り‥‥それはつまり」
 男の目の前で証文を行灯油に浸し、涼はそれを片手で握り潰すと、まだちろちろと燃える行灯の上でそっと手を離した。
「――いつでも手を出せるという事だ、覚えておくが良い」
 ふっと息を吹きかけて灯火を掻き消すと、油に浮かぶ滲んで意味を成さなくなった証文だけを残し一行はその場を後にした。
「にしても客を放って置いて何してるンだろうね、全く」
 まさか男がそんな目に遭っている等とは知る由もなく、焔麗がそれとなく煽った所為もあって座敷の親分衆にも苛立ちが目立って来た。そこを、丁度奥の部屋から出てきた嵐達が何やら思わせ振りなことを口にしながら廊下を通り過ぎて行く。
『そこらのヤクザ者の親分とは違って太っ腹と豪語するだけあって気前よかったなぁ』
『ああ、全くだ。本当に気前が良かったよなぁ』
 裏家業を営むからこそ面子を保つというのは重要事だ。ましてや高利貸しなど金の切り取りで成り立っている稼業だ、客から舐められては商売が成り立たない。
(「やって来た親分衆の前で恥を掻かせる事で懲らしめと致しましょう」)
「騒ぎも一向に収まる気配が見えない様だし、これほど手間取るなんてここの主も大した事は無いねぇ」
 仕上げにと一際に大きな声で言うと客人たちの視線を一身に集めながら焔麗は立ち上がった。
「あなたの所の親分も、付き合いを考え直した方が良いやんじゃあないかい?」
 そう捨て台詞を残し、彼女も屋敷を後にした。


 蔵へと駆けつけた真が目にしたのは屋根から落っこちたきり気絶していた風守だった。疾うに酒の回った仲間を適当に言い包めた真は賊を土蔵に監禁して来ると言って一人で彼を連れ出すと、人気のない所で解放した。
「さぁて、混じりモン無しの酒でも呑んで口直しといくか」
「かたじけない。俺としたことがこんなドジを踏むとは情けない」
 他の皆もそれぞれに目的を遂げたと見て、真も黙って屋敷を抜け出すことにしたようだ。その彼に深々と頭を下げると、ふと思い出した様に風守は怪訝な表情を覗かせた。
「それにしても、ギルドからの事前情報では、侵入は然程難しくないという話だった筈が。何故こうもやたらと罠だらけになっていたのだ?」
 答えは簡単だ。
「ご苦労様でした。これは少ないですが報酬です」
 木賊崔軌(ea0592)はこの国でも珍しい罠職人を生業としている。物盗りに狙われる事も少なくない金貸し稼業だ、金回りの安全に敏感な彼らに自分を売り込み何とか雇ってもらったのである。尤も業突く張りの主人に足元を見られて相当に安く買い叩かれたので材料費ばかりが嵩んで儲けはほとんで出なかったのだが。
「ま、『他にも』仕込みは上手く行ったし。後はイイ具合に事が進んで信用が潰れてくれれば文句ナシだな、こりゃ」
 受け取った金子を無造作に懐に仕舞うと、足取りも軽く木賊は屋敷を後にしていった。
 一方こちらは再び金貸しの男。涼達が去り、男の取り残された暗い室内に男が一人降り立った。
「あんたが金貸しの主人だな?」
 帳簿と証文を入手した信也は最後の仕上げとばかりに男の下にやって来たのだ。
「何だ、暗くて見えないか? それじゃ明るくしてやろう」
 呆然とする男の鼻先で火打石が鳴り、証文を燃した炎に浮かび上がった信也の顔には意地の悪い笑顔が張り付いている。
「‥‥ま、自業自得だろ?」
 そうして今度は帳簿にも手を掛けようとした信也の背を別の声が呼び止めた。
「まあ、待て。焼くのは証文だけでいいだろ。帳簿は御上に献上しようじゃないか」
 現れたのは不破だ。そう言う彼は、屋敷を回って値の張りそうな調度品や掛け軸などをこっそり壊して来た帰りである
「あこぎな真似で金を稼いでるんだ。このくらいは罰も当たらないだろうな?」
「違いない」
 最早声も上げる事も出来ずに呆けいている男は流石に可哀想でもあったが、やがて証文が燃え尽きると、もう二人の姿はそこにはなかった。こうして高利貸しにキツいお灸が据えられたその頃イリスはどうしていたかというと、親分の帰りをまだ待っていた。
 幼い風貌ではあるが仮にも神聖騎士。神聖魔法が使えるとあってそこらのゴロツキよりもよっぽど頼りになるということで、もしも今晩屋敷にいたならば賊を相手に必ずや愉快な活躍をしたのであろうが、それはまた別の話。ともあれ最後は立派に留守居役やり遂げて来たのであった。
 とっぷりと夜も更け、ふとイリスは夜空を仰ぎ遠く雲に霞む月を眺めて立ち止まった。
(「神様はきっといつも見てるから、高利貸しさんもあまり悪い事をしていたら駄目ですよ?」)
 イリスは大変な努力家で心根の優しい少女なのであった。


 さて、その高利貸だが。
 翌日になると、屋敷を訪れていた親分衆の悪い噂が街に流れ出した。どうも出所が高利貸しのとこらしいと分かるに至り、終いには賭場もイカサマがあったとかいう話まで出てきて男の信用は丸潰れとなった。当の主人も昨晩から行方知れずで真相は闇の中。噂では夜更けに男が人ひとり入りそうな袋を担いで屋敷を出て行くのを見た者がいると言う話で、何でもその黒装束の男の額には白い長鉢巻が棚引いていたのだとか。
 そう事の顛末を耳にし、報酬を受け取って一息ついた後、嵐はちょっと流石に今回ばかりは遣り過ぎたかなと思い当たったがもう過ぎたこと。
「剣呑、剣呑。何だか最近仏道から本当に外れて来てるような気がせんでも‥‥」
 その表情は何時にもまして苦味が走った様だったとかで。