【神剣強奪】  〜一時閉幕

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月31日〜01月05日

リプレイ公開日:2006年01月07日

●オープニング

 狐の一族による神剣強奪計画。その謀の主は華国渡りの妖狐、名を川(セン)という。
(「なぜばれた‥‥?? ‥計画は全て秘密裏に進めて来た筈‥‥どこから洩れたのだ‥‥」)
 狐の一族による神剣強奪計画は江戸の冒険者からの警告と晴明の占いによって水際で対策が講じられた。仮にも王城の地、こうなっては強奪は難しいだろう。増援を寄せるか? 否、悪謀の主であるこの妖狐は手下を見限り謀を再び地へ潜らせる選択を取った。
「私は一足先に上野へ戻ります。お前達は明日にでも宿を引き払い、持ち込んでおいた資料も秘密裏に全て処理するように」
 このセンは強奪計画を成すにあたり、既に数日前から京都へ入っていた。旅の学者と素性を偽り、京のとある宿に御供の数名と部屋を取ってある。
「仰せのままに」
「諸事万端に取り計らいます」
「よいですか。こうなった以上、我々が成さねばならぬのは計画の全貌が露見するのを防ぐこと。関係する資料も全て処分せねばなりません。特に宮下の写本だけは――」
 ‥コトリ。
「誰です――!」
 廊下で小さな物音。配下が襖を開けると女中が一人。
 配下の二人の男が音もなく女中の両脇へ回りこむと、男は静かに口にする。
「些細なことでも今は匂いを消しておきたいですね。聞かれた以上は‥‥」
「ひ、ひぃ」
 悲鳴を上げてあとずさった拍子に、女は向かいの襖に身をぶつけて転がった。男が顔を顰める。鼻を突いた臭いは油。そして物の焦げる臭気。襖が倒れた拍子に行灯を巻き込み、こぼれた油を伝って炎が畳を焦がす。配下の二人は女中を始末するが、炎は瞬く間に布団を燃やし、隣の部屋へと燃え移った。
(「‥‥厄介なことになりましたね。このままでは冒険者が嗅ぎ付けるやも‥‥始末するのは容易いですが臭いは残したくない‥‥しかし、文書だけは人が集る前に‥‥いずれにせよ私がここにいるのはまずい‥」)
 逡巡の後、男は身を翻した。
「お前達、後の始末は頼みましたよ」
「御意に」
「見事遣り遂げてお見せ致します」


 同時刻。
 市中を行く物々しい一団がある。
「ったく、いたのはたかだか痩せ狐が一匹か」
「とんだ骨折り損だったな」
 一行はギルドの依頼で狐退治へ行った帰りの冒険者。神剣強奪に与する狐の一味が御所を窺っているという報せがあり急ぎ現場へ駆けつけたのだが、実際にいたのは逸れの化け狐が一匹。早々に事を片付けてこれからギルドへ報告に行こうという所だ。
「ま、これでも報酬が貰えるんだから楽な仕事だったがね」
 そうしてギルドへの道を急いでいると。
「おい、見ろ。何だあの人だかり」
「何事だ 何があった!」
「火事だ! そこの通りの宿で火が出た、まだ中に客と店の者が何人か取り残されてる!」
 野次馬の向こうで宿の二階から火が出ているのが見える。それを目にしてすぐに冒険者は駆け出していた。
「あれはなんだ? 狐か」
「もしやこの火事は奴らの仕業か?」
「今から追っても間に合わない」
「屋敷の中に逃げ遅れた人が‥狐の証拠が残っているかもしれない」
 火事で屋敷が燃え落ちる前なら陰謀の証拠を手に入れられるかもしれない。

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

月代 憐慈(ea2630)/ 花東沖 竜良(eb0971

●リプレイ本文

「まったく、毎度ながらお騒がせすぎるぜ!」
 鷲尾天斗(ea2445)は新撰組一番隊士。誠の名の下、京の平和を乱す事件を見過ごす訳にはいかない。
「今回はスピード勝負。皆頼んだぞ」
 天斗の呼びかけを前に仲間達はもう動いていた。ヘルヴォール・ルディア(ea0828)も手近な桶から水を被ると、取り出した手拭で口を覆った。
「‥この都を‥‥灰塵にさせる訳にはいかないからね」
 火元は二階の一室。炎は既に階下までを舐めている。幾つかの柱が炎に包まれて家屋は傾ぎ始めている。幸い風は強くないため火の粉は勢いも弱いがこのままでは周辺へ飛び火を起こしかねない危険な状態だ。
「まったく、妖狐というのは厄介な事をしてくれますね」
 冒険者の対応は素早い。ゼルス・ウィンディ(ea1661)の唇から詠唱が洩れ、その身を炎の精霊の加護が包む。ゼルスは果敢に火中へと飛び込んだ。最優先事項はは人命。藤原雷太(ea0366)が風の精霊を行使して中の様子を探る。
「煙が酷いようにござるな。救助へ向かう者は重々注意されたし。――二階の奥に微弱ながら呼吸音二つ。煙に巻かれている恐れがござる。速やかに救助に向かうべきでござるな」
 現場は通り沿いの旅篭屋。人の出入りも多いとあってまだ逃げ切れていない者も残っているかもしれない。また徐々に野次馬も集ってきている。無用な騒動は避けたい。天螺月律吏(ea0085)が先頭に立ってその場を取り仕切る。
「私は新撰組一番隊の者だ。この場は我々の指示に従って動いて欲しい」
「取り合えず焼け出された人は向こうの宿へ!」
 天斗と共に周辺の野次馬を退け、宿の関係者を取りまとめる。
「火消しは!」
「もう呼びにいってます!」
「よし! それじゃ今いる者で延焼を食い止めるぞ」
 狐の影もちらつくとあって気持ちは逸るが焦りからミスがあってはならない。リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)はざわつく気持ちを治め、冷静を保つよう自らに強いた。
「えーい、前の狐の件は掌で踊らされたような気しかしなかった‥‥って、火事!」
 リーゼは江戸から妖狐絡みの事件を追って京へ流れてきた冒険者。狐の一族には大きな貸しがある。今回の一件にかける思いも人並みならない
「にしても何でこう次から次に! でももう遅れは取らないよ!」
 同じく江戸から壬生天矢(ea0841)と共に野次馬を退けてしまうと、二人も手分けして作業に移った。二人はつい先日に江戸の大火を身をもって体験したばかり。その時の経験を活かし、桶に水を汲んで次々にリレーする。ヘルヴォールや仲間達もそれを手伝って延焼の阻止に動く。
「‥この『紅蓮の闘士』の次の戦場が本物の火事場とはね‥!」
 水をたっぷりと含ませた外套と防寒着は少々の火の粉など寄せ付けない。降り頻る火の粉を物ともせず、周辺の家屋の柱目掛けてハンマーを打ち付ける。
「‥‥悪いけど‥これ以上、延焼させない為だよ‥!」
「ああ、周りの建物は飛び火する前に壊した方が却って被害が少ない。江戸での火事もそうやって鎮火に成功している」
 天矢も長剣を抜き柱へ斜めに切りつけた。仲間の魔法では一階には既に呼吸反応なし。ヘルヴォールが避難した連中へ訪ねたが、従業員が一人まだ中に取り残されているらしい。二階へはゼルスと共に佐上瑞紀(ea2001)が検索へ向かっている。
「狐のことは気になるけど、まずは生存者の救出を疎かにしない様にしないとね」
 雷太も動向を試みたが火勢が強く二階の階段を上る前に脱落している。彼の残した指示を頼りに燃え落ちる木材を剣圧で吹き飛ばしながら着実に炎の中を前進する。ゼルスと違って魔法の加護はないため身を守るのは頭から被った水だけだ。前髪を伝った雫が足元の炎に消えてじゅうと音を立てる。強烈な熱気に肌は焼けるように熱く、こめかみを汗が伝う。
 不意にゼルスが足を止めた。
「佐竹さん、ここから先は炎が‥‥」
「どいて。ここは私が――!」
 霊刀オロチを振るうと、放たれた衝撃波が炎を吹き飛ばした。
「‥く‥‥煙が酷いわね。ゼルスさんは大丈夫?」
「佐竹さん、一端そこの部屋へ退きましょう」
 炎を抜けると脇の部屋へ身を滑り込ませる。ゼルスがすぐさま窓から身を乗り出して表の仲間へ状況を伝える。
「行灯油にでも引火したのか二階は火勢が強く危険な状態です。応援をお願いします」
「了解。こっちは任せろ」
 表では新撰組一番隊士のティーゲル・スロウ(ea3108)が人員誘導を行っている。
「‥‥一番隊の面子が揃ってるんだ。抜かりはない」
 そうするうちに火消しや見回り組らも現場へかけつけた。冒険者側からは律史が代表にたって彼等と渡りをつけ協力体制を持ち掛けた。
「見ての通り手隙の者で延焼防止のために消火活動を行っている。加えて二階へは人命救助の為に仲間が二人。至急応援をお願いしたい」
 更に、居合わせた人達を近くの宿へ隔離したこと、江戸の大火に関与した狐の一族が紛れ込んでいる疑いがあることを手短に告げる。
「しかし、天螺月といったな。それは我々に話を通さずに新撰組の一隊士の独断でやるのは越権ではないか」
「今は文字通り火急の事態。我々が成さねばならぬのはつまらぬ縄張り争いではなく、事態の一刻も早い沈静化と考えるが?」
「違いない」
 律史の毅然とした対応で特に衝突らしい衝突もなく、現場ではスムーズに作業が続けられた。見回り組が話を聞いて近くの宿へ向かうと、リーゼが関係者から事情を聞きだしていている所だ。
「焼け出された中大変申し訳ないんだけど、少しだけ待ってもらえる? これは新撰組の方からの依頼と考えてくれていいから」
 普段は酒場で酔客を相手に商売をしているリーゼ。こうして町人に紛れ込んで話を聞くくらいならお手の物だ。宿の主人へこそりと耳打ちする。
「大変申し訳ないけど、今回火元になった部屋と、その両隣に逗留していた人を教えてもらえる?」
 同じ頃、火事場の回りでも天斗やその仲間が奔走して必死の消火活動が続く。周辺の家屋を壊して延焼を食い止め、宿へも桶リレーで着実に消火を進める。二階のゼルスと瑞紀は大丈夫だろうか。雷太が表通りから二階を見上げた。
「大丈夫でござろうか。心配にござるよ。それに、この一件は或いは先の神剣強奪との関与もあるやも。もし、何か在るとすれば火元の近くにござろうな」
 本職の火消しの登場で作業は一気に片付こうとしている。この分なら時期に火は消し止められるだろう。そんな中、単身宿へもぐりこんで中を探る男がいた。
(「一応、状況の確認のために京都まで来てみたが‥‥」)
 彼の名はウェス・コラド(ea2331)。リーゼや天矢らと同じく、江戸で狐による陰謀の影を追って京までやって来た男。
 御所を襲った連中は水際の対策で退けられたと聞く。妖狐は本格的に神剣を強奪する計画を目論んでいると睨んでいたが。ハズレかと思った矢先にこの状況だ。
「‥‥一体何がしたいのだ‥」
 この火事も狐の陰謀の一端か。或いは偶発的なものか。ひとまずもウェスは火元と思われる二階の一室を目指す。
(「全てが焼け落ちてしまう前に自分の目で確認したいのでね‥‥」)
 口許へハンカチを当てながら、もう一方の手からはまるで手品のように水を噴出させて行く手を切り開く。邪魔な瓦礫は重力波で消し潰し、術士ながらその能力特性を活かしてウェスは易々と二階の奥へと侵入した。
 堅牢で知られる上州の金山城へ潜入を果たしこともあるウェスにとって、この程度の旅篭などどうということはない。熟練の忍びでも梃子摺る城への侵入と比べればワケない。彼はすぐに火元と思われる部屋周辺まで辿りついた。
(「火消しの真似事には興味などないが‥‥念のためだ」)
 燃えしきる室内をぐるりと一瞥すると、掌から無造作に水をぶちまける。僅かに和らいだ炎の中に、ウェスは不審な荷物を発見する。気のせいか、その周辺だけ油を撒いたように火の勢いが強い。ウェスが空間に睨みを効かせると、荷物は念動でひとりでに浮き上がって中身を畳の上にばら撒いた。
 それは行く綴りもの書類。殆どは灰になろうとしているがまだ微かに燃え残っている部分もある。怪訝な顔のウェスは、そこに気になるものを目にして表情を一変させた。その口の端には、歪めた笑み。
「‥フン。ひとまずは収穫アリか。苦労した分に見合う代物だといいがな」
 それらを抱え込むと、ウェスは窓を突き破って脱出した。

 ゼルスの魔法によって作られた新鮮な空気で息を継ぎ、瑞紀ら二人は更に奥へと足を進めた。窓越しに仲間からもたらされた情報をゼルスが行使した精霊魔法を頼りに、遂に二人は要救助者の確保に成功する。
「狐は人に化けられるそうだから、用心しとくに越した事はないわよね‥‥」
 奥の一室に倒れていたのは旅の老夫婦。部屋で逃げ遅れて煙に巻かれたらしい。抱え起こした瑞紀が毛布に包むと、ゼルスが
「見たところ狐である気配は見えませんね。それより話によると女中が一人まだどこかに」
 その後の捜索で火元と見られる部屋の傍に女中の他殺体が発見される。おそらく狐に殺されたのだろう。これ以上は留まる理由もない。燃え落ちようとする壁を瑞紀が衝撃波で破壊して脱出口とする。
「行くわよ」
「ええ、急ぎましょう」
 こうして火事は大事へ至る前に無事に鎮火された。
 ウェスによって持ち帰られた紙片はすぐに冒険者達によって調査された。言語学者でもある雷太が目を通すと、難しい顔で首を振る。
「これは‥‥初めて見る文字にござるな。華国語のようで、それでいてとても旧い形式の‥‥たとえば古代魔法時代にものではなかろうか?」
 古代魔法語に精通したゼルスが目を通すが、彼にも読み取れないらしい。
「古代語に近い形ですが、独自の形式に見えますね。こんな文字群ははじめて見ます」
 それでも辛うじて読み取れる範囲では、富士山、剣、蛇といった単語らしきものが見受けられる。
「なかなか興味深いですね。断片的なので所々文脈が錯綜していますが、富士山が高天原であり、
「む、これは」
 他の紙片を漁っていた雷太が呟いた。
「どうやら、狐の一族による何かの計画書らしい」
 紙片には現代語で書かれたものも混じっている。殆ど断片化して読み取れないが、雷太が分かる限りで復元する。それは今回の神剣強奪に関する計画書のようだ。だがそれだけではない。京の黄泉人騒動、江戸の大火、神剣騒動、同じく江戸で起こった昨年の百鬼夜行、那須の九尾復活‥‥ここの所日ノ本を騒がした幾つもの事件に関与するものと見られる記述が見受けられる。
 不意に天矢がキセルの煙を燻らせながら苦い顔で笑う。
「おそらく、俺達が追っている狐絡みの事件。それに関わる計画書のようだな。俺達の読む所では今回の神剣強奪も何か大きな計画の一つに過ぎない。富士が不死、またの名を蓬莱。その山との関係‥‥龍脈を断とうとしている事も承知済み。おそらくその鍵となるのが草薙の剣――『龍』脈を絶つのは龍殺しの剣だ」
 それを裏付けるように、紙片からは京や江戸、そして富士周辺の地図らしきものも見つかった。断片的の読み取れたそこには、京の町を囲むように畿内に走る五芒の魔方陣。出雲、熊野、伊勢、富士、諏訪、江戸、日光。各地の霊的要衝を結ぶ地脈の地図が浮かび上がる。
「俺達はそれをヤマタノオロチと呼んでいる。ヤマタとは幾つもに分岐したという意味。オロチとは霊的な力」
 それはつまり、霊峰富士を中心に列島へ走る幾つもの地脈。その幾つかは、昨年夏の江戸百鬼夜行以降、寺社の破壊などで地脈の乱れが危ぶまれた地域である。風水都市江戸の焼失などはその最たるものだ。
 各地での事件が実はこの地脈の暴走の為のものであるとしたら。その影に蠢くのは――九尾の狐。
「日ノ本の危機やもしれぬというに、源徳公は動こうとしないがな。だが今日を境に陰謀は露見する。渡良瀬の件以来、奴らには苦汁を嘗めさせられて来たが。尻尾は掴んだぞ」
「ああ。親玉の狐には借りがあるからね」
 リーゼも苦々しげに呟いた。ティーゼルが重苦しい表情で頷いてみせる
「尻尾を出したたか、なら‥‥逃がさん」
 女中の死体へはティーゲルがデッドコマンドを行使する。
「思い出したくはないだろうが、聞かせてもらうよ‥そのあとは安らかに眠ってくれ‥‥」
 眠れる御霊に触れ、その最後の記憶を探る。ティーゲルの脳裏に、使者の最後の無念と憎しみとを伴って一つの言葉が浮かぶ。
 ――セン。
「それが黒幕の名前か。おまえの最後の言葉、この俺が聞き届けた」
 そっと女中の瞼を閉じさせてやるとティーゲルは目を伏した。
 持ち帰られた資料はギルドへと提出された。その後の調査では、天矢らの言を裏付けるような記述が幾つか発見された。九尾の目論見が富士噴火と列島大地震であったことはおそらく間違いあるまい。もしも神剣が強奪されていたとしたら、畿内一帯を襲う未曾有の大地震の呼び水となっていたかも知れない。
 神剣は今回の騒動を受けて更に厳重に管理保管されることが決まったようだ。こうなれば流石の九尾といえ京を攻め滅ぼすでもしない限り剣を手にすることはできないだろう。ヘルヴォールが小さく嘆息付く。
「‥‥連中も‥‥一度の失敗くらいじゃ、諦めないかもね‥尤も、何度来ようが追い返すけどね」
 江戸で事前に狐の気配を察知した冒険者達と、迅速な対応を見せた京の冒険者達の手によってこの陰謀は水際で防がれた。だが九尾も必ずや次の手を打ってくるだろう。
 いずれ、決着をつけねばなるまい。