【上州騒乱】街作んだけど意見ある奴いる?

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月02日〜04月12日

リプレイ公開日:2006年04月11日

●オープニング

●松本清、上州に立つ!
 奥多摩に生まれた一介の薬売り、彼の名は松本清。土地では名の知れた薬商・松本清十郎を父に持ち、彼もまた父と同じ道を歩むと誰しもが思っていた。
「だが俺は薬の振り売りでこの一生を終えるのか? 男なら、大望を抱いて命を燃やし尽くしてえ! たった一度の人生だ! 俺は俺の生きたいように生きる!!」
 青雲の志を胸に、清は薬売りを廃業。単身江戸へと向かう。ギルドのテストを受けた清は眠れる才能を開花させ、見事合格を果たして冒険者となる。
 清へ降りかかる数々の過酷な試練。立ち塞がるライバル。そして頼れる仲間たちとの出会い――。激闘の日々を経て一人前の冒険者となった清は、その冒険の舞台を騒乱の渦中にあった上野国へ求めた。
「東国を騒がす叛主・新田義貞――俺が義貞を倒すんだっぜ!!」
 清は打倒義貞の旗の下、民百姓や土地の侠客や野盗、冒険者、そして義貞方から寝返った元新田四天王の由良郎党らなど多様な人々を纏め上げた『反上州連合』を組織する。一五〇の兵を率いた清は、新田軍の平井城攻めの隙を突いて義貞が居城・金山城を強襲。新田方最強部隊・四天王筆頭の篠塚伊賀守を下し、遂には天下の金山城を落城させる。
 こうして松本清は金山城の城主となった。
「俺が城主となったからには、城下町の大田宿も大きな街にしてみせるんだっぜ! 安心するじゃん? 既に江戸から配下の隠密血風衆たちを呼び寄せてるじゃん!」
 隠密血風衆とは清の側近中の側近で、知略・軍略その他あらゆる方面にかけての腕利きを揃えた精鋭の配下たち。金山攻めの奇跡を成さしめたのも、影に彼らの暗躍があったといわれている。
「俺は上州の英雄・松本清! みんな、俺についてくるんだっぜ!!」
 清伝説の第二ステージが、今、始まる。


●由良具滋は静やかに考える
 こうして金山城を手に入れた反上州連合であったが、事はそれでは終わらなかった。一度は城を落としはしたものの、金山は仮にも新田義貞の居城。いまや総勢二千の兵を従える義貞が城を奪い返しに掛かれば、たかだか農民の百やそこらでは相手にもならぬ。
 これに江戸の源徳家康は迅速な対応を見せる。上州の乱を平定するためにも、叛主・義貞の居城を易々と奪い返させてはならぬ。反上州連合だけでは敗戦は必至。源徳はすぐさま五百の兵を『後詰』として差し向けた。
 これは、ある単純な帰結を意味する。
 つまり、金山城と大田宿の支配権は、圧倒的な軍事力を背景に源徳方へ握られたのだ。
 これまで多大な犠牲を払いつつ大田宿を手にした連合としては、ただでは引き下がれない。
(「しかし、肝心の我らが長、松本殿にその力はあるまい。まだ連合の誰も気づいてはおらぬようだが、清殿の正体は張子の虎。これまでは黙って見過ごしてきたが、事態が松本殿の器を溢れて零れだすならば、私はその器を割らねばならぬ」)
 ここである男が動き出す。元新田家臣である由良具滋である。
 由良は新田四天王と称される義貞の重臣ながらも、夏の挙兵に異を唱えて失脚、新田家を追われた家臣。一族郎党を追っ手に狙われていたが、清の噂を聞きつけて、客分として連合に身を寄せた。後に新田家臣団で暗躍する物怪の存在を突き止めた由良は、妖怪の正体を暴いて主君の目を覚まさせるため、金山攻めに身を投ずることとなる。
 しかし結果として妖怪は逃亡し、成り行きのままに今に至る。
(「目論見はもろくも破れ、逆臣の汚名はいよいよ拭えぬか。ならばこの由良に成せることはひとつ。源徳に上州人の侠気の気風を理解などできようものか。この由良がご主君に代わりて義貞様の民を安んずることのみ。それが我が忠義」)
 大田宿は、相次ぐ戦でこの一年ほどのあいだに三度も主の変わった街だ。新田、上杉、再び新田。そして清と連合の手を経て、今は事実上源徳の下。民の不信は根深い。
「聞けば江戸では源徳候の失政を天が怒っておるなどと囁かれておるとか。その噂はこの上野まで届いておりますぞ。ここで源徳候が大田宿を支配すれば、民はいよいよ不信を募らせましょう」
 由良が源徳方の使者へ提言した策はひとつ。傀儡の城主と執政として、清と由良を立てる。
 連合は大田界隈の侠客組織と繋がりを持っている。連合の長である清を城主の位置に据えることで裏社会への影響力を確保し、土地の名家である由良家が執政となることで民の信頼を得る。
 結果としてこの統治策を源徳方が採用し、連合は金山城の支配者として大田宿を治めることとなった。所詮はかたちだけではあるが、土俵の際で連合は表舞台に踏みとどまったのだ。
「首の皮一枚。今はまだ命脈が繋がっただけだが、このままでは――終わらぬ」
 大田の実権を握る源徳。そして連合を束ねる張子の虎、清。両者の間に渡された架橋は、たちまち踏み外してしまいそうに危うく細い。
 傀儡の執政・由良が、秘した忠義を貫く道は――果たして。


●???
「で、どーすんすか、次回以降」
「それが考えてないんだけどさ。ほら、動き出したら後は勝手に進むかなーと」
「なんにも?」
「なんにも」
「って、それはちょっと無謀でしょ!! つーか仮にも上州の乱の中心近いトコいるんだしさっ! 投げっぱなしとかこの先どうなるか――」
「分かんないよねぇ。けどね、俺は思うのよ。この先ただ流れに乗ってくだけでいいのかよ! ‥‥ってさ。やっぱね、自由な発想で自分たちで流れを変えてくくらいの気概が欲しいと思うワケ。若い勢いというかね、冒険者の熱気というかね‥‥!」
「いや、でも。今後の日ノ本の情勢とか張りっぱなしの伏線とかいろいろ‥‥ね?」
「やばいかな?」
「やばい‥‥よネ?」
 暗転。
「清殿、江戸から血風衆の皆が到着だ。さっそく仕事に入って貰おうと思うが」
「わかったっぜ。奥の部屋に案内するように頼むっぜ」
「承知した。清殿、国を治めるのは生半にはいかぬ。――ゆめゆめ、油断なされるな」
「心配無用じゃん! 来たぜぎゅんぎゅん正義感!!俺が金山を上州一の町にしてみせるじゃん! 腕が鳴るっぜ!!」

●今回の参加者

 ea6923 クリアラ・アルティメイア(30歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb0568 陰山 黒子(45歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0576 サウティ・マウンド(59歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0579 戸来朱 香佑花(21歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0738 ショウ・メイ(17歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb2743 ヴェルサント・ブランシュ(36歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3859 風花 誠心(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

所所楽 林檎(eb1555)/ 風魔 隠(eb4673

●リプレイ本文

●任侠裏方組、上州に起つ!
「野郎共、カチコミぢゃー‥‥」
 金山の城へ、冒険者集団・裏方組の鬨の声が響き渡った。今回はみんなの姐さんがいないので、戸来朱香佑花(eb0579)が代わりに音頭を取っている。微妙に棒読みなのはおいとくとして。
「カチコミじゃーーーーーーー!」
 サウティ・マウンド(eb0576)とショウ・メイ(eb0738)の叫び声に、陰山黒子(eb0568)の打ち鳴らす太鼓が重なって金山へ木霊していく。
『苦節一年と九日! 遂にこの日がやってきやしたね。あっしも感無量でやす』
 清の冒険者としての旅立ちから、反上州連合の旗揚げまで。裏方組は清と苦楽を共にしてきた。むしろ楽しむだけ楽しんで苦は清におしつけてきた。
『いや、そんなことは置いといて。遂に我らが清殿が城主として歴史の表舞台に姿を出しやした。今こそ裏方組が本領を発揮するときでやす。気張っていきやしょう』
 4人は揃って拳を突き上げた。
「『「「おおー!!!」」』」
 とかいうやり取りがあったらしいが、さておき。
「はわー。ここが天下の名城なんですねー。はいー」
 やけに暢気な声が城内に響いている。
「こら、どこから入った。ここは部外者は立ち入りを禁じられている」
「いえー。私はこう見えて清さんに呼ばれてきた冒険者なのですよー」
「これは失礼しました、どうぞこちらへ」
 クリアラ・アルティメイア(ea6923)は江戸の下町のジーザス教会で働いている宣教師の娘さん。今回は清の噂を聞きつけて遥遥上野国までやって来た所である。
「はわー。上州の英雄さんなのですよー。この人に布教して、その勢いでジーザス教を上州、ひいてはジャパン中に広めると言う野望なのですよー。頑張るのですよー。えいえいおー」
 清の下へは既にシェリル・オレアリス(eb4803)が訪ねている。
「私は、シェリル。インドゥーラ生まれの欧州エルフよ」
 そういって彼女は流れる金色の髪を掻き上げた。大変な美貌の持ち主であるシェリルの碧瞳に覗き込まれ、清はさっそくテンパった。
「しぇ、しぇしぇしぇシェリルちゃーんーー!!!」
「ついでに言うと人妻で、子持ちだから」
 思わず飛び掛ってきた清を片手でさらりといなすと、シェリルは由良へ向き直った。
「自己紹介はこの辺にして。清クンは適当に担がれていればいいから、由良殿。実務についてきちんとお話を詰めましょう」
「しぇ、しぇりるちゃぁーーーん‥!」
 由良とさっさと執務室へ消えていくシェリル、清の叫び声だけが空しく木霊する。その清の肩をぽんと叩く手。
「清ちゃん久しぶりー。ボクの事覚えているかな?」
 ショウが無邪気な笑顔を見せる。見た目感動の再会っぽいが、過去の地獄の猛特訓の日々が思い出されて清はやくもガクブル。
「で、これからどうするの?」
 小刻みに震える清の肩をとんとんと叩いて引き寄せると、耳元で甘く。
「皆と一緒に仲良く町作りをしていくの? それとも‥‥」
 ニヤリ、とショウ。
「皆から搾り取るだけ搾ってさぁ‥‥全部、清ちゃんのモノなんだよ。大丈夫だよ、何かあったら源徳様のせいにしちゃえば‥‥‥‥何て、嘘だからね」
 が、顔を上げた清はすっかり鼻息をあらくしている。
「お、おおお俺、城主になってよかったんだっぜ」
 むふーとかキショイ呼吸でやる気まんまん。
「だが城主たる者、快を極める前に武術を修めなきゃな!」
 サウティが首根をひょいと掴んで持ち上げた。
「清、久々の特訓だ。いい汗流そうぜ! もち、逃げようものなら地獄の特訓Part2やPart3も待ってるぜ」
「やっぱ止める! 城主やめるっぜぇぇぇぇぇーーー!!」

●風雲キヨシ城〜春の特別3時間スペシャル
 痛快なりゆき興行、風雲キヨシ城――。それは現役の城郭の一部を一般解放して作られた世界初のアトラクション施設。参加者を待ち受ける数々の関門と、清軍の兵士達。清を倒した暁には賞金100両を得て一日城主を体験することが出来るのだ。
 城の頂に立ち、家老こと司会進行の風花誠心(eb3859)が彼方を指した。
「血沸き肉踊る戦いの舞台、風雲キヨシ城開幕です」
 という感じで番組を始めたかったのだが、肝心のキヨシ城がまだ出来てなかったりする。誠心が傍らのヴェルサント・ブランシュ(eb2743)を振り返った。
「困りましたね、ヴェルサント隊長」
「まあ、これだけのものを十日で作るのは無理がありましたしね」
「そもそも現役の城郭を借りる許可が下りませんでしたしね」
「由良さんもあんなに怒らなくても。ちょっとお城の一部を遊びに貸してとお願いしただけなのに」
「まったくですね」
「ええ、まったくです」
 どこまで本気か分からないが、当然断られた二人。しつこく頼み込んだ所、本丸のある実城の南にある八王子山の砦を貸してくれることとなった。八王子砦は金山城の一角として、実城と共に大田口を挟み込む位置に聳えたってい『た』。今では荒れ果てた跡を晒すのみで、伝説では百年前の大戦で朽ち果てしまったのだそうだ。
 そういう訳で南城跡地に「痛快なりゆき興行」の看板だけが朽ちた城に勇ましく突っ立っている。キヨシ城の完成は努力次第といった所か。
 気になるアトラクションの内容は。傾斜30度の長坂「国境にかける坂」、4つの扉が待ち受ける「あの壁を破るのはあなた」、ボーナスステージには「ドクターの実験室」と「ショウの明るい占い」。最終関門の竜神池では沈む浮石を巧く見分けて向こう岸へ渡り、本丸へ。待ち受ける清軍と、互いに紙に書いた的を水鉄砲で打ち合っての最終決戦。清の紙的は通常よりも厚みがある上、清は馬に乗ってるのでなかなか倒せないゾ。清を脱落させたら見事挑戦者の勝利だ!
 うん。馬鹿だなーお前ら。大好きだ。
「指し当たっては草むしりからですね。これも我々の野望のため」
「ええ。地道に頑張りましょう」

●富国強兵っポイ感じで
「基本は民と経済力ぢゃと思うの」
 由良の下へは、誠刻の武の代表として参加したアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)を始め、香佑花ら策を携えた冒険者達が相談に訪れている。
「如何な構想も人と財力なくしては成り立たんでの。人と金、その両方を集めるのには何が必用かと言えば、先ずは治安の確保ぢゃろな」
「ボクはいっそのこと、行商人を抱き込んでみるのもいいと思うけどどうだろう。自由に取引出来る市場を作って免税を謳い文句にすれば、近隣諸国からの流通を活性化できるんじゃないかな」
 元は一介の薬売りから身を立てた清。巧く味付けできればこの策はハマるかも知れない。クリアラがにこにこと笑顔で口にする。
「商人さん達からも協力を募ってみるですよー。度重なる戦乱で疲弊した大田宿の経済復興の為にも、人の流入を増やして中長期的な増収を狙うのは商人さんには不利ではないはずですー」
 しかし、と渋面で由良。
「市場の開放には既得権を持つ商人の反発もあろう。そもそも行商人は戦続きの上州を忌避している。成果を見込むのも半年や一年では難しいだろうな」
「う〜ん‥‥今は源徳様の兵隊さんを頼りにして、清ちゃんと一緒にがんばるしかないと思うんだよねー。よくわからないけど」
 と、笑顔でショウ。そこへ今度は反上州連合の元幹部のトマス・ウェスト(ea8714)が顔を出した。
「ここに総合的な治療院、いや薬草院を造れないものかね〜」
 薬草・毒草の研究、栽培、販売などを目的に掲げつつ、実際はドクターの研究室を作っちゃおうという目論見のようだが。
「治療も行うが、薬草等々を栽培し、その薬効を確かめたり出来たらいいね〜」
「そうだな。大田宿に華西が建設していた新しい寺院がある。先の戦で建設が中断したままだが、そこの棟を一つ解放するよう私の方で手配しよう」
「それは助かるね〜」
「もっとも、医者の確保や薬草集めなどは人材次第だな」
 ピシャリといわれてトマスは思わず眉を顰める。
「むむ、仕方がないね〜」
 ぼやきながらトマスが部屋を後にすると、シェリルがこう切り出した。
「御託はいいわ。大人の話をしましょう。――今のままじゃ単純な軍事力で新田にも、そして源徳にも敵わないわ」
「源徳候に敵わぬとは異なことを。候は我らの後ろ盾、滅多なことを口にはされぬ方がよかろう」
「私達が浮かび上がるには、切り札を手にする必要があるってことよ」
 由良は座を見回した。視線の合ったアルスダルトが鷹揚に頷き、こう返す。
「我らの目指す所は常に一つ。そうぢゃろぅ? して。此処は松本清とやらの名声を利用させて貰うのはどうかの」
 清が傀儡の城主となっているのを、源徳がその実力を認めざるを得なかった故と喧伝する。風説に乗せて人望で民草を集め、更には楽市楽座策を利用して流通の活性化を図り、経済を握ることでやがては金山の実権を窺う。
「即効性は無いがの、長い目で見れば悪い策では無いはずぢゃが」
 ちらりと横目で窺うと、由良はこう返した。
「検討してみよう。中々の妙案、金山の発展に貢献するやも知れぬ。さぞかし、源徳候もお喜びになるでしょうな」
 舌を出さずにすました顔で笑うと、由良はその場を後にする。アルスダルトは内心で舌を巻いた。
(「陸堂団長のいう通り、切れ者ぢゃわい。成る程のぅ、源徳候も相当なものぢゃが、これではどっちが狸か分かったものぢゃないわい。一筋縄ではいかん‥食えんお人ぢゃ‥」)

●金山の清さん
『ところで、江戸では「遠山の○さん」とゆー演題がたいそう人気だそうでやすよ‥‥?』
 一方で、黒子による民草の支持率向上案も採られている。
 清には『遊び人のキヨさん』に扮して市井に紛れて貰い、民草の生の声へ直に触れる機会を作る。城下の人々と共に飲み、食い、遊び(すべて自腹で)、泣いて、笑って。その経験を政治へ活かす。
『無論、悪事に出くわせば腕の見せ所でやすよ』
 悪事の一部始終をその目に捉え、お白州で大田の代官、『金山の清』さんとして悪党どもを成敗するのだ!
 そんな訳なのだが清の部屋には当人の姿はなく、何やら冒険者達が必死こいて内職に励んでいる。風雲キヨシ城のオープンに備えて清グッズの製作中なのだ。清の自伝小説「清武勇伝」と、名言集「清至言集」を仲間達で丁寧に手書きで量産中だ。
 そんな中をどたどたと清が駆けていき、その後ろをノミを持った黒子が追い回している。
『手始めに刺青を彫らせていただきやす。ね、痛くしないから?(嘘)』
「か、勘弁してくれっぜ〜」
「こら、逃げるな‥‥清(リザード)、白光(鷹)、ごー」
 清には清法被と清手形へ直筆サインと手形を押して貰わないといけない。香佑花がペットをけしかける。
「ついでに清の顔拓‥‥いっそ、全拓を取ろうかな‥‥清、脱げ」
「ぎゃ、ぎゃわー!!」
 同じ頃、トマスの薬草院計画もやっぱり困ったことになっていた。
「建物は建設途中。機材に人材も一切ナシ。これでどうしろというのだね〜」
 清の実家の薬商から安く商品を卸して貰えそうではあるが、前途多難だ。これにシェリルが仏教の黒の教派を迎え入れる計画を便乗させ、計画は更に先が見えなくなった。
「黒の神聖魔法の術者を量産することで独自性をたもつのよ。れっつディストロイよ♪」
 富国強兵は、案はあるものの圧倒的に力が足りぬのが現状だ。練兵を行おうにも資金がなく、開墾で補おうにも避ける兵力がないという袋小路。金山攻めの兵力をその場凌ぎの傭兵に頼りすぎたのがここに来て尾を引いている。
「まー、政治ってのは大変だよな!」
 練兵を買って出たサウティもやりにくそうにしている。
「野良仕事もあるだろうから週に何度かでいいが、これからも鍛錬を怠るなよ! 街のため、そして清のために技を磨いてくれ」
「新田の動向とか不安要素も大きい訳ですがー、新しいことにもどんどんチャレンジしつつ人心を巧く束ねていきたいところですよー」
 まだ清の街作りは始まったばかり。クリアラもこれからの展望に胸を膨らませる。
「そして成功した暁にはー、はいー。その実績を元にジーザス教の教えを洗の‥‥じゃなかった、布教するですよー」
 最後につらっと真っ黒い野望を口にした気もするが聞かなかったことにしておこう。部屋ではついに清が黒子に捕まり、床へ押さえつけられている。えぐえぐと鬱陶しい泣き声がする中、一人で占いをしていたショウが明るい声で卦を読み上げた。
「ねーねー清ちゃん。喜んでよー。今は夜でも、必ず朝が来るように、明るい未来が待ってるよ」
 ふと、サウティ。
「うーん、なんか西の空が真っ黒に曇ってきてる気がするけどな!」
「気のせいきのせいー(爆笑)」
 暗雲垂れ込めるどころか雷がごろごろ鳴り出しちゃったりしてる訳だが、どーなる清。どーなる大田宿。
 つか俺にもよー分からんのダケドナ。