●リプレイ本文
7日間に渡って行われる花見会の四日目昼時。エスナ・ウォルター(eb0752)が係りの案内で控え室へ向かうと、出場者が集まって何やら賑やかなことになっている。
「わぁ‥‥いろんな動物さんがいるね、ラティ。みんなと‥‥仲良く出来たらいいね」
恐る恐るのエスナへ寄り添うように控えめにしているのは、もうじき二歳になるオスのボーダーコリーだ。その額をなでながら軽く抱き寄せると、仕切り幕で区切られた控え室の隅へと腰を落ち着ける。一方で同じ出場者の以心伝助(ea4744)はペット以上に張り切っている。
「ほら、お友達が一杯っすよー」
よく躾の行き届いた柴犬は柴丸。肩に止まって伝助を突付いているのは鷹の雷太だ。ひっきりなしに米神を啄ばむ嘴を片手で押し返しながら、伝助が集まったペットを目にして顔を綻ばせた。
控え室では風魔隠(eb4673)のペットが出し物の特訓中だ。駆け回る仔馬のサイゾウに柴犬のハンゾウが飛び掛かり、それを隠が木陰で熱涙して拳を握りながら眺めている。
「ひう‥‥違った、ハンゾウさん、ガンバルでござる‥‥」
集まったのは十人の出場者と11匹と5頭と2羽。ペットの相性などは係りの者がさりげなく居場所を離したりと気配りをし、控え室は和やかなムードだ。ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)の妙な塊も、今日はリボンでおめかししてどことなく機嫌がよさそうだ。
「モチモチさん、たくさんお友達ができてよかったねぇ〜」
出場ペットには他にも同種のものがいて、飼い主同士で親睦深めている。木陰で風の涼しい場所を用意してもらい、ティアラ・フォーリスト(ea7222)のアップルも気持ちよさそうに伸びている。集まった飼い主へは、世話役がお茶でお持て成し。お茶請けは後援の竹之屋の桜餅だ。さっそくティアラが楊枝をつけた。ふと唇へ手を当てながら思い出したように口にする。
「シュガーも連れて来たかったな‥‥一緒にいっぱい冒険に行ったの」
「私もペットさん達と暮らして随分経ちますねぇ。こう言うのって初めてですけど楽しみです〜。ドキドキしてきちゃいますねぇ〜♪」
「うん。ティアラとっても楽しみ♪」
「でも、出るからには狙うは優勝のみでしょー!」
猫達と一緒に日向ぼっこしていたアゲハ・キサラギ(ea1011)が、うーんと伸びをして起き上がった。日差しへ眩しそうに目を細めると、木陰の二人へ振り返って満面の笑みを向ける。新婚さんのアゲハ。副賞の使い道はもちろん新婚旅行だ。そのことを考えると思わず頬が緩んで一人笑いしてしまう。
と、そこへ係りの声。
「会場の準備が整いましたので、出場者の皆様をこれからご案内いたしますわ」
そうして出場者が会場入りする中、フィーネ・オレアリス(eb3529)のグリフォンは出場を係りに止められていた。
「そうですか‥‥グリちゃんの出場は無理なんですね‥」
「ごめんなさいね。何分、これも規則だから一人だけ特別扱いとかは出来ないの」
フィーネのグリフォンは源徳候の馬揃えでも高く評価を受けた経歴を持ち、躾も折り紙つき。そこらの野良犬などよりよっぽど従順に仕込まれてはいるが、如何せんこの大きさでは他のペットが怖がってコンテストにならない。着飾って意気込んでいたフィーネだが、泣く泣く出場は諦めることとなった。
「残念だけど、せめてグリちゃんとめいいっぱいお花見を楽しむわね。この子と一緒に楽しめれば幸せですから」
そんなハプニングはあったものの、昼下りには漸くコンテストが始められることとなった。
「んじゃま、これから大江戸ペットコンテスト始めるとすんぜ! さあ、栄えある第一回大江戸ペット王に選ばれるのは誰だ!?」
司会の合図で舞台袖の楽士が賑やかな曲で会場を盛り上げる。
「最初はレヴィ・ネコノミロクン(ea4164)ちゃんと二匹のにゃんこたちだぜ。拍手ー!」
応援に来た友人の勝利の舞に送り出され、レヴィが舞台へ進み出た。
「この子はシェリー。それからこっちのまだ小さな子はベルモットよ」
黒猫のシェリーは金色のぱっちりした目。足先だけが靴下を履いたように白い短毛になっている。小さいベルは三毛猫だが、模様が頭に寄っているので頬かぶりをしているような愛嬌がある。少し短い尻尾が可愛らしい。
「2匹は踊ることができるの」
楽士が竪琴とフルートを奏で、それに合わせてレヴィが歌い始めた。二匹を振り返って指をふると、首輪代わりの赤と青のリボンを揺らしながら愛らしい声で鳴き始めた。クルクル回ったり立ったりと愛らしい様に誰からと泣く笑顔が漏れる。まだ小さいベルが飛び跳ねようとして転んでしまうと、観客からもどっと笑い声。
「いやー、可愛いにゃんこたちだぜ。あとは二匹は酒もいけるんだってな?」
「そうなの。あたしがお酒好きだから、家でよく飲んでるんだけど。今じゃ立派な飲み友達。今だってほら、どぶろく開けたらすぐに駆け寄って‥‥って。あれ、ベルが居ない?」
観客席を振り返るとベルは観客のとっくりをペロペロ舐めている。
「ご、ごめんなさい〜」
「まだちっちゃい分やんちゃなんだな。レヴィちゃんと二匹のにゃんこに、もっかい拍手ー! んで、お次はミルちゃんとそのペット達だ。まずは自己紹介から頼むぜ」
「えっと〜まずはモチモチさんです〜」
「モチモチってのもまた変わった名前だよな」
「お餅が由来です〜。卵から生まれた時は豆餅そっくりでビックリしましたねぇ」
と、ここで。
「一発芸をします〜。鏡餅です〜」
蜜柑と柊を乗せるとモチモチさんが小さく丸まって鏡餅に。すると今度はミルが両手でそれをコネコネして。
「うどんを作ってる所です〜。でも食べちゃいけないです〜」
ミルがはにかみ笑いを見せると、子ども連れを中心に客席からも笑いが起きる。
「それともう1頭はウィンドさんです〜」
ロバと一緒にお辞儀する。首飾りを誇らしげに揺らす彼の背を摩りながらミルは愛おしそうに微笑んだ。
「ウィンドさんは力持ちなんです〜。ペットさんと言うより頼れるパートナーさんですねぇ」
「ほのぼのしててなんか和んじまうな。みんな、一頭と一匹に拍手〜」
続いてフィニィ・フォルテン(ea9114)が舞台へのぼる。
「お次も可愛い娘さんだぜ。歌い手のフィニィちゃんだ。いやあ、美人ぞろいだねぇ」
「驢馬のフィンと鴎のぴよちゃん(仮名)です、よろしくお願いしますね」
フィニィが頭を下げるとペット達も可愛らしくお辞儀する。フィニィが琴を爪弾くと、フィンが拍子に合わせて体をゆすり始めた。ぴよちゃんも尾羽を振りながらぴぃぴぃと可愛らしい声で鳴き始める。舞台袖から楽士のフルートが静かに音色を絡ませると、懸命に羽ばたいて踊ってみせる。
やがてフィニィの音曲を楽士の竪琴が継ぎ、立ち上がったフィニィは胸の前で腕を組むと透き通った声で歌を紡ぐ。ぴよちゃんの甲高い鳴き声とフィンの野太い声とが三重唱を奏でる。やがてすっと音が引き。静まり返った会場へフィニが微笑みかける。
「ご静聴ありがとうございました」
揃って礼をすると、万雷の拍手が湧き起こった。
「いやー、素晴らしい演奏だったぜ。もう一度拍手を!」
お次は伝助の出番だ。
「よろしくお願いしやす」
伝助達が揃ってお辞儀をすると、客席から「がんばれー」と応援の声があがる。伝助の指示で越後屋手拭いを首に巻いた柴丸がお手やお座りの芸を披露する。
「そうそう、以心さん。なんでも今日はとっておきの大技を見せてくれるって話だっていうじゃねえか」
「この日のために練習した大技っす」
雷太が三度笠を加えて飛び上がった。足に結わえた七色のリボンを棚引かせながら旋回する。どよめく会場をよそに、伝助が屈んで柴丸を振り返る。
「柴丸!雷太!」
その拍子に雷太が笠を宙へ離した。柴丸が駆け出し、伝助の背を蹴って飛び上がる。おっ、と歓声が上がったその時。ジャンプした柴丸の頭上を掠めて笠は舞台の端へと飛んでいった。惜しくも失敗に終わったが伝助は笑顔でペットを労った。
「頑張りやしたねー」
ところを容赦なく啄ばむ雷太と、全力で駆け寄って圧し掛かる柴丸。ここで観客からも笑いが起こる。
「惜しかったけどなかなかのチームワークだったぜ。以心さんたちに盛大な拍手を!」
続いてアルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が舞台へ立つ。
「私の愛馬は、非力にな私を助け、共に生涯を歩む、大切な同胞です」
ロバのヤングエイクの頭をなでながら彼はペット達への想いを切々と語り始めた。
「ペット達と取る食事は格別で、ペット達も私に懐き力を貸してくれます。長い旅に出る際は、お互い助け合い絆を深めて来ています。そして、何より私に幸運を授けてくれるのは、この大福様です」
妙な塊を持ち上げると彼は慈しむ様に頭を優しく撫ぜる。
「言葉も喋れず、他のペットの様に出来る事も少ないですが、大福様の御蔭で日々を健康に過ごす事が出来、この様に福引でも良き品を貰いました。私は、この同胞達に囲まれ幸せです」
「いやー、いい話じゃねぇか。アルフレッドさんとその同胞達に拍手だぜー!」
残す所4組。ティアラと一緒に、妙な塊のアップルが弾むようにして舞台へ飛び出てきた。ティアラが扇子を広げて踊り出すと、その後からダッケルのミルクもついてきた。
「今度はずいぶん賑やかだな。じゃ、まずは元気よく自己紹介からお願いするぜ」
ティアラが二匹を抱っこして明るい声で挨拶する。
「アップル&ミルクです。よろしくお願いしまーす!」
「ミルクちゃんは『待て』を披露してくれるんだってな」
「簡単そうに見えるけどこれが結構難しいの。ミルク、いいって言うまで動いちゃダメよ」
といいつけて少しだけ袖へ隠れると。
「だ、だめよミルク‥!」
尻尾を振りながら彼女の背をついて歩いてしまい、客席から思わず笑いが起きる。
「おっと、大勢のお客さんの前だから緊張しちゃったかね、こりゃ」
「‥‥え、えと、とりあえず踊ってみたいと思います!」
それを合図に竪琴と笛の音。ティアラがミルクを二本足で立たせ、明るく軽快な音色に乗せて一緒に踊り出す。小さな足でふらつきながらミルク。アップルはぽにょーんぽにょーんと伸びを繰り返している。元気一杯の一人と二匹へ会場から拍手が巻き起こり、ティアラは笑顔で手を振って踊りながら舞台を後にする。
「最後まで賑やかだったな。会場を湧かせてくれたティアラちゃん達にもっかい拍手〜!」
入れ替わりに今度はエスナとラティ。
「えと‥ラティは、キャメロットで出会った‥私の、パートナーです」
元気一杯でわんぱくなラティは控えめなエスナとは対照的だが、一緒に冒険を共にして大切なパートナーだ。
「‥いつも私の支えになってくれて‥そして‥楽しいことも分かち合えた‥私の‥大切な、家族です」
最後に小さな鞠をキャッチする芸を披露すると、額を何度も優しく撫でて見せる。パチパチと静かに拍手が起こった。
「固い絆で結ばれたエスナちゃんとラティだったぜ。またまた拍手!」
「絆だったらボクたちも負けてないよー!」
名前の通りの格好なのが白玉。蝋色の毛艶のいいのが鳴妙だ。
「ボクのにゃんこは本当に賢いんだからー! 『んま』って言えばご飯だって分かるし、お風呂だって嫌がらないし‥」
それに反応して勘違いしたのか碧と青のオッドアイと紅色の瞳がご飯を探してそわそわしてる。
「あ、あとね、2匹には特技があるんだっ♪ ボクが踊っていると近くでくるくる〜って鈴の音に合わせて踊るの♪」
流れ出した音楽に合わせてアゲハが体を揺らすと、今度はじゃれつくように二匹も踊り出した。
「ね?? 可愛すぎて悶絶しちゃうよねっ? ボクに似てきっと踊りが大好きなんだよね‥‥」
「これまた随分親ばかならぬペット馬鹿っぷりだな」
苦笑しながら司会が言うとアゲハは胸を張って。
「ま、まぁ‥ボクとしては2匹の可愛ささえ皆に伝わればそれはそれで‥‥!」
「って、残念だけどそろそろ持ち時間も終わりなんで、最後に何か一言頼むぜ」
「‥‥って駄目? せ、せめて半刻は語らせ――」
「残念! ってことでアゲハちゃんとにゃんこ達でした、拍手ー!」
「むー。い、イジワルーー!!」
そしていよいよオオトリ。
隠がハンゾウとサイゾウを連れてアピールに入る。
「ハンゾウさんは立派な忍犬に、サイゾウさんは正義の白馬になるでござる!」
隠が術で変装して、見世物小屋の座長風の小太りな髭の男の格好へ化ける。
「ふっふっふ、ごるびー座では失敗したけど、ハンゾウさん!サイゾウさん!あの技を決めるでござる!!」
サイゾウの背へ飛び乗ったハンゾウがその上で器用にチンチンをすると、客席から拍手があがる。
「ペット大会で大騒ぎの巻!って感じだったな。最後だから隠ちゃん達におもいっきし盛大に拍手ー!!」
こうして全ての演技が終わり、表彰式。
「栄えある第一回大江戸ペットコンテストの優勝者は」
呼ばれたのはティアラとアップル&ミルク。
「おめでとうだぜティアラちゃん。今の心境は?」
「思っても見なかったからとっても感激してます。でもティアラ、選ばれたのも嬉しかったけど、みんなとみんなのペットと仲良くなれたのが一番嬉しかったな」
ティアラへはプレゼンターの竹之屋二号店店長から賞状と副賞の旅行券が贈られる。続いて各賞の表彰が行われ、最後にネタで沸かせてくれた人へ『竹之屋賞』として大衆居酒屋・竹之屋のお食事券が贈られた。
アルフレッドがティアラの健闘を讃える。
「優勝おめでとう御座います。一緒に参加できて光栄でしたよ」
エントリーした十組へは参加賞として竹之屋特製のエサが贈られた。こうして全てを終え、フィニィがペット達をぎゅっと強く抱きしめる。
「ごくろうさま、一緒に演奏できて楽しかったです」
大江戸ペットコンテスト
最優秀賞:ティアラ・フォーリスト
立派な飼い主で賞:以心伝助、レヴィ・ネコノミロクン
珍しいペットで賞(特別賞):フィーネ・オレアリス
竹之屋賞:ミルフィーナ・ショコラータ