【上州騒乱】街作ンだけど意見ある奴いる?

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月11日〜05月21日

リプレイ公開日:2006年05月22日

●オープニング

●松本清、上州に立つ!(一回休み)
 奥多摩の薬売りの出身である冒険者、松本清。清は上州の地で叛主・新田義貞へ戦いを挑み、これに勝利した。新田方最強部隊・四天王筆頭の篠塚伊賀守を下し、金山城を見事攻略。遂には源徳の後ろ盾を得て金山城大田宿の代官へと就任する。
「俺が城主となったからには、城下町の大田宿も大きな街にしてみせるんだっぜ! 安心するじゃん? 俺は上州の英雄・松本清! みんな、俺についてくるんだっぜ!!」
 こうして清の街作りがスタートした。んだけど。
「江戸の味が懐かしいんだっぜ‥‥」
 当の清はさっそく飽き模様。
「上州の料理はもう食べ飽きたじゃん? 江戸の料理を食いたいんだっぜ」
「とは申されましても、この上州に江戸前の料理を出す店はございませぬし‥‥それより松本様、処理せねばならぬ案件が多数‥‥」
「は、腹減ったっぜ‥‥」
 すっかり馬鹿殿様という風情。金山大田宿の明日はどっちだ?


●由良具滋は静やかに考える(暗躍中?)
 松本清率いる反上州連合が金山を新田軍より解放し、薬売りから身を立てた清は遂に金山の城主となる。だが、英雄物語の裏側はそう単純な話ではない。
 江戸の源徳家康はただちに清へ後詰の兵500を差し向けた。事実上、金山城大田宿の支配権は、圧倒的軍事力を背景に源徳方へ握られたのだ。これに対し、清の腹心である由良具滋はただちに一計を講じる。度重なる支配者の交替による民の政治不信を背景に、傀儡の城主と執政として、清と由良を立てるという策だ。連合は大田界隈の侠客組織と繋がりを持っている。連合の長である清を城主の位置に据えることで裏社会への影響力を確保し、土地の名家である由良家が執政となることで民の信頼を得る。
「首の皮一枚。今はまだ命脈が繋がっただけだが、このままでは――終わらぬ」
 大田の実権を握る源徳。そして連合を束ねる張子の虎、清。両者の間に渡された架橋は、たちまち踏み外してしまいそうに危うく細い。
(「現段階では我らが動く足場すら固まってははおらぬ。まずは力を蓄えねば‥‥」)


●???(困り気味)
「結局ぐだぐだになりましたね」
「や、でも最初はこんなもんでしょう。とりあえずこのまま様子見てみようか。面白そうなネタも舞い込んだみたいだし」
「えーと、ちょっと待って下さい。今のとこきてるのがっすね」
「風雲キヨシ城とか定番化したら面白そうだよね」
「完成したらね」
「治療院もいじりかた次第では、ひょっとすると遊べそうな流れを作れる素材かもなあ」
「完成したらね」
「楽市楽座とかも整備が進んだらネタが広がるよね」
「完成したらね」
「うん、完成したらね」
「完成したらいいね」
 暗転。
「清殿、江戸から冒険者の皆が到着だ。例の大黒屋への潜入捜査の件でさっそく打ち合わせに入ってもらおうと思うが」
「うあー、面倒なんだっぜ。誰か他の人に‥‥」
「という訳にもいくまい。それから一芝居打つために刺青を入れるということで、彫師の手配だが――」
「い、痛いのは勘弁なんだっぜーー!!」

●今回の参加者

 ea0285 サラ・ディアーナ(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8634 琳 思兼(39歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb1755 鶴来 五郎太(30歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb2743 ヴェルサント・ブランシュ(36歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3859 風花 誠心(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

榊原 信也(ea0233)/ システィーナ・ヴィント(ea7435)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ エアニ(eb5014

●リプレイ本文

 その大田宿の片隅。蝦蟇の油売りの大道芸をしながら街の様子を伺う巨漢。彼の名は鶴来五郎太(eb1755)。
「うーむ、やはりこの街には『華やかさ』が足りないな。例の『キヨシ城』が出来るまで待っているのもアレだし」
 おもむろにカードを取り出すと、そこから一枚を抜き取る。書かれていた文字は『交易所』――。
 同時刻、城内。由良の執務室。
「相変わらずのようぢゃの、清殿は」
 由良の下へはアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)と琳思兼(ea8634)、二人の老翁が訪ねてきている。由良は彼らと茶の席を設けている所だ。
「心労のほど、お察しいたしますぞ‥‥」
 琳はまだ若く見えるが、内面はずっと老成している。その柔和な笑みの裏には見た目以上に深く刻まれた年輪が窺える。この茶席も彼の案だ。
 茶をたてて世事の事柄を語り合いながら、3人の話題はやがて金山の行く末へと移り変わる。アルスダルトが兼ねてからの腹案について切り出した。
「楽市をするにしても、人が安心して集まって来れる場所と言うのが条件ぢゃろぅ」
 彼が提案したのは、自警団の創設。有志を募り、治安維持を名目に予備兵力の増強を図る。
「幸い清殿は侠客達に人気があるようだし、彼に音頭を取って貰って侠客からも人手を集めて貰うのぢゃ」
 先の金山攻めでは一部の侠客達も実戦に加わっていることだ。統制さえ取れれば利用価値はある。兵を集めるにも、郷里を守るという目的が一番分かりやすい。
「士気の維持も易く、何より安く済むと」
 茶目っ気たっぷりにアルスダルト。だが由良は表情を緩めない。
「しかし既得権を持つ大田の商人達の反発は如何に押さえるべきか。これなくしては片手落ちではあるまいか?」
「大阪は堺の例もあるでの」
 ぽつりと琳。
「人が集まればそこに市場が生まれる。市場が出来れば、資本が回り経済が活発になる。まこと、この世の理じゃて」
「無論。だがその利が生まれるまで時が掛かるのも事実。商人達を納得させる手立てでもあれば別だが」
 楽市を敷く為にはもう一計を案ずる必要がありそうだ。琳が気を取り直して次の事案へと取り掛かる。キヨシ城の建築に取り組んでいるヴェルサント・ブランシュ(eb2743)から上申書だ。
「なになに、『攻城戦における野外陣地設営に関する訓練』――」
 金山城郭群の南部に当たる八王子山の砦が廃墟となっている。ここで陣地設営の訓練を行うというものだ。無論、これは建前でこれにかこつけてキヨシ城を建設してしまおうという腹だろう。珍しく由良が苦笑を漏らした。
「良かろう。源徳殿の兵は動かせぬが、我らが連合兵の練兵もかねて許可を出そう」



『密着取材!キヨシ城が出来るまで
 〜キヨシ城が建設されるまでの血と汗と涙と苦労とその他いろいろの日々〜』

▽五月十三日
 最初に取り掛かったのは草刈です。長年放置されていた為草花が富士の樹海のごとく。私とヴェルサント隊長の夢を阻んでいます。全てを刈り尽くすには何十年要るのやら。
 すると我が殿が一計を案じます。
『燃せばいいじゃん。人は火で獣を退けたんだっぜ』
 我々は殿の策を取り入れました。

 風花誠心(eb3859)達はヴェルサントの計略で金山の兵を借り出すことに成功した。
「八王子山砦跡の使用許可は下りました! 後は完成を待つだけです!」
 ヴェルサントが陣頭で指揮を取り、まずは下草を刈って野焼きの準備を整える。誠心がそれら一連の作業を脚色しながら記録し、キヨシ城建設はいよいよ現実味を帯びてきた。だが事態は既に二人の思惑を超えたところで動き始めている。
 本丸への登城口には、大田口と別にもう一つ金井口という登城口がある。大田ほどに栄えてはいない上、年末には村が焼き討ちに遭ったりと不幸が続き、今ではすっかり寂れてしまっている。八王子砦の修復に当たり、これを復興しようという計画が持ち上がったのだ。
 元の計画はドナトゥース・フォーリア(ea3853)が持ち込んだ、農村の復興案。戦火で行き場をなくした民や、江戸から逃れてきた者達。彼らの受け入れ態勢を整えることで清の代官としての手腕を知らしめ、民の指示を得る。題して、豪腕キヨシ村。
「ここが俺達の村になるのか。畑もしこたま耕して、立派な農村にしてみせようか」
 鍬を担いでドナトゥースが大きく伸びをする。由良の認可を受け、復興には数百両の予算が割り当てられた。期待に胸を膨らませた農民達が多く集い、キヨシ村は活気に満ちている。
 設立されたまま放って置かれた治療院もサラ・ディアーナ(ea0285)の手によりこのキヨシ村へ移されることとなった。貧しい民を対象に格安で治療を行いうことを目的にキヨシ村を拠点として新たに活動を開始する。
「救いの手は貧しい方々にも平等に差し伸べられなければいけませんから。無辜の民の助けとなって人々の笑顔を見る、それが私の喜びなんです」
 人が集まることで金井も俄かに賑わい始める。荒れ果てた農地を耕したり、家屋を建てたり、また新たに荒野を開墾したりと新しい村作りは順調に進められた。作業中に怪我人が出れば診療所へ運び込まれ、サラや手伝いに駆けつけた人々によって手当が施される。
 鶴来も井戸掘りを終えて診療所へ立ち寄った。
「後は何か、産業を発展させる事を考えるか」
「お疲れ様です。野良仕事の後は甘いものが美味しいですよ。この辺りの土地で作った芋かんだそうです。どうぞ召し上がって下さい」
「‥‥お、この辺には大和芋の畑が多いのか。こいつをどんどん作ってどんどん売って儲けよう!」
 新しい作物の栽培はドナトゥースもまた思案していた。
「土地にあった作物があるならそれにこしたことはない。品種改良は時間掛かるからね。まずは農地を整えてそれからゆっくり考えようか。次は堤と畦の補修だ」

▽五月十四日
 今日も隊長と連合兵の皆さんとで草刈。
 八王子山の麓では金井口に村を作る計画が進められています。キヨシ村とは、風雲キヨシ城の城下町にもピッタリな名前です。城では由良殿が、試験的に金井口へ楽市を敷く計画を詰めておられるそうです。
 先行きが見えてきた為か隊長も笑みを見せ、殿の激励もあり我々は一層職務に励むのでした。

 兵百の軍事訓練の話を聞きつけ、夜十字信人(ea3094)は現場へと足を運んでいた。
「どいつもコイツも死んだ魚のような目をしやがって、そんなんで何を守れる?」
 いきなりの暴言。だが信人は熱く語りかける。
「貴様らは兵だ。生死の地獄に真っ先に切り込む、武士だ。―――癪に障ったか? なら俺を殴り飛ばせばいい、どうした、俺の心臓は此処だぞ? 俺に対する憎しみでも良い、それでお前らは強くなれ!」
 と、鬼軍曹ばりにカッコイイ台詞を吐いた信人だが。集まった連中は皆手に鎌を持ち、やることといったら草刈。結局信人も借り出されて野良仕事に精を出し、当初の目的を見失いつつあった。
 同じ頃、城ではまた茶席が設けられている。
「自警団については早速取り掛かろう」
「わしも賛成じゃ。人選には慎重な吟味がいるぢゃろうがの」
 ただ、と心中でアルスダルト。
(「民草から募るといえ、武装集団には変わりないでの。兵を抱えれば野心が芽生えんとも限らん。思い過ごしであればよいがの‥‥」)
 将来、源徳の兵を排除する必要が出た時。松本清を必要としなくなった時。自警団が私兵として手駒にならぬとも限らない。
(「由良殿の言う富国強兵とは、一体誰の為か‥見極めねばの」)
「さて、例の楽市の件じゃが」
 と、琳。
「江戸の老舗に話を持ちかけてみるのはどうかの? 場所を提供し、支店を進出させるんじゃ」
「成る程、金井を発展させるためであれば、そうした資本を導入するのも手やも知れぬ」
「人に関るものであれば‥‥食事処の松之屋や、最近、躍進目覚しい竹之屋などな。食は全ての者に通じておるしのぅ。そして人が人を呼ぶ‥」
 そこまでいって琳は会釈して席を立った。
「さて、ワシが言えるここまでの様じゃ」
 その金井口ではによって着々と村作りが進められている。
「バトラーカフェなんてどうかなぁ? 渋いお爺ちゃんかっこいいお兄さん可愛い男の子よりどりみどりー。『おかえりなさいませ奥様/お嬢様』ってお茶出して貰えたらうっとりめろめろ♪」
 村に人足達を客層にした飲食店が作れないかとティアラ・フォーリスト(ea7222)らが知恵を絞っている。
「それでね、小金持ちの奥様やお嬢様をお客さんにするの! 奥様の噂の広がりは侮れないんだよ。男の人がお客に来たら『殿』なの。お殿様気分もいいよね♪」
 運営は連合兵を使ってと考えていたが、飲食店のノウハウを知る者がいないと軌道に乗せるのは難しそうだ。村から借りた小屋では、集まった連中で江戸の料理を作ったりしながら皆でわいわいと賑やかに会議が続く。
「むむ、この土地から、何か強い想いを感じます!」
 と、そこへやってきたのはヴェルサント。
「キツネ、尻尾、金色‥‥きました! 油揚げの中に五目御飯を入れるのです! 砂糖醤油で味付けした油揚げに入れるのです! 見て下さい!このおいしそうな、艶々とした金色の油揚げ。まるでキツネの尻尾みたいです!」
 台所に忍び込んで有り物で勝手に昼食を作っている。
「キツネは油揚げが大好きなので稲荷寿司と名づけましょう!」
「ミルク、シュガー、ダメよ勝手に人様のご飯を食べちゃ‥‥!」
 はぐはぐと美味しそうにありつくペット達へ視線を移すとティアラが呟いた。
「後は、モンスターペット品評会とかやれたら楽しそうだなあ‥‥。ティアラね、江戸でペットコンテストに出て、この子にもたっくさんお友達が出来たの♪」
 そのコンテストで大田への旅行券を貰ったティアラだが、券は知り合いの新婚さんに譲ってしまっため自腹での上州旅行の最中だ。
「レアモンスター巨大ペットを自慢したい冒険者さんは結構いると思うの」
 キヨシ村にはクリアラ・アルティメイアの希望でジーザス教会も置かれることになり、徐々に一つの村として形が出来上がりつつある。発案者のドナトゥースも俄然やる気を見せ、朝から晩まで野良仕事に精を出している。
「なるほど、あっちの廃村が畑は焼き討ちに遭った訳ね。ってことは、焼畑をした後と同じな訳だから‥‥」
 鍬を担ぎ直すと、ドナトゥースは農民を率いて廃村へと向かう。
「よし、もうひと頑張りいくか!」
 サラの診療所も噂となって一帯に流れ、山向こうの大田口からも患者が押し寄せた。診療で得た僅かなお金は金井口の復興資金に回されることとなった。
「草の根活動を続けて、少しでも民の信頼を清さんが得られば‥‥いつかはきっと、押しも押されぬ金山城の代官になってくれるはずです」
 それはきっと長い道のりだが、地道な活動あるのみだ。サラの奉仕活動は続く。

▽五月十八日
 今日で外周の草刈も終わりを告げます。『樹海よさらば』私はサンレーザーのスクロールを広げ樹海に火をつけました。草花を燃やす炎は命の終焉を告げる美しい輝きを放ち、その輝きに我々はキヨシ城建設を改めて胸に誓うのでした

「さて多少の改竄はありましたが日記に捏造はつきものです」
 八王子砦では火計の訓練をかねて雑草が焼き払われ、後は資材を運び込んで城の建設に取り掛かるばかりだ。砦跡の高台へは鶴来がやって来ている。その手にある札には『彫像』。
「と言う事で、一介の薬売りから立身出世を遂げた城主殿の彫像を作って、宿場の人々にその御威光を見せびらかしましょう」
 雑巾や束子、水桶などが用意され、その後ろには台座に埋め込まれて胸から上だけを覗かせた清の姿。顔には青銅色の塗料を塗りたくられ、猿轡をされて首を振りながら唸っている。そこへ信人もやって来て清を囲む。
「貴殿が松本殿でござるか、良い目をしていらっしゃる。早速、某と友情を築こうではないか」
 といっても清はうーうー唸っているだけだが、そこへ容赦なく鶴来が道具を使ってボケ倒しながら苛め抜く。そんな清へ人事のように信人が語りかけた。
「おお、友よ、愉快な人生ですなあ」
 とまあそんなすごく懐かしい臭いのする銅像コントをバックに、琳が八王子山から金山の町を見下ろしている。西に大田口、東には金井口。眼差しを遠くし、呟いた。
「どういう街が出来るかのぅ‥‥」
 冒険者たちの手を経てこの金山の城下町がどんな姿に生まれ変わるのか。その姿を目に出来るのも、そう先のことではない。