●リプレイ本文
荒れ果てた金井宿に幾つもの炊煙があがり、村にも活気が戻ってきた。豪腕キヨシ村として再スタートを切った金井宿は、新しい村作りの期待に湧いている。清も自ら配下の冒険者を率いて力仕事に精を出している。
そんなキヨシ村の朝に、ひときわ高い哄笑が響き渡った。
「今回は気合入れていくのだ〜。ふはははははははは!!大地よ!産めよ育てよ!人間様のために食事を奉仕するのだ〜〜〜!!」
彼こそは世界制服を夢見る危険なお子様、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)。清が金山の街作りの知恵を欲しがっていると聞いて早速やって来たのだ。
「余はノルマンで領主のお手伝いをしてた事もあったであるし、土地経営はなんかお手伝いできるかもなのだ〜」
「でも小姓はいらないんだっぜ。お、男はかんべんっぜ〜」
当の清は男はあまり眼中にないらしく、集った女性冒険者に鼻の下を伸ばしている。ふと目の合ったアトゥイ(eb5055)がにこりと微笑み返した。
「初めまして。アトゥイと申します」
遠い北の地に生まれた彼女は遠き蝦夷の地で神と自然に育まれて生きる民、コロポックルの娘。おっとりとした柔らかい物腰の娘だ。
「金山のお城を力ずくで奪い取ったと聞き及んでいましたから、もっと勇ましい方を想像しておりました‥‥」
少し言い及んだ後、ぽかんとしている清へ優しく笑いかける。
「とても素朴そうな方で安心しましたわ」
「へへへ。俺は優しいんだっぜ。さっきもこの村に診療所作るおーけー出してきたトコなんだっぜ」
「まあ、貧しい村にお医者様をお迎えするなんて、立派なんですのね」
さて、その診療所ではナニが行われているかというと。
「私が夜なべして作った薬だ、さあ、順番に口をつけたまえ〜」
村人達が集められ、トマス・ウェスト(ea8714)によって人体実験、もとい毒の試飲会が行われていた。
「これは腹痛を起す〜、しかし適量であれば下剤となるね〜。そしてこっちは痛み止めだ〜、確かに傷の痛みがなくなるが使いすぎれば奇妙な幻覚を見るようになるね〜」
一見妖しげに見えるが、れっきとした薬草・毒草の講習会らしい。
「この色、この形、そして何よりこの匂いと味。しっかり覚えておきたまえ〜」
これも治療院を切り盛りする人材育成のため。万が一の場合は解毒の魔法もある。
「ふむ、少々厳しいが、これも早く君たちが見分けが出来て、栽培を出来るようになって欲しいが為だ〜」
(「けひゃひゃひゃ、これで我が輩の野望に一歩近づくね〜」)
そこへ薬草採りに行っていたサラ・ディアーナ(ea0285)が籠を抱えて帰ってきた。
「流石にそう巧い風には運びませんね」
村人を連れて近くの野山を歩き回ったが、めぼしい収穫もなく苦笑交じり。採集できたのはツユクサやペンペングサ、アザミにヨモギといった有り触れた草花ばかりだ。
「使えるには使える薬草ですけど、薬としては量も効き目も少し心許ないですね」
「長期的な視野を持つならば、やはり栽培の態勢を確立して安定した供給体制を目指すべきと思われます」
踵に届く程の美しい白髪の所所楽林檎(eb1555)は学者。江戸の知人を頼って幾つか種を見繕って貰ったが、土地の水に慣れるかどうかはやってみるまで分からない。また、冒険者がいない間に栽培を任せられるような人材育成も急務だ。
「そうですね、林檎さん。私達もずっとここにいる訳にもいきませんし、後を守れる人はぜひ欲しいですね」
専門的な医術を修めているのは高望みとしても、最低限、薬の扱いくらいは覚えて貰いたいものだが、素人を短期間に教育するのはかなり無理がありそうだ。
「どんな険しい道のりも、最初の一歩を踏み出すことで始まるんです。へこたれずに、地道に努力していきましょう」
それでもめげずにサラは薬草の群生分布図を書き出している。林檎も仕事へ取り掛かった。
「あたし自身の知識は、まだ人様にお教え出来るほどの域には遠い未熟なものですが‥‥この人手不足では泣き言もいってはいられませんね」
ドクターの講習会参加者へ、薬草栽培についての知識を伝えねばならない。
「いずれこの薬草は大規模な栽培を実現させます。まだ『内』で用いるだけですが、最終的には『外』へ流通するものへ。今はそのための過程に過ぎません」
一方でアトゥイは山向こうの大田宿の繁栄振りを視察に行ってきたようだ。
大田は新田義貞の支配期に拠点として開発に力が入れられ、急速に発展した街だ。金山城で最も大きい登城口に栄えた街であり、単純に人口の違いが大きい。この差は戦による荒廃で顕著となり、更に金井口の村が焼き討ちにあって農民達が散り散りになったことが拍車をかけた。今では住み慣れた土地を離れるのを嫌った一部の民が残るばかりで、大半は江戸から国抜けしてきた入植者達だ。
「金井宿は本当に一から作り上げていかねばならないんですのね。私も賄いや身の回りの世話などでお手伝い致したい所ですけれども、慣れない仕事になりますし些か不安ですわ」
村の中央の小屋は執事喫茶になる予定だったが、計画の半ばで放り出されたままの状態で今はただの寄り合い所になっている。アトゥイが慣れぬ手つきで賄いを作っている横では、戸来朱香佑花(eb0579)が村のマスコットを作ってはどうかと思案中だ。
「例えば、柴犬に南登と名付けてマスコットにするとか、ペットのトカゲの清とか‥‥」
以前からペットコンテストの話もあがっているし、村の結束を高めるためにはよい案かもしれない。だどうやってペットを入手するかだ。
「或いは自分のペットを手放すか、か。これも街作りのためだけど‥‥」
「そう、歓楽街建設は古来より街づくりの究極の目標、永遠の漢の浪漫!! キヨシどのはいずれ夜皇となられるお方なのだ〜」
唐突に現れたのはブラドだ。
「清殿、歓楽街を作ればまさにこの世の極楽。金山の城主ともなればハーレムも夢ではないのだ〜!」
「そ、それは夢が広がるっぜ‥‥」
「駄目ですよ、清さん‥‥! 村のマイナスイメージにもなりえますし、資金も人手も絶対に足りませんよ」
ちょうど様子を身に来ていたサラが嗜めると、後ろから林檎も顔を出した。
「お、俺のハーレムの夢が‥‥」
「‥‥愛とは試練‥試練を乗り越えてこそ、求めるものが手に入るというものです。目標に辿り着くための近道などないのです。‥‥その試練こそ、天から与えられし愛‥‥愛とは試練なのです」
「そうですよー。大いなる父は試練に挑む人に手を差し伸べるのですよ。はいー」
横から割って入ったのは宣教師のクリアラ・アルティメイア(ea6923)だ。念願の自分の教会を持つチャンスに恵まれた彼女は、金井宿を復興してキヨシ村を発展させることを自らの試練と定め、性根を据えて取り組む構えだ。
「この壁を乗り越えたとき、大いなる父はきっとこの金井宿をも祝福してくれるのですー。はわー。今回もまた、野望の為に邁進なのですー。えい、えい、おー」
あくまでマイペースなクリアラ。林檎がコホンと咳払いする。
「何が目標であるにしろ、試練なく得たものは必ずしも自分のものと呼べるわけではありません‥‥無論、歓楽街のような公序良俗に反したものなどもっての外ですが」
「‥‥出来た」
と、今度は唐突に香佑花。木槌に『100貫』と筆で書き込むと、対清突っ込み専用宝具『100貫はんま〜』の出来上がりだ。中身は空洞なので、叩くと凄い音がするが威力は見掛け倒しだ。まるで誰かさんみたいだがそこは置いといて。
「次は、これがいくからね‥‥」
怯えた清を見て満足げに反応を楽しむと、やがてこう命令を下した。
「清、着替えて。盗賊狩りに行くから」
キヨシ村を活気ある村にするには、まず治安の改善が急務だ。既に由良を通して周辺の野盗の被害状況の報告を受け、連合兵と源徳の兵を借り受ける手筈は整っている。盗賊征伐と聞いてヴラドも興味を示した。
「確かに戦で荒れた治安を放っておけばせっかくの農作物を略奪される世紀末救世主伝説みたいなことになるかもしれないのだ。金山の発展にはかなり急務であるからな」
とまあ外では物騒なことをやってる間も、村ではクリアラがジーザス教の教えを説いて村人の教化に勤めている。教会の建物はまだないため木陰にゴザを敷いただけだが、聖書と宣教師さえいれば神の道を説くには十分だ。
「宣教師私ですけどー。立派な教会はまだいらないのです、今は村おこしの為にお金を使うのが先決ですー」
んで、ボソリと。
「‥‥で、いずれお金が貯まって人が集まる時にどーんとおっきなのを」
思わず本音が出た気もするが聞かなかったことにして。
教会で簡単なラテン語やイギリス語も習えると聞いて何人かの村人が顔を見せた。聖書から取っ付き易い説話を抜き出して読み聞かせ、
「はいー。まずは興味を持ってもらう事が大事なのですー」
キヨシ村に大いなる父の教えを根付かせることで、ジーザス教の教えを上野へと広める。クリアラの試みは続く。
こうしてあっという間に数日が過ぎた。香佑花とヴラドが治安回復の為に野盗を狩って回り、村では他の仲間達が街作りに精を出す。クリアラも布教の合間で野良仕事を手伝った。診療所も近隣の村から人手を引っ張ってきて、最低限形だけは何とか取り繕うことができた。
そして村を去る前の晩。村人と共にアトゥイがご馳走を用意し、中央の小屋ではささやかな宴が開かれた。
「皆様お疲れ様でした。今夜は日頃の疲れを癒して下さいませ。これから街作りを続けられる村人の皆様にも、英気を養って頂きますわ」
「アトゥイちゃんの手料理が食べれるなんて幸せなんだっぜ〜」
と、清が鼻の下を伸ばしていると。
「‥‥しゃんとする」
すかさず香佑花が100貫はんま〜でド突き倒す。が、見慣れた者で冒険者達はもう気にも留めていない。ヴラドは早速郷土料理に舌鼓を打っている。
「むむ!女性ばっかりで楽しい依頼なのだ〜」
「もう、仕方がありませんね」
ほったらかしになった清を見兼ねて、サラが膝枕で優しく開放しながら魔法で傷を塞いでやる。
「でへへ、照れるんだっぜ」
が、そこへ再び100貫はんま〜!
「‥‥なんとなく」
悪びれもせずに香佑花。折角傷を塞いだのに元の木阿弥なのだが、サラは嫌な顔一つせずまた治療を施す。もっとも、治してもすぐ香佑花がド突く訳だが。
「けひゃひゃひゃ、清君〜、どうかねこのハーレム状態〜」
ハーレムというか釣堀の魚みたいなことになってる訳だが、それは置いといて。アトゥイが食後の甘味にと焼きたての饅頭を運んできた。林檎とクリアラが手に取ると、清と焼印の押されている。アトゥイが微笑んだ。
「キヨシ村の名産品にと考えましたの。キヨシ饅頭という名は如何でしょうか」
「良い案だと思います」
「はいー」
こうして新しい街作りは冒険者の手を経て大きく動き出した。この豪腕キヨシ村が金山の物語にどう関わっていくかは、いずれ語られることになるだろう。