【金山迷動】 風雲キヨシ城

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2006年08月01日

●オープニング

 上州は金山に、遂に風雲キヨシ城、堂々完成!
 新田義貞による上州の乱が鎮火の兆しを見せる中、復興の進む金山の町では娯楽施設「風雲キヨシ城」が遂に完成を見た。
「現役の城を使った娯楽施設なんか、世界中どこを探しても見つからないはずですー。いずれはジャパン中から続々と観光客が訪れるようになるー、かもしれませんー」
 完成したキヨシ城は関係者によって宣伝が行われ、いよいよ一般客を迎えての興行が始まる。
「しかもこの興行には噂の義侠塾も参加するらしいですー。はいー。このキヨシ城、東国の民なら一度は見ないと人生大損ですよー」


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A:風雲キヨシ城!
 金山城郭群の一つ、八王子山に聳え立つ風雲キヨシ城――。
 現役の城郭を一般開放して作られた世界初のアトラクション施設では、このキヨシ城へ挑むチャレンジャーを募集中だ。
「よくぞ生き残りました。我が精鋭たちよ」
 ヴェルサント隊長に率いられ挑戦者達はキヨシ城攻略戦へと挑む。
「行けー!!」
 迎え撃つはキヨシ城の城主である松本清の手勢。キヨシ城の家老が配下のキヨシ兵を引き連れて姿を現した。
「皆さん出陣です。殿と共に敵軍を倒すのです」
 これから挑戦者達が挑むのは、キヨシ城に建設された特設アトラクション『竜神池』。

 木製の巨大な水桶の中には多数の丸太の杭が穿たれている。だが中には水面に切り株を浮かべただけの偽物も紛れている。これを見極めて正解の丸太をたどり、無事に対岸へ渡りきれ!
 それぞれの丸太の間は3尺ほどの距離があるため全力でないと飛び移れない上、表面には苔が敷き詰められている。水面を覆った油もあいまいって大変滑りやすくなっている。しかも池には対岸からキヨシ兵が投石を行い、挑戦者を脅かす。
 これを掻い潜って無事に対岸へ渡りきれば、その先の天守閣への入口までは一息だ。
 幾つもの落とし穴の待ち受ける道を一番乗りで踏破し、天守に待ち受けるラスボスを撃破するのだ!
 今回の対戦相手は勿論この人。
「この俺が直々に相手なんだっぜ」
 キヨシ城の主、松本清である。

 見事、このキヨシ城を攻略した者には、一日城主の権利と共に記念品が贈呈される。一日城主となった者には、次回の興行でのラスボス役を務めることができるほか、キヨシ城のルール追加、またはアトラクションの改築をすることができるのだ。
 もののふ達よ、キヨシ城へ挑み自らの手で歴史を作るのだ!


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B:轟!義侠塾!!〜龍神池〜
「いいか貴様らァ! 本日より、我らが義侠塾はキヨシ城攻略に乗り出す!!」
 義侠塾とは、真の義侠を目指して日ノ本中から集った益荒男達が日々研鑽を積む、武蔵国に本拠を持つ私塾である。その分校がこの金山に設立され、新たに義侠塾では胆威制(たんいせい)が導入された。
 塾生は、義侠塾の過酷な教練に挑むか、或いは指定の禍涯呪業(かがいじゅぎょう)に取り組むことで胆威が認められる。秋の辛窮死険(しんきゅうしけん)にむけて胆威を襲得し、上級生への進級を目指すのだ!

 今回の禍涯呪業は、太田宿の自警団への参加。または太田宿内の奉仕活動。
 そして教練は、キヨシ城の阿斗落所(あとらくしょん)である竜神池の攻略である。

「って、なんで俺たちで作った分校舎を攻略しなきゃなんねーんだ?」
「馬鹿モンがぁーー!!」
 鬼マゲ教官が声を張り上げた。
「確かに竜神池は貴様ら塾生の手で作り上げたもの。だが城そのものは上州の民の手で作られたもんじゃ!それでは真の義侠塾舎とは呼べんのじゃあ!!」
 つまり、城を見事攻略して城主として改築することで、初めてキヨシ城が義侠塾分校舎となるのである。
「よいか貴様ら――! キヨシ城攻略には一般の者も投入されると聞く。遅れを取ったらどうなるかわかっとるな?」
 ちなみに、一般の冒険者にはない恐るべき秘技を会得している義侠塾生は、他の参加者に配慮してハンデが課せられる。目隠し布や錘、果ては義侠塾生養成義不守(ぎぷす)などが用意されている。
「よいか貴様ら! 義侠塾の名に賭けて情けない真似は許さんぞ。見事城まで攻略した者には、倍の胆威を授ける! 上州の民に義侠塾魂を見せつけてやるんじゃぁっ!」

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0561 嵐 真也(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2655 旋風寺 豚足丸(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2743 ヴェルサント・ブランシュ(36歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3859 風花 誠心(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マーテル・ネイポーレン(eb1450)/ エヴァン・ウィリアムズ(eb1693)/ ガッテンフェルト・ノスケショーチフ(eb1708)/ ランティス・ニュートン(eb3272

●リプレイ本文

〜風雲キヨシ城夏の陣〜

「ヴェルサント隊長、ようやく我々の野望が実現する時が来ましたね・・・」
「ええ、風花家老。遂に我々の半年越の夢が実現しますね」
 キヨシ城のこけら落としに集まったのは11名の勇者たち。城を守護する司会の風花誠心(eb3859)がルールを説明し、派手な鎧に身を包んだヴェルサント・ブランシュ(eb2743)に率いられた挑戦者達は遥か天空の天守閣を目指す。
 褌一丁の格好で臨んだぽっちゃり系忍者の旋風寺豚足丸(eb2655)は、一日城主となって山海の珍味を味わうのだと意気込んでいる。
「勝って至福のひとときを手に入れて見せるのでござる!!」
 じっとりもっちりと汗ばんだ体を天晴れ扇子で扇ぎながら開始の合図を待つ。竜神池には幕が張られ、参加者達は横へ等間隔に並んで控えている。その一番右端には微妙に顔色の悪い髭の親父がカメラ目線で並んでいる。
「みなさーん、戦場レポーターの稲革です‥‥」
 何やらこのまま怪談でも始めそうな風情だが、その正体はミミクリーで化けたジェームス・モンド(ea3731)である。
「今日はこのキヨシ城を攻略戦とする勇士の皆さんと一緒に、私も難関を乗り越えようと思います。えいえい、おー!」
「おー!」
 横に並んだ楠木麻(ea8087)が合わせて拳を突き上げた。龍深城我斬(ea0031)や他の挑戦者達もそれぞれに開始の時を待っている。
「この阿斗落所とやらは河童忍軍の五輪祭の競技に通ずる物がありそうだ、良い鍛錬になるな。‥‥にしてもなんだろね? あの目隠しやら妙な器具を全身に装着してる連中は」
 横目に窺うのは、各々に重石や目隠し、果ては体中に荒縄を巻きつけた妙に暑苦しい連中だ。菊川響(ea0639)ら、彼らは義侠塾の塾生達。
「再び教練に参加できるとは‥‥この空気、なんだか懐かしい」
 惜しくも留年した響だが、今年こそは胆威を襲得して辛窮(しんきゅう)を果たす!
「まぁ俺とて以前のままではない、新訳菊川響を皆の夏の想い出と刻んでしんぜようじゃないか。あれ、微妙に不吉な言い回し?」
 ともあれ城攻戦は侍の浪漫! キヨシ城攻略には多くの義侠塾生も参加している。そこには弐号生筆頭である嵐真也(ea0561)の姿もある
「ふむ、仏門の修行から戻ってみれば、面白い事になっているな」
 筆頭たる者、当然ハンデは全て選択だ。そうこうする内、遂に幕が切って落とされた。義侠塾壱号生の手羅亜・亜須猛礼守〔テラー・アスモレス(eb3668)〕の絶叫が響き渡る。
「な、なんじゃありゃああぁぁぁぁあーーーーーー!!!!!」
 眼前に広がった竜神池にはこぶし大ほどの氷塊が幾つも浮かんでいる。
 対岸に待ち受ける家老がニヤリと笑った。
「日差しの暑いこの季節、参加者の方に涼しんで貰おうかと思い池に氷を浮かべておきました」
 凍てつく池を目の当たりに皆、思わず息を呑む。その中でクリムゾン・コスタクルス(ea3075)だけは余裕の表情を崩さない。
「ま、楽勝さ、楽勝。身のこなしには自信があるからな」
 言うが早いか、機先を制してクリムゾンが軽快な跳躍で手前の丸太へ飛び移った。軽装の利と持ち前の身軽さで次々と杭を飛び移ると、負けじと残りの皆も動き出した。
 豚足丸が褌の中から取り出したポーションを吸う。
「集中力ちゃ〜じでござる♪ しからば行くでござるゾ!」
 その脇で嵐がおもむろに膝をついた。
「この険しき道は、まさに獣道。ならば、ここは獣にならって、越えるのが良いだろう」
 四足歩行により抜群の安定性を引き出す妙技。これぞ至遡狗(しそく)。
「獣に遡り、道に至るべし」
 だが飛び乗った丸太はグラリと揺れ、錘によってずぶずぶと沈んでいく。沈まぬ足場を見極めなければ、対岸へ辿り着くことはできないのだ。竜神池の試練へ如何に対応策を考えて挑むかが攻略の鍵を握る。義侠塾生の久方歳三は新技、というか新ネタの座・凍留怒(ざ・こおるど)を引っさげての登場だ。
 寒いダジャレで時を止める座・我留怒(ざ・わあるど)の応用技であるこの奥義は、寒いダジャレで一瞬にしてその場を凍りつかせる技である。
「これでライバルごと池も凍らせて一気に駆け抜けてやるでござるよ。くーるくーるで夏が来る‥‥でござる!」
 ちなみにこの技の弱点はまず自分が凍ってしまうという点である。全身に荒縄を巻きつけたままの姿で久方が氷の彫像と化す。麻がそんな久方を横目に、冷静に手と草履に松脂を塗って滑り止めとした。
「魔法の凄さを見せてやるです」
 麻の唇から朗々と呪文が洩れ、土煙のようなエネルギーの奔流が足元から立ち上る。次の瞬間、丸太の杭が石化したかと思うと、ドボンと音を立てて水中へ没した。丸太の杭なら沈むはずはない。こうして切り株を見分ける頭脳プレーで対岸までの安全なルートを割り出すのだ。
 だが城主へ挑む権利を得られるのは、一番乗りを果たした者のみだ。クリムゾンは苦戦するライバルを尻目に次々と丸太を飛び移っていく。
(「あたいは当たり弱いからね。悪いけど大逃げさせてもらうよ!」)
 身軽さが命の彼女が生き残るには、とにかく一人で飛び抜けて後続に触れさせず、稼いだリードを守りきるしかない。しかし、ライバル達も甘くはない。
「先輩方へ拙者の奥義を見せる時が来たでござるな! 天守閣まで一気に参るでござる!」
 手羅亜が大きく息を吸い込み、膝を深く曲げて重心を低く取る。
「あ、あれは!」
「知っているのか風羽!」
「ああ、間違いない。あれは美意奪取蛇無賦(びいだっしゅじゃんぷ)だ」

 木野子の国の英雄・麻利雄が国を荒らす巨大亀・狗津羽(クッパ)を飛び越え、空中から踏み潰す為に編み出したと言われる必殺跳躍技。その技はたとえ羽根が生えた亀が居たとしても逃れる事は叶わないという‥(ミンメイ書房刊『小部屋で待つだけのお姫様みたく楽したいアル』)

 ――しかし。
 対岸には家老率いるキヨシ兵が待ち構えている。
「放てーーー!」
 飛翔した手羅亜がキヨシ兵の投石で被弾して墜落し、派手な水柱が上がる。
「壱号坊、まだまだ甘いな」
 義侠塾随一の技のキレを誇る風羽真が手羅亜の脇を飛び越した。ちなみにハンデは目隠しを選択しているが、なぜ技を解説できたのかは追求してはいけない。
「‥‥へっ。幾ら手練の連中が集まろうが、俺達が作り上げた龍神池、そう簡単に攻略はできねぇ‥‥いや、させねぇ。龍神池初制覇の栄誉は、俺達塾生が頂くぜっ!」
「おうよ風羽! しっかし、作り上げた龍神池を俺自身で攻略するとは皮肉な運命だぜ。だが真の義侠を見せるにはうってつけの舞台、どんぐり眼見開いて存分に見さらせや」
 腕組みした伊珪小弥太弐号生が不敵な笑みを漏らす。一番乗りに逸る気持ちを抑えて軽々には動かず、入念に準備運動を重ねて漸く飛び出した。
 ハンデの荒縄を滑り止めにして足裏全体で立ち、得物の六尺棒でバランスを取ってライバル達との差を詰める。
同じく準備運動をしてコンディションを確認した我斬もそれに続いた。
「こういうのは慌てた方が負けさ。よし、行くか」
 そういうと、最後の仕上げに我斬は持ってきていた鉄製の器具を取り出した。
 足裏状の鉄板には、鋭く尖った短い鋲をびっしりとひしめいている。足首の動きを妨げない様に作られたそれを草履に装着すると、両手にも鉤爪を握りこんだ。
 鍛冶屋でもある我斬がこの日のために工房で開発した特製の滑り止め、その名も巣羽射駆(すぱいく)。クリムゾン達の動きで水面は波立っている。その中で波に押し流されず直立しているのが丸太の杭だ。鉄棘を食い込ませながら抜群の安定性で距離を詰める。
 先行したライバル達も追いつかれるまいとそれぞれに投石を掻い潜って対岸を目指す。クリムゾンは石礫の雨の中を軽やかに身を躱わしながら更にリードを広げた。
「はん‥余裕だね。一番乗りは貰ったよ!」
 曲芸を演じるような鮮やかな跳躍で後続を寄せ付けない。その後を実況レポートしながらのモンドが、こっそりミミクリーで腕を伸ばして丸太の安全を確認しながら着実に飛び移って進んでいる。
「ご覧下さーい‥‥クリムゾン選手、圧倒的な先行逃げ切りです。誰も追いつけない、いや、ここで驚異的追い上げを見せる選手が居ます。嵐選手です」
 遥か後方。水中へ没したかと思っていた嵐が、土壇場で弐号生筆頭の意地を見せる。
「至遡狗の真価は安定性に非ず。脚力は当然二倍。いや、相乗効果により四倍ともなる」
 今にも沈みきろうとしていた丸太を蹴り、嵐が空中高く飛翔を見せた。これぞ風羅李覇射至遡狗(ふらい・はい・しそく)。
 並み居るライバル達を飛び越えて一気にクリムゾンへと並び、モンドのレポートにも熱が入る。そのモンドの後ろへは、目隠しをした響が彼の気配を追いながら追い縋る。
 カモメの被り物で気分を出しつつ追い縋る響だが、対岸からは容赦のない投石が降り注ぐ。
「まだまだっ! 後は勘と気合で勝負!」
 闘気をたぎらせて感覚を研ぎ澄ませ、取り出したのは月道渡りのスリング。
「投石はそのまま投げ返しだ、秘技・伽津置按奴離理椅子(きゃっちあんどりりぃす)!」
「拙者も負けてはおられんでござるよ! 第二の秘儀をとくと見るでござる!」
 漸く硬直の解けた久方も遅れじとその後へ続けと飛び出した。縄を括り付けた拳大の石を取り出し、義侠塾生養成義不守の反発力を利用して丸太へと投擲する。
「これを伝って次々と飛び移るでござるよ!」
「あの技はまさか‥‥駄威離威愚亡琉(だいりーぐぼーる)壱号!」
「知っているのか風羽!」

 直感とネタ力により相手の動きを読むこの奥義は、百発百中の命中率での投擲を可能とする! 欠点としては射撃技能がないと(以下略)

「ま、久方にはまだ無理だわな」
「歳ちゃん感激〜!」
 投擲の狙いを外して石を手繰り寄せる隙を突かれて一斉に投擲を浴びせられ、久方がバランスして轟沈する。
「なっさけねーな、久方! 弐号生の意地を見せねーと下のモンにもカッコつかねーぜ!」
 伊珪が六尺棒を振り回して投石を弾き飛ばしながら我武者羅に距離を詰める。
(「へっへっへっ‥‥前の奴らが通ったお陰で丸太の苔もズル剥けてんぜ。そこを辿ってけば安全って寸法だな。浮かせた切り株の上じゃ踏ん張れねーかんな」)
「見たか、時に激しく大胆に!時に敏しく繊細に!これが暗黒流僧兵小弥太の真骨頂だぜ!!」
「僕も負けてられないよ‥‥ストーンアーマー!これで投石の雨も無問題だよ!」
 大地の精霊力を借りた鎧は、投石程度では麻に傷一つつけさせない。といっても、如何に硬い鎧でも投石の衝撃まではどうしようもならず、バランスを崩して遂に麻も脱落した。
「ふ、不覚‥‥!」
 先頭ではクリムゾンが嵐に抜かれまいとピッチを上げている。徐々に呼吸も乱れ始めたが、軽やかな身のこなしはまだ衰えない。猿のような人間離れした体幹で逆立ちや宙返りを見せながら、遂に対岸一歩手前の丸太まで到達した。
「よっしゃ! 一番乗りゲットーー!」
 遂に竜神池を突破しようかというその時だ。響が伽津置按奴離理椅子で投げ返した投石の流れ弾がクリムゾンの背を打った。
(「しまった‥‥!」)
 まさかの背面からの衝撃に初めて体勢を崩しす。慌てて横飛びに手近な丸太へ飛び移ろうとするが、そこへは目隠し姿の嵐が。
「チックショー! 後一歩だったってのに‥‥!」
「――ここまでか。不覚」
 先頭集団が相次いで脱落し、一気にトップへ躍り出たのはモンドだ。
「この時を待っていたんだ」
 変身を解き、にかっと笑ってみせる。
「ある時は戦場レポーター、またある時は遊び人のキヨさん(偽)、而してその実体は‥‥」
 と、その口上を遮って後方から豚足丸が飛び出した。波立った池から浮き切り株を見極め、豚足丸がラストスパートをかける。
「今がチャンスでござるな!」 
 しかし、跳躍が後一歩及ばず、その体は一際巨大な水柱を立てて水中へ消えた。豚足丸の体重は池全体を揺るがし、立ち上がった大きな波がライバル達を足場ごと押し流す!
「イギリス最強の丁稚、ジェームス・モンドとは俺の事だ!‥‥って、これは流石の俺も‥!‥」
 足を引っ張られる形でモンドを始めとするするライバル達が次々と脱落する。響も波間へぶくぶくと沈んでいった。
「って、この装備で池落ちすると石抱いて沈む印象‥‥。すまん、はくしゅうー!」
 対岸で待っていた仔猫が悲しく一鳴き。正解ルートを的確に進んでいた真も遂に脱落し、残ったのは伊珪と我斬の二人。巣羽射駆のお陰で生き残った我斬は、投石の射線を見極めながらここまで掻い潜ってきている。
「この調子で射線に入らないルートを巧く見極めながら対岸に‥‥」
 しかしライバルが減ったことにより投石が集中し、退路を絶たれてあえなく脱落。
「く〜、やられた! なかなか巧くはいかないもんだな」
 その直後だ。遂に対岸へ渡りきった伊珪が天高く拳を突き上げた。天守へ続く直線の先に待ち受けるは褌一丁で全身に荒縄を巻いた清。水中から首を伸ばした我斬が呟いた。
「ん? 誰だあのへっぽこ、戦うのか?」
 いつの間にか後退した家老がその脇へ控えている。
「一般人と上州の英雄では開きがありますのでハンデを用意させていただきました。殿、この状態で勝利を収めれば女の子にモテモテですよ」
「へへへっ。俺は勝ーつ!」
「へっ、お前がラスボスか。俺達義侠塾生の上に立てるのは塾長一人だけよ! 怨みはねーが、ぶっ飛ばす!」
 だがここで思わぬ伏兵が。水中に没した筈の手羅亜が岸へ飛び上がった。
「義侠塾生に一度見た技は二度と通じぬでござる! これぞ奥義・拾二乃試練(じゅうにのしれん)」
 拾二乃試練とはどんな攻撃へも十二回までなら耐えれるような気分になる技らしい。
 だが再びキヨシ兵の投石を浴びせられた手羅亜は瞬く間に狂化。
「■■●■▲■●■▲▼■■■■■――――――!!!!!」
 声にならぬ叫びを上げ、そのままあらぬ方向へ突進していった。
「まだまだケツが青いぜ壱号坊。この俺が城を取るとこを黙ってみてな。って、おわっ‥‥!」
 六尺棒を振り回し突き進んだ伊珪だが、ここで落とし穴に引っかかってまさか、まさかの脱落!!
「ぬ、ぬかった――!」



▽結果発表
 竜神池突破 伊珪選手(義侠塾)

「不甲斐ありませんね。しかし、次はこうは行きませんよ」
 こうして第一回の挑戦では後一歩の所で攻略ならず。鮮やかな体術で会場を湧かせたクリムゾンへは敢闘賞としてヴェルサントから寸志が贈られた。義侠塾も多くの塾生が水中に没し、竜神池の凄みを思い知らされる結果となったようだ。嵐は意気込みを新たにする。
「なるほど、恐ろしい場所だ。‥‥まだまだ修行が足りん、遅れを取り戻さねばな。真の義侠たらん、その意思の下に」
 風雲キヨシ城、次回の興行はまた来月。
 この難攻不落の城砦は、初代覇者の君臨を待っている。