【金山迷動】 風雲キヨシ城 〜夏の陣
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■ショートシナリオ
担当:小沢田コミアキ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:08月21日〜08月31日
リプレイ公開日:2006年08月29日
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●オープニング
上州は金山に、遂に風雲キヨシ城、堂々完成!
新田義貞による上州の乱が鎮火の兆しを見せる中、復興の進む金山の町では娯楽施設「風雲キヨシ城」が遂に完成を見た。
「現役の城を使った娯楽施設なんか、世界中どこを探しても見つからないはずですー。いずれはジャパン中から続々と観光客が訪れるようになるー、かもしれませんー」
完成したキヨシ城は関係者によって宣伝が行われ、いよいよ一般客を迎えての興行が始まる。
「しかもこの興行には噂の義侠塾も参加するらしいですー。はいー。このキヨシ城、東国の民なら一度は見ないと人生大損ですよー」
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A:風雲キヨシ城!
金山城郭群の一つ、八王子山に聳え立つ風雲キヨシ城――。
現役の城郭を一般開放して作られた世界初のアトラクション施設では、このキヨシ城へ挑むチャレンジャーを募集中だ。
「よくぞ生き残りました。我が精鋭たちよ」
ヴェルサント隊長に率いられ挑戦者達はキヨシ城攻略戦へと挑む。
「行けー!!」
迎え撃つはキヨシ城の城主である松本清の手勢。キヨシ城の家老が配下のキヨシ兵を引き連れて姿を現した。
「皆さん出陣です。殿と共に敵軍を倒すのです」
これから挑戦者達が挑むのは、キヨシ城に建設された特設アトラクション『竜神池』。
木製の巨大な水桶の中には多数の丸太の杭が穿たれている。だが中には水面に切り株を浮かべただけの偽物も紛れている。これを見極めて正解の丸太をたどり、無事に対岸へ渡りきれ!
‥‥‥のはずだったが。
この暑さで池の水は完全に干上がり、竜神池はその危険度を大幅に増して挑戦者を待ち受けている。ともかくも対岸からのキヨシ兵の投石を掻い潜って無事に池?を渡りきれば、その先の天守閣への入口までは一息だ。
幾つもの落とし穴の待ち受ける道を一番乗りで踏破し、天守に待ち受けるラスボスを撃破するのだ!
今回の対戦相手も勿論この人。
「この俺が直々に相手なんだっぜ」
キヨシ城の主、松本清である。
尚、池を歩いてまたは泳いでわたった場合、魔法により飛行・水上歩行・足場作成などの行為を行った場合は失格となるので注意が必要だ。
見事、このキヨシ城を攻略した者には、一日城主の権利と共に記念品が贈呈される。一日城主となった者には、次回の興行でのラスボス役を務めることができるほか、キヨシ城のルール追加、またはアトラクションの改築をすることができるのだ。
もののふ達よ、キヨシ城へ挑み自らの手で歴史を作るのだ!
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B:轟!義侠塾!!〜龍神池〜
「いいか貴様らァ! 本日より、我らが義侠塾はキヨシ城攻略に乗り出す!!」
義侠塾とは、真の義侠を目指して日ノ本中から集った益荒男達が日々研鑽を積む、武蔵国に本拠を持つ私塾である。その分校がこの金山に設立され、新たに義侠塾では胆威制(たんいせい)が導入された。
塾生は、義侠塾の過酷な教練に挑むか、或いは指定の禍涯呪業(かがいじゅぎょう)に取り組むことで胆威が認められる。秋の辛窮死険(しんきゅうしけん)にむけて胆威を襲得し、上級生への進級を目指すのだ!
今回の禍涯呪業は、太田宿の自警団への参加。または金井宿(キヨシ村)内の奉仕活動。
そして教練は、キヨシ城の阿斗落所(あとらくしょん)である竜神池の攻略である。
「よいか貴様ら――! キヨシ城攻略には一般の者も投入されると聞く。遅れを取ったらどうなるかわかっとるな?」
ちなみに、一般の冒険者にはない恐るべき秘技を会得している義侠塾生は、他の参加者に配慮してハンデが課せられる。目隠し布や錘、果ては義侠塾生養成義不守(ぎぷす)などが用意されている。
「よいか貴様ら! 義侠塾の名に賭けて情けない真似は許さんぞ。見事城まで攻略した者には、倍の胆威を授ける! 上州の民に義侠塾魂を見せつけてやるんじゃぁっ!」
●リプレイ本文
村外れに建つ景讃繁の邸宅。この華僑のボスの下を今日も多くの人が訪ねている。
「キヨシ城の興行の件で城から参りました。由良様の代理のヴェルサント・ブランシュ(eb2743)です」
通された奥の一室には華人自警団の書記を勤める林潤花の姿があった。
「あら、流暢な華国語ね。景大人はあなた方と直接お会いにはならないわ」
上座に座った林がヴェルサントへ席へつくよう促した。彼の脇に控えた戸来朱香佑花が林へ睨むような視線を向けている。
(「興行権を取られた借りは、3倍返しじゃないと気がすまない」)
香佑花も彼女なりに考えを練ったが結論を出せぬままでいた。城では由良とアルスダルト老が陸堂明士郎(eb0712)を交えて秘密裏の野盗討伐の準備に忙しい。ヴェルサントが由良から交渉役に推されたと聞いて同席を申し出たのだ。
「ええ、由良殿からお話は伺っているわ。では早速話を――」
「――おどきなさい林。そこは貴方の座るべき席ではありません」
林の言葉を遮って奥の部屋から男が姿を現した。見覚えがある、華僑資本誘致の席で景の代理として登城した男だ。
「大人の代理の賈(ジャー)です。私が御話を伺いましょう」
景の商家を束ねる賈は、華僑組織の中のナンバー2と目されている男だ。景の手がける事業の実務の全てはこの男の手によって処理されているとの噂だ。華人自警団の創設も彼の手によるものだ。自警団の書記でしかない林とでは立場が違う。
林を脇へ立たせ、賈はヴェルサントへ促した。
「キヨシ城の興行は認めますが、もし金山城の施設や兵士を利用されるのであれば使用料を頂かなければいけません」
「まずは額を聞かないことには」
「キヨシ兵の日当が1両、金山城の使用料が五十両です」
「話になりませんな」
日当は相場の十倍、施設使用両にしても華僑からすれば誘致交渉時にはなかった付帯条件だ。林が鼻で笑う。
「我々は最大限の支援をする用意があるわ。それが妥当な要求ならね」
「林、いつから私を飛び越えて話せるようになりました」
林を嗜めると、賈は使者へ向き直って静かにこう告げた。
「呑めないのであれば、我々は金山を去るだけですな」
今華僑に引き上げられれば楽市楽座への深刻な悪評が流れかねないばかりか、五百両の資金援助も絶たれ、華僑商人を当て込んだ税収も消えてなくなる。それを覆す策はヴェルサントも香佑花も持ってはいない。泣く泣く条件を呑んだ二人はすごすごと引き返していった。
キヨシ城を巡ってそんなやりとりがあったとは露知らず、今日再び集まったのは7名の勇士。司会の風花誠心(eb3859)がキヨシ城家老として今日も彼らを待ち受けている。
「今回も更に面白き趣向を用意してあります。皆さんふるってご参加の程を」
「ぬぐおおぉぉぉ〜!!! 今回こそ一日城主の座を掴んで見せるでござるゾ!」
前回は残念な結果に終わったぽっちゃり系忍者こと旋風寺豚足丸(eb2655)は意気込みも新たに、公約を掲げての再挑戦だ。
「そして次のラスボスの『食い倒れ城主』として憎ったらしく食い物を食べまくりながら登場してやるのでござる! 食欲に勝るパワーは(自分の都合上)無いのでござるゾ!」
「雪辱は必ずや。待っていろ、竜神池」
いや、豚足丸だけではない。義侠塾弐号生筆頭である嵐真也(ea0561)も雪辱に燃えている。前回同様、全身を錘つきの荒縄で縛り付けた上に目隠しするという強烈なハンデを背負っての挑戦だ。いや、前回とは違う。褌を捨て去り、より身軽になって戻ってきている。
「余分な装束など不要。義侠の名に懸け、次こそは」
そんな暑苦しい連中に混じって、今回唯一の女性参加者である時奈瑠兎(eb1617)も名を連ねている。久しぶりの里帰りでキヨシ城の噂を聞き、江戸っ子の血が騒いで飛び入り参加だ。
「城攻めは侍の浪漫ですわ」
初参加だが特に気負いもなく、鼻歌交じりでリラックスしている様子だ。他の参加者は、前回2位の成績を残した龍深城我斬(ea0031)ら猛者ばかり。
「よっしゃ、二回目の参加資格ゲット♪ 今度こそクリアーしてやるぞ」
竜神池の恐ろしさを知る彼らリピーターは強敵となるだろう。時奈と同じく初参加の火乃瀬紅葉(ea8917)も気を引き締めて掛かる。2体の鬼火を連れて歩くプチ怪談状態での登場だ。
「これが重い魂陀羅(こんだら)と並び称される、義侠塾生養成義不守にございまするか。試練の道に打ち勝ち漢を上げる為にも、紅葉はこれを付けて竜神池に挑みまする!」
いよいよ城攻戦が始まった。
真っ先に先陣を切ったのは、義侠塾生の久方歳三。
「不退転の決意で清城に挑むだけでござる!」
同じく義侠塾生のテラー・アスモレス(eb3668)や菊川響(ea0639)らは太田宿での禍涯呪業に参加している。竜神池攻略組も遅れを取る訳にはいかない。義不守の上から「どこでもはしら」を着用しての挑戦だ。
「秘技、完璧破死羅乃漢(ぱあふぇくとはしらのをとこ)でござるよ!」
自らを死んだものと思い、柱と化して相手の隙へ致命の一撃を浴びせる秘技。それを「どこでもはしら」を用いてより完成度を高めた技だ。
欠点は木柱ではんく石柱になってしまうので一目でバレバレということである。
「と、歳ちゃん感激〜!!」
瞬く間に投石の的となる久方。それを尻目に豚足丸が飛び出した。
「夏の致死量的なさわやかさで水位が落ちまくっている状態でござるな。コレは大チャンスでござるゾ!」
ひとまず浮島は巨大桶の底に落ちているので杭との違いは一目瞭然。この機を逃す手はないとばかりに先駆けする。遅れじと時奈も続いた。長いスタンスで軽々と柱へと飛び移る。
「水がないなんて落ちたらどうするのよ、まあ罠も無くなったからいいけど」
対岸からの投石を巨体の時奈が避けきるのは難しいが、大薙刀でなんとかバランスを取りながら距離を詰める。そうしてライバル達が次々と池へ挑むと、入念にウォーミングアップしていた我斬も遅れて参戦する。
「確かに落ちたときはマジで怪我するなこれ」
足場の固定は、前回も使用した巣羽射駆(すぱいく)で対策だ。
「前回取れた実戦データを下にトゲの大きさや向き、配置にも拘り、肉抜きして軽量化したマイナーチェンジ版だ‥‥これ、量産して売れないかな?」
更に今回は細長い竹棒も用意して規定レウ。やや嵩張るが、軽い上に丈夫でよくしなる。名づけて「樹卯府意々都坊(じゅうふぃとぼう)」だ。それでバランスを取りながら片手には盾を構えて投石を掻い潜り、トップ集団の後を追う。
その我斬を前回は僅差で下した伊珪小弥太もいよいよ参戦だ。
「さぁて、俺もそろそろ行くとすっか!目指せ天守閣!!」
あえて一番手を捨てて入念な準備運動を行った上でキヨシ兵の投石を観察し、万全を期しての挑戦だ。
「‥‥けど水無しかよ。って事は、よく状況を見極めれば前回よりも楽に向こう岸へ渡れるはずだぜ」
ハンデはやはり義不守。水で湿らせて確り感をアップさせたそれを足にも巻きつけ、即席の滑り止めにするのも忘れない。得物の六角棒で投石を弾きながらバランスを取って次々と先行するライバルを追い抜いていく。
紅葉も伊珪に易々と追い抜かれ、置いていかれまいと巻き返しを図る。
「義不守で少々動きにくうございまするが、ならばキヨシ兵の投石に外れていって貰えば良いだけの事にございまする‥‥秘技『楼輪愚尾付所(ろーりんぐおぷしょん)』」
楼輪愚尾浮所
飛駆梅破亜(びっくばいぱあ)の編み出したとされる秘技の1つ。絆の深いペットを自らの周りで円運動させる事により、攻防一体の技と為す。類似の秘技に音美羅(ねびゅら)の鎖などがあるとされる。
鬼火の守秘火と世音火が紅葉の周りをグルグル回転して投石の目標を誤らせる!‥‥筈が、投石を受けて弾かれた鬼火同士がぶつかりながら失速し、紅葉を巻き込んで壮絶に自爆する!
『上上下下左右左右詠毘! 鼓漫怒(こまんど)入力失敗にございまするーー!」
「その通りだ伊珪。急いては事を仕損じる、道理だな」
皆が先を急ぐ中、嵐は一人スタートラインで静かに呼吸を整えている。目隠しで敢えて視覚を捨て、見開くは心の目。
「先を見、栄光を掴み取る。これぞ査輝見(さきみ)なり」
風の流れを肌で感じながら嵐が遂に動いた。
「余計な装束を除くことにより、より祖へと至れるわけだな、うん」
義不守以外の装束を脱ぎ捨て、その様は既に獣。四足歩行技、至遡狗(しそく)で先頭集団へ追いつくと、前を行く時奈を踏み台に飛び越していく。
「やったわね!抜け駆けは許さないわよ!くらえ独身慈慧斗洲都莉異夢(一人じぇっとすとりいむ)!?」
わざわざ漢字書きにした必殺技の名を叫んだ時奈。仲間に用意させた松脂に火をつけて対岸へ放り投げる。煙幕の中で久方を踏み台にして飛び上がる。嵐を追って離されまいと柱へ飛び移る。
その時奈の体が大きく傾いだ。足場の杭が中ほどから折れたのだ。
対岸で待ち受ける誠心がニヤリと笑う。
「今回は池の水も上がっていることですし、体重をかけると折れるように細工した杭を混ぜておきました。これで緊張感のある競技を皆さんに楽しんで頂けるはずです」
誠心の策略であえなく時奈が脱落。飛び越した嵐もまた足場を崩したが辛うじて至祖狗の安定性で持ち応えて対岸へ渡りきった。既に前回同様の作戦で伊珪と我斬がそれぞれのルートで攻略を果たしている。久方も駄威離威愚亡琉怪壱号(だいりいぐぼうるいちごう)で自ら亡琉となって果敢に挑むが、跳躍が足りずに柱にぶつかってあえなく『葬らん』されてしまう。
現在は、乾いた苔の滑り易さまで読み切って器用に対岸へ渡りきった伊珪がトップ。我斬がすぐその後を追うが、あえて逸る気持ちを抑えながら竹棒で進路の安全を確認し、慎重な行動を取る。そこへ、ちゃっかり渡りきっていた豚足丸も追いついた。
(「ふっふっふ、今回は竜神池を突破する剛の者が多いのは予想できたことでござるからな。先行者が落とし穴に嵌ったあと悠々と抜けさせていただくでござる☆」)
しかし、事態は豚足丸の思惑を超えて動いていた。
「前回と同じ轍は踏まねー」
伊珪の目が注意深く辺りを窺う。こう見えて戦場工作の達人である伊珪。キヨシ兵の作った落とし穴程度、落ち着いて掛かれば見破れぬものではない。安全なルートを伊珪が爆走!
キヨシと闘えるのは一番乗りした者だけ。このまま指を咥えてみている訳にはいかない。覚悟を決めて我斬も走り出す。落とし穴に嵌ろうとも竹棒を使って三角跳びの要領で脱し、ひたすら伊珪の背を追う。だがその差はもう縮まらない。
「くそ‥‥! ここまでか、あと少しだったってのにな」
そして遂に伊珪が天守閣への一番乗りを果たす。
そこへ立ちはだかるは誠心だ。
「今日の殿は一味違います。一週間前から城に縛り付けて強制断食して頂きました。今の殿はまさに飢えた獣です。存分に戦ってきてください」
天守の扉が開き、遂に清が姿を現す。
「ははは腹減りへりへりへへらはは‥‥」
「余計な時間くっちまったが、とりあえずテメーはぶっ飛ばす! 暗黒流奥義・根津虫焼(ねっちゅうしょう)でも食らえ!」
既に空腹で斃れそうになってる清だが、そこへダメ押し! 土中の虫すら焼け死ぬが如き熱さと暑さによる怒りをブレンドしてシェイクして2でカチ割った強烈な八つ当たりが清を襲う。暴発した拳がへろへろ清を吹き飛ばした。
「キヨシ城、奪ったぜ――!」
その勝ち鬨を、嵐は天守への直線で耳にした。しかしその歩みは止まらない。
「どんなに劣勢に置かれようとも、義侠たる者、最後まで諦めぬ」
そうして遂に嵐が天守までの道程を完走し、こうして第二回の興行は幕を閉じた。
▽結果発表
竜神池突破 龍深城選手、旋風寺選手、嵐選手(義侠塾)
キヨシ城攻略 伊珪選手(義侠塾)
「見事成し遂げました我が精鋭たちよ!」
遂に第二回にしてキヨシ城は挑戦者の手に落ちた。伊珪ほか竜神池突破者へはヴェルサントから寸志が贈られた。見事清を打ち倒した伊珪の第一声は。
「とりあえず氷水もってきやがれ」
「は、ハイだっぜ〜」
慌てて清がドタドタを水を汲みに行く。こうして伊珪がキヨシ城の一日城主の権利を獲得したのであった。
次の興行は三ヵ月後。装いを新たにしたキヨシ城が挑戦者を待っている。