ぼたん鍋と栗ごはん

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:10人

サポート参加人数:7人

冒険期間:10月31日〜11月05日

リプレイ公開日:2006年11月16日

●オープニング

 秋も深まり、山間の村々には山の恵みがもたらされた。
 種々のキノコに木の実。山葡萄やアケビのような果実類。だがなんといっても、山の恵みといえば栗を忘れることは出来ない。事件の舞台となった山間のこの村にも立派な栗林があった。


 その栗林へ至る細い山道でイノシシが出た。非常に気性が荒く、山道をナワバリとしたのかそこを行き来する人を見境無く襲うという。体長は7尺近く、肩の高さは大人の胸程まであるという。目方はおおよそで60貫だというから相当な大物だ。額に走る大きな傷が目印の大イノシシである。
 既に村人が3人も襲われ、森の猟師も返り討ちにあった。村人達はすっかり怯えきっている。
 イノシシの出るというのは、栗林へ至る小道。急峻な斜面に伸びる大変細い道だ。
 人ひとりがやっと通れるだけの幅とい小道は、足を踏み外せば剥き出しの地面を遥か麓まで転がり落ちることになるだろう。そうでなくとも山歩きに慣れぬ者には困難が予想される。イノシシの目撃例があるのは主に昼間部。夜や早朝は村人が山へ入ることがないので分からない。狩り出すも誘き出すにしても、狩猟の心得のある者がいると心強いだろう。


「なるほど、栗林への道を脅かす大イノシシを退治して欲しいと」
 路銀や食費は依頼人である村が持つ。
 その代わり、報酬は相場よりも見劣りする額ではあるが。
「つまりは、牡丹鍋と栗御飯。そういう訳か」
 イノシシの肉は大変美味だ。
 その身は燃えるように真っ赤な赤味。切り分けて皿に盛られると、その赤味が白い脂肪に縁取られてまるで牡丹の花のように見えることから、牡丹肉とも呼ばれる。
 60貫にも及ぼうかというこれだけの大物なら相当な猟果だ。牡丹鍋にすればこれはもうご馳走である。さらに栗御飯もあればその夜は宴会だ。
 最大の報酬はとれたての新鮮な旬の食材を使った料理。
 ギルドは冒険者有志の参加を待っている。

●今回の参加者

 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2815 ネフェリム・ヒム(42歳・♂・クレリック・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea4630 紅林 三太夫(36歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3527 ルーク・マクレイ(41歳・♂・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4673 風魔 隠(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

イレイズ・アーレイノース(ea5934)/ 霧島 小夜(ea8703)/ トマス・ウェスト(ea8714)/ 湯田 直躬(eb1807)/ 八代 紫(eb3902)/ 木下 茜(eb5817)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

「暴れ猪とは、物騒だ。今は秋。美味しい味覚の時期なのに、おちおち山にも出かけられねえぜ」
 得物のパニッシャーを肩へ担いでそうぼやくのはルーク・マクレイ(eb3527)。村へは彼ら腕利きの冒険者達が集まっていた。
「お初にお目にかかる。上杉藤政(eb3701)と申す者、よろしくお願いいたすな」
「拙者、風魔隠(eb4673)でござる。よろしくでござる」
 藤政は、折り目正しい立ち居振る舞いの中に確かな知性を感じさせる好青年。隠は風貌にもまだどこか幼さの残る少女。目指せぼたん鍋!巨大猪の恐怖!!の巻!などとナレーションが入りそうなのは、おっちょこちょいの忍者の宿命だろうか。そんな仲間達に混じって藤村凪(eb3310)は持ち前の人当たりの柔らかさですっかり溶け込んでいる。
「なかようしたってなー」
「こちらこそよろしくね」
 クレリックのルスト・リカルム(eb4750)が仲間たちの幸運を祈って十字を切った。義侠塾生のテラー・アスモレス(eb3668)ら、駆け出しではあるが頼もしい仲間達だ。
「辛窮死険は逃したでござるゆえ、捕襲呪業として猪退治を成し遂げて飢末死険へ向かうでござる!」
「ええ。少し『おいた』の過ぎる猪をお仕置きしないといけませんね」
 肩にシフールを座らせた彼はネフェリム・ヒム(ea2815)。人懐っこい笑みを浮かべているシフールは、ガルゥことケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)だ。
「力仕事は難しいケド、それ以外の分野で精一杯がんばるよ。ヨロシクおねがいしま〜す!」
 陽魔法の使い手でもあるガルゥと彼の仲間の力も借りられたのは幸いであった。これで悪天の中で山に入るという事態は避けられそうだ。後はしっかりと仕事をこなして、存分に山の幸を味わうだけだ。
 ルークが唇の端を捲って笑みを除かせた。
「此処は、いっちょ猪を退治して、美味しい味覚を味わうとするかな。成功が楽しみだぜ」
「牡丹鍋と栗御飯を堪能するのだわ★」
 ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が品のいい笑みを覗かせると、藤政が鷹揚に頷いて見せた。
「此度は人と猪の争いであるが、民を守るためにも全力を尽くそう」
 さて。
 問題の山道は酷く細い上に傾斜がかなりきつく、山の獣を相手にするには相当分の悪い戦いは覚悟せねばならないだろう。その様を目の当たりにし、一足先に下調べに訪れていた紅林三太夫(ea4630)は思わず嘆息付いた。だがすぐに気を取り直すと、そろりと足音を殺しながら山道へ踏み出す。視線は周囲を常に走り、その鼻は風の臭いを注意深く嗅ぎ取って全神経で辺りへ注意を走らせている。
 紅林は凄腕の猟師。地形を丹念に調べ上げながら猪のナワバリの境界線を慎重に見極めると、彼はその情報を仲間の下へ持ち帰った。
「牡丹鍋好き〜。栗ご飯好き〜。だから猪狩り決定だね。猪を狩り、腹いっぱい食べるのだ」
 張り詰めていた表情から一転しておどけた笑顔を覗かせながら、紅林は仲間達へ山道の様子を事細かに説明する。
「如何やら相当気の荒い猪みたいだね。昼間、人を襲うなんて普通じゃないよ。でも其処が狙い目だね。安い挑発に直ぐに乗ってくるはだよ。それが命取りさ」
 紅林の考えた策はこうだ。山道のくねりに合わせて木の陰にロープを張って足掛け罠にする。囮でそこへ誘い込めば、後は急斜面を転がって転落死という寸法だ。
「なるほどな。俺も賛成だぜ。何せ60貫もの巨体だ。自重で自滅だ」
「賛成しかねる」
 紅林へ賛同の意を示したルークへ、藤政がぴしゃりとこうはねつけた。
「猪は食糧でもある。ただ倒せばいいでは、報酬を減らすことになってしまう」
 今回の依頼では村からもその了解を得ている。他の仲間が追加報酬を放棄する意思がない以上は、紅林達も強行する訳にはいかない。結局、罠は使うがあくまで足止めの為、ガルゥを囮に誘い込んで動きを止めた所を仕留めるという作戦が実行に移されることとなった。
「な、なんじゃありゃあぁぁぁああああーーーーーーーー!!!!!!」
 テラーの絶叫が山野に響き渡る。山道へのそりと顔を出した暴れ猪は子馬程もあろうかという巨体だ。ルストが皆の無事を願って神に祈りを捧げる。
「苦しい戦いになりそうね。皆に神の加護のあらんことを」
 その加護を受けてガルゥが飛び出した。呼子笛を吹き鳴らすと、猪はそれを追って斜面を駆け下り始めた。罠は山道を下ったところ。猪の足を狙って凪が後方から射撃を試みるも木々が邪魔で狙いがつけられない。しかも囮のガルゥに当たらないようにならず、凪の腕前もけして低い訳ではないが流石に手に余る。
「的がちっこくて中々当たらんわー」
 藤政のサンレーザーは対象を捉えることができたが、突進を止めるには至らない。しかも猪の突進は恐ろしく速い。隠が手裏剣を投げるがまるで当たらず、虚しく斜面を転がり落ちていった。
「拙者のたった一個の手裏剣が〜」
 殆ど猪の勢いを止めることができないまま、ガルゥが罠のポイントへと到達した。上空へ舞い上がって追撃を躱わすと同時に、猪が綱に引っかかる。しかしあの巨体。罠はやすやすと引きちぎられてしまう。
「‥‥まずいな」
「これってとってもピンチなのだわ‥‥」
 足を止めた猪が、後ろ足で土を蹴って続けて突進の構えを見せた。
 ここは急峻で細い一本道。こんな所で大勢で獣に追われれば無事で澄むはずが無い。ルストはコアギュレイトの魔法で応戦を試みたが、猪の突進をかわしながら魔法を発動させる程の腕ではない。成す術なし。
 ヒムが上ずった声で仲間へ呼びかける。
「猪は横には曲がれません。皆さん、横へ飛びのて避けましょう」
「って、どこに?」
 足を踏み外せばそのまままっ逆さまの狭い小道。辛うじて人が並んで歩けるくらいではあるが、相手が大猪では買わせる隙間など無い。
「に、逃げろーー!」
 一行は一目散に山道を駆け下りた。そのすぐ背には瞬く間に猪が迫る。
 逃げ切れない。
 覚悟を決めたテラーがその場に留まった。
「義侠塾塾生に後退の二文字無し!!」
 突進を受け止めたテラーが、皆の盾となって斜面を転がり落ちていく。
「く、すまぬ‥‥あとを頼むでござる‥‥」
 初日の結果はかくの通り惨敗。冒険者達は大きな犠牲を払うこととなった。

 その夜。
 山道を駆け下りる際の傷はヒムの魔法で治療が行われた。テラーが犠牲となったおかげで仲間に大きな怪我もない。凪の手も借りて手当てを済まし、村ではもう一度冒険者の間で作戦が練られた。
「作戦を練りきれなかったのが敗因のようだ」
「どっちつかずで意思統一できなかったのは痛かったね」
「で、どうすんだよ」
 ある程度冒険に慣れた彼らでも、油断や準備不足、チームワークの乱れがあれば足元を掬われる。罠を改良する方向で一晩をかけて再び作戦が練られた。 決行の明日に備えてガルゥの魔法で天候を操作し、凪や他の仲間達も新しい罠の作成を手伝って一丸となって再び準備が進められる。
「うちも手伝いするわ。大勢で手早く済ませるに越したことはないやろーしな」
「拙者にも任せるでござるよ」
 隠の案で、新しい罠には4本のロープで荷重を分散するよう工夫が凝らされた。猟師でもある紅林の手を借りて、木の幹を利用して滑車の要領でロープを引くことで負荷を更に軽減し、無事に足を止めた所を前衛のルークが仕留めるという作戦だ。
 そしていよいよ当日。
 ガルゥが念の為、山道でイノシシ駆除作戦中の案内をして注意を呼びかける中、いよいよ一行は決戦に望む。山道へ姿を現した大猪。ガルゥが囮となって誘い込み、罠の地へ。その瞬間に紅林が全体重を乗せて縄を引き、猪を阻む。
「今だ、皆!」
「せーのっ!!」
 4本の縄は遂に猪の突進を押し留めた。慌ててルークがパラのマントを脱ぎ捨てて立ち向かう。
「漸く止まったな。いよいよ年貢の納め時だぜ」
 猪の突進。盾をかざしてルークが立ち向かう。しかしそれでもなお猪の巨体は受け流すには荷が勝ちすぎる。あわや踏み外すかというとき。
「ルーク殿、義侠魂によって助太刀致す!」
「生きていたのか!寺亜!!」
「猪‥‥おぬしに恨みは無いが、ヒトを襲った手前見逃す事はできぬ‥‥いざ参れ!この槍にかけておぬしの挑戦に応えるでござる!」
 助太刀に現れたテラーが槍で間合いを大きく構え、猪の動きを封じる。その槍が猪の前足を貫いたその瞬間。
「‥‥行くぜ。覚悟はいいか?」
 ルークのホーリーパニッシャーが唸り、渾身の一撃がその脳天を砕いた。

 その昼の内に冒険者達は村へ凱旋を果たした。
「流石にこれだけの大物やと重いんやなぁ」
「私はか弱いクレリックなのですが‥‥」
 巨体の猪を凪やヒムが村まで運び、ルークも疲れた体でそれを手伝った。村ではすぐに猪の血抜きと解体が行われ、宴の準備が大忙しで進められた。ヒムも行きがかり上でそれを手伝う。
 さて。同じ頃。
「栗を集めてきたのだわ★」
 ムージョは皆が猪退治に奮戦している間にちゃっかり栗を拾い集めて来ていた。猪退治に時間が掛かりはしたもののムージョのおかげでどうやら栗ご飯にもありつけそうだ。台所ではルストが女手に混じって料理に精を出している。
「ん〜。修道院いた頃に、もうちょっとしてればよかったわね。私」
 味見をしながらふと表に目をやると、村の子供達が集まって遠巻きにルストを窺っている。
「もう少しで完成すると思うから、これで我慢して」
 小皿に少しだけ取り分けてあげると‥‥。
「って、仲間を連れてきてるし!!‥‥どこの子供も同じなのね」
 そんなことをしながら、そして夜。
「ん〜、とってもおいしそ〜なのだわ★」
 ムージョが馳走を前に目を輝かせている。ルストが感謝を込めて小さく十字を切った。猪汁の椀を受け取って凪が顔を綻ばせる。
「ありがとーさん、いただくわー。獣肉食べるんは初めてやなー。イノシシさんて、どんな味なんやろーか」
 口をつけたヒムが眉を動かした。
「臭いのきつい肉は苦手なのですが、牡丹肉は愕くほど臭みがなくて食べ易いですね」
「良かったねネフェりん。今日は力仕事で疲れただろうし、ゆっくり体を休めてね〜☆」
 その肩ではガルゥがフェアリーのタッシリと2人でヒムを労って肩を叩いている。その横で藤政がしみじみと表情を揺るませて森の幸を味わっている。
「これが牡丹鍋か。なかなかの美味であるな。人々を守ってなおかつ胃袋で喜びを分かち合う。ありがたきことだ」
「イノシシなんて初めてだったけど、美味しいものね」
 味付けの方も好評でルストも胸を撫で下ろす。
 凪がワンテンポ遅れて顔を綻ばせた。
「‥‥!!? めっちゃ美味しいわー。‥‥あ、あんなー。御代わりええかな?」
 ルークも自身の猟果に満足げに舌鼓を打ち、ムージョも自分で集めてきた栗を味わっている。
「んま〜い♪」
「栗ご飯、美味しーでござる〜。お鍋もおいしーでござる〜。顔が緩んじゃうでござる〜」
 隠が頬の落ちそうな恵比須顔でご馳走を平らげ、テラーも自前の洋酒を振舞って凪やルークら仲間達と冒険の成功を喜ぶ。
「ウチ弱いから遠慮しとくわ。ごめんなー」
「面白そうだ、俺はいっぱい貰うぜ」
 こうして楽しげな笑い声の中、山村の夜は更けていった。
 そして旅立ちの朝。
「ご馳走様や。美味しかったわ♪」
 凪も村人へもう一度ご馳走の礼をいって頭を下げる。隠とムージョはお土産にと牡丹肉や栗をたくさん持たせて貰い、村を後にすることとなった。
 アクシデントはあったものの、結果として依頼は成功。冒険者は村の人々の笑顔を取り戻した。
 そこに確かな手ごたえを感じ、藤政が今回の冒険を振り返って自身の決意を新たにする。
「私にやれることは限度があるが全力を尽くすからこそ意味がある。今後も全力を尽くそう。光があるからこそ陰ができるのが心理であるが、光で覆って上げられるように努力したい」