【金山迷動】 風雲キヨシ城 〜初夏の陣

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月26日〜06月02日

リプレイ公開日:2007年06月05日

●オープニング

 上州征伐の混乱で金山周辺もいまだ政情が落ち着かないが、それでもここ「風雲キヨシ城」では、今年も興行が行われようとしている。戦時ゆえ今回の興行では城の常備兵は出張ってこないが、興行主の華僑集団の手によって今年初めての興行が断行された。
 戦により民は不安を抱えている。そんな民草たちを少しでも勇気付けるため、キヨシ城は冒険者たちの挑戦を待っている。


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A:風雲キヨシ城!
 金山城郭群の一つ、八王子山に聳え立つ風雲キヨシ城――。
 現役の城郭を一般開放して作られた世界初のアトラクション施設では、このキヨシ城へ挑むチャレンジャーを募集中だ。
「よくぞ生き残りました。我が精鋭たちよ」
 ヴェルサント隊長に率いられ挑戦者達はキヨシ城攻略戦へと挑む。
「行けー!!」
 迎え撃つはキヨシ城の城主である松本清の手勢。キヨシ城の家老が配下のキヨシ兵を引き連れて姿を現した。
「皆さん出陣です。殿と共に敵軍を倒すのです」
 これから挑戦者達が挑むのは、キヨシ城に建設された新アトラクション『地武来流樽海峡』。


 木製の巨大な水桶へつるされた一本のつり橋。それを渡りきるアトラクションがこの地武来流樽海峡(じぶらるたるかいきょう)だ。
 つり橋は酷くバランスが悪く、足を滑らせればすぐに落下して失格となってしまう。チャンスは一回。渡橋の間には挑戦者へ鞠が投げられ、それを見事掴んでから対岸へ渡りきらねばならない。なお、義侠塾生へは鞠ではなくキヨシ兵が矢を放つのでそれを見事掴んで対岸まで渡らねばならない。
 また今回から魔法による飛行などの行為も解禁となった。ただし対岸では投網キヨシ兵が挑戦者を捕らえようと目を光らせている上、また随所にも飛行対策の罠が施されている。
 ともかくも、無事に渡りきればその先の天守閣への入口までは一息だ。
 幾つもの落とし穴の待ち受ける道を踏破し、天守に待ち受けるラスボスを撃破するのだ!
 今回の対戦相手は、この人。
「キヨシ城二代目覇者として無様な真似はできないが、気負わずやらせてもらおう。ドコであろうと俺は俺だ」


 見事、このキヨシ城を攻略した者には、一日城主の権利と共に記念品が贈呈される。一日城主となった者には、次回の興行でのラスボス役を務めることができるほか、キヨシ城のルール追加、またはアトラクションの改築をすることができるのだ。
 もののふ達よ、キヨシ城へ挑み自らの手で歴史を作るのだ!

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B:轟!義侠塾!!〜地武来流樽海峡〜
「いいか貴様らァ! 本日より、我らが義侠塾はキヨシ城攻略に乗り出す!!」
 義侠塾とは、真の義侠を目指して日ノ本中から集った益荒男達が日々研鑽を積む、武蔵国に本拠を持つ私塾である。その分校がこの金山に設立され、新たに義侠塾では胆威制(たんいせい)が導入された。
 塾生は、義侠塾の過酷な教練に挑むか、或いは指定の禍涯呪業(かがいじゅぎょう)に取り組むことで胆威が認められる。秋の辛窮死険(しんきゅうしけん)にむけて胆威を襲得し、上級生への進級を目指すのだ!
 今回の科目は以下の通り。

 禍涯呪業
  ・金井宿(キヨシ村)の診療所の手伝い
 教練
  ・阿斗落所(あとらくしょん)『地武来流樽海峡』攻略。

「よいか貴様ら――! キヨシ城攻略には一般の者も投入されると聞く。遅れを取ったらどうなるかわかっとるな?」
 ちなみに、一般の冒険者にはない恐るべき秘技を会得している義侠塾生は、他の参加者に配慮してハンデが課せられる。目隠し布や錘、果ては義侠塾生養成義不守(ぎぷす)などが用意されている。
「よいか貴様ら! 義侠塾の名に賭けて情けない真似は許さんぞ。見事城まで攻略した者には、倍の胆威を授ける! 上州の民に義侠塾魂を見せつけてやるんじゃぁっ!」

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0561 嵐 真也(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2196 八城 兵衛(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3897 桐乃森 心(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 今月もまた市がやって来た。
 戦時とはいえ、金山が最も人で賑わう時。白九龍も再びこの地へ舞い戻っていた。
「ふん、源徳が追われてこの地も安住ではなくなったか‥‥」
 白はその足でキヨシ村へと消えていく。同じく江戸からの旅を終えた龍深城我斬(ea0031)も、キヨシ城への出場に控えて宿へと向かう。
「金山も色々と大変なようだな、キヨシ城の興行が少しでも助けになるんなら良いんだが」
 鷲落大光も重そうな旅荷を背負って駅へ降り立った。
「必要な時に金を工面してくる人間は上司に受けが良いって話だったな。さて、恩を売るなら今が売り時か」
 冒険者が金山を訪れる理由は様々。鷲落のように立身出世の道を志す者もいれば、一方で太田自警団の風斬乱のように、胸にまた別の思いを期する者もいる。
「思えば手の掛かる奴等だった。ゴロツキ程度なら上手くあしらえるぐらいの剣術の手解きはしたつもりだ。もう己の道を模索させても良い頃だ」
 懐に文を忍ばせ、乱は太田の街へ消えていった。
 中にはカーラ・オレアリスのように初めてこの地を訪れる者も。
「ここが金山ね。キヨシくんを元気付けてあげるわ♪」
 その手にはたくさんの手紙の束。
「よし、頑張りますか♪」
 鷹城空魔(ea0276)にとっても金山は初めての土地だ。
 太田の街を見回り、江戸程ではないにしろその賑わいに驚いた風だ。
「いやいや‥‥なかなかスゲーとこじゃん?」
 空魔の目的はただ一つ。
「風雲キヨシ城!‥‥これしかないっしょ! なんか戦とかもあったし、それに、なんか陰謀渦巻くトコみたいだけどさ、そんなことよりやっぱ城落としが一番楽しいよな〜? 俺に落とせない城は無い!‥‥ってね?」
 キヨシ城の興行は今回で四回目を数える。
 今回も義侠塾からは多くの挑戦者が教練の一環として参加する予定だ。
 さて、義侠塾の伊珪小弥太はというと。
「ジャパ〜ンも風雲急を告げやがってえらい事になっちまったぜ」
 今度、城では街の名士を集めた御前会議を行うらしい。金山の行く末を左右するだけに、城の動向は風羽真も気になっているようだ。
「先の乱に参加した者として、新田側が使った数々の策略や源氏の嫡男を神輿にしたやり方に、いい加減腸が煮え繰り返ってるんでな。新田と戦するんなら大歓迎なんだがな」
 それに、と真。
「どーしょーもないくらいヘッポコではあるが、清は憎めない奴だし金山の柱である以上、熨斗付けてくれてやる訳にもいかねえしな?」
 同じ頃。
 義侠塾分校では、塾長の意向を仰ぎにいった久方歳三は思わぬ叱咤を受けていた。
「馬鹿者が!猛省せい!! 義侠塾が仕えるは日ノ本ただ一国! 源徳も新田もない! ただこの日ノ本とその愛すべき民がため、身命を賭すべきと心得んかァ!」
「押忍!ごっつぁんです!」
「心身を鍛え、事に備えよ。キヨシ城二代目覇者の座は外部の者に奪われたと聞く。必ずや第四回大会では再び義侠塾の手にその栄冠を取り戻すべし。心せい!」
 そうして塾友達が金山の今後を憂えている中、だが菊川響(ea0639)は一人物思いに耽っている
「情勢が変わる中こうしたいという方向性も見えてないのは、結局逃げてるだけの言い訳なのかもなぁ‥‥」
 考えはぐるぐる同じ所を回るだけで、思考の袋小路からは抜け出せそうもない。
 考えていても仕方ない。行動あるのみ。響きは愛用の弓を手に取った。
「今は見えてないけど知恵も力も必要だと思う時期はきっと来る。だから」
 いざというときに立ち止まらないように。
 備えよ、常に。
「教練を重ね鍛えるべし!だよな。これが興行の成功につながってくれたらせめてもの慰めってとこで」


●風雲キヨシ城〜初夏の陣
「ふふ、この空気も懐かしい。義侠塾生たるもの、常に全力全開だ」
 今回もそこには嵐真也(ea0561)の姿。義不守に目隠し、錘とハンデの全てを引き受けて、試練に挑む。
「まさか筆頭たる俺が些少でも楽するわけにはいくまい。前回は途中で無念な事となったが、同じ轍は踏めないな。胆威獲得の為にも、ただ死力を尽すだけ」
「嵐先輩、その意気に御座いまする! 紅葉も負けてはおれませぬ! 此度こそは見事城主を討ち取って見せまする!」
 白鉢巻も勇ましく、義不守に身を固めた火乃瀬紅葉(ea8917)も気合十分。
(「民が不安を感じている今だからこそ、漢としての生き様を見せて勇気づける、それが義侠塾生としての紅葉の務めと思いましたゆえ」)
 目指すは吊り橋の彼方にそびえる天守閣。
 そこには、集まった挑戦者達をキヨシ城城主が待ち受ける。
 天守閣に浮かぶフライングブルームに立つのは、忍び装束に鬼の面。闇色の外套をはためかせ腕組みするは、二代目覇者である我斬。 
「よくぞ我が前に現れた精鋭どもよ。果たしてこの難関を制し我が元にたどり着けるかな? 我を失望させてくれるなよ‥‥‥くっくっくっく‥‥‥はーっはっはっはっはっは!」
「おのれ‥‥言わせておけば。民に漢の生き様を見せ、元気づける好機にございます! 必ずやこの紅葉がその野望挫いて見せまする!」
 いよいよ挑戦が始まる。
 嵐が真っ先に先陣を切ろうとしたその時だ。
 不意に笛の音。
 手獲魔損愚(てえまそんぐ)をひっさげて、義不守姿で現れたのは‥‥

  京都に消えたあの歳ちゃんが
  お呼びでなくても帰って来たぞ(笑)
  義侠だったら帰って来るさ
  転移の腕輪輝く限り(<おい)
  士魂の心が燃えてる限り
  蘇る蘇る歳ちゃん‥
  蘇れ‥蘇れ‥

「呼ばれてないのにジャジャジャジャーン。義侠塾惨号生久方歳三、惨状もとい参上に御座る!」
 久方が釣り橋を駆ける!
 そこへ真横から矢が射られる。
 果たして、見事これを見切って掴み取れるか‥‥?
「心配無用! 新業・砕竜主彬棲雷伝愚(すくりゅうすぴんすらいでぃんぐ)‥‥とくと見るでござるよ!」
 跳躍した久方。
 錐もみになりながら放つ蹴りの風圧で、迫り来る矢を吹き飛ばした!
『久方惨号生、失格!』
「歳ちゃん感激ー!!」
 と、久方が大ボケをかましたところで、次の挑戦者は響。
「奥義・鬼魅面兎乃訓(きみもうのくん)の法!」
 響の頭には天晴れ扇子。
 射掛けられた矢は吸い込まれるように扇子に突き刺さって行く。一見お間抜けに見えるが、弓に秀でた響の技術あってこそのものだ。見事吊り橋を越えると、まるごとこまいぬの上から義不守をまとった姿で扇子を補充しつつ、次の難関である落とし穴の地雷原へと駒を進める。
「教練の遅れを取り戻すのは勿論だけど、さらに高みを目指さないとな!」
 こうなると嵐も負けてはいられない。
「この海峡を渡りきるは、越冬する鳥を思わせる。ならば、今回は鳥の姿に習うとしよう」
 魔法での飛行も今大会では許されている。だからといって安易に飛ぶだけでは義侠塾生としては失格だ。法力で両腕を翼に変化させた嵐。大きく翼を広げてバランスを取ると、大空を駆けるが如く吊橋を駆け抜ける。
「そして、『鳥』は『取り』にも通ずる」
 弓鳴りの音を捉え、嵐の視線が険しくなる。迫り来る矢撃。刹那、翼を広げると。その羽根に矢を貫かせた。
「‥‥問題の矢もこうして止めてやればよいだけのこと。翼に変化させたことでおあつらえ向きに矢も捉え易いという訳だな」
 負傷も意に介さず、嵐は次のステージへと進む。
 義侠塾生達の戦いぶりを目の当たりにし、空魔は興奮した様子で叫び声を上げた。
「いや〜なんかすっげー楽しそうじゃん〜俺、一度でいいから参加してみたかったんだよな、コイツにさ?」
 武者震いに体を奮わせ、空魔が駆け出した。
 不安定な吊橋だが、忍びでもある彼ならそう簡単には足を踏み外すことはない。
 問題は、投げ込まれる鞠だが。
「さぁ、来い!!」
 義侠塾生ではない空魔には、矢ではなく鞠が投げ込まれる。
 その程度なら、空魔にも見切るのはそう難しいことではない。
 ところが。
「あ、うわ、あれ‥‥!?」
 まさかのキャッチ失敗。鞠は空魔の手をすり抜ける様にして通り過ぎていった。
 悲しいかな、チャンスは一回きり。これにて、久方に続き空魔もここで脱落となる。
 最後の挑戦者は紅葉。
 駆け出した紅葉へも矢の洗礼。
 義不守を巻いた左手を盾に、紅葉は真っ向から矢を受けきった。
「この矢はいわば民と紅葉の絆のようなもの、真の漢を鍛えるこの義不守を交え、まさに今俺達の絆は結ばれたにございます!」
 矢尻は深々と突き刺さっている。
 負傷などこの際泣き言はいってられない。空いた手を使ってバランスを取り、仲間の後を追う。
「空への備えに気を取られ、地を走る者への対策がいつもより甘うございます‥‥それに、二代目城主殿を義侠塾懲罰『火雨血婦冷(ほうちぷれい)』の憂き目にあわせるわけにも行きませぬゆえ」
 こうして、三人の挑戦者が海峡を渡り切った。
 天守閣では我斬がその様を見て唇の端を歪める。
「ほう、あの吊橋を渡りきるとは。流石は義侠塾」
 片手にワインをくゆらせると、一気に飲み干す。
「だが、次の地雷原を乗り切ることが出来るかな? 貴様らの苦しむ様、楽しませて貰おうか」
 海峡を渡った挑戦者を待ち受けるのは、天守閣へと続く道に掘られた無数の落とし穴。
 一足先に渡河した響と嵐も、この罠に攻めあぐねていた。目隠しした嵐は勿論、第二ステージ到達は始めての響も足取りは覚束ない。
「なかなか難しいな。せっかく此処まで来たのに詰まらないミスでリタイアしたくはないし、慎重にいかないと」
「むう、如何ともしがたい。あだが諦めるな、心の目で道を切り開いてみせよう」
「嵐先輩、ここは紅葉が道を照らしまする!」
 紅葉の命に従い、放たれた鬼火が道を照らす。
 そこにできた僅かな陰影を頼りに、三人は力をあわせて地雷原を突破した。
 そうして遂に天守閣。
 響が扉を開け放つ。
「な、何だここは‥‥!」
 暗い室内。そこに僅かな篝火。
 薄暗い天守閣の中、黒衣に包まれた我斬の姿がぼうっと浮かび上がっている。
「我が闇の戦場にようこそ」
 我斬が忍者刀に手を掛けた。
「我が鬼面にかけて、冥府へと送り為してくれよう」
 ゆらり。
 その気配が殺気と共に闇へと溶け込んでいく。
 その様に気圧されそうになりながら、響は闘志をその身に呼び覚ました。
「‥‥恐れるな。貴様の野望はこの俺が砕く!! 喰らえ、斧流婆諏斗(ふるばあすと)!!」
「まだだ、この程度で覇者の座は渡せん!」
 目にも留まらぬ弓捌きで放たれた矢嵐。
 至近の連撃は、だが我斬の身を掠るに留まった。
 次の瞬間には、忍者刀が響の鳩尾にめり込んでいる。
「‥‥無念」
「他愛ないな。我を相手に詰まらぬハンデなど無用。退屈させてくれるなよ。持てる力の全てを俺にぶつけて来い」
 我斬の実力は本物だ。
 紅葉がその身を縛る義不守の結び目に手をかけた。
「もはや義不守(くろす)等不要にございます、燃え上がれ紅葉の精霊力よ‥‥祇埜羅紅手火魔愚那無(ぎゃらくてかまぐなむ)!!」
 天高く紅葉が拳を突き上げる。灼熱の火柱が上がり、室内を赤く染め上げた。だがその時には既に我斬は紅葉の左側面へと回り込んでいる。
「迂闊だな、その程度か?」
 忍者刀の一閃。紅葉が斬り伏せられて力なく倒れた。
 だがその隙を突いて闇から襲い掛かる者がいる。
 暗闇から姿を現したのは、海峡に沈んだ筈の空魔。
 我斬は咄嗟に身をよじるが。
「ば、馬鹿な、我が鬼面を砕くとは!」
「マトモに相手して勝てる相手じゃねぇし闇討ちと思ったが、流石は二代目覇者。これほどの猛者とはね」
 海峡でやられたのは実は分身。
 本体は橋の下を伝って密かに渡橋していたのだ。
「空への警戒はしてるみたいだけど、橋の下から来る奴は想定してないっしょ? それに、対岸につくのに下から着ちゃいけないってルールはないし? あらかじめ用意した鞠を持って吊橋を渡って待ってたのさ」
「ってことは、結局、投げられた鞠をキャッチしてないんじゃあ‥‥?」
『鷹城選手、やっぱり失格!』
「し、しまった〜!」
 いよいよ最後の一騎打ち。
「敵は強敵。それは認めよう。ならばならば取るべき方法は一つだ」
 流石に三連戦ともなると我斬にも疲労の色が濃い。
 一瞬の勝負になるだろう。
 二人が動いたのは同時だ。
 嵐が取ったのは捨て身の策。肉も切らせ、骨までも断たせる。その覚悟で相手の動きを封じ、叩き込むは魂の拳!
「綿のごとく柔らかな発想。賭けにも近い覚悟。いざ――!」
 名づけて、綿理賭理(わたりどり)。
 先に相手を捉えたのはのはやはり我斬。だが嵐は倒れない。
「な、馬鹿な‥‥! この我が、我がまさか――――!」
「遂に為したか。いや、また始まるのだな。今更だな。進み始めたこの道、どこまでも突き進むのみだ」


▽結果発表
 海峡突破 菊川選手(義侠塾)、火乃瀬選手(義侠塾)
 キヨシ城攻略 嵐選手(義侠塾)

『見事成し遂げました我が精鋭たちよ!』(←貼紙) 
 ヴェルサント君人形に讃えられ嵐が表彰台へと上る。海峡突破者へも寸志として開発中のキヨシ饅頭が送られた。今回も怪我人が出ることとなったが、禍涯呪業中の伊珪が診療所から駆けつけている。
「ったく、無茶しやがるぜ嵐。紅葉も根性見せたな。あ、それと歳ちゃんは自業自得だから唾でもつけとけ」
「せ、殺生に御座るよ〜」
 こうして第四回大会は、一年岩をも通す、四度目の挑戦にして嵐がその栄冠を手にした。城主の座を再び義侠塾の手へと戻ったのであった。


●悪鬼は骨に集まれり
「さて‥‥金山も大変な事になったね。こんな時は、善悪関係無く手を取り合わなくてはね。新田に奪われでもしたら、善も悪も意味が無い。街という器あってこそ悪が蔓延れる訳だしさ‥‥」
 キヨシ城の興行も終了し、市もそろそろ終わりを迎えようとしている。
 まだ賑わいの余韻を残す金山の街から少し隔たった山中。古びてとうに見捨てられた廃村に、夜半、蠢く影がある。クリス・ウェルロッドは境内で報せを待っていた。
 夜中だというのに灯りもつけず、ただじっと身を潜めたまま。
 やがてそこへ男が一人、姿を現した。鳴神破邪斗だ。
「辺りには誰もいない。では、行くぞ」
 そう声をかけると、暗がりから仲間達が立ち上がった。ロックハート・トキワが衣服の泥を払い、マントを翻す。
「‥‥この機を逃すと難しくなる、早めに回収しないとな」
「源徳公が失脚した今なら、警戒も手薄でしょう。それに今ならわざわざ政情の危ないこんな所まで足を運ぶ物好きもいないでしょうしね」
 クリスもそれに続き、鳴神とその忍犬に導かれて山中へと続く。目的の場所は、境内の裏手、少し奥まった所。氷雨雹刃が仲間と土を掘り返すと、そこから出てきたのは石造りの百両箱や反物の彫像だ。
 そこへ林潤花が巻物を手に呪文を唱えると、やがてそれは神々しい光を放つお宝へと姿を変えた。
 かつて城が野盗を討伐した際、野盗の溜め込んだ財宝の多くは討伐隊の手によって回収される前に失われた。これは討伐の際に彼らがそれを横から浚い、この地に隠していたものだ。
 金山を取り巻く情勢が急変した為、今を逃せば回収の目処が立たなくなること。そして急変のために今後纏まった金が必要になるかもしれないことから、回収に踏み切ったのだ。
 一行は即座に馬に荷を積むと、その場を後にする。
 念のため彼岸ころりが周囲の呼気を窺うが感は無し。一行は太田宿へ向けて馬を知らせた。
 異変があったのは、金山城が視界に入ろうかという頃。
 太田の街までは、後は川を渡ったすぐ向こうだ。そこに、篝火が焚かれて夜道を照らしている。金山城の兵士による検問だ。
 検問の責任者は八城兵衛(eb2196)。
「今の所は不審者も無し、か。夜間は人が通らない分、気楽でいいね」
 政治顧問の命で清の手勢の半数に当たる50の兵が、昼夜を問わず陸路水路ともに目を凝らしている。
 新田の手が伸びている今、間者を始め金山に害を為す輩への警戒を怠ることはできない。ここは水際の防衛だ。政治顧問の秘書を務めたヴィスコ・ヤンセンの手配で城は金山商人連盟と華僑商人に割符を発行し、それ以外の者は荷改めをして不審者は身柄を拘束される。徒党を組む者、また武器を携える者は特に厳しく詮議が行われた。割符無き者は、たとえ親類縁者であっても例外はないとの厳命だ。
 そこへ。
「八城殿、不審な女が網に掛かりました」
「分かった。すぐ行く。やれやれ、何もこんな夜更けに来なくともいいだろうに」
 八城が向かうと、大荷物を積んだ荷車を引いた女が兵士に止められている所だ。
「お侍さま、一体どういうことですか。私はただ金山へ荷を運んでいるだけです」
「不審な者が善良な民に姿を変えてこの辺りを行き来していると言う情報があってね。別に通行料を取ろうと言う訳じゃない、協力して頂けないかね?」
 部下に合図を送り、荷を包んだ布を明けさせる。
 出てきたのは江戸の海産物だ。
「竹之屋で使う食材を運んでいます。何か問題でも?」
「お嬢さん。では、これは何かな? 俺の目をガラス玉か何かだとでも思ったかい?」
 八城が、食材の入った袋をどけると、荷車の底に覗いたのは大量の武具矢玉。
「悪いが、身元が判別するまで暫らく身柄を預からせて貰うぜ。抵抗するならば斬る」
 八城が刀の柄へ手を掛ける。
 それを合図に配下の兵が無言で女を取り囲んだ。
 その様子を遠目に見ていたクリスらにも緊張が走る。
「どうします? 手を打つなら早い方がいい」
「‥‥止めておけ」
 と、鳴神。
 一足先に感づいて周りの森を探ったが、脇道には虎鋏や足掛け罠などが張り巡らされ、鳴子も張ってある。城の手の者である葛城丞乃輔の仕事だ。
「どうしたものだろうね。引き返して迂回しますか?」
「阿呆が。向こうにも忍犬がいるようだ。妙な動きを見せれば怪しまれるだけだぞ、クリス」
 敵の手勢には弓手もいる。下手な動きを取れば厄介なことになる。彼らの実力なら逃げおおせるのは造作ないが、重い荷を引いた馬が足手纏いだ。
「‥‥このまま行くぞ。ボロは出すなよ?」
 一行が非常線に差し掛かるとすぐに八城が行く手を遮った。
「悪いがちょっと荷を改めさせて貰っていいかな。なに、時間は取らせない」
「八城殿、不審な荷です」
「済まないが割符無き者は警戒を厳にせよとの城からの命令だ。身柄を拘束させて貰う」
「聞いていないな。太田自警団のトキワだ」
「同じく鳴神。副長の命令で物資を運んでいる」
 クリスも団員としての身分を明かして見せる。
 城も対応に追われており、商人以外の各種機関への割符の発行は追いついていないようだ。
「そいつは失礼した。お勤めご苦労だ」
「失礼する。そちらこそ、ご苦労様」
 一方、こちらは金井宿。
 華僑元締めの景大人邸宅では、月に一度の「朝食会」の日を迎えていた。
 この日は華僑自警団の活動も休みとなり、景邸宅は人払いがされる。食卓を誰が囲み、そして屋敷の中で何が行われているのか。謎の多い会合だ。
 だがこの日ばかりはいつもと様子が違う。
 屋敷には、黒装束に身を包んだ白が忍び込んでいる。
 小柄な体を屋根裏へ滑り込ませ、階下の様子を探る。
 最初に姿を見せたのは賈。
 次に現れたのは、見覚えのある顔だ。
(「あの男は‥‥」)
 白が記憶を辿る。
 そうだ、以前に一度だけ大人と面会したとき、傍に控えていた男。名は確か――。
『今朝は遅かったですね、沈大兄』
『賈か。随分羽振りがいいようだな。いつからそう胸をそびやかして喋るようになった』
『これは手厳しい。気のせいですよ大兄』
『フン。白道は随分と巧く運んでいるようだが――』
 そこまで言って、不意に沈が振り返った。
 その視線は白が隠れている屋根裏へと向けられる。
『どうかされましたか、大兄?』
『‥‥‥‥‥‥いや、何でもない』
 白の背筋を、どっと冷たい汗が伝う。
 視界の先で、二人は二回の大人の部屋へと向かう。
(「甘く見ていた。下手に近づけば見破られかねんな。さて、どうする?」)



●街とか造りますがナニカ?
 陸路・水路での警戒に留まらず、城下町では太田検察官の鬼切七十郎が目を光らせている。
「金山の治安を守る為にビシバシ取り締まるっ!!!!」
 街への出入り口でも改めて検問が行われ、人物改めが厳しく執り行われた。万一に間者が八城の網を抜けた場合は、ここで捉える二段構えだ。
「領内の治安も強化せんとなあ。小さな犯罪でも容赦なくしょっ引くぜ」
 当面は夜間の外出も禁止令が出された。日が没すると街の門は下ろされ、警備が巡回して違反者は投獄される。余りの過酷な取締り振りには太田の民からは強い反発があがったが、鬼切は手を緩めない。
「金山が潰れたら全員ご破算じゃろ。後は太巌組と華僑にも通達しておくか」
 太田の街では戒厳令のためか、民の不安は拡大している。
「‥‥また戦になるんでしょうか? 何がなんだか分からないうちに江戸も源徳様も大変な事になってしまって、ここでもまた戦に巻き込まれるなんて‥‥(よよよ)」
 街娘に化けて源徳兵に近づくのは桐乃森心(eb3897)。
 その目的は、源徳方への新田の調略の有無と、源徳兵の今度の動向だ。
「娘、案ずることは無い。それより、大丈夫か。その様子では一人で帰すのも心配だが」
「ご親切にありがとうございます。わたくしは桐と申します。こちらにはまだ知り合いも少なく、心細くって‥‥あの、もし良ければお名前をお伺いしてよいでしょうか?」
 家康との連絡を断たれ、ここ金山に駐屯する源徳兵は孤立している。
 彼らの動向は金山城の命運を左右しかねない重要事。
 裏に表に、冒険者達は動きを見せる。
 サウティ・マウンドは清の使いとして、源徳兵の侍大将を訪ねていた。
「単刀直入に言うぜ。金山城が落ちれば、源徳が再び江戸に返り咲くための足がかりがなくなると言っても過言じゃねぇ」
「我らとてみすみす虜囚の辱めを受けるつもりはない。しかし、孤立無援のこの有様は如何ともしがたいのだ」
 もしも、だ、とサウティ。
「ここで新田を退けることができれば、戦況を盛り返せるんじゃねえか? 何より俺達には、難攻不落といわれた金山城を落とした『力』がある。此れをこんなところで無くすのは痛いだろ? ここを凌げれば、源徳が江戸城を取り返すことに俺達も力を貸す。だから、今回は俺達に力を貸してくれ!」
「相待たれよ。立場もある。後ほど改めて返答致す故」
「期待して待ってるぜ!」
 下級兵士達の下へは、カーラが文を携えて訪ねて来ている。
「江戸のご家族からの手紙を預かって来たわ。皆さんからもお返事を送りたいならば私が預かるわね」
「ありがてえ」
「れは地頭の清クンの心遣いよ。苦難の時だからこそ、義を貫いて、為さねばならぬこともあるでしょう。共に頑張りましょうね」
 城では御前会議が開かれ、金山城の行く末が話し合われている。
 空間明衣(eb4994)は会議室の外で一服しながら、晴れ空へ紫煙を昇らせている。
「良い結果となれば良いな」
 さて、再び街道に場面を戻そう。
 八城と番を交代したレジー・エスペランサは、先晩に捕まえたという女を検分して驚きの声を上げていた。
「あんたは‥‥!」
 捕まえたという女は、以前に野盗討伐を共にしたシャーリー・ザイオン。
「一体どうして?」
「戦は避けられないでしょうし、武器を調達して由良さんに恩を売ろうかと思いまして」
 道中、新田方に悟られぬよう擬装して金山を目指したが、まさかこうなるとは夢にも思わなかったとシャーリー。
「手間を取らせて悪かったね、これもお互いの安全の為だと理解して頂けると助かるんだけどね」
「貸し一つ、ですね」
「そいつは手痛い。よし、こうしてはどうかな。街まですぐといえ、若い娘一人では物騒だ。大田まで兵に送らせよう」
 とまあアクシデントはあったものの、その後は万事滞りなく進められた。レジーも愛犬のヴィーと共に目を光らせ、政治顧問の期待に応える。こうして、金山での日々は過ぎ去っていく。


●上野に暮らせば 〜皐月
 キヨシ村では、加賀美祐基(eb5402)らの活躍で無事に薬草園が水呼びまえの作業を完了させた。天堂蒼紫(eb5401)は期間中も人知れず村の警戒を行っていたが、特に事件らしいものは起こっていない。
「‥‥まあ、本当に遭遇したら俺の実力では厳しいがな」
 診療所では伊珪が仕事を終えて帰路についている。
 疾くモノを運ぶ事風の如く(ぶっ飛んで周囲のモノを吹き飛ばし)、静かに見守る事林の如く(ガン飛ばし)、緊急時の手際捌き火の如く(余計な用を増やし)、待機すべき時は動かざる事山の如く(ガーガー居眠り)。とかく診療所の生活は慌しかったようだ(周りが)。
「かーっ!いいことすっと気持ちがいいぜ!」
 額をぴしゃりと叩くと、伊珪は満足顔で村を後にした。
 所代わって太田宿の剣術道場。
 道場主のサウティの推挙で門下生の数名が兵士に志願した。
「いいか、生き残るぞ!ここでくたばらせるために、お前らに武術を教えたわけじゃねぇんだ! 俺について来い!!」
「ここが太田道場かい?」
 訪ねてきたのはキヨシ村に滞在中の水上銀。
「託児所の子供達に剣を教えられないかと思ってね。ここなら道具も揃ってると聞いたんだけどね」
 皮製の防具は鎧造りアペが手入れしてくれたお蔭でいつでも使える。
「構わねえぜ! 大人に混じって鍛えりゃ上達も早いだろうしな!」
 一方、悪鬼達の持ち込んだ財宝は無事に換金されていた。
「‥‥私の取り分は、氷雨さんに任せますが、まさかこれほど面倒とはね」
 何しろ額が額だ。誰にも嗅ぎつけられぬ様に換金するのは手間がかかった。手数料等で若干目減りしても四百両余り。中には「つまみ食い」しようとした者もいたが、業物や指輪のような持ち運びの易いものは野盗が手を付けた後で、
「下手に足がつくと不味かろう。完全に匂いを消すため十重二十重に人手を経由すれば、それなりに手間も時間もかかる」
 当面は林を通じて華僑へ預けることとし、必要とあらば江戸の両替商を通じて換金出来るよう手配する予定だ。自由に引き出せるようになるのは一月程かかるだろう。
 さて、その林だが。
 城との折衝を殆ど一人で纏めたその功績は大人といえど無視できない。新参には破格の扱いだが、賈の補佐役として異例の抜擢が行われることとなった。
「今後は自警団書記としてでなく、私の秘書として我々の仕事について貰います。ついては、お前も大人との会談に出席するように。予定は必ずあけておきなさい」
「光栄の至りね。今後もより一層、華僑の利益の為に尽くすことを約束するわ」
 一方の白は、会合の様子を探ろうとするも今回はあれ以上近づけぬまま機を逸していた。
「沈とかいう男‥‥あの殺気は只者ではないな」
 左手の包帯を締め直しながら、ふと呟く。
「大人ほどの人物ならば華国でも相当顔は広いはず‥‥もしかすれば俺を裏切った紫蛇会との繋がりもあるかもしれんな‥‥その時は‥‥」
 竹之屋では新人店員の山岡忠臣がお千と留守番中だ。
「何つーか、これってば俺とお千ちゃんの新婚生活みてーだな!」
「何だか楽しそうですね山岡さん」
 そこへ顔を見せたのはシャーリー。
「入店おめでとうございます。餞別に、この間私の着替えを覗いた事は水に流します」
「山岡さんー‥‥?‥」
「ち、違うんだお千ちゃん、ってそうじゃなくて‥‥!」
「ただいまです! 山岡さん、お千ちゃんを泣かしたらいけませんよ! ナンパも厳禁です! 私も少しは恋愛というのを判ってきたのです!」
 そこへちょうど城への出張を終えて八雲達も帰ってきた。
 帰り道が一緒だったのか、サランも一緒だ。お千を呼び止めると、番いのコマドリのペンダントを手渡した。
「遅くなってしまったけれど、お誕生日おめでとうお千さん」
「あ、ありがとうございます!」
 ふと就き陽姫が心配そうに南の空を見遣る。
「江戸も色々大変みたいアル。本店のやっさん大丈夫かな」
「ま、心配ばっかししてもしゃーねーぜ。何かパーッと気晴らしでもできたらいいんだけどな。神輿を担いで戦勝祈願みてーな感じでよ」
「金山ももっと交通の便をよくすれば知らせも届きやすくなるアルけど、どっちかというと山を越えた北の方にアタシは興味あるアルね」
 店先では清がカーラに膝枕されて鼻の下を伸ばしている。
「会議で疲れたでしょうし、ゆっくり休んでねキヨシ君?」
「苦しゅうないんだっぜ〜」
 情勢は緊迫しているというのに、清は相変わらずだ。
 今夜も賑わいを見せる店内を見渡し、店長の朱雲慧はほっと笑顔を見せる。
 隣に八雲が並び立つと、ほんのりはにかんだ。
「さぁて。仕事仕事! 今夜は城の膳に仕込んだ残りも特別メニューとして振舞うで! 早いもん勝ちやさかい、のうなっても知らんで」
 竹之屋はこれから夜営業。金山に差そうとする影などどこ吹く風。
 今夜も竹之屋から賑わいが絶えることはなかった。