ミッションインポッシぶる

■ショートシナリオ


担当:小沢田コミアキ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:02月09日〜02月14日

リプレイ公開日:2005年02月18日

●オープニング

「たいした依頼じゃないんだぜ?」
 江戸から二日ほど離れた村で小鬼が出るようになった。村のそばの炭焼き小屋に主人が留守の間に棲みついたらしい。
「報酬はちっとばかし安いが、小鬼退治だから楽な仕事だ。そんかし飯は村の者が出してくれる」
 炭焼き小屋は村の田へ水を引く小川を上ったところにある。小屋までは川沿いの道を歩いていくだけ。見通しのいい所だから道に迷うことはなさそうだ。
「ただ、ちょっと注文があってよ」
 たいしたことじゃないんだが、と前置きすると男は続けた。
「小鬼の奴ら、村で飼ってた鶏をごっそり浚ってきやがったからよ、二、三十羽いるが全部取り返してくれ。それから小屋の隣の川は血で汚すなよ。上流が鬼の血で汚されんのも困るからな。小鬼は5匹だ、うちの一匹は生け捕りで頼む。それでどっから流れてきやがったのか聞き出してくれ。あと村の女子供が怯えると困るからアンタらは村には顔を出さないでくれ。泊まるのは適当に野宿してくれや。っても回りにゃ野っ原しかねえけどな。退治すんのもあんまし派手にやらかしてくれるなよ。村からそんなに離れちゃいねえから、騒ぎ起こすと村の者が不安がるからな。それと、村の者が鍋やら釜やら盗まれて困ってるからそれも取り返してくんな。小鬼の奴らが小金でも溜め込んでたらそいつもそっくり村で頂戴すっからな。武器や鎧やらも売っぱらえば金になりそうだな。猫糞すんじゃねえぞ。ついでに小屋の扉の立て付けが悪くなってたとかって話だから直しといてくれ。もちろん村長んとこへの江戸土産も忘れんなよ」
 とまあ出たわ出たわ、こまごました注文が立て続けにざっとこれだけ。まあ経験を積んだ冒険者なら注文の一つひとつは大して難しいことでもないが。
「あ、あと」
 と、男。
「これ全部、雨の日にやってくれるか? ほら、その方が血糊とかの始末しなくて済むじゃねえか。そうだな、でも雨降ってると泥とか撥ねるしアンタらも大変そうだよな。でも悪いが立ち回りで汚した分は元通りに掃除して帰ってってくれよな。そういうことで頼まあ」

●今回の参加者

 ea0440 御影 祐衣(27歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea3223 御蔵 沖継(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7918 丙 鞆雅(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9659 竜造寺 大樹(36歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb0969 天笠 明泉(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1012 ペペロ・チーノ(37歳・♂・ウィザード・ドワーフ・イスパニア王国)
 eb1035 ソムグル・レイツェーン(60歳・♂・僧侶・シフール・モンゴル王国)

●サポート参加者

平島 仁風(ea0984)/ 陸 潤信(ea1170)/ 馬籠 瑰琿(ea4352)/ 草薙 北斗(ea5414)/ 虎魔 慶牙(ea7767

●リプレイ本文

「なんて注文の多い依頼人なんだ。何様のつもりなんだ‥‥」
 やることばかりが多いこの依頼。冒険者達の荷も何かと嵩んでしまう。竜造寺大樹(ea9659)が悪態を吐く。
「まぁ、請け負っておいて、なんだけどよ」
 一行は意気揚々と村を目指していた。江戸を経つ前には冒険者仲間も駆けつけて荷造りを手伝ってくれ、これまでの所は順調。レヴィン・グリーン(eb0939)の愛馬ユーノの足取りも軽い。
「くはぁ〜またえらく、欲張ったねぇ‥‥」
 依頼項目を一覧に書き出していた御蔵沖継(ea3223)がようやく纏めを終えて感嘆の声を漏らした。
「う〜ん、改めて見てもちょっと頭痛くなりそうなくらい注文の多い依頼だね‥‥」
 覗き込んだメモには箇条書きに項目がびっしり。天笠明泉(eb0969)も思わず頭を抱えそうになる。
「そう言えば何でベェリーさんは何でボロボロなんですかー?」
 何故だか村に着く前からボのベェリー・ルルー(ea3610)へ風月明日菜(ea8212)が問いかけると。
「秘密です〜」
 ベェリーは胸に抱いた包みをさすって含みのある笑顔を見せる。不思議そうな顔の明日菜。さて、そろそろ日も暮れ村へつく頃だ。先回りした仲間が水場の近くに野営の場も見つけて来てくれている。
「ここなら最適だね。さーて、みんなでキャンプの準備しましょう!」
 御蔵が馬の荷からテントを引き出す。一行総出で野営の準備が始まった。若い女性も多く、賑やかに嬌声が飛び交う。
「細々と注文が多い依頼ですが‥‥いや〜可愛い娘さん達ばかりで嬉しいですね〜♪」
 ソムグル・レイツェーン(eb1035)は機嫌よさそうにパタパタと羽をはばたかせている。ひとしきり頷くとソムグルはテントへ入っていこうとするが。
「そっちは女の子用だよ♪ ソムグルさんはあっちだよー♪」
 こっそり女性陣のテントへ忍び込もうとした所を明日菜に見つかってあえなく追い出されてしまったとか。そんなこんなで夜は過ぎ、翌日。
 肝心の天気は生憎の曇り。雨は降りそうにもない。
「万事整えておいたぞ。小鬼どもの出所もある程度は辺りをつけておいた故」
 事前に早馬で飛ばして村へ着いていた御影祐衣(ea0440)が他の先発隊と共に作戦の準備を整えている。仲間のオーラテレパスを頼りにある程度を小鬼から聞きだし、他の先発隊はその方面を調べ終えてもう江戸へ帰った後だ。オーラテレパスでどうやって調べたかって?
「うむ。小屋にトンボが近づいた折にの、『もし小鬼殿、某はトンボと申す者であるが貴公は何処から参られた』とオーラテレパスで尋ねたのだ。知能が低い小鬼故に騙されようという訳だな」
 まあ小鬼なんてその程度の知能かとも思ったが、もう一つ言えば返ってきたのもその程度の答えだった訳であり。流石に正確な情報は掴めなかったが、後は実際に捉えて確認すればいいだけだ。
「順番は違うが出身を聞いた後に捕えても問題なかろ? 条件は満たしておる」
 ひとまず一行は行動に移る。
「稲のように細長い葉‥‥これですね」
 小屋へ向かう道すがらレヴィンが鶏の好む雑草を摘んでいく。イネ科の草は撒き餌に最適。一手に鶏達を捕まえてしまおうというのだ。
「鶏さん、待ってて下さい。必ず助けますから」
 動物学者、もといイチ動物好きとして鶏の救出に燃えるレヴィン。とはいえ逸る気持ちを抑えつつ、小屋までの道中は村の者に見つからぬようにこっそり移動だ。
「もうちょっと歓迎してもらってもいい気もするけど‥‥冒険者ってそんなに怯えられるものかなぁ?」
 背を屈めて小屋の近くまで忍び寄りながら天笠が独り言つ。
「周囲に人はおらぬようだな」
 ブレスセンサーで確認を終えて丙鞆雅(ea7918)が仲間へ合図を送る。レヴィンも試したが小鬼の他には邪魔者はいない。小さな反応は鶏たちか。一行は小屋から少し離れた場所で待機した。
「ペペロさん、お役目だよー♪」
「やれやれ、よっこいしょ」
 術師にしてはやけにずんぐりむっくりなこの体型。
「我が輩ペペロ・チーノ(eb1012)、ドワーフながら生涯を一学問の道に捧げて修めし我輩の水の魔術、とくとお見せ致そう」
 静かに目を瞑り、ペペロが詠唱を始めた。やがて彼の体が青い魔力のほとばしりに覆われる。その淡い光がふっと掻き消えた時。俄かに日は雲に陰り、空が動き出した。湿気を含んだ思い空気が辺りを漂いだし、辺りは雨の臭いである。
「この気温ならば雪になることもない。ささ。みっしょん開始でござるよ」
 水の精霊魔法の中には雨を自在に操る魔法も存在するという。ペペロはその数少ない使い手なのだ。この依頼に彼が参加していたのはまさに天の助けだ。
「しかし、こう小鬼臭いと鼻がムズムズして‥‥」
「わーわーペペロさん!!!」
 っちくしょーぃ。
 慌てて仲間達が口を押さえようとするも、一際大きなクシャミが辺りに響き渡った。が。ぽつぽつと雨粒が降って来たかと思うと、たちまち馬穴を返したような土砂降りになった。
「思ったよりも早く降り出したでござるな」
 丙が手早く仲間達へ合羽を配る。手早く支度を終え、一行が頷き合う。ずぶ濡れになりながらも天笠が拳を突き上げた。
「さぁ、小鬼たちを派手に‥‥あ、派手に戦っちゃダメだっけ。とにかく、張り切っていこう!」

 まず動いたのは明日菜とペペロ。小屋まで近づくと二人で派手に物音を立てて小鬼を誘い出す。すぐに小鬼達は表へ飛び出してきた。何かを喚いている小鬼へアカンベーすると二人は一目散に逃げ出した。
「あははー♪ 鬼さんこちらー♪」
 時折立ち止まって振り返っては明日菜が小鬼を囃し立て、その後をドタドタとペペロが必至で追い掛けている。小鬼を引き連れた二人はやがて川沿いの茂みに差し掛かった。不意に明日菜が立ち止まると振り返り様に両手の木刀をぶん回した。木刀とはいえ闘気を纏っている、鼻っ面を叩かれた小鬼は悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。
「はいは〜い、小鬼さん5匹のうち1匹は除いてあの世行きの旅にご招待〜♪」
 天笠が退路を断つように小鬼の背後へ回り込んでいる。狼狽する小鬼たちへ長巻を突きつけると『ビシッ』とアニメ処理で効果音が飛んだ。それに呼応して両脇から丙と竜造寺が小鬼達を挟み込んだ。
「川や小屋を汚さずにとなると、斬撃よりも打突が有効だな」
 鞘袋をつけたままの薙刀を振るうと丙は柄払いで手早く体勢を崩し、追い討ちに鳩尾へ強烈な柄突きを見舞う。怯んだ所へ体重を乗せた重い一撃、鮮やかな手際で一息に命を絶つ。竜造寺も体当たりで押し倒すと両膝で小鬼の自由を奪う。巨躯で馬乗りになられては、体重差も子どもと大人どころの話ではない。明日菜たちに続いてこれで三匹目だ。
 逃げ出そうとした一匹へは木の枝で待機していたソムグルが呪縛を放つ。屠った小鬼を捨て置いて丙が縄を手に駆けつけると、魔法の効いている内に手早く縛り上げた。
「大人しくそこで縛られていて下さいね♪ それじゃあ私は鶏の方へ加勢に行ってきますね」
 ソムグルが小屋へ飛び、残った一匹も天笠が仕留めに掛かる。
「峰打ちでも十分痛いんだからね!」
 得物の長巻で峰打ち一閃。だが濡れた足場で踏み込みが甘かったのか小鬼は何とか持ち堪えた。そこを祐衣の放った闘気と明日菜の二刀が畳み掛け、動きを止めた所へ止めとばかりに再びの峰打ち。遂に五匹目が倒れた。

 小鬼が動いている隙に小屋では鶏救出作戦が展開されていた。開け放しの小屋の扉から鶏たちがひょっこり顔を出す。それを待ち受けていたのはオカリナを手にしたベェリーだ。
「今日は僕の単独ライブのためにこんなに集まってくれてありがと〜心を込めて歌いますですよ〜」
 どの鶏も好きでここにいる訳じゃないと思うがそんな突っ込みではベェリーの心は揺らがない。
「さて残念ながらもう最後の曲です。タイトルは『安心して竹篭まで誘導されて下さい』、みんな効いてくれよな!」
 すぅ‥と息を吸い込むと。
『大人しくなれこのヤロ〜!!!』
 ベェリーの絶叫で月魔法メロディーが発動し、たちまち辺りは濃霧に包まれた。現れた御蔵とレヴィンが餌を撒き、すっかり大人しくなった鶏達を捕獲に掛かる。
「今日は僕のライブ最後まで聞いてくれてありがとう〜。退場の際は一列に並んで順序良くね〜」
「多少、狭いでしょうが我慢してくださいね‥‥」
 点々と置かれた餌はレヴィンの広げた竹篭に続いている。数十羽もいたのではすぐに一杯になってしまうが、足りない分は無理やり簡易テントで代用だ。次に使う時ちょっと鶏臭くて大変そうだけど。
「ええと‥‥いちにぃさんしー‥」
 捕まえた数を御蔵が指折り数えていくが、押し込められた鶏の鳴き声が増えるに連れて何だかどうでもよくなってもくる。
「まあ大変そうなので簡単に行きましょう」
 無理やり三十まで数え上げると御蔵が蓋を閉じた。一応レヴィンが周囲を警戒し、鶏に危険が迫った時にはすぐ魔法で阻止できるようにブレスセンサーで目を光らせている。暫くして、近づいてくる呼吸音が一つ。ソムグルだ。小鬼の方が片付いたことを告げると、作戦は後半戦へ突入した。

 雨も徐々に小降りになって来ている。明日菜たちも小屋へ駆けつけると手早く残りの作業が始められた。
「ひ、丙さ〜ん。これ持って貰えますか〜??」
 驢馬の荷からソムグルが細工用工具一式を引っ張り出そうと頑張っている。それを横から丙が持ち上げると、ソムグルを腕に乗せて扉まで連れて行く。
「立て付けが悪くなったのを直す、と。ソムグル殿、俺には工作の心得はない。指示を任せた」
「了解しました♪」
 どうも古くなった戸板が歪んで滑りが悪くなったようだ。覗き込んだソムグルがあーでもないこーでもないと指示して代わりに丙が道具を振るって修理を始めた。
「何か無性に全くりあせねば気がすまぬ」
 作業は滞りなく勧められた。御蔵の書いた項目一覧へ祐衣が逐一バツ印の書き込みを入れて行く。小屋では竜造寺が鍋釜やらを運び出しに当たり、他にも金目の物を物色している。折れた刀など殆どガラクタの類だが依頼主が必要だというのだから仕方ない。一抱えにして竜造寺が小屋の外へ運び出し、天笠も残りを手伝って小金を運び出した。
「なんかこう、想像してた冒険者の仕事と違うような‥‥ま、最初はこんなものかな。うん」
 そうして一通りの作業を終えた頃にはやがて雨も上がっていた。捕獲した小鬼は、御蔵が用意した縄で竜造寺が徹底的に縛り直している。これから拷問に掛けてどこから流れてきたか確認を取るのだ。なぜか亀甲縛りだったりするのだがその辺は余り追求しないほうがよさそうかも知れない。
「‥‥趣味じゃないからな」
 ボソっと竜造寺。最後に布を噛ませて舌を噛み切らないように処置をする。
「見事な縛りぶりに‥‥我ながら、上出来」
 眩しそうに目を細める竜造寺。
「おら、言え! 素直に白状しない場合は生涯忘れられないような拷問に掛けるぞ!」
 失敬した鶏の羽でこちょぐりの刑。更にはでこぴん&シッペの刑で、じわりじわりと。血を見る様な惨たらしい物は彼も御免だということでこれには一安心。
「随分泥まみれになってしまったな」
 丙が手拭で顔の泥を払って一息ついた。
「鍋も馬に積めるだけ積んじゃいましょう」
 怪我をした鶏へはソムグルが治癒魔法で傷を塞ぎ、積み込みも完了。幸い皆の馬を集めれば往復せずとも済みそうだ。レヴィンも鶏を運ぶため愛馬をお使いに出す。
「ユーノ、すいません。もう一度力を貸して下さい」
 村への報告はベェリーが立候補。シフールの彼女の荷物持ちに御蔵が名乗り出て、残りの皆は立ち回りで汚した分の後片付けだ。念のため、用意していた着物に着替えた丙が護衛につくことになり、皆で揃ってお見送り。
「私はキャンプ地で大人しくお留守番をしてますね♪」
「じゃあ行ってらっしゃーい♪」


「――という訳で依頼完了です」
 村長と面会したベェリーはこれまでの報告を終え、最後に江戸土産を渡す段になった。御蔵からは神酒『鬼毒酒』を、ベェリーからは彩絵檜扇。
 そして。
「村長殿‥‥お土産は黄金色の菓子でございますです‥‥お納めくださいです〜‥‥」
 とベェリーが桐の箱を差し出す。蓋を開けて包みの紙をどけると現れたのはカステラだ。
「あんたも悪だねえ」
「なあに、村長さん程ではございませんです〜」
 とそこへ。
「そうは問屋がおろさぬぞ」
「何奴」
 戸板を開けて踏み込んだのは祐衣。
「一つ、人を雑用にこき使い、二つ、不埒な注文三昧。三つ、土産も強請るずうずうしさよ。村長、貴様の行いは断じて許すことなど出来ぬ!」
 啖呵を切ると祐衣が土産へ手を掛けた。
「これは預かっておく。これに懲りてもう無理な注文はせぬことだな」
 土産を取り戻すと、仲間を振り返った祐衣は胸を張って笑顔を見せる。
「これでみっしょんこんぷりーと、だな」
 そうして三人が戻った頃にはキャンプでは夕餉の用意が整っていた。
「実は多めに貰って来たんですよ〜」
 江戸の知人にお願いして作ってもらったというカステラを振舞いながらベェリーがにっこりと微笑んだ。
「みんなで食べようです〜」
 行きがけにボロボロだったのは材料調達で野良鶏に突付かれた所為だったのだとか。
「‥‥お、いずこからか魚の焼ける匂いが」
「よーし、夕飯も出来たぞ」
 臭いに誘われてペペロもふらふらとテントから顔を出した。打ち上げの宴会は盛大に、でも村の迷惑にならないようちょっとコッソリと行われた。
「いっただっきま〜す♪」
 これにて――みっしょん・こんぷりーと!