嗚呼、酔っ払いラプソディー。
|
■ショートシナリオ
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月07日〜11月12日
リプレイ公開日:2009年11月14日
|
●オープニング
酒場には良く、荒くれの連中がやってくる。それはジーノが物心ついた時からそうだったし、ジーノが年を取っておばあちゃんになっても変わらないだろう。
町に一軒しかない酒場。見るからに人生に疲れた女もくれば、辺りを伺いながらひっそりやってくるカップルも居る。かと思えば武勇をことさら以上に自慢するむくつけき男達がいて、対照的に線の細そうな少女が父親の使いで酒を買い求めに来たりもして。
それらを物心ついた時からつぶさに見てきたジーノが父親に教わったことは、それをよく見て、だが見ないふりをしなさい、と言うことだった。
『こんな商売をしていると、望まず火の粉が降りかかってくることもある。それに聡く立ち回るために、お客様達のしていることをよーく見て、お客様達の話をよーく聞くんだ。でも、それをお客様に決して悟られちゃいけないよ。悪い事をしているお客様でも、そうでないお客様でも、火の粉が降りかからない限りはただじっとしておいで。出来るね?』
(ええ、父さん)
記憶の中の父の言葉に、ジーノは小さく頷いた。ええ、父さん。出来るわ、父さん。
ジーノは正義感に満ち溢れた娘ではなかったし、昨年亡くなった父も正義感に満ち溢れた男ではなかった。ささやかに祖父から受け継いだ酒場を守る事だけを父は考えていたし、ジーノも父からそうしてこの酒場を受け継いだ。
見て見ぬフリをするのは、犯罪に加担することかもしれない。いや、紛れもなくそうに違いないのだけれど、父もジーノも目の前の正義感を優先して今後の生活を潰すより、この危うい生活をそれでも維持していくことを選んだのだ。ただ、それだけの話だ。
そう、ただ、それだけの話。それだけだったのに。
「‥‥それが何でこんな事に」
「何か言ったか、女?」
「いいえ、何にも」
独り言にまできっちり返された野太い声に、ひょいと首を引っ込めてジーノは従順に返事した。それに男はほんの少し鼻を鳴らして、だが酒場の小娘など構ってられないと思ったのか、或いは他の理由があったのか、また視線を酒場の外へ油断なく走らせる。
まったく、何でこんな事に。胸の中でだけ毒づいたジーノは、父が亡くなった後も彼女が守ってきた酒場の惨状を見回した。つまり、あちこちで酒樽から中身が無残に零れ、テーブルや椅子が破壊され、カウンターまで一部が壊れている光景を。
何が悪かったのかと言えばきっと、父の言う所の『降りかかる火の粉』をジーノが見抜けなかったと言うことだろう。だが一体どうやって、酒に酔っ払って気持ち良くなったお客様がいきなり攻撃魔法をぶっ放して、それに怒った別の筋肉酔っ払い集団が剣を抜くなんて事態を、想像すれば良かったのだろう?
おかげ様で現在、酔っ払いの酔っ払いによる酔っ払いの為の抗争が勃発しており。なし崩し的に巻き込まれたジーノは現在、カウンターの中で嵐が過ぎ去るのを待ちながら、時折店内の様子を眺めているのである。
古い建物なので、裏口なんて気の効いたものはない。何より、逃げたらその後が怖そうだ。どうやら現在、風の魔法だろうか、見えない刃をぶっ放した酔っ払いが店内に陣取っていて、店の外から筋肉派酔っ払い集団が中を窺っていて、そこに良く判らない酔っ払い集団が絡んでいる、みたいなのだが。
また首を引っ込めて、ジーノは大きな溜息を吐いた。父が生きていたら是非この事態を乗り切る秘訣を聞きたいものだが、出来ない事を今更言っても仕方ない。
(これだから酔っ払いって嫌いよ‥‥ッ)
そう、盛大に薄汚れた天井を見上げて嘆いた彼女がするべき事は、もしかしたら転職すること、なのかも知れなかった。
●リプレイ本文
倉城響(ea1466)がその騒ぎに出会ったのは必然だった。この町にあるという地酒を求めて来た彼女は、酒屋を探すうちにカンパスにたった一軒しかないその酒場に辿り着いたのだ。
だがその前で、シファ・ジェンマ(ec4322)に会ったのは全くの偶然だ。あら、と目を見張る響に、シファの方も偶然出会った仲間の姿に目を見張る。たまたま所用で訪れた町で、たまたま他の冒険者と出会う確率は、全くない訳じゃないが極めて低い。
「ここのお酒はとっても美味しいんですよ♪ ‥‥あら?」
「そうなんですか、それは‥‥え?」
「偶然だね〜☆」
「まぁ‥‥本当に‥‥」
だからつい世間話を始めかけた彼女達は、さらにたまたま通りがかった3人組の姿に驚きの声を上げる。修行を兼ねて弟子の仕事に付き合ってたフォーレ・ネーヴ(eb2093)と、ちょっとぐったりしている弟子と、万一の回復役に付き合ったジュディ・フローライト(ea9494)。
やほー、と響に飛びつくフォーレと、口元に手を当てて控えめに驚きを表現するジュディだ。弟子ことシルレインがシファを見て、うッす、と礼儀正しく(?)挨拶した。
それから少しだけ居心地悪そうな顔で女性陣を見回し、辺りに視線を向ける。
「姐さん達、作戦会議ッすか?」
「はい♪ どうやって美味しい地酒を手に入れるか‥‥」
「‥‥響姐さん?」
ぽむ、と胸の前で手を打って瞳を輝かせた女性に、青年は唇の端をひきつらせた。んな場合ッすか、とまた辺りを見回す。
つられて冒険者達も辺りを見回した。すなわち、時折酒場の中から魔法攻撃が飛んできて、暑苦し‥‥失礼、勇ましい声を上げて突入しかけた剣士が吹っ飛ばされて、その上をひゅんと矢が飛んでいく光景を。
響はひょいと肩をすくめ、おっとり微笑んだ。ジュディが頬に手を当て、困った顔になる。
「休憩にきたのですけれど‥‥一体何があったのでしょう?」
「さぁ‥‥私達も偶然通りがかって」
シファも困った顔になった。関わり合いになるのを恐れてか、或いはこの辺りでは珍しくもない騒ぎなのか、周辺住民が外に出てくる気配はない。わずかに野次馬がいる程度だ。
だが、説明などなくても判る事は、ある。
「皆さん、酔っ払ってるみたいですね」
そう、争う連中の顔を見れば判る――全員、見事に酔っ払っている。先ほど魔法で吹っ飛ばされた男は、そのまま大の字で高鼾をかき始めた。
大きなため息を吐いたのは、一体誰が最初だったか。酒を嗜む事は構わないが、この騒ぎ、どうなの。
となれば、偶然とはいえ居合わせてしまった冒険者達が為すべき事は一つだ。
「とにかくシルレインにーちゃんと突入して押さえてみるね〜」
「じゃあ私はフォローしますね♪」
「私は一般の方の避難誘導を」
「美味く宥められれば‥‥酔い覚ましのお水もあれば良いのですが」
傷つけるのはまずいが、とにかく問答無用で止めて酔いを醒まさせなければ、被害は拡大する一方。酔っ払い鎮圧し隊が仮結成されたのは、だからそんな訳だった。
◆
相手が酔っ払いという事を除けば、酒場への侵入は普段やっている事と変わらない。フォーレはシルレインに小声で簡潔に、丁寧にレクチャーする。
室内や通路で戦闘する際、大切なのは周囲の状況や障害物をつぶさに観察し、把握しておく事だ。自分の位置と壁やテーブルの位置。プロならこれらを完璧に頭に叩き込んでおくもの。
「時として回避時の邪魔になるからね。戦闘に集中するのは大事だけど、周囲の観察も大事、ね?」
師匠の言葉に頷く弟子ににぱっと笑い、フォーレは二重扉の真ん中でじっと中の様子に意識を凝らす。生憎練習する暇がないので、今回はお手本と本番が同時だ。自分を良く見ておくよう言いつけて、フォーレは酒場の中に忍び込んだ。
目撃者の情報から、中に居るのは酒場の娘を含む一般客が数名と、酔っ払った魔法使いと、一緒に居た商売風の女。一方、酒場の外に構える集団は最初は3人程度だったが、いつの間にか増えて現在十数人。時折侵入しようとしては先のように吹っ飛ばされている。
故にまずは響が外の連中を警戒し、その間に中を制するのが理想的なパターン。問題は、酔っ払いに理性など期待出来ない事。一体どんな定石外れをやらかすかが最大の懸念だ。
フォーレの後からシルレイン、シファと続いて消えていくのを見送り、響は周りを見回した。通りに面した窓板は破られていて、中に人影は見えない。だが時折そこから放たれる風魔法を警戒して、男達はなかなか近付けずにいる。
「このまま無事に済めば良いですが♪」
「そうですね‥‥幾人か、怪我をなさった方もいらっしゃいますし」
言葉とは裏腹に何かを期待してそうな響に、ジュディは思わしげに頷いた。今も高鼾をかく男の負った怪我を手当してきた所だ。高鼾と魔法には何ら因果性はない。
手だけはいつでも刀を抜けるよう柄に添え、ジュディを庇う様に男達を見る響の前で案の定、男達はあっさり痺れを切らした。否、酔っ払いにしては良く保ったと言うべきか。
「俺は行くぜ!」
剣を振り上げ、なりふり構わず突っ込んだ男は直後、中からの風魔法で吹っ飛ばされた。魔法抵抗なんて出来る訳がない。ああッ! 悲痛な叫びが酔っ払い達から上がる。
「許せねぇ、一体何人を手に掛ける気だ!?」(誰も殺してません)
「女を連れてると思ってバカにしやがって!」(単なる僻みです)
「あっ! あの野郎、俺を見て笑いやがった!」(幻覚でしょう)
「ジーノ! ○○された仇は取ってやる!」(伏せ字にはお好きな文字をどうぞ)
順調に妄想を発展させた酔っ払い達は「何としても叩き切ってやる!」で一致団結した。酒臭い鼻息も荒く、千鳥足で酒場に突進していく。
一方酒場の中ではシファが、一般人の誘導を試みていた。が、ここに居る連中は店主のジーノ以外、程度の差はあれ全員が酒を飲んでいる。つまり、酔っ払っている。
そんな連中が静かに動ける筈もない。それを悟ったシファはフォーレに目配せで合図した。コクリ、しっかりと頷きが返る。
騒ぎが隠せないのなら、別の騒ぎに紛れさせてしまえば良い。視線でそう語り合った彼女達は、盾にしていた丈夫なテーブルから同時に飛び出した。フォーレがナイスバディなお姉様の腰を抱いていた魔法使いに叫ぶ。
「こっちだよ☆ ほら、にーちゃんも」
「はい、師匠。やいテメェ、小悪党気取ってやがんのか、アァッ!?」
日頃はヘタレな犬属性だが、割とマトモな啖呵を切った。さすが腐っても元盗賊団。
ギロリ、と魔法使いの酔っ払い男とナイスバディなお姉様が2人を見た。失礼ながら、どう見てもお金の関係がないと思えない男女だ。つ、としなだれかかったお姉様が何か囁き、デヘッ、と鼻の下を伸ばした酔っ払いが呪文を唱え始める。
ああ――つまり、良いトコ見せたかったんだな(その場の全員の心の呟き)
フォーレ達が男を引き付けてくれている内に、シファがテーブルに隠れたり、壁に張り付いて大人しくしていた一般客に声を掛けて回った。カウンターの中にはうんざりした顔のジーノが居たが、彼女は店を離れるわけには、と避難を断った。見上げたプロ根性だったが、物凄く嫌そうな顔では台無しだ。
その頃酒場の外では、筋肉系酔っ払い集団が窓に近寄ると同時に起こった騒ぎに、新たな局面が訪れていた。
「始まっちゃいましたねぇ♪」
「ジェンマ様はお戻りになられましたね」
何となく予感していたジュディと響は、複雑な笑顔を見合わせる。一般人を避難させたシファが中に戻っていったから、中に残っているのはもう迷惑集団だけという事だろうが、早くも騒ぎに乗じて窓枠を飛び越え、奇声を上げて突っ込む酔っ払いも居て、中の様子は想像もつかない。
とにかく宥めなければと、心配そうな眼差しでおろおろ見つめるジュディの視線を、びっくりする位拡大解釈した酔っ払いが寄って来る。見るからに下心満載だ。
だが、むしろあちらから寄ってきてくれるのは助かると、慈愛の母の使徒は怯まない。微笑んでジュディは尋ねた。
「一体何がきっかけで、このような騒ぎに?」
「悪を倒せって天界からのメッセージが」
かなり妄想が進んでいるらしい。聞いてた野次馬と救出された一般人はヒクリ、とひきつりサッと離れた。
さすがのジュディも一瞬笑顔が固まる。だがさすが、聖なる母の僕は挫けない。
「それは、あの、どの様な‥‥」
「ああ、これは運命だ! そんなに俺を想ってくれていたなんて!」
さらに妄想が進んでいる。まぁ、と呟くジュディの姿に、見ていた野次馬からエールが飛んだ。それを自分達2人を祝福してくれているんだとびっくりするぐらい好意的に誤解する酔っ払い。
グッ、とジュディの両手を取り、もはや酒場の事など忘れて駆け出そうとする酔っ払いの上に、バッシャーン! と派手な音を上げて冷たい水がぶっかけられた。ぶっかけた響は微笑んで、そのまま容赦なく男を撃沈させる。目が笑ってません、姐さん。
小さく息を吐いて崩れ落ちた酔っ払いを見下ろし、ジュディが響に謝意を述べた。いえいえ♪ と首を振る響に微笑む。
「あちらの弓の方にもお話を聞いてみましょうか」
「じゃあシルレインにーちゃん、フォローに行ってくれるかな! 響ッ!」
「はい♪」
この騒ぎの間に続々と酒場になだれ込んだ酔っ払いどもの相手を頼もうと、窓から顔を出したフォーレに頷き、出てきた青年に交代した。宜しくお願いしますね、と微笑んだジュディに青年が頷く。
弓集団はそちらに任せるとして、問題は酒場の中だ。響が中に入るとすでに、狭い酒場は乱闘状態だった。
「アノール!」
「でりゃあぁぁッ!」
弱らせようとするシファに、酔っ払った足取りで突進する酔っ払い。ブンッ! と空振りした所を攻撃し、体力を奪っていくのだが、酔っ払いは立てる限りは向かってくる。
シファは酔っ払いの動きを予測しては技を繰り出し、少しずつ体力を奪う。時折酔いで足がもつれて予想外の攻撃がくるが、酔いに任せての攻撃なので速度はそれほど速くない。
その状況に響は即座に行動した。シファの周りに群がる連中を、1人ずつ確実にスタンアタックで沈めていく。ドサッ、と崩れた男の上を、風魔法と矢が飛んでいき。
着実に冒険者達によって無力化されるうち、酔っ払い達はある結論を導き出す。こいつらをまず倒そうぜ。
所謂敵の敵は味方理論で、魔法使いと筋肉集団は手を結び、冒険者達の前にゆらりと立ちはだかった。ゆらりと揺れたのは勿論、酔いで足元がふらついてるから。
酔っ払い軍団はかけ声も勇ましく、ふらふらしながら冒険者めがけて突進した。魔法使いが呪文を唱えて、時々舌を噛んで唱えなおす。タイミング良く、ひゅん、と矢が何本か打ち込まれたが、酔っ払いはむしろ景気付けとばかりに高揚し、遮二無二剣を振り回し。
むしろ面倒だな、と思ったかどうかは知らないが、冒険者達は慌てず酔っ払い達を迎え打った。外の弓矢集団はジュディとシルレインが何とかしてくれるはずだ。
――そして乱痴気騒ぎの末、最後に残った魔法使いがスタンアタックで沈むまで、さほど時間はかからなかった。ナイスバディなお姉様がトロンと酔っ払った目でそれを見、ケタケタ笑った。
◆
騒動は一件落着したが、酒場の苦難はまだ続く。一刻も早くこの惨状から立ち直り、営業再開しなければ路頭に迷ってしまう。
広くはない酒場の中を、響とフォーレはジーノに声をかけて、手分けして壊れたものを片付けていく。修繕すれば使えるものはジーノが選り分け、カウンターの無事な場所に置いていった。
そのカウンターに合う材木を見立て、シファはシルレインを助手に適切な大きさに切り、当てはめていく。何のかのと言っても、力仕事は男手の方が役に立つものだ。
この場には他にも多くの男手が、つまり鎮圧された酔っ払い軍団が居たのだが、彼らは殆どが拘束されると同時に気持ち良く眠りに落ちていて、むしろ邪魔で仕方ない。だがこの寒空に放り出せば凍死‥‥はしないだろうが、酷い風邪をひく事は免れまい。
さすがにそんな事になっては寝覚めが悪いと、ジーノは滅茶苦茶になった店内の床に転がしておく事を了承した。ちなみに彼らの家族は揃って引き取り拒否したとか何とか。
眠りに落ちてない一握りも、ジュディの丁寧な手当を受けながら、何やら切々と語っている。
「大体、どいつもこいつも俺をバカにしてよぉ‥‥嫁も娘も人を邪魔もの扱いしやがって‥‥ック、なぁわかんだろ、嬢ちゃんよぉ?」
「ええ‥‥辛い思いをなさっているのですね‥‥」
「ヒック、あんた、良い娘さんだなぁ‥‥ウッウッウッ、あんたみたいな娘を持てて、俺ぁ果報モンだ‥‥ッ」
泣き上戸だったらしい。それ以前にいつ娘になった。
どうやら家族への鬱憤がかなり溜まっていたらしい男は、穏やかに話を聞いてくれるジュディの傍で、延々泣きながら日々の苦労を訴えてる。ちなみにこの話、これで5回目。
6回目の話に差し掛かった頃、大変そうですね♪ と母の笑みで見つめていた響がぽむ、と手を打った。
「そういえばジーノさん、この辺りで地酒を売って頂ける所はありませんか?」
「へ‥‥? うちにも置いて‥‥たけど、樽が割れてるわね」
カウンターの中から指しかけたジーノは、半分よりちょっと上が吹っ飛んだ酒樽を見てがっくり肩を落とした。弁償はきっちりして貰うわよ、と低い声で呟きながら寝こける男達を1人1人睨みつける。
「すみません、この部分、切り落として新しい木を接いだ方が早いんですが、良いですか?」
「ええ、ありがとう。明日には営業出来そうに綺麗‥‥あ、ごめんなさい、地酒の話ね。うちが仕入れてるとこを紹介するわ、明日の朝一番で良い?」
シファの言葉ににっこり笑って頷き、新しく継がれた木のカウンターを嬉しそうに撫でてから、振り返ってそう言ったジーノに、勿論、と響は頷いた。ウィルには明日の朝に帰っても、十分間に合う。
代わりに、後で残ってる地酒や他の酒を幾つか呑みたいと言うと、解ったわ、とジーノは頷いた。そしてしっかり念押しした。
「お酒には強い方? 助けて貰ってなんだけど、あんな騒ぎはもうこりごり」
それは勿論、とそこは冒険者全員が揃って頷くと、なら良いわ、と彼女は笑顔になった。そして再び、壊れたコップやお皿の選別に戻っていった。
◆
翌日、盛大に二日酔いに苦しむ男達とジーノに別れを告げて、冒険者達は帰路についた。響の手には購入した地酒が大切そうに握られている。
シファが呟いた。
「あの人達、ウィルまでついてきたそうでしたね‥‥」
「‥‥‥」
一晩中酔っ払いの愚痴を聞いていたジュディが、寝不足の青い顔で遠くを見た。ウィルまでの道のりは長い。