フオロ、かの地の今‥‥

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月05日〜12月10日

リプレイ公開日:2009年12月16日

●オープニング

 ウィル、冒険者ギルド。そこに依頼を持ち込む人間は実に様々だ。一般庶民からの切なる願いが届けられる事もあれば、心温まるささやかな願いの為に全力を尽くす時もある。或いは国家の存亡を賭けた戦いに身を投じる事もあり、その一方で開発や祭要員の補助と言う人員募集の話もあって。
 故にその日、冒険者ギルドを訪れた冒険者ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が、募集依頼を張り出した掲示板を通り過ぎ、依頼受付カウンターに腰をかけた所で一体、何を驚く事があろうか?

「これは、何か厄介な案件でも?」

 余り馴染みはないが、ギルド職員ともなれば相手の顔と名前ぐらいは知ってる受付係ネルトス・ジョウファスがそう問いかけたのは、無理からぬ事だ。冒険者が同じ冒険者相手に依頼を出す理由も様々だが、もし1人では手に負えない案件を抱え込んでしまった、と言う事ならば、それなりの対処を取らなければならない可能性もある。
 実際、カウンターに座ったゾーラクの顔色は冴えない。冴えない、と言うよりは思い悩んでいるように見える。
 だが話を向けられた彼女は顔色とは反して、きっぱりとした口調で告げた。

「フオロに、一緒に行って下さる方を募集したいのです」
「フオロ、ですか?」

 ネルトスはその地名を繰り返した。その地名は勿論知って居る。前エーガン王の悪政と共に。
 今現在は現エーロン王の指揮の下、領主代理にマリーネ姫を据え、領内の各地で復興の為に様々な人々が様々な尽力を重ねて居る。その為の依頼も幾度も、このギルドに並んできた。ゾーラクもその1人だったはず。
 何か、フオロに気がかりがあるのだろうか? 尋ねたネルトスに、ゾーラクは静かな面持ちで、強い決意の言葉を紡いだ。

「私は以前、フオロのエーロン陛下に虜囚の民を受け入れる為の領地開拓を申し出ました」

 様々な形で連れ去られ、今も苦しめられる無辜の民を取り戻した後、受け入れる為の地が欲しい。彼女は王にそう願い出て、王はそれを許した。ただしそれには条件も、あって。
 フオロ内に上げられた幾つかの候補地は、いずれも不毛の地と呼ぶに相応しく荒れ果てた地であるという。その中からは先ずは選べ、と言われたものの、領内の多忙が重なっているのか中々赴く機会が持てず。
 ならば自ら動きたいと、願った。フロートシップを借り受け、フオロの地を回る。そうして実際にこの目で、この耳でそこに暮らす人々の姿を見、かの地を復興せんとするマリーネ姫やエーロン王達に報告したい。
 あちらが多忙であるならば、どこまでこの要望が聞き入れられるかは不明だ。自らの領地とする希望地も併せて申し出るつもりだが、或いは視察のみで手一杯かもしれない。一緒に行ってくれる仲間を募りたいのも、それが一つの理由だ。
 だがそれでも、先ずは一歩を。踏み出さなければどこにも進めはしないのだから。その為に新たに100Gという大金をも用意した。

「そうですか‥‥僕はあちらの事情には報告書で拝見する以上に詳しくはありませんが、フロートシップならばマリーネ姫にお借りする事が出来なくても、ギルド所属のものを借りられるかもしれません。ゾーラク嬢のお気持ちが、フオロの人達に届く事をお祈りしてますよ」

 事情を聞き終えたネルトスは、そう頷いてゾーラクからの依頼書を書き上げた。書き上げて、張り出した所までを見届けて、ゾーラクは初めてほっとした顔になった。
 では宜しくお願いしますね、と帰る彼女を見送って、ネルトスもまた息を吐いて張り出した依頼書を見上げたのだった。




※視察予定地

【フオロ分国東部の復興途上地域】
 アネット伯爵領  王領ラシェット       ドーン伯爵領
 ∴∴∴∴∴∴川∴∴∴∴∴∴∴∴森森┏━━━━━━━┓
 ┏━━━━┓‖┏━━━━━━┓森森┃沼沼森森沼沼沼┃ 01:旧ラシェット子爵領
 ┃∴∴∴∴┃‖┃∴∴∴∴∴∴┃森森┃森森森森沼沼沼┃ 02:旧ロウズ男爵領
 ┃∴04┌―┨‖┃∴∴01∴∴∴┃森森┃森森森森森沼森┃ 03:旧ラーク騎士領
 ┃∴∴│∴┃‖┃∴∴★∴∴∴┃森森┃∴◆∴森森森森┃ 04:旧アネット男爵領
 ┠――┤05┃‖┃∴∴∴∴┌―┨森森┃森∴森森森森沼┃ 05:旧レーン男爵領
 ┃06∴│∴┃‖┃┌―┬―┘∴┃森森┠―――┬―――┨ 06:旧ルアン騎士領
 ┗━━┷━┛‖┠┘03│∴02∴┃森森┃∴07∴│∴08∴┃ 07:旧ワッツ男爵領
 ※※※※※※‖┃∴∴│∴∴∴┃森森┃∴∴∴│∴∴∴┃ 08:旧レビン男爵領
 ※※※※※※‖■━━┷━━━┛森森┗━━━┷━━━┛
 =========================大河
←王都ウィル
 ★:ラシェットの町 ◆:ドーン城 ■:フェイクシティ ※:役立たずの沼地

●今回の参加者

 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

 準備を全て整えて、ついにフロートシップは飛び立った。載せているのはフロートシップの操縦者達と、冒険者ギルドからこのフロートシップを借り受けた冒険者達。
 その、総責任者とも言えるゾーラク・ピトゥーフ(eb6150)は、一緒に来てくれた仲間達を前に、まずは深く頭を下げた。

「この度は依頼にご参加頂きありがとうございます」

 長らく音沙汰が絶えていたと言っても過言ではないフオロの地。かの地で一領主たるをエーロン王に認められた彼女が、一刻も早く彼女の為の領地を手に入れ無虚の民を受け入れたいと、その為にフオロに行きまずは候補地の視察をと願ったのが、この依頼。
 誤解を恐れずに言えば彼女の勇気あるワガママによって今、このフロートシップは航路を一路、フオロへと向けているのであり。それに礼を尽くすのは当然の事と、ゾーラクは考えたのだろう。
 だが、彼女の言葉にセオドラフ・ラングルス(eb4139)は不要だと首を振った。

「私も、あちらでは気になる事も多々ありましたので」

 彼もまた、フオロの復興の為に並ならぬ尽力を注いできた。さらに気になっているのは、建設中だったフェイクシティと、それにまつわる人々や事柄。
 そちらの方が気にもなっての同行であるのだから、ゾーラクが気にする必要はない、という言葉にリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)も同意に大きく頷いた。気になる事があるのは皆同じ、だ。
 とは言え、今回はゾーラクが依頼人でもあり、視察とフロートシップ運行の全責任は受け持つ、という言葉にはありがたく頷いた。何につけても、責任者は必要だ。

「しかし、時間がありません」
「ええ。フロートシップの貸与期間も、フオロでの飛行許可期間もありますし」

 今回、叶うならマリーネ姫が復興の視察などに使用していたフロートシップを借り受けたかったのだが、あちらでも何かと物入りなので、と断られた。ただし、冒険者ギルドが所有するフロートシップでの飛行許可は期限付きで認められ。
 故に、行程の遅延などは許されない。その事は彼らも重々承知しているので、各々の希望や折り合いを鑑み、手分けしてフオロ東部を視察する事にしている。
 その行程に変更がないかを改めて確かめ、セオドラフとリュドミラは同じ結論を出し、ゾーラクに意見を求めた。即ち、まずは一番手前のアネット領近辺を視察予定のゾーラクを降ろし、次にフェイクシティ近辺を視察予定のセオドラフを降ろす。最後に一番遠いドーン伯爵領までリュドミラを運び、視察を終えた彼女を載せてラシェットの町まで戻って、ゾーラクとセオドラフと合流し、帰還する。
 確かに現状の日程と人数ではそれが一番の選択だ。ゾーラクは頷き、フロートシップの操縦者達に自身が責任者である旨と、仲間達の提案した行程で飛んで貰えないかと確認した。

「構いません。その日程なら何とか戻れるでしょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 少し考えた後、そう頷いた操縦者達に改めて頭を下げ、ゾーラクはとって返して仲間達にその予定で問題ない事を告げた。それからさらに幾らか、細かな事を打ち合わせたり、或いは今のフオロについてあれこれ巡らせた思いを語り合ったりしたのだが、やがてその口数も少なくなってくる。
 もうすぐ、フオロに着く。その思いが色々な意味で、彼らの口を重くし始めていたのだった。





 予定通り、フロートシップはまず、アネット領に着陸した。ここで降りるのはゾーラクだ。
 しばしの休憩の後、次の地へと旅立っていったフロートシップを見送る。何かあれば仲間の指示に従って貰えるよう、事前に操縦者達には頼んでおいた。
 さて、まずは何をおいても気になっているのが、治療院だ。ここアネット領の旧アネット男爵領にも分院が存在している。
 そちらに足を向けると、出迎えた人々が驚きと喜びに顔を輝かせた。だが溢れている患者の処置などで、なかなかゆっくり話す事が出来そうにない。
 こうなってはゾーラク自身も一緒に動きながら、立ち動く者達に話しかけた。

「何か特に困っている事は?」
「最近は遠方からも人が来ることが増えて、人手や物資がぎりぎりの状態です。各地に人を派遣出来るようになりたいのですが、資金面が安定しなくて」

 この状態ならばそれも宜なるかな。薬草類を育てるにも人手は必要だし、その人手を集めるにも、余所から買い付けるにも資金は欠かせない。
 さらにここまで来られる者はまだ良いが、本当に深刻な者は治療院まで辿り着く事すら出来ずに居る事だろう。それを思えば各地に治療院を、せめて人を派遣して、と言う願いは切実で。
 何をおいても必要なのはお金。それをゾーラクは刻み込み、報告用のスクロールにも記載した。
 さらに聞く所によればどうやら、最近は魔物の被害ではなくただの怪我や病気で頼ってくる者が増えたらしい。カオスの魔物の被害は散発しているが、程度は収まってきている、と言う朗報だろうか。
 やがて、ゾーラクが来ていると聞きつけた付近の領民らも、治療院の方に顔を見せ始める。その内容は単なる再会の挨拶から、陳情まで様々だ。
 さすがに治療院では迷惑になるので、やむなく治療は他の者に任せて場所を移し、人々の話を聞いては助言したり、陳情内容を出来るだけ簡潔にまとめてスクロールに記載する。簡潔に書かないと、長大なはずのスクロールがなくなりそうな勢いだ。
 その合間にも治療院の人間から意見を求められれば、患者の容態などを聞いて写本「薬学誌」や植物知識を総動員して薬の調合の指示を出す。その薬草が足りないと飛んできたら、じゃあ代わりになるものは、と頭を捻り。
 さらに暇を見つけて患者達に、病気予防法を説いておく。未だにまだ、彼女が居た天界に比べればその辺りは徹底されていないのだ。

「良いですか。生ゴミと食材は近くに置かないようにして下さい。それもこまめに片付けて、その後は沸騰したお湯で消毒するように。食材にも、肉や魚などは特に十分加熱して、食欲がない時も出来るだけ食べて栄養を取るのが大切です」

 さらに、この季節は寒さにかまけて窓板を下ろしっぱなしの家が増えるので、病気はそういう澱んだ空気や、低温で乾燥した場所を好むのでこまめに換気をする事。家に帰ったら手洗いうがいも行うこと。寝台のシーツや毛布も不衛生になりがちなので、こまめに洗って天日で干す事。
 あちらこちらで繰り返している注意ではあるが、大切なのは何度でも繰り返して身につけさせる事だ。徹底した習慣付けをしなければ、いつまでも病は蔓延る一方。
 しかしゾーラクもずっと治療院に居るわけには行かない。今回の彼女の目的は各領地の視察なのだ。
 切りを見て出立する旨を人々に告げ、見送られて彼女は当初の予定通り、旧レーン男爵領、旧ルアン騎士領を慌ただしく視察して回った。どこも同じような現状だ。
 各地でも時間の許す限りで陳情を聞いたり、健康診断や生活指導などをして回る。王領ラシェットまで辿り着くのは、まだ時間がかかりそうだ。





 次にフロートシップは王領ラシェットの大河のそば、フェイクシティの側に停泊した。ここで降りるのはセオドラフ。
 彼が確認したいと思っていたのがここ、フェイクシティだ。建設は今どの段階まで進んでいるのだろう? その為に働いていた人々は今、どうしているだろう。
 飛び立って行ったフロートシップを見送って、セオドラフはフェイクシティの中に足を踏み入れた。顔見知りの相手、シェーリンやラーキス、ルキナス、ドラゴンガードら。彼らを探してまずは、心当たりの場所から順に回り始める。
 簡単に見た限りにおいては、弱冠予定よりは建設ペースが遅れているように思えた。春から夏ごろにかけてはとみに、地獄なる場所での戦闘にゴーレムが借り出される事も多くなり、労力が不足したと言うのもあるのだろう。
 それでも記憶にあるよりは遥かに町らしくなったと思われる町並みを、セオドラフは1人、1人と知り合いを見つけては現状を確認したり、或いはもっと気楽に最近の調子や変わった事などを尋ねて回った。中には所要で時間が取れない者も居たが、アポイントを取って行っている訳ではないのでこればかりは仕方がない。
 王領代官グーレング・ドルゴが取り仕切る中、軍師ルキナスによるフェイクシティ建設はそれなりに遅れもありつつ、順調に進んでいるとの由。その外の色々のややこしい事柄やそうでない事柄は、水面下で色々と人が動いているらしい。
 幾人目かに、ラーキスと出会って同じように最近はどうだとか、そんな事共を尋ねる。その中で、フェイクシティとは関係なく――はないのだが、まぁどっちかと言えば個人的な興味もあって気になっていた事柄を思い出し、さりげなさを装ってセオドラフは男に問いを向ける。

「そう言えばラーキス殿は無事に結婚出来たのでしょうか?」
「いや、その‥‥‥」
「まだ、ですわ。ね、ラーキス様?」

 ぐっ、と詰まった顔になって言い淀む本人の代わりに、クスクスと可笑しそうに笑いながら答えをくれたのは、通りがかった女性だった。それにさらに微妙な表情になり、口の中で何か呟きながらふいと去っていくラーキス。背中に哀愁が漂っているように見えたのは、気のせいだっただろうか?
 それはそれで気になったがとりあえず空の彼方にも置いておくとして、ルキナスらとも無事に面会を果たしたセオドラフは、彼らに確認した。

「こちらから王都に宣伝したい事はありますか?」
「いや、特にないな。これまで通り、資金援助の為にも騎士学校などに話をしておいてくれると助かる」

 そもそもは兵士の訓練学校的性格を持つフェイクシティだ。フオロ自体が復興で苦しんでいる最中、何処も資金繰りには苦労していると見える。
 その後、許可を得て役立たずの沼地の干拓状況も確認したいと、そちらの方へ向かったセオドラフは、うん、と大きく頷いた。もしかしたら計画がかなり遅延しているか、最悪雨などの影響で元の沼地に逆戻りしている可能性すら考えていたのだが、幸い、最低限の区画整理は完了していた。ルキナス及び、ウィンターフォルセ家臣団の尽力の賜物らしい。
 とは言え、あくまで最低限の区画整理のみ。ここを農地として活用するまでにはまだまだ道のりは長く、今現在は何処に手を入れれば最も効率良く農地へと転用できるかを検討している最中だと言う。

(そう言えば、ここで見つかった石化された女性はどうなったのでしょうか)

 ふと思い出し、荷物の中の天使の万能薬を思った。石化をも解く万能薬、持って来てはいるがなかなか、言い出す機会が見出せない。久々の再会を喜んでくれてはいるものの、何やら色々に忙しいようで。
 女性がまだ石化されたままだと言うことだけは確認したものの、時間の都合もありセオドラフは已む無く、フェイクシティを後にした。フロートシップとの合流予定はラシェットの町。それまでの道中の様子もしっかりと確認しながら、セオドラフは一路、合流地点へ向かったのだった。





 フロートシップが最後にやって来たのは、ドーン伯爵領である。ここの旧ワッツ男爵領と旧レビン男爵領を視察すると言うリュドミラを降ろした操縦者達は、やれやれようやく一服、とぐったりした様子で彼女を見送った。
 ここでフロートシップはしばし停泊し、リュドミラの帰還を待って一緒にラシェットの町まで取って返すことになっている。その時間を考えても視察は手早く終わらせなければと、リュドミラは算段を整えて行動を開始した。
 まずは近い順番に、各町を回って住民達に挨拶をする。挨拶をした上で何か、王都やマリーネ姫に対する陳情などはないかと尋ねて回る。

「以前ほどじゃないけどね、まだちらほらカオスの魔物も現れるし、不安で仕方ないよ」
「モンスターもたまに襲ってくるしね」

 かつて程ではないがそれでも、と人々は口々に訴えた。もちろん各地には警護する兵士達が居て、彼らも彼らの職能を果たす事に勤めてはいる。だが完璧は望むべくもないし、それ以外の雑事なども発生してくると警護が手薄になる事は事実だ。
 それらの事実を、リュドミラはスクロールに丁寧に記載していった。すぐに魔法のようにどうこうできる問題ではない。だが民からの声が大きければ、その分上の方の動きも少しぐらいは早くなるかもしれないし――そもそも、その声を伝えることが重要だ。
 現状不安のせいか、或いは寒くなってきたせいもあってか、時折は体調が悪くて困ると訴えるものも居る。そういった者には携えてきた薬用人参を煎じて飲ませた。怪我と違い、病はどうしても魔法の様にすぐに治せるというものではない。薬用人参も快方の手助けをするという程度のものだから、後は油断せずしっかり養生するように、と告げると住民達は「ありがとうございます」と頭を下げた。
 時間も、人手も圧倒的に足りない現状ではあるが、眼に余るほど壊れた家や施設などは、修繕できる範囲で修繕して回る。叶うなら徹底的に、時間をかけて修繕を施しまだ始まったばかりの冬に備えたい所だが、なかなか難しい。
 そう言った事どもも、勿論リュドミラは余さずスクロールに記載した。さらにそれぞれの領地を警護する兵士達の詰め所を訪れ、各々に100Gずつ進呈して回った事も、だ。

「今後も住民達の安全を守るためよろしくお願いします」
「お任せを」

 リュドミラからの進呈金を受け取った兵士は、大きく頷いて胸を叩いた。この時、受け取った兵士がどういう反応をするかでもその領地の状況や、住民たちの生活の姿が浮き彫りになる事がある。リュドミラの見た所、特に問題はないように思われたがそれも合わせて報告すべき、とスクロールに明記しておいた。
 慌しい町の視察を終えたリュドミラは、翌日、密かに空飛ぶ絨毯に乗って町を抜け出した。向かう先はドーン伯爵領の西の森。そこに隠れ住んでいるはずの、オーガ達の元へと向かったのだ。
 オーガは基本的には人間に対して攻撃的な種族だが、この森のオーガ達は人間に対して友好的な態度を取る。リュドミラは彼ら(?)の陳情をも確認すべく、密かに飛んでいったのだった。
 やってきたリュドミラを、オーガ達は友好的に歓迎した。礼節を尽くして挨拶し、持参した発泡酒を振舞いながら、何か困った事はないか尋ねてみる。するとオーガ達はリュドミラの問いに顔を見合わせ、口々にこう言った。

「領主の手勢が時々森の奥まで来るので、その時は隠れるようにしている。でも何をしに来るのか良く判らなくて気味が悪いよ」
「そうですか‥‥」

 相手の目的が見透かせない行動が繰り返されるのというのは、想像するだに不気味な事だろう。リュドミラは深く頷き、どうかもうしばらく我慢して欲しい、とオーガ達を励ました。その先をどうすれば良いのかは彼女にも不透明だが。
 それから、新たな発泡酒を奨めながら考える。この事もマリーネ姫に一応報告した方が良いだろうか? スクロールにはまだまだ、余白が残っているのだし。





 その後、再び空飛ぶ絨毯で密かに町に戻ったリュドミラは、フロートシップに乗り込んでドーン伯爵領を後にした。ゆっくり休息が取れたと見えて、操縦者達も危うげな様子もなくフロートシップを出発させ、一路、合流場所ラシェットの町へと進路を取る。
 やがて辿り着いたラシェットの町では、ちょうど同じぐらいのタイミングで合流できたらしいセオドラフとゾーラクが、フロートシップを待ちながら互いの視察結果について口頭で情報を交し合っている所だった。セオドラフの視察結果も自分のスクロールに纏めているゾーラクに、時々補足を加えたり、逆にゾーラクの見てきたアネット領の様子を尋ねるセオドラフだ。
 と言って、それほど待たせた様子でもなく、フロートシップの影に気付くと彼らは手を止め、そそくさと荷物を纏めた。あとはフロートシップの中で、リュドミラの視察結果もまとめてマリーネ姫らに判りやすい報告書をまとめる事が必要だろう。
 この視察の依頼人でもあるゾーラクに、半分に切ったスクロールにマリーネ姫に報告するものと同じ内容を書き記したリュドミラは、ドーン伯爵領の現状です、と手渡した。ありがとうございます、と受け取ったゾーラクはざっと目を通す。
 マリーネ姫への報告書をまとめる為に。それより何より、彼女が領地と望む場所を定める為に。
 王都へと辿り着いた3人は、まずはフロートシップの中で纏め上げた報告書を携えて、マリーネ姫への面会を求めた。ゾーラクが今回、己が領地と望む場所を見定める意味も込めてフオロ東部を視察して回った事は、マリーネ姫も承知している。すぐに面会は許され、冒険者達は御前に招き入れられた。
 まずは挨拶と無沙汰の詫び、それから再会の喜びを。日々をフオロの復興のために忙しく働くマリーネ姫は、だが馴染みの冒険者達に快く頷き、笑顔を返した。

「こちらが、私達が各地を視察して回ってきました、フオロ東部の現状です」

 全員を代表し、ゾーラクからスクロールを手渡す。さらにリュドミラとセオドラフがマリーネ姫に、報告書には入れなかった、或いは入れるほどではないと判断したものの些か気になった事柄や、それ以外のどちらかと言えば雑談的な補足なども加えていく。
 為政者の立場から見た民の姿と、それ以外の立場から見た民の姿はどうしても異なってくるものだ。今では良き領主として多くの人々に認められるマリーネ姫とて、その例外ではありえない。身分とはそういうものである。
 故にそれらの報告に耳を傾け、スクロールに軽く目を通して、マリーネ姫は頷いた。

「ありがとう、目を通しておきます。それでゾーラク、あなたの気に入る領地はあったかしら?」
「色々見て回り、考えましたがやはり、マリーネ姫のお考え通りアネット領の東の地を頂戴したいと思います」

 ゾーラクはそう、上司でもあるマリーネ姫に希望を伝えた。
 フオロ上空をフロートシップで飛行するに当たり、冒険者ギルドから許可を求める知らせを送った際、返答としてフロートシップ飛行許可の他にマリーネ姫より、ゾーラクに与えようと考えている候補地の事も連絡があった。アネット領の東、川沿いの地。広さはアネット領全体の1/3ほど。
 まだまだ復興途上の土地ではあるが、ゾーラクのこれまでの功績をも鑑みての選定だ。だが元よりゾーラクは、復興がもっとも遅れている地を率先して領地とし、復興にいそしみたいという希望だと、マリーネ姫もギルドからの連絡で聞いていた。
 だからこその問いで、だからこその答え。民を救いたいという気持ちは今でも揺らいではいないが、視察して回った結果、どこもかしこも二言目に出てくるのは『資金繰りが厳しい』という世知辛くも切実な悩み。理想と情熱だけでは、民を救う事も、ましてフオロを復興する事も難しい。
 マリーネ姫が提示した地はその意味でも、復興途上とは言え比較的収入が見込め、更なる発展にも繋げやすいだろうと思われた。五十歩百歩という言葉はあるが、だが例え僅かでも復興が進んでいるのならば、まずはその地を安定させることが将来大きな道筋をつけることにもなるだろう。
 良かった、とマリーネ姫は微笑んだ。

「ならばゾーラク、あなたにアネット領の東の地を領地として与えます。この事は実は、エーロン王もすでにご了承済みなの。正式な叙任は後日に改めて行うけれど、今日からは領主として、フオロの復興に尽力して頂戴――そうそう、正式に叙任するまでにあなたの領地の名前を考えておいてね」

 今は仮にゾーラクの名前を取って、ピトゥーフ領とでも呼んでおこう。だがこの領地がこれからも人々に呼ばれる名前として、今までのように単純に一族名で呼ぶのではない、何か別の良い名前が良い、とマリーネ姫が付け加えるのに、畏まりました、とゾーラクは頭を下げた。
 その後、マリーネ姫の御前を辞して冒険者ギルドに戻り、フロートシップを返却してギルドにも報告を上げるというゾーラクと、それに付き合うというリュドミラと別れて、セオドラフは1人、王領代官のグーレングに面会を求めに行った。今回の視察結果なども踏まえ、何らかの揺さぶりをかけられれば、と考えてのことだろう。

「報告ご苦労」

 だがしかし、グーレングは余裕の態度を崩すことなく、一言そう言いきった。彼が胸のうちに描いている何かが、変わらず順調に進んでいるという態度を崩しもしない。さらに幾つかの言葉を投げてみても、まったく反応するそぶりもなかった。
 ため息を吐き、今度はラシェット一家に面会を求める。だがラシェット一家からの返答は「忙しいので時間が取れない」という、実質の面会拒否だった。それがグーレングからの指示によるものなのか、或いは真実忙しいのか、はたまたラシェット一家の意向として冒険者と係わり合いになりたくないと思っているのか。
 何れにせよ無理にと押し通る訳にも行かず、セオドラフはラシェット一家との面会を断念した。あとはフェイクシティで頼まれた通り、騎士学校に根回しでもしに行くとしよう。


 ―――以上が、冒険者達によるフオロ東部の視察の報告書纏めである。