【雪合戦】雪の魔物に愛投げて‥‥?

■イベントシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月19日

リプレイ公開日:2009年12月27日

●オープニング

 さてその日、開拓者ギルドを一人の子供が訪れていた。クルトと言う名前の、幼い子供。夏頃、大好きな女の子が遊びに来るのでメイディアを案内して欲しい、と可愛らしい依頼を携えて来た。
 クルト少年はきょろきょろと冒険者ギルドと、ギルド内を行き交う人々を見つめた。見つめて、それからぱっと顔を輝かせて一つのカウンターにパタパタ駆け寄る。

「うけつけのおじちゃん!」
「お兄ちゃん!」

 呼称に反射的に修正を入れてから、受付係はクルト少年を見下ろした。きょとん、と目を丸くした少年が、お兄ちゃん? と呟きながら首を傾げる。
 かなり本気でへこんだ受付係、当年とって28歳だ。この年の子供からすればそりゃあ、おじちゃんかもしれないけど‥‥おじちゃんかも知れないけど、そこで本気で首傾げられたらトドメだし。
 そんな微妙なお年頃の葛藤を絶賛無視して、クルト少年はよじ登るようにカウンターの前の椅子に腰掛けた。腰掛けて、頼るような純粋なまなざしで受付係を見上げた。

「おじ‥‥お兄ちゃん! お兄ちゃんは、ゆきだるまさんってどこにいるかしってる?」
「雪だるま‥‥? が、どこに居るか?」

 色んな意味で、受付係は首を傾げた。一つ、メイディアの町では例年、ちらりと降ることはあってもそんなものが出来るほど積もらない。一つ、雪だるまは「居る」という動詞を適用して良いものじゃない。
 どうやら話を聞く所によると、クルト少年は旅回りの吟遊詩人に雪だるまのことを聞き、会ってみたいとものすごく興味を引かれたらしい。会ってみて、どんなだったか大好きな少女ルンナに教えてあげるのだ、と。
 相も変わらず微笑ましい恋の芽を育てているクルト少年に、そうだなぁ、と受付係は首をひねった。と言ってかなり北の方に行かなければ、メイディアで雪を見ること自体が難しい。
 悩む受付係に、私知ってますよ、と声をかけた少女が居た。

「キエフにね、キングスノーさんって言うとってもおっきな雪だるまさんが居るんです。私も久しぶりに会ってみたい、な」

 そんな事をのたまったのは、もうすぐジャパンに向けて雪女を見にお行き遊ばす旅の魔法使いの少女マリン・マリンだった。ジ・アースとアトランティスを旅して回る彼女は基本、そういう難しい世界の垣根とか考えない。
 キエフ? と初めて聞く言葉に首を傾げるクルト少年に、そうなんです、と指をピッと立ててマリンは言った。

「とってもとっても寒い場所なんですよ。今はどこに居るのかな‥‥ちょっと、見てきますね」

 ご近所に買い物に行ってきますね、くらいの気安さでマリンはそう言って、相棒の白亜の魔杖を取り出した。月のセブンフォースエレメンタラースタッフ・皓月。一応とってもすごいマジックアイテムの筈だが、マリンにとっても便利に使われている。
 ふわり、銀の光を舞い散らせて月道を繋ぎ、あっさり消えていった旅の魔法使いに、目を丸くしているクルトを見ながら受付係はしみじみ思った。あんなのあったら、密入国し放題なんだけど。





 数十分後、お気軽に消えていった旅の魔法使いマリン・マリンは、プンプン怒りながら再びギルドに姿を現した。クルト少年と何となく手持ちぶさたに積み木崩しなどして遊んでいた受付係は、おや、と首をひねる。ちなみになぜそんなものがギルドにあったのかは、機密なので聞いてはいけない(嘘
 どうしました、と声をかけた受付係に、聞いて下さい、とマリンは怒りに涙すら滲ませながら訴えた。

「キングスノーさんのいた村にデビルさんみたいなのが居たんです。それも、それも褌姿の‥‥ッ」

 ドゴッ!!
 かなり良い音をさせて、受付係は顔面をカウンターにめり込ませた。いや本当に。メキッ、と木がひしゃげた音までしたのだから間違いない。

「ふ、ふ、褌、ですか‥‥?」
「そうなんです! 酷いと思いませんか!?」

 とりあえず、うら若き少女(に見えるアルテイラ)がギルドの真ん中で怒りに拳を震わせて褌とか叫んでる、この状況が一番酷いと思います。

「ですから褌デビルさんにお仕置きしに行きますッ! 私、これからジャパン行ったりちょっとお友達の所に行ったりして忙しいので、受付係さん、宜しくお願いしますね!」

 怒りと共にそんな事を宣言して、クルト少年には「終わったら一緒にキングスノーさんを見に行きましょうね」と微笑んで、再びマリンはギルドから姿を消した。それを見送って、クルト少年と顔を見合わせて、受付係は深くため息を吐く。
 宜しくお願いしますね、ってあれきっと、褌デビル倒しにいく冒険者を集めといて欲しい、って意味だろう。そんな依頼書を書くのもなんだかげんなりしたが、仕方なく受付係は己の役職に忠実に動く事にしたのだった。
 冒険者ギルドの片隅に「ジ・アースまでデビル討伐に行って下さる方募集。褌に要注意」という依頼書が張り出されたのは、だからそんな訳である。




※簡単ルール説明※
試合形式
参加者の体力の続く限り投げ続ける。

ルール
○途中で雪玉作成は可能。事前に用意しておいても良い。
○魔法使用は適時OK。ただし著しく試合進行を阻害すると審判が判断したものは不許可。
○ペットやアイテムによる空中戦は、上空3メートルまで。
○チームや連携相談はお好きにどうぞ。

判定
○参加者が時間内(一定ターン)に雪玉を投げ合って、一番被弾数の少なかった人が勝者。
○ただし、雪玉を一度も投げずに逃げ回っていた場合は次点とみなされるPCが勝者に繰り上がる場合があります。

●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ 限間 時雨(ea1968)/ キース・レッド(ea3475)/ マスク・ド・フンドーシ(eb1259)/ 晃 塁郁(ec4371)/ 村雨 紫狼(ec5159)/ 長曽我部 宗近(ec5186

●リプレイ本文

 さて、その日。

「うーん、ほんとにキエフまで来ちゃったよ‥‥」
「ジャパン以上に極寒の地だな、おい‥‥」
「つーか寒すぎっスよ極寒っスよ!」
「ちょ、なんか息まで凍り付きそ‥‥」

 褌デビル(?)への怒りに燃える旅の魔法使いに半ば強制連行され、世界を越えてジ・アースの北の大地キエフへとやってきた冒険者達は、もはや感心したら良いんだか呆れたら良いんだか判らない様子で寒々とした空を見上げた。
 こう‥‥寒い、以外の言葉が出てこない。一瞬、何で自分がここに居るのかすら判らなくなりそうな、そんな凍てつく寒さが辺りを支配している。
 キエフの、果たしてここはどこなのだろうか。それを知っているのは恐らく、連れてきた旅の魔法使いと相棒たる白亜の魔杖のみだったが、聞いてもどっちからもまともな返事は返ってきそうにない。いや、皓月はそもそも喋れませんが一応。
 とにかく、考えても判らず聞いても返ってこない場所など、この際どうでも良い。大事なのはこの雪原に褌デビル(?)が存在していて、旅の魔法使いがそれはそれは怒っているという事だ。

「‥‥で、アレ、デビル‥‥なのかしら?」

 思い切り半眼になって、限間時雨(ea1968)がチラ、と視線を流した。その先に居るのは、恐らく旅の魔法使いが拳を震わせ退治を訴えている、問題の褌デビル(?)だと思われる、一見してもよく見直してもただの変態としか思われない褌男だ。
 多分アレよねぇ、と自分に問いかける時雨。幾ら何でもこの冬の最中、極寒のキエフの雪の中で、褌一丁で高笑いしているようなヘンタイがアレ以外に存在は‥‥

「ならぶぅわっ! けしからんっ!」

 いや、ここに居た。しかも、何だか怒りに雄叫びを上げていた。

「マリン嬢! フンドーシを悪用する輩は我が輩、許せないのであるッ!」

 ぐっと拳を握りしめ、切々と褌への愛をキエフの寒空に叫ぶマスク・ド・フンドーシ(eb1259)。もちろん、今日も今日とて彼はキリリと締め上げた褌に、顔の反面を覆うパピヨンマスクという、どっちかと言えば彼の方が色々人を呼ばれそうな出で立ちだ。
 前回こそ、褌デビル(?)を見た直後だったせいもあって泣きながら逃げ出したマリンだったが、今日は半歩だけ後ずさるに止まり、頑張りましょうねっ、と微笑んだ。うむ、と大きく頷くマスクだが、さすがに熱い褌魂と山ほど用意した褌と変態的な情熱を持ってしても、ガチガチ歯の根が鳴っている。
 いかにポージング等でカバーしようとも、さすがにキエフの寒空の下で防寒具のひとつもなしでは厳しかったようだ。それ以前にあっちの方から、何だか敵意のこもった視線が向けられてる気もしますが大丈夫ですか。
 どうやら今回も、旅の魔法使いの防衛は自分が担当する事になりそうだ、と状況を判断して息を吐くキース・レッド(ea3475)だ。とはいえ本日の彼女は、大変怒っている。何としてもあのデビルにお仕置きしてあげなくちゃ、と今にも駆け出しそうなくらいプンプン唇を尖らせている。
 それに彼自身もあまり、平静ではいられない、かも知れず。

(ここがキエフ、か‥‥妻の故郷‥‥アトランティスへ放逐させられた場所‥‥)

 その名を聞かせる事もいとわしく、結局妻には何も言わずにやって来てしまった。だがそれでもやって来たのは、依頼を選り好みしないというよりはもしかして、それでも彼女の故郷であるこの地を見てみたかったのかも知れない。
 とにかく、マリンが暴走しないように気をつけなければ、と軽く頭を振って意識を努めて切り替える。かたくなに自らを『旅の魔法使い』と名乗る彼女にこういう事を言うと怒るかも知れないが、一応彼女は超がつくほど特別な存在だし。
 だがしかし、彼女と冒険者達では一つ、決定的に異なることがあった。精霊であるマリンは暑さ寒さは関係ないが、冒険者達はもちろん暑さ寒さはしっかり関係するのである。

「う〜〜、寒いなぁ、もう。わたくしは見ての通りのインドア派なんスよ〜〜」

 その代表格と言えるのが、先ほどからブツブツそんな事を呟きながら白い息を吐くクリシュナ・パラハ(ea1850)。元々あんまり動かないので、なかなか体が暖まらない。それでも普段はまだ温暖なメイディアにいるから良いが、寒さここに極まれるキエフとなれば、寒いどころの騒ぎじゃない。
 しみじみ、もうデビルでも変態でもその他の何か別のものでも良いから、マリンを怒らせた褌デビル(?)をさっさと退治して帰りたいものだ。そんで、熱いお茶なんか飲めたらもう最高。
 かくしてここに、褌に泣き褌に笑う、褌デビル(?)退治は幕を開けたのである‥‥雪合戦はどこだ(←





 さて、何でも真面目にやる、と友人から評された巴渓(ea0167)は、褌にはちょっとした因縁を持っている。何やら聞くところによれば、かつてジャパンで古褌屋を営み、即お上に取り潰されたとか何とか。
 古褌というと情熱と汗とそれ以外の色々な何かが染み込んだ使用済み褌をまさか、という恐ろしい想像が頭をよぎるが、今大切なのはそんな事ではない。彼女が褌に関しては、そんな因縁を持っている、という事実である。
 とは言えそれがどれほど重要かと言えば、マリンのように褌一丁の男性を見ただけでショックを受けて泣き出すような、柔な神経は持っていない、という程度。だがしかし、この褌を掛けた(?)褌雪合戦において、それほど重要な事が他にあろうか。

「ま、俺は今回も前に出て投げ続けるぜ」

 故に彼女のその選択は、ある意味とっても妥当だった。うら若き女性においては、殿方の褌姿どころか未使用の褌が風に翻るのを見てすらポッと頬を赤らめ視線を背ける者も少なくはない。まして目の前で殿方を褌姿にひん剥かれた日には、悲鳴の嵐が沸き起こることは見るまでもなく明らかだ。
 だがしかし渓ならば、例え褌軍団を見たところで目を背けることはないだろう、多分きっと恐らくもしかしたら。さらに今回、冒険者の中には渓以外にも、褌姿の殿方をギンと見据えて視線を逸らさない、むしろ食い入るように見入るに違いない乙女(心だけは)が居る。

「んふふふ、可愛いオシリが見れると思うと頑張りがいがあるわねェん♪」

 ウホホホホ☆ と奇妙な笑い声を上げて長曽我部宗近(ec5186)は並び立つおのこ達を食い入るようにチェックしている。ウホホホホ、あの子達が褌姿になるのねッ! とトキメク乙女心(あくまで心だけは)だ。
 まぁなんと言うか、むしろこの人、中身の方が重要っぽいですけど。色んな意味で心配です、主に褌デビル(?)とその被害者の貞操が。
 何となく、この辺の人達にホーリー放ったら効きそうな気が、と晃塁郁(ec4371)はそっと目を逸らしながら考えた。ホーリーは基本、邪悪と言い切れない者にはダメージを与えないが、このカオスっぷりを見る限り何かの効果はありそうな。
 ふと時雨と視線が合うと、げんなりした顔で大きく肩を竦めている。そしてひょい、と指を指した先を見て、塁郁は同じくげんなりした顔でその光景を見守った。

「おれはっ!! 幼女の褌コスが見てええええっ!」

 自らをロリコンだと言い放ってはばからない天界人・村雨紫狼(ec5159)。今日もきっちり絶好調に、確実に人として公言してはいけない危ない発言をキエフの寒空に絶叫する。
 幸いにして彼が心配したような、キエフに降り立ったら即褌が、という不幸な事態にはならなかった。何度も言うが、極寒のキエフで褌一丁で立っていたら間違いなく凍傷だ。だがしかし、それは彼がむくつけきおのこ達の褌姿を見なくても良い、という事ではない訳で。
 ニヤリ、褌デビル(?)が笑った。一体アレが何を目的として、キエフのとある村に味方し、敵対勢力をことごとく褌姿にすると言う凶行を為しているのかは解らない。解っていることはただ、アレは色んな意味で倒さねばならぬ凶悪な敵だ、という事実。
 両眼から血を流しそうな勢いで、ロリコン紫狼は猛然と人類の敵(ぇ)に向かって攻撃を開始した。むくつけきおのこの褌姿、ぎゅっと締め上げたおのこの臀部を見て喜ぶ輩など、いっそこの世から絶滅すれば‥‥

「‥‥ぁ、何言ってんだ、コラ?」

 すみませんもう言いません、言わないので許して下さい、声にドス効いてマスヨ自称か弱い乙女さんっ!?
 とにかく、と時雨がそんなカオスな一角から視線を逸らし、きゅっきゅっと雪玉を堅く握った。いっそ石とか仕込んでも良いのだが、そこはやはりフェアプレー。
 姉さんはキエフの風にも負けないさわやかな笑みを浮かべ、気っ風もよく宣言した。

「まぁ、ああいう変態は倒しておいた方がいいわよね、色々♪」
「その通りです」

 深く頷く塁郁。どんなに言葉を繕い、褌デビルだの褌の美学だの褌マイスター万歳だのと叫んでも、結局アレがおのこを褌姿にして喜ぶ変態だという事実は変わらない。否、そんな事実はなかった気もするが、細かい事はこの際キエフの寒空に投げておこう。
 幸い(?)にして、褌デビル(?)もこちらを敵と認めたようだ。その姿を見て時雨は誓う。ぶっ倒した暁にはアイツ、毛の一本まで剃り上げて雪の中に放り出してやる。
 塁郁も、事前に作成しておいた雪玉を足下に積み上げて油断なく敵を見据えた。この場には三者の勢力が揃い踏みしている。メイディア冒険者軍団、キエフ冒険者軍団、褌デビル(?)軍団。何でそんなカオスな事になっているのかは記録係にも不明だ(←
 いずれにせよ、旅の魔法使いが打倒と燃えているのは褌デビル(?)ただ1人。ならば彼らの目的もただ一つ、打倒褌デビル(?)あるのみだ。

「よしシュナ! 適当に一発かましてこいッ!」
「私は正真正銘か弱い乙女ですよ!」

 渓の号令に、チラ、とどこかを見ながらクリシュナが非難の声を上げた。ええ別に、今にも目がハートマークになって妄想の翼を力強く羽ばたかせそうな、そんな誰かではありませんとも。

(うふふ‥‥どのおしりをお持ち帰りし・よ・う・か・な♪)

 すみませーん、キエフの官憲どこに居ますかー(ぁ
 というこちらの事情はもちろん知ったこっちゃなく、褌デビル(?)は憤然と疾走を開始した。もちろん目指すは褌、否、冒険者。すでに褌一丁になっているマスクには全くもって目もくれない辺り、何というか、徹底している。
 真っ先に狙われたのは、ロリ褌を夢見て血の涙を流す紫狼。

「っだああぁぁぁッ!! うざい寄るな来るんじゃねえええぇぇぇッ!?」

 本気で拒絶しながら猛然と雪玉を投げまくり、投げまくり、また投げまくるも全く応えた様子のない褌デビル(?)。バシッ! ゴスッ! ガッ! と雪玉にあるまじき鈍い効果音まで響かせながら、だがしかし褌デビル(?)は一気に距離を詰め切った!
 グワッ! と褌デビル(?)が紫狼へと魔手を伸ばす。その先に待っている悲劇を、ああ、一体誰が想像し得ただろうか?

「キャ‥‥ッ!?」
「マリン君、見るんじゃない!」

 思わず悲鳴を上げた旅の魔法使いの視界を覆うように、キースは雪避け用に持ってきたマントをふわりと広げた。ロードガイ縁という由緒ある品だが、残念ながら今大事なのは如何にしてこの戦いを凌ぎ切るかだ。
 キースはそう考えながら、悲痛な面持ちで戦友の哀れな末路を見届けた。悲鳴も抵抗も何のその、容赦なく寒空の下、褌を除いた最後の一枚までひん剥かれ、雪原に放り出されたその姿を‥‥

「ま、マジに罰ゲームだ、ぜ‥‥ッ」

 それが彼の最期の言葉だった。シン、と冒険者達の間に沈黙が落ちる。ああ、この尊くも哀れな犠牲を、一体どうして無駄にする事が出来ようか!?(注・死んでません)
 グッ、と怒りに燃えるマスク。褌を愛し褌に生きる、褌の化身たる彼の目の前でのこの悪行。気高く誇り高き騎士の魂とも言える褌を、このような見せしめに使うとは何たる事か!

「この一点の曇りなき純白のフンドーシが示す様に、フンドーシこそ愛! 世界の友愛の象徴たるフンドーシを‥‥ッ!」

 ああ許せない、許せないとも! たとえ防寒具忘れてキエフの寒風に吹かれてちょっと意識が飛びかけてても、褌を愚弄する事だけは許せるものか!!

「んんぶるわぁぁッ! いざ勝負なのである!!」

 ビシィッ! と褌デビル(?)を指さして、マスクは声高らかに宣言した。姿はともかく、その気高き魂は確かに騎士の名にふさわしい名乗りだ。姿はともかく。
 その横に寄り添うように立つは宗近。彼も彼とて怒っている。何が悲しくてロシアはキエフまでやってきて、ちょっと小粋にメイクラブろうかな〜あぁんいけないわあたしッたら〜ウフ♪ なんて思ってたのに真っ先に見るのが紫狼の褌なんだおい。
 いいか、と宗近は声低く宣言した。

「テメェのケツに興味はねぇが、俺様を怒らせた事は後悔させてやるぜェ!!」
「ホーリーで援護します」

 塁郁があまりそちらは視界に入れないようにしながら申し出た。褌デビル(?)にも果たしてホーリーが効くのかどうかは不明だが、効かなければ効かないでそれなりにやり方も考えなければいけない訳で。
 とか言ってる間にマジ倒そう、と時雨はソニックブームを放つ構えになる。何しろさっきから結構せっせと雪玉投げているのだが、全く持って効いている素振りがない。かくなる上は実力行使あるのみ。
 もし一般人だったらどうするか? そんなのは当たってから考えればノープロブレム! 相手殺さなきゃリカバーで何とかなる!(←良い子は真似しちゃいけません
 えっと、と旅の魔法使いが手を挙げた。

「じゃあ私、シャドゥボムで吹っ飛ばした後に皓月で褌デビルさん、ペンペンしますね!」

 地獄の皇帝の封印の鍵、わりと酷い扱いだ。さすがにその扱いはどうなんだ相棒と、物言わぬ皓月の悲痛の叫びが聞こえてくる(様な気がする)。
 思い立ったら即行動、マリンは雪の上をパタパタと褌デビル(?)に向かって駆け出した。後を追ってキースも走り出す。
 褌デビル(?)を守るように飛んでくる雪の玉。キースは背後を振り返った。

「ゼピュロス!」
「俺も居るぜ!」
「わたくしも援護しますですよ〜ええ全く寒いったら‥‥」

 主の声に応えてストームを起こした風声の脇から、渓とクリシュナが飛び出した。こぼれ玉を身を張って受け止める渓、炎魔法を駆使して雪玉を迎え打つクリシュナ。
 だが悲劇はその隙に再び起きた。

「ングワァァッ!?」
「いやああぁぁんッ、あたしったらはしたな〜いッ」

 哀れ褌デビル(?)の魔手により、褌以外では唯一の装備であるパピヨンマスクすらひっぺがされ、ついでに攪乱のためにと巻き上げた大量の未使用褌(多分)までぶんどられ、悲痛の叫びをあげるマスク。同時に襲いかかった宗近も、こちらはきっちり褌1枚にひん剥かれて雪の中に放り出される。
 再びの凶行に、褌デビル(?)が満足げに高笑いを上げた。一体何を目的に、褌デビルは褌を奪い、冒険者達を褌姿にするのか。何が彼を褌に駆り立てるのか。
 多分この世でもっとも知らなくて良い疑問が、メイディア冒険者軍団の生き残り(注・くどい様ですが誰も死んでません)の胸に去来した。塁郁がポツリ、呟く。

「私は大丈夫ですが‥‥もし、褌を身につけていない方がいたらどうなるのでしょうか‥‥」
「大丈夫だ! 我々にはたっぷり褌の用意がある!!」

 その呟きに力強く頷く褌デビル(?)軍団。なんて無駄に準備万端なのだろう。ていうか褌締めてくれるんですかそーですか。
 んむ、と頷く褌デビル(?)。こいこい、と挑発するような手招きをして、主に女性陣を見てニヤリと笑う。
 時雨はヒクリと顔をひきつらせた。オトメとしてそれはイロンナ意味で嫌だ。嫌すぎる。
 グッ、と手に持つ獲物に力を込めた。塁郁もホーリーの詠唱を開始しながら雪玉を握る。かくなる上はこの場で抹殺、天誅。それ以外に未来はない。

「雪玉はまだまだたっぷりありますよ〜」
「ふ‥‥レディまでターゲットというのは頂けないな‥‥僕にもくれるかい」

 とにかく後方支援は大事。せっせと雪玉を握るクリシュナに、キースは手を差し出した。ある程度までは楽しませてもらうつもりだが、とは言え女性までも褌姿にしようというのは頂けない。
 メイディア冒険者軍団の怒り、ここに極まれり!

「たっぷりイタ寒い目にあってもわらないといけないよね、ウン♪」
「ま、相手が悪かったと諦めな」
「大いなる母もきっと、あなたの褌に賭ける情熱だけは汲んで下さる事でしょう」

 冒険者達の雪玉攻撃が褌デビル(?)へと集中した。さらに合間を縫ってホーリー、石入り雪玉、ついでにちょっと表面溶かしてかっちかちに凍らせたの何かもドンガンゴンッ!! とかなり痛い音を響かせる。
 対して褌デビル(?)はマスクから奪った褌で対抗した。キエフの寒空に、真っ白な褌が眩しいばかりに翻る。直後、キースがゼピュロスに命じて速攻吹っ飛ばした。
 もちろん、怒りに燃える旅の魔法使いも負けてはいない。

「もうもうもう、本当にお仕置き、ですっ!!」

 宣言通り、とまではいかなかったが(シャドウボムは月光の影ないと使えませんので念のため)、マリンは力の限り白亜の魔杖を降り被り、そして思い切り降り下ろした。おそらく世界史上、月のセブンフォースエレメンタラースタッフがもっとも無駄に使用された瞬間である。
 うわぁマリンさんホントにやったのです、とどこかから感心したような呆れたような呟きが聞こえた、気がした。ここまで全く触れられてませんが、キエフ冒険者軍団もまた褌デビル(?)軍団と交戦中。
 ジャパンでも雪合戦をした顔見知りを見つけ、マリンがにっこりパタパタ手を振った。それからメイディア冒険者軍団を振り返る。

「じゃあ皆さん! 村雨さんとフンドーシさんと長曽我部さんの仇を討つ為にも、頑張ってどんどん褌デビルさんにお仕置きしましょうねっ!」

 力強い宣言に、新たな雪玉を握る冒険者達。『マリマリた〜ん‥‥まだ死んでねぇ‥‥』『わ‥‥我が輩のフンドーシ‥‥』『あぁん‥‥ロシアボーイの可愛いお尻‥‥』とかすかな断末魔が聞こえた気がしたが、すべてキエフの風に紛れて雪原に消えていった。





 かくて冒険者達の奮闘により、キエフに突然現れた褌デビル(?)は無事に成敗された。誓願通り時雨によってイロンナ毛を剃り上げられた褌デビル(?)の今後は、キエフの人々に任せるべき問題だ。
 褌一丁に剥かれた冒険者達も無事に回収され、ガチガチ歯を鳴らしながらこの恐るべき戦いを噛みしめる。そんな仲間を炎魔法で適当に火を熾して暖めつつ、こうなったら何としてもどこかに美味しいモノ食べに行かなきゃ、と決意を固める女性もいて。

「褌デビル‥‥恐るべき敵でした‥‥」
「ああ‥‥彼の、褌への情熱だけは誉め称えるべきかもしれないな」
「まだまだ世界は広いって事だな」

 激しいくも褌入り乱れる戦いを振り返り、語り合う冒険者達。キエフの雪原に、この戦いは確かに刻まれた事だろう。
 そして今回も目的をしっかり見失っていた旅の魔法使いが、そういえばキングスエナーさんはどこに、と思い出したのは、メイディアへと帰りついた後の事であった。