【雪合戦】六花の中で美味しいお茶を。

■イベントシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月31日〜12月31日

リプレイ公開日:2010年01月10日

●オープニング

 さてその日、冒険者ギルドの受付係を勤めるネルトス・ジョウファスは、1人の少女を前に困り果てていた。

「美味しいお茶が飲みたいです‥‥」

 カウンターに突っ伏し、本気でシクシク涙を流しているのは自らを旅の魔法使いと名乗るうら若き少女(に見えるアルテイラ)。側にハーブティーのカップがある所を鑑みるに、恐らくそのお茶が彼女の嘆きの原因なのだろう。
 そんなに不味いだろうか、とネルトスは少し落ち込みながらまだ湯気を立てるハーブティーを見る。これを淹れたのは彼で、今ネルトスの手の中にあるマグカップの中身も同じもの。
 コクリ、と飲んでみたが別に、いつも通りのハーブティーだ。たまに他の職員に淹れてやる時もあるが、ギルド内でもこれほどまでに嘆かれた事はない。
 この場合、彼女の舌が肥えすぎているのか、あるいはネルトス以下ギルド職員が揃って味音痴なのか。きっと前者だ、何しろこの人、世界各地の美味しいものを食べてるに違いないし。
 と思ったら、少女マリンはそのハーブティーを「のどが渇きました」とこくこく飲んだ。

「マリン嬢‥‥お口に合わないんじゃ?」
「いいえ? 美味しいですよ?」

 じゃあ何で泣いてるんだ、とネルトスは心の中だけで本気のつっこみを入れた。彼にはまだ、マリンという少女がよく解らない。
 そんな彼を置き去りに、ハーブティーのお代わりまで所望したマリンはやがて人心地つくと、そんな訳で、とネルトスにまじめに切り出した。

「ちょっとノルマンまで、美味しいお茶を飲みに行ってこようかと思うんです」
「‥‥ちょっと、ですか」
「はい。最近いろんな所に行ってたら、久しぶりにノルマンのお茶も飲みたくなったんです」

 にっこり笑ってマリンはそう言い切った。ノルマンって確か、ジ・アースのどっかだっただろうか、と受付係として培った知識を総動員するネルトス。こんな理由で総動員される知識もどうだろう。

「なのでジョウファスさん、一緒にノルマンまでお茶飲みに行きませんか?」
「‥‥はぃッ? い、いえ、仕事もありますし‥‥その、どなたか冒険者と一緒に行ったらどうです?」

 まぁ、ジ・アースならまだまともな行き先だし、と間違った納得をしながらネルトスはマリンにそう勧めた。とはいえ『ちょっと地獄まで魔物にお仕置きに』とかにっこり笑顔で言い出す彼女からすれば、ノルマンまでお茶飲みに、というのは酷くまともな理由とも言え。
 そうですね、とマリンはにっこり頷いた。何だかほっと胸をなで下ろし、ネルトスは「じゃあそれで依頼書を」と書類を取り出す。
 そして、羽ペンにインクを含ませ。

「じゃあ、ノルマンでお茶飲みながら雪合戦、です♪」
「はいいぃぃッ!?」
「雪合戦。ジョウファスさん、ご存じありません? みんなで雪を投げあうんです」

 とっても楽しいんですよ、と嬉しそうに笑うアルテイラが、この所『ちょっとメイディアまでお散歩に』行った挙げ句に『ちょっとジャパンまで雪女さんを見ながら雪合戦をしに』行ったり『ちょっとキエフまでキングスノーさんを見に』行って何かと雪合戦で戦ってきた事など、ネルトスが知るはずもない。
 にっこり、マリンはその言葉を繰り返した。

「ちょっとノルマンまで、美味しいお茶を飲みに行きがてら雪合戦。楽しそうです、ね♪」
「‥‥それ、マリン嬢だけじゃないかと‥‥」

 ぐったりしたネルトスの言葉は、残念ながら雪合戦で頭が一杯のマリンの耳には届かなかったのだった。



 と言うわけで、旅の魔法使いと一緒に『ちょっとノルマンまで美味しいお茶を飲みに行きがてら雪合戦』してくれる冒険者、絶賛募集中。




※簡単ルール説明※
試合形式
参加者の体力の続く限り投げ続ける。

ルール
○途中で雪玉作成は可能。事前に用意しておいても良い。
○魔法使用は適時OK。ただし著しく試合進行を阻害すると審判が判断したものは不許可。
○ペットやアイテムによる空中戦は、上空3メートルまで。
○チームや連携相談はお好きにどうぞ。

判定
○参加者が時間内(一定ターン)に雪玉を投げ合って、一番被弾数の少なかった人が勝者。
○ただし、雪玉を一度も投げずに逃げ回っていた場合は次点とみなされるPCが勝者に繰り上がる場合があります。

●今回の参加者

倉城 響(ea1466)/ ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)/ グラン・バク(ea5229)/ ディアッカ・ディアボロス(ea5597)/ ルスト・リカルム(eb4750)/ ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)/ 雀尾 煉淡(ec0844)/ モディリヤーノ・アルシャス(ec6278

●リプレイ本文

 そこはジ・アース、ノルマンのどこかに存在する雪原だった。それがどこか、という事は重要ではないのでさらっと割愛する。大切なのはそこが雪原であるという事実。
 白銀の野原に揃い踏んだ冒険者達は、とにかく細かい事情はさておいて、互いに顔を見合わせた。向かい合うのはノルマンの『自称』ヨシュアス氏が集めた冒険者達、別の場所にはウィル最強の天界女子高生の呼びかけに応えた冒険者達。
 そして、それを眺め渡す旅の魔法使いのアルテイラと一緒にやってきた冒険者達は、

「この位で良い、かな?」
「アイスコフィンで固めておきましょうか」
「雪玉、もうちょっと作っておいた方が良かったですかねー♪」

 せっせせっせと防御壁を構築する雀尾煉淡(ec0844)とモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)が居て、少し離れた場所で雪玉作成に精を出す人々がいた。何事も下準備って大事だ。
 相手チームの雪玉から身を隠したり、ちょっと休憩したり、追加の雪玉を作成するのに防御壁はあった方が良い。だががっちり作りすぎても大人げないというか、見た目的に何しにきたのって感じなので、その辺りのさじ加減も難しい。
 準備に精を出すウィル陣営にやってきたノルマンの冒険者が、マリンに声をかける。

「チームリーダーとして、抱負と意気込みをお聞かせ願えますか?」
「美味しいお茶の為に頑張りましょうね、皆さん♪」

 いつの間にかチームリーダーになっていた月精霊、しっかり目的を見失っていた。その言い方、なんだか雪合戦に勝たないと美味しいお茶が飲めないみたいだ。
 雪原の片隅では、なんだか吃驚するぐらい優雅でぬくぬくな感じで、ある意味この雪合戦の首謀者とも言える自称氏がのんびりしている。ノルマンの冒険者達が何だか色々気を使って差し入れしてますが、さて、正体誰なんでしょうねー?
 そんな自称氏をちらりと目の端に留めつつ、グラン・バク(ea5229)は祖国の冒険者達を眺めやった。その中には愛しい人も居たりするのだが、そこはそれ。

「さて、戦局は不利だな」

 しみじみ呟く。何よりまず人数が違うし、あちらは何と雪玉を運ぶ為の台車まで用意している。さすが地元の強みと言えばいいのか、あちらも十分に大人げないと言えば良いのか。
 ならばこちらも遠慮は要らないな、とオーラ魔法で能力強化をしようとするグランである。どっちがより大人げないかというととっても微妙な判断だと思うが、雪合戦の進行に著しい支障が生じない限り、魔法も道具も使用可能なルールなので悪しからず。
 当面はあちらのウィル陣営と連携してノルマンとあたるか、などと呟いた先にはウィル空戦団長も控えている。彼がこっそり企んでいる事を知れば怒り狂いそうな気がするが、幸い今はまだ何もない。
 さても、それぞれの色々な思惑を胸に秘めながら、各陣営の選手達(敢えてこう呼ぶ)はせっせと雪玉作成に精を出す。その様子を手持ちぶさたで見ていたウィル側の審判という名の黒子はぼやいた。一応、使用出来る雪玉には個数制限があるんだが、全員覚えてるか。





 雪合戦。それは雪玉を武器に競い合う雪原の戦い。如何にこちらの被害を少なく、如何に相手を叩きのめすかに知力体力その他を注ぐ、やりようによっては下手な戦いよりよほど過酷なイベントだ。
 倉城響(ea1466)は雪原を飛び交い始めた雪玉を、あらあら、とのほほん微笑みながら見つめていた。時折飛んでくる雪玉は、なるべく回避を試みる。
 手の中には雪玉。投げようと思うのだが、人が入り乱れた雪原の中では逆に何となく、狙いを付けるのが難しい。どこを狙ったら良いか判らないと言うか。
 取りあえず、避け続けるばかりでは反射神経を鍛える訓練にはなっても、雪合戦になりはしない。とにかくまずは投げてみましょうか、と人がもっとも入り乱れている辺りにえいっと投げてみる。もちろんCOは無使用で、冒険者の本気を出すと子供の遊びも本気で血みどろの殺し合いになってしまう。

「あら‥‥なかなか上手くいきませんね」

 呟き、えいっともう一個。今度はパシッと誰かに当たり、雪の粒が雪原に弾けて消える。今度は当たっちゃいました、とクスクス笑った。笑いながら飛んできた雪玉をひょい、と避けた。
 そんなのほほんとしたお姉さんが居るかと思えば、向こうのノルマン陣営では何だか変わった人がいる。否、人と言って良いのかアレ。

「‥‥まるごとスノーマン、じゃよな?」
「一応そのように見えますね」

 ほんのちょっと冷や汗など垂らしながら、上空からその様子を見たユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の呟きに、努めて冷静に返答を返すディアッカ・ディアボロス(ea5597)。だがしかし、冷静すぎるその返答が逆に、彼の内心の動揺を表している、と考えるのは穿ちすぎか。
 そこに居るのはまるごとスノーマンを着た人だった、多分きっと恐らくもしかしたら。だがしかし、まるごとスノーマンだけではない何かがそこにはある、気がして。
 上空から狙うにしても、アレは何となく避けておこう、と友人達は頷き合った。何だろう、何か、関わった瞬間取り返しのつかないことになりそうな予感がする。
 雪玉を包んだ布包みを前に、さてどこを狙おうか、と全身できょろきょろ辺りを見回すシフール達に、頑張りましょうね、と声をかけて楽しそうに雪原をうろうろしまわる月精霊が1人。時折素手できゅっきゅと雪玉を握り、えい、とどこかに向かって投げている。全く当たってないが本人楽しそうなのでまあいっか。
 チームリーダーがそんな感じなので、頑張らなきゃいけないチームメイト。もう一方のウィルチームはともかくとして、こちらのウィルチームと相手のノルマンチームはいつの間にか国を代表した雪合戦チームになっているので尚更だ。何でそんな事になっているのかは、全く戦力になってない月精霊と、優雅すぎる観戦体勢の自称氏しか多分知らない。
 ヨッ、と大振りに肩を振り切ったルスト・リカルム(eb4750)が、雪玉の行方を見やってため息を吐く。

「‥‥射撃が得意って訳じゃないから、上手く当たらないわね。流石に」
「ドンマイですよ♪ ルストさん、どうぞ」

 はい、と新たな雪玉を差し出した響の足下には、文字通り山盛りの雪玉。振り返るとウィルチームの避難所でもあるアイスコフィンの壁の向こうでは、早くも疲れた者が休憩がてら、せっせと雪玉を作っている。
 黒子という名のウィル側審判が、だから個数制限が、と頭を抱えた。さらにその向こうには、えっほ、えっほ、と何かをこそこそ運んでく者達が。
 ‥‥‥‥‥

「ちょっと! 雪玉盗られてるわよッ!?」
「あら大変ですね♪」
「響、何を暢気な」
「僕が! ウィンドスラッシュ!」

 事態を把握して叫んだルストとのほほんと微笑んだ響の言葉を受けて、壁の向こうで雪玉を作成していたモディリヤーノが威嚇射撃よろしく当たらないよう魔法を放った。うわっ、と驚いて雪玉がぼたぼたぼたっと落ちる。
 よし後は任せろ、と鋼鉄の冒険者が雪原に仁王立ちした。オーラ魔法で色々強化しまくったグランが、その威力を遺憾なく発揮して全力で雪玉を投げ込む。ゴスゴスゴスッ、とのどかな雪原に沸き起こってはいけない音が沸き起こった気がするが多分気のせい。
 それをかき消すつもりではなく、むしろ混乱させようとゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)がファンタズムを生み出した。が、たまたまそんな光景を目撃した直後だった為、剛速球を投げるグランと投げられたノルマン冒険者の、かなり痛そうな光景が雪原の片隅に生み出される。
 別の意味で混乱が巻き起こり、これは楽しそうだと踏んだ旅の魔法使いが別の場所でもファンタズムの幻を生み出した。さらに沸き起こる悲鳴。一体何を生み出したのだろう、それは当のマリンと目撃してしまった人々だけが知っている。
 いずれにしても、今が好機。待機していたディアッカとユラヴィカが、混乱の最中めがけて布包みを抱えて飛んだ。見た目的に何だか重そうだったので、ペット達もお手伝い。
 よし、とタイミングを合わせて布包みを解くと、中から雪玉がぼろぼろとこぼれ落ちてきた。地上で叫んだり雪玉を投げたり走ったりする人々の上に、雪片と言うにはあまりにも大きすぎる塊が降り注ぐ。

「ウワッ!?」
「危ないのです!」
「ヒグォッ!?」

 すでにまんべんなく入り乱れている都合上、敵味方関係なく降り注いだ雪玉に、とっさに腕を上げて凌いだり、ドーン! と体当たりして庇ったり。勢い余って雪原に顔から突っ込んで、逆に雪まみれになったとか気にしたら負けだ。
 置き土産にさらにファンタズムで幻も作っておいて、飛び去ろうとするシフール達にももちろん、雪玉が投げられた。ちなみに大きさ上、当たると吹っ飛ぶ勢いだがやっぱりそこは気にしたら負け。いくつか雪玉を被弾して、よろよろしながら何とか陣地まで辿り着く。

「つ、疲れたのじゃ‥‥」
「後は、頼みます‥‥」
「任せておいて」

 陣地の向こうで何だか雪を積み上げていたルストが、こっくり大きく頷いた。モディリヤーノも作り終わった雪玉を握って立ち上がる。
 ディアッカとユラヴィカは念の為、煉淡が手当が必要か診察すると頷いた。あらあら、と微笑む響が2人を見送り、大丈夫ですか? とシフール達を覗き込み。
 防壁の前に進み出て、さて、と2人は雪原の向こうを見た。

「アレ、どう思う?」
「‥‥前にも依頼で一緒になった事のある方がいらっしゃって」
「気持ちは解るけど現実を見た方が良いと思うわ」

 わずかに視線を逸らして呟いたモディリヤーノに、ルストが噛みしめるように言う。噛みしめるように。出来れば見たくない光景が、そこに広がっている。
 まるごとスノーマン。別にそれ自体は愛らしい防寒着だ。中の人がもしかしたら着ぐるみの似合わない様なタイプの人間だったとしても、まるごとスノーマンに罪はない。
 だがしかし、雪原の向こうにいるそれは、ひと味違う。何やらジェルのようなもので増量され、なぜだかバタッ、とその場に倒れる光景を、いったい何と表現すれば良いのだろう? それに比べれば、その横で台車改めそりに雪玉を積んでがしがし投げながら移動してくる人々など、些細な問題だ。
 ふふ、とマリンが微笑んだ。

「楽しそうですね♪ あら、熊さん達がスノーマンさんを押し始めましたよ?」
「マリン殿、あれは蹴り飛ばしてるって言うと思うんだ」
「一応押してはいるわね‥‥手と足がごちゃごちゃになってるように見えるけど」
「ふむ、久方ぶりの故郷はなかなか、ユニークな御仁が増えているな」

 いつの間にか鋼鉄の冒険者グランも増えて、しみじみその光景を眺めやる。眺めやる以外に一体何が出来るのか、頭が真っ白になっていて解らない。
 とにかく迎撃態勢を、と防壁の向こうから慌てて雪玉を運び出す。防壁の向こうに隠れていては、それでは雪合戦にはならない。2匹のキムンカムイに押し転がされるまるごとスノーマンが、果たして雪合戦に参戦していると言って良いのかはとっても難しい問題だが。

「とにかく、投げてみましょうか♪」
「それしかないわね‥‥」
「ウィンドスラッシュで威嚇を」
「いっそ当てても宜しいかと」
「そうだな、その隙に俺はあちらのお忍びの方の元へ‥‥」

 対策を話し合う冒険者達(負傷者と治療者は除く)の元を離れて、そっと目当ての人の方へと向かおうとするグラン。じっと見つめる視線の先には、優雅すぎる観戦体勢の自称氏。そっと視線を動かせば、もう一方のウィル陣営からもなにやら、自称氏に向けて動き出そうとする面々が居る。
 一部ではヘタレの称号(?)を持つ自称氏は、故郷を離れて長いといえどグランに取って変わらず敬意の対象だ。その自称氏の恋の行方となればもう、自分のお砂糖の行方なんかより気になるもので。

(ふ‥‥オーラマックスで強化済み、かくなる上はかの方の後ろをとり手を肩におき動きを止め、聖女とくっつけて見せる!)

 多分、当の自称氏に聞けば余計なお世話といわれるか、爽やかに笑って受け流されそうな、どこの過保護なおかんだアンタ、とあちこちから全力で突込みが入らんばかりの計画である。不敬? そんなのは後で許しを請えば良い!
 上手くいけばかの方が彼女を抱きしめて庇う感じになるか否か、などとほくそ笑むグランの視界には入らない所で、当の聖女はウィル陣営からの雪玉より仲間を全力で庇いまくって雪まみれ、素で雪ダルマになりそうな勢いだったのだが、それはまた別のお話という事で。別陣営でグランに協力しようかと動きかけた伯爵の称号を持つ冒険者を狙った雪玉は、煉淡の治癒によって回復したディアッカとユラヴィカが身体を張って阻止した。即、防壁向こうの治療場所へ逆戻り。

「そっち! まだ雪玉狙われてるわよ!」
「うわわわわ、本当にまるごとなのが向かってくるんだけどウィンドスラッシュ当てて良いかな良いよねッ!?」
「頑張ってくださいね♪ 援護の雪玉もたっぷりありますから、200個くらいは作りましたし」
「弾持ってこい、弾! オーラマックスの威力を見せる!」
「ファンタズム、もう少し入用でしょうか‥‥」

 雪原に沸き起こった、賑やかしくも楽しげな喧騒はまだまだ続く。飛び交う雪玉と飛び散る雪片に、やがて冒険者達の楽しげな笑い声が弾けて消えた。





 たっぷり運動した後は、のどを潤す飲み物が欲しくなるものだ。それは誰でも変わらない。
 黒子と、共に審判を勤めるノルマン冒険者の泣き叫ぶような試合終了の合図を受け、さぁ美味しいお茶を! と張り切る旅の魔法使いチームを出迎えたのは、途中、雪玉に立て続けに当てられてリタイアを宣言したルストが作成したカマクラだった。怪我ならともかく、体力的な部分での消耗は、休憩するより他はない。
 ゆえにまったり、昔の事などを思い出しながら1人せっせと雪を積み、形を整え、何とかそれらしきカマクラを作り上げてみた。本当は、せめて旅の魔法使いチームの全員が入れるぐらいの大きさを作れれば良かったのだが、流石に1人でそれは難しい。

「‥‥ジ・アースのジャパンに行った時に、作ったのよね‥‥」
「カマクラ! この間ジャパンに遊びに行った時も、作ってらっしゃる方が居ました」

 意外な所でマリンのツボのどこかを押したらしく、真っ先に目を輝かせてカマクラに飛びこんで来る旅の魔法使いだ。そもそも彼女には暑さ寒さがあまり関係ないので、1人だけこの寒さの中でもピンシャンしている。
 だが、一緒に居る冒険者達のほうはそうはいかない。というか今までもそうであったように、マリン以外の参加者にとっては寒いものは寒いわけで。
 とにかく身体を温めるものを、と温かいスープなどを用意して、ウィル陣営にもお裾分けしてくれる。その中には『迷茶ムーンロード』という、ノルマンでは密かな名物として知られているらしいお茶もあった。
 ヒクリ、と何人かが口の端を引きつらせ、ムーンロードを避けて通る。命は惜し‥‥じゃなくてほら、やっぱり希少な名物を頂くわけには、ねぇ?

「マリンさんも如何ですか? お茶を飲みたがってらっしゃるって聞きました」
「あら、頂きます♪」

 誰だ、一番渡しちゃいけない人にムーンロード渡したの!?
 ひぃ、と声にならない悲鳴を上げながら、爽やかな笑顔で問題のお茶を口元に運ぶマリンを息を呑んで見つめる。ちなみに迷茶ムーンロード、淀んだ沼の腐った藻の色をした雑草茶。飲むと別天地に送り込まれたかのような衝撃で目が覚め、眠れなくなるので徹夜の友に最適。味は表現できない不味さらしい。
 こくこくこく、とマリンは衆人環視の中で、いわくつきの迷茶ムーンロードを飲み干した。飲み干して、あら、と空になったカップの中を見下ろした。

「不思議なお茶ですね。仲良しの精霊さん達と大騒ぎして遊んでるみたいな味がします」
「‥‥‥‥」

 何、そのわけのわからんコメント。不味いって言ってるのか、美味しいって言っているのかがとっても微妙なお言葉である。
 ええと、と逆にコメントに困る周囲の人々をさておいて、魔法瓶を取り出したゾーラクは詰めてきた中身を、じっとマリンが見下ろしているカップの中に注いだ。勿論、事前に雪で軽く洗っておく事も忘れない。
 注ぎ出てきたそれも、色合いはハーブティー。だが湯気は出ない。

「マリンさんが美味しいアイスティーをご希望だと伺いましたので」

 説明を求められる前に、ゾーラクは自ら説明した。以前、ウィルのとある喫茶店から依頼を受けて、美味しいアイスティーの作り方を考えた事がある。天界知識を総動員して提案した水出しハーブティーは、諸々の問題はありつつもそこそこ好評を得ており。
 故に彼女は頑張った。どうかしたら雪合戦よりも力を入れたんじゃないかというくらい、友人の煉淡に協力を頼んでアイスコフィンで氷室を作ってもらい、その為の茶葉も市場を捜し歩いて、とにかく美味しいアイスティーをマリンに、そして皆に、とその一念で。
 幸い、このくそ寒いのにアイスティーをご所望遊ばした旅の魔法使いは、あら珍しい、と嬉しそうにお飲みになった。何しろ使う水から厳選した(らしい)とっておきのアイスティーだ。不味かろうはずがない。
 ほっと胸を撫で下ろし、他の人々にも奨める。そのうちの1人のモディリヤーノが小さく苦笑した。

「アイスティ美味しそうだね。でもその前に、温かいものも欲しいかな?」
「日本茶もありますよ♪ マリンさんのお口に合うか判りませんが、よろしければこちらもどうぞ♪」

 冷え切った身体をさらに冷やすより前に、少しは暖めておきたいと控えめに告げた彼に、響がそっと湯飲みを差し出した。ノルマンに来たからには紅茶やハーブティを淹れるものなのかもしれないが、生憎彼女は上手く淹れられない。それが判っているのなら、わざわざそちらに挑戦するまでもなく、何時も慣れている日本茶を、という訳だ。
 手渡したお茶の温度は少し熱め。だがさりげなく、猫舌の人用には別に温めのお茶も用意してあるのはきっと、猫舌の友人を持つが故だろう。
 そんな風に冒険者達はあちらこちらで、審判たちが結果を算出するのを待っている。あんなにヤキモキした自称氏と聖女の方を眺めやれば、色々こっそり秘密の間柄とかで、近くに座れただけで当の聖女が満足している様子。そして自称氏、相変わらずぬくぬくで優雅だ。
 その様子に一体何を思ったのかは知らないが、そうか、とグランが頷いた。

「では俺も一歩踏み出そう‥‥」
「‥‥グラン殿?」
「ユラヴィカ殿、俺もあやかろうと思うのだ‥‥プティング殿。結婚して‥‥」
「なるほど君はいい男だ。だが断る」

 一体何が『そうか』だったのか、旧知のノルマンの冒険者に向かって力強く足を進め、その様子にびっくりしたユラヴィカが掛けた声にそんな言葉を投げ返し、ガッシと両手を掴んで言いかけたグランの言葉は、終わる前にばっさり切り捨てられた。ひゅるり、とノルマンの雪原に冷たすぎる風が吹き抜ける。
 聞いてあげて。せめて最後まで聞いてあげて。
 うっかりやり取りを耳にしてしまった全員が、同時に心の中できっとそう思ったに違いない。ピシリ、と固まるグランの肩を、ぽむぽむ叩くユラヴィカだ。何かこう、音楽とか弾いてこの痛々しい空気を何とかしたい感じである。
 どうやら判定にはまだまだ時間がかかる様子。ならばその間にでも、とシフール達が奏でる音楽を楽しみながら、六花の中でののんびりとしたお茶会はまったり進んでいくのだった。





 判定の結果、勝利はノルマンチームが納める事になった。だが首謀者達(?)の目的はきっと、この上なく達成されたのに違いない。