求む、捜索人!

■ショートシナリオ


担当:蓮華・水無月

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月12日〜01月17日

リプレイ公開日:2010年01月20日

●オープニング

 さて、と少女はほくそ笑んだ。

「あたし達の出番ね」
「どこがだ」

 返ってくる言葉は、かつて地の底で数多の冒険者を震え上がらせたコキュートス並みに冷たい。おまけにふいとそっぽを向いて、そっけない事この上ない。
 勿論彼女はそれを黙認したりせず、ドゲシッ! と相棒の後頭部に見事な回し蹴りをクリーンヒットさせた。

「何よ、テンション低すぎるわよッ!? そんな事で世界を救えると思ってるのッ!?」
「取りあえずお前が何から世界を救う気なのかが心配なんだが」
「悪はその辺に適当に蔓延ってるわよッ、何ならでっち上げれば良いじゃないッ!」
「お前がまず成敗されろッ!?」

 この男女、少女の方がエレイン、的確な突込みを入れている相棒の少年の方がルクスという。共に同い年の17歳、幼馴染。ご近所ではちょっとした有名人だ、もちろん頭の痛いほうの意味で。
 新年を迎えてそれなりに忙しくバタバタしていた二人だったが、たまたま顔をつき合わせるや否や、冒頭の会話になった訳だ。ちなみに周囲には町の人がそれなりに居たのだが、全員揃って『またやってるやこいつら』という顔でなかったことにした。
 そんな町の人々の、理解があるんだかないんだか判らない視線の中で、二人の会話は続けられる。

「今年こそはチャレンジするって決めたじゃない」
「お前が勝手に決めただけだろーが。大体お前もう子供じゃないだろーが俺ら」
「ひっどいッ、去年は『まだ子供なんだから』って言ったじゃないのアンタッ!? ヘーそう、そうやって逃げるのね、意気地なし、良いわよあたし1人でだって挑戦してやるんだからッ!」
「あーはいはい、お前は子供だ子供、ガキは大人しく家で寝てろ」

 この辺りにはいつからともなく、新年過ぎた7日目の夜に町から少し離れた場所にある山の中腹の洞窟に行くと、異界への扉が開いていると言われていた。もちろんそれが作り話だと、誰もがちゃんと知っている。そんなのは、町への観光客を誘致するために数十年前に町の老人達がない知恵寄せ集めて作ったでっち上げだ。
 当然ながらそんな話は瞬く間に廃れ、今じゃあ町の母親が我が子に語って聞かせる御伽噺にもなりやしない。そのはずなのだ、普通は。
 だがしかし。

「あーッ、ワクワクするわね、異界への扉ッ! 一体何処に繋がってるのかしらッ!?」

 此処に、本気だかどうかは知らないが毎年新年が近付くたびに、その噂を確かめに行きたいと騒ぐ馬鹿が居る。もちろんルクスの幼馴染エレインだ。おまけにルクスを引きずり込もうとする。
 今年こそは、と大騒ぎをするエレインに、ルクスは冷たい眼差しを向けた。

「いやお前ホント、一体幾つのお子ちゃまな訳?」
「うっさいわよルクス、そんな年寄り臭い発言ばっかしてるからカノジョに振られるんじゃない」
「そりゃお前のせいだろうがッ!? どこでも引っ付いてきやがるからあらぬ誤解を受けるんだろうがッ!」
「ルクスは私の子分だもの、ちゃんとやってるかどうか見届けるのは親分の責任でしょッ!」

 男女の話はいつも通り、まったく別の方向へと脱線していく。まったく持っていつもの通り。ええ、何処から何処までいつもの通り。
 だったはずなのだが、最後にエレインがきっぱりした口調で言い切ったものだから、話がちょっと変わってくる。

「とにかく! 今年こそ私は確かめに行くわよ、弱虫ルクスなんか連れてってあげないんだからッ!」
「おッ前‥‥ッ、本ッ気で馬鹿なのかッ!? お前の頭は藁が詰まってるのかッ!?」
「うるさいわねッ! 世界を救う正義の味方はこんな事でくじけないんだからッ!」
「なんだその脈絡ない理由はッ!?」

 幼馴染達はそんな会話を喧々諤々と交わし続け、結果、エレインに押し切られる形でルクスが同行する事になった。何しろエレインは猪突猛進、ほっとけば何をしでかすか判らない。おまけに方向音痴なので、気付いたらはるか離れた町に辿り着いてました、とか普通にありそうだ。否、コイツなら絶対にやる。
 そんな結論に辿りついてしまった幼馴染達は、その夜、示し合わせてこっそり町を抜け出した。抜け出して翌朝になっても帰ってこなかった。





「という訳で、エレインとルクスを探しに行って欲しいのです。新年早々、本当に面倒をかけますが」
「そ、れは構いませんけどその、一応男女、なんですよね? 例えばその、か、駆け落ち、とか‥‥?」
「あの二人に限って、それだけは絶対にッ! ありえません」
「‥‥‥」

 無駄に力強く拳を握って力説するエレインの父親と、コクコク大きく頷くルクスの父親に、そーですか、と受付係はなんだかひきつった笑みを浮かべて頷いたのだった。

●今回の参加者

 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 新年早々ギルドに持ち込まれた行方不明者捜索依頼。幼なじみの少年少女がこっそり家を抜け出して、そのまま帰って来なかった――となれば普通、疑うのは行方不明ではなく駆け落ちの類からになるのだが、依頼人の少年少女の両親は揃ってその可能性はあり得ない、と否定した。
 それが一体何故なのか、そんな事はどうでも良い。ギルドが請け負ったのは2人の少年少女の捜索で、依頼を引き受けた冒険者が果たすべき事も右に同じだ。
 と、なれば。

「この状況で戻ってこないとなりますと、単に道に迷った可能性が高そうですね」

 シファ・ジェンマ(ec4322)は残された数少ない可能性の中から、もっともオーソドックスな選択肢を選び取った。ちなみに依頼人達はそれ以外にはあり得ないぐらいの強い口調だったそうだが、身内が居なくなった直後の証言には主観が混じり過ぎるものだ。
 どうだろう、と意見を求めるように仲間を見回すと、返ってくる同意の頷き。聞けば行方不明者の1人であるエレインは極度の方向音痴だというし、まずその線が妥当だろう。
 だとすれば、まず取るべき行動は決まっている。土御門焔(ec4427)はそれを提案した。

「まずはいなくなった場所から追跡しましょう」
「そうですね。じゃあ私はお二人がいなくなったと思われる場所周辺の地勢がわかるように、聞き込みを行おうと思います」

 元馬祖(ec4154)が手を挙げる。ギルドに依頼が持ち込まれた段階で、エレインとルクスが向かったと思われる山のおおよその位置などは届けられている。だが実際に地元の人間に聞き込んでみなければ、詳しい所までは判らない。
 そこまでを相談で取りまとめ、シファが馬祖の用意してきた空飛ぶ絨毯に乗り、焔が自分の馬に乗って、まずは少年少女が暮らす町へ向かって出発した。ウィルからは馬車で1日半ほど。
 少年少女が水や食料を持って出かけた可能性は低い。場合によっては速やかな発見が必要になるだろう。





 町に到着後、馬祖がまず向かったのは何と言っても依頼人、つまり行方不明の2人の両親の元である。年の頃を聞けばそろそろ親への秘密も一杯の年齢だが、それにしたってまずは親御さんに、というのが世の常識だ。
 故に彼女は丁寧に、4人の大人達に自己紹介をした。

「お初にお目にかかります。ウィザードの元馬祖と申します。今回エレインさんとルクスさんの発見及び連れ戻しの依頼を受け参りました」
「ああ‥‥新年からうちのバカ娘がご迷惑をおかけして‥‥」
「いやいやうちのバカ息子もね、ホント、一応年頃の娘を相手に‥‥」
「良いんですよ奥さん、どうせうちのバカ娘がルクスを唆したんですから!」
「‥‥‥あのぉ」

 何だか和やかな世間話に突入しかけたご両親に、おずおずと馬祖は声をかけた。ギルドに依頼が持ち込まれてからすでに一週間ほどが経過している。その間に見つかったという話も聞かないが、和んでて良いんだろうか。
 さすがに困惑を浮かべたウィザードに、あらごめんなさいねぇ、と2人の母親は朗らかに笑った。

「何だか大事になってる気がしなくって」
「あの2人の事だもの、何とかやってるんじゃないかしら?」
「いや母さん、そうは言っても世間体ってもんが‥‥」
「そうだとも、うっかり間違って2人を浚うような物好きが居るかもしれんだろう」
「‥‥‥あのぉ」

 再び馬祖は注意を促し、何とか両親から2人の特徴や、向かったと思われる山の話を聞き出した。聞き出した、のだがしかし何かこう、複雑な気分。チラ、と視線を向けた先に居る焔も、困りましたね、と肩をすくめる。
 心配していないわけではないのだ。焔がファンタズムで2人の姿を再現するために、さらに詳しく2人の容姿について尋ねたらきちんと答えが返ってきたし、忍犬に匂いを覚えさせるために何か2人の匂いのついたものを、と依頼すれば即座に2人の衣類が出てくる。そもそも心配していなければ、居なくなった当日にギルドにやって来て捜索依頼を出したりはすまい。
 だがしかし、

「心配よりも多分、ついにやらかしたか、ってのが大きいんだろうな」

 しみじみとそう語ったのは、シファが声をかけた町の男だ。はぁ、と思わず頷いた彼女に男が続けたのは、エレインがルクスを巻き込んで今までにしでかした騒ぎの数々。どうやら行方不明の少女は元々ガキ大将気質らしい。
 それがどこでどう変わったのか、正義の味方に憧れるようになった。のみならず、やっぱりルクスを巻き込んで正義の味方になるべく暴走する事数知れず。その度に何とか事態に収拾をつけたルクスが胃を押さえて倒れこむ事、また数知れず。
 そこまでを聞き終わり、シファはコクリと首を傾げた。

「‥‥で、エレインさんとルクスさんが向かったというその異界への扉とか言うものが、正義の味方とどんな関係が?」
「それが判ればなぁ、親御さんもちょっとは手綱を取りやすいだろうに‥‥」

 本気の表情で男はがっくり肩を落とした。恐らく、触れてはいけない何か大きな苦労があったのだろう。それからふと思い出したように、今頃腹減らして凶暴になってるだろうから気をつけな、という良く判らない注意と共にパンを預けられる。
 その後、他の者を捕まえて聞いても似た様な反応ばかりが返って来て、終いには要救助者のみならず冒険者達の分まで道中の食料の心配をしてくれる始末だ。その意味では2人は村の人々に愛されているのだろう――多分きっと恐らく。
 とは言え、2人が出ていく所を見たというものは居ない。一番最近の目撃証言は、それぞれの両親が就寝に追い立てたもの。それでもないよりはマシだと、焔はパーストで2人が抜け出した瞬間を探ろうと四苦八苦し始めた。
 一方、馬祖の方も苦労していた。バーニングマップで2人の居場所を探れればと思っていたのだが、当然、山の状況を詳しく記した地図など存在するわけがない。故に山の事を知る者を捜しては詳しく話を聞き、叶う限りのイメージを詰め込んだ地図を作成してエレインとルクス、それぞれの名前で燃やしてみたのだが、残されたのは行く筋もに別れた灰の後だ。特定し切れなかったらしい。
 さて、と考える。もし2人の場所が特定でき、だが別々の場所に居るのならば、2手に分かれて保護しに行こうと提案するつもりだった。だがこれでは殆ど、手当たり次第。

「分かれず、固まって行動した方が良いかもしれません」

 事情を聞いたシファはそう進言した。少なくとも山の中にまだ居る事が判っただけでも収穫と言えるし、こちらは3人。危険な獣などがいるという話は聞かないが、ばらばらで行動した挙句にうっかり迷って戻れなくなっては元も子もない。
 幸い、焔の忍犬はエレインの匂いを良く覚え、町の郊外に向かって吠え立てている。一週間近く前のエレインの匂いを嗅ぎつけたのだろうか。頼もしい限りだ。
 こうして、町の人々から託された大量の食料と共に、忍犬を先頭に3人は件の山へと出発したのだった。





 問題の山は、それほど深くはなかった。考えてみれば当たり前だ、すでに噂はとっくに廃れたとは言え、異界の扉云々はそもそも村の古老が観光客を呼ぶためにでっち上げた嘘である。簡単に辿り着けないような場所では、観光客も来ないではないか。
 だがしかし、見るからに小さく奥行きもそれほどなさそうな洞窟の周辺にも、中にも2人の姿は見当たらなかった。此処までは現状の再確認の延長だ。流石の両親も、まず自分達で此処までは捜索に来ている。
 問題はこの後、どこに向かったか、だが。

「‥‥まったく予想が付きませんね」

 しみじみと呟いたのは一体誰だったか。辺りを見回せば下草の多くは冬枯れで萎れていて、枝葉もそれほど生い茂ってはいない。見通しもそこそこ良く、うっかり道を間違えそうな紛らわしい場所もない。
 此処から一体どうやれば、村への道を見失い、別の場所へ向かう事ができると言うのか。逆にそれが知りたいと思う位、とても判りやすい山だった。
 焔がパーストを唱える。少年少女が此処を離れたのが一体いつ頃かは不明だが、確実に居た頃合は判っている。異界の扉は夜中に開く、と言われていた。ならば少なくとも当日の夜の間ぐらいは此処に居ただろう。
 案の定、ワクワクした表情の少女と、物凄くいやそうな表情の少年の姿が見える。ファンタズムで自分自身でも確認した、要救助者に間違いない。
 ならば、後はここから2人がどう動いたか?

「秋霜」

 愛犬の名を呼ぶと、頼もしく彼は一声主に吼えて己の役目に戻る。即ち、エレインの匂いを探し始める。此処まで来てはバーニングマップに使う地図は作れない。犬と焔のパーストが頼りだ。
 しばしの後、忍犬は頼もしい足取りで歩き始めた。魔法はなかなか時間が特定できず、一先ず忍犬の後を追い始める。
 忍犬は、実に複雑怪奇な足取りを辿った。一先ず村とは反対側に降りて沢の傍による。それは良い。水が必要だったのだろう。その後、どうしてもエレインが諦められなかったのか山肌を登りはじめ、だが来た方向とはまるで見当違いの方へと進み始めた為に洞窟とも村ともどんどん離れ始め、その間にまた沢を見つけてより、焚き火の跡があり、小動物のものらしき小骨が幾つか埋まりきらずに土から顔を覗かせていて。
 少なくとも、少年少女は自分で食料を得る事は出来ているようだ。これまでの話の流れ上、恐らくルクスの方だろう。きっとそう言った技を身につけるまでに、涙なくしては語れない実に苦しい体験があったのに違いない。合掌。
 そんな感じに一向は山の中を蛇行し、行ったり来たりしながら最終的に、元居た洞窟の裏側辺りまでやって来た。この地点まで到達したのは一体、いつ頃の事なのだろう。あちらは恐らく迷いながら進んでいるが、こちらは忍犬の後をついて行ってるだけなので、同じだけの時間とは限らない。
 洞窟の裏の崖もそうやって通り過ぎ、もうそろそろ山は一周したんじゃないか、と思われた、その頃だ。

「‥‥でしょッ、だから‥‥ッ」
「ッざけんなッ、そもそも‥‥ッ」

 激しく言い争う男女の声が、沢の轟音に紛れて聞こえてきた。忍犬はそちらへと向かっている。どんどん大きくなる諍いの声。山の中に場違いなそれは――冒険者達はうん、と顔を見合わせ、頷きあって。
 果たして、それは要救助者の2人だった。エレインとルクス。同い年の幼馴染の少年少女は、大変薄汚れた格好をしていり、頬もこけているように見えるものの、見る限り大きな怪我をした様子もなくお元気な様子。
 彼らの方もまた、突然現れた冒険者達にポカン、と口を開けて動きを止めた。それに、馬祖が進み出る。

「ウィザードの元馬祖と申します。お二人のご両親からの依頼で参りました」
「‥‥父さんと母さんが?」
「ご家族の方々が心配なさっております。一度町に戻りませんか?」
「‥‥‥だっから言ったじゃねぇかエレイン‥‥」
「そんな事言ったって‥‥ッ」

 言い添えたシファの言葉に、がっくり肩を落としたルクスに向かってエレインはきっと睨みつけ、再び吼え始めた。こんな事で挫けていて正義の味方が云々。きっと悪はそこら中であたしに倒されるのを待っている云々。
 そこまで正義に燃えている割に、少女エレインの姿は実に簡素な、村娘の普段着にショートソードのみだ。悪を打ち倒そうと言う人間が持つには些か頼りない。
 とにかく吼え続ける少女を相手に、うんざりした様子のルクスが殆ど喧嘩腰で言い返す。多分道中も、或いは日常的に同じ様な会話が交わされてきたのだろう。エレインの方もどんどんヒートアップしてくる。

「‥‥一先ず、お互い落ち着いてご飯でも食べて」

 馬祖はそう言いながら、町の人々から託された食料を2人の前に差し出した。あ、と目を輝かせて飛びつく少年少女。多少は小動物を捕えて飢えを凌いでいたものの、やはりお腹は空いていた、という事だろう。
 がつがつと食べ始めた少年少女を相手に、冒険者達は説得にかかった。異界に行きたいと言う気持ちは判るがまずは両親を安心させるためにも町に戻り、巨大な悪を打ち倒す為に準備を進めてはどうか。
 大体、こんな所を手を変え品を変えて語りかける。頭ごなしに少女の希望を否定しては、反発してまた飛び出していくだけだろう。だが希望を叶える為の我慢だと考えればまだ、抑えは効くのじゃないだろうか。
 案の定、エレインは少し心を動かされた様子になった。巨大な悪、のくだりが彼女の心の事線に引っかかったのだろうか。だが、そこで素直に頷く事はなく、試すような視線を向けてくる。

「‥‥あんた達、まるで異界を知ってる口ぶりだけど、行った事あるの?」
「もちろんありますよ。焔さん、お願い出来ますか?」

 シファは大きく頷き、仲間を振り返った。頷き、焔がファンタズムで生み出したのはかつて戦った地の底の光景。ある意味異界である事は間違いない。

「実際異界で活躍されるというのはこういう場所でこういう魔物達の群れと戦う事になります。どう戦われます?」

 尋ねられ、ぐっ、とエレインは喉を詰まらせながらショートソードに手を伸ばした。だが予想済みの行動だ。すかさずシファが「ちなみにこの魔物達に普通の武器は通用しません。それでも異界へ行き戦いたいと仰いますか?」と畳み掛けると、ぐうの音も出なくなる。
 手に持った食料をぐっと口の中に押し込み、ゴクリと一気に飲み込んで、エレインは言った。

「判ったわ‥‥大人しく町に帰るわ。確かに今のあたしじゃ、悪に負けちゃいそうだもの」
「良かったです。きっとご両親も喜び‥‥」
「これはあれよね、正義の味方にはつきものの試練って奴よねッ! 燃えてきたわルクス、帰ったら早速修行よッ!」
「人の話聞けよこの馬鹿エレインッ!?」

 ほっと胸を撫で下ろした焔の言葉を遮るように、力強く言い放った少女の言葉を聞いて冒険者達は固まった。すかさず的確な突っ込みを入れられるのは、彼がこの事態に慣れているからだろうか。何だか尊敬の眼差しを向けてしまう。
 無言になった冒険者達を置き去りに、エレインはさっさと歩き出した。そして、クル、と付いてこない人々を振り返り、睨みつける。

「何ぐずぐずしてんのよ! 悪があたしを待ってるのよ?」
「ええと‥‥エレインさん、そちらは恐らく町とは逆の方向です」
「私たちがお送りしますから‥‥」

 むしろ送らせて下さい、と内心懇願するように冒険者達は言い募った。この調子で少女を自由に歩かせては、また迷子になりかねない。否、必ずなる。
 そこから再び説得が始まって、少女がしぶしぶ冒険者の用意した空飛ぶ絨毯に乗ることを了承した頃には、すでに陽精霊の光は消えかけていたと言う。





 こうして無事、少年と少女は保護され、町まで送り届けられた。だが来年のこの時期にはまた、少年少女の捜索依頼が出される事になる、のかも知れない。