【ハロウィン】祭準備の第一歩‥‥?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:蓮華・水無月
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:3人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月26日〜10月29日
リプレイ公開日:2008年11月01日
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●オープニング
天界には様々な珍しいものがある。
不思議の品々から始まって、装いや言葉遣い、嗜好、文化や風習まで。時には祭りなどの娯楽までも、アトランティスの人々は天界に縁のものを、総じて好意的に受け止める。
それは時に驚くほどに。
「おい、知ってるか?」
だからこの頃、ウィルのあちこちで興奮したような言葉が交わされるのも、無理のないことで。
「もうすぐ、天界の『はろうぃん』って祭りをやるんだってよ!」
「ええ、聞いたわ! 祭の実行役員も決まったんでしょ?」
「へぇ、『はろうぃーん』! どんな祭りなんだろうね、楽しみだなぁ‥‥!」
「なんでも『はーろうぃーん』ってのは野菜の祭らしいぞ」
「あら、お面を被るって聞いたけど」
「違うって、判ってねぇなぁ、『はろーういんー』ってのは蝋燭持って行列で歩く祭なんだよ!」
――多少アクセントがおかしいのはまぁ、ご愛嬌。伝聞と言うのはそう言うものだ。
大切なのは、ウィルの人々がこの見知らぬ祭を楽しみにし、どんなものかと心待ちにしている、と言うその一点に尽きるのだから。
さて、『はーろうぃーん』なる祭を首を長くして楽しみにしている町の人々はともかく、実行委員に選ばれた者たちは、早くも顔を突き合わせて頭を抱えていた。理由は簡単。彼らはそれぞれ、ちょっと天界の文化に詳しいと見込まれて実行委員に選ばれたのだが、蓋を開けてみれば実際に『はーろうぃーん』なる祭を知っている人間が誰も居なかったからである。
中には今回の『はーろうぃーん』を提案した者も居たが、彼とて旅回りの商人がかつて聞いた天界の祭のことを知り、これはちょいと面白そうじゃないか、と口に出してみたら通ってしまったに過ぎない。なのに「提案者だから」という理由で実行委員長に就任してしまった。まさに踏んだり蹴ったりだ。
「取り合えず、それぞれ調べてきたことを発表しようか」
それでも彼は責任を果たすべく、なけなしの気力を振り絞って集まった委員たちを見回した。視線を受けて委員たちが頷く。
あまりにも『はーろうぃーん』なる祭への知識が乏しいことを痛感した彼らは、それぞれに『はーろうぃーん』に関することを調べてくること、ということで前回の会合を終えていた。ちなみにこれで、二回目の会合。
とはいえ町の祭実行委員のことだ、集まり自体は堅苦しいものではなく、皆が思い思いに調べてきたことを口に出す。
「何でも『はろうぃん』にはランタンがつきものなんだそうだ」
「踊りも要るらしいぞ」
「わしの知り合いは、シフールがかくれんぼをする祭だと言っていた」
「え、魔物が徒党を組んで野山を駆け巡るんじゃないのか?」
「いやいや、俺が聞いた話では‥‥」
町の噂話と大差のない内容だ。だが全員、話し合う表情は真剣である。なにしろ祭の成功は彼らの双肩にかかっているのだ。
一通り意見を聞いて、そうか、と実行委員長が頷く。頷いて、最初に発言した者に視線を向ける。
「じゃあ一つずつ、出来る所からやろうじゃないか。ランタンってのは何に必要なんだ?」
「さぁ、そこまでは判らんかったが‥‥ああでも、そうだ、『はろうぃん』に使うランタンは『かぼちゃ』とかいう野菜で作ったものじゃないといかんとか」
「‥‥『かぼちゃ』? 何だそれは」
「さぁ‥‥天界の野菜じゃないのか?」
「じゃあランタンが用意出来ないってことか」
「待て、早まるな。『かぼちゃ』っつうもんは判らんが、取り合えず野菜なら良いんじゃないのか? こないだ蕪とか人参が大量に取れたところだから」
「だが『かぼちゃ』がどんな野菜かも判らんのに、蕪や人参で代わりになるのか?」
「そもそも野菜でランタンを作ると言うのがよく判らん。何かの間違いじゃないのか?」
「いやいやいや、何しろ天界の祭だ。わしらには判らん掟があるんじゃろ」
「しかし、野菜でランタンを作るにしても、どんな野菜が必要で、どんなランタンを作れば良いのか調べなければ‥‥誰か知ってる奴はいないのか?」
一を言えば十の意見が返ってくる。まさに混沌とした状態だ。
こんな状態で本当に『はろうぃん』が出来るのだろうか。ふと実行委員長の胸を不安が駆け抜けた。何かこう、物凄く軽はずみなことをしてしまったのでは。
だがここまで来たらやらなければならない。なんとしてでも。やらなければ、楽しみにしているウィルの町の人々にたこ殴りにされるかもしれない。いや、きっとされそうだ。
(俺は命を懸けて『はろうぃん』を成功させる‥‥ッ!)
熱い思いに燃える実行委員長である。
しかし、現実問題、一体どうすれば良いものか―――喧々諤々と議論を重ねる皆の意見を聞き流しながら思いを巡らせていた彼は、不意に天啓のように閃いた。
「そうだ、ギルドに行こう!」
「‥‥は?」
「ここで怒鳴り合っててもしょうがないだろう。冒険者ギルドに依頼して、『はろうぃん』のことを教えてくれる冒険者を募集するんだ。天界出身の冒険者なら知っているだろうし、そうじゃなくても何か聞いているかも知れん。それに何より、祭本番までに俺たちだけでランタンの準備や、他の準備をするのは到底無理だ」
「おお! そりゃ良い考えじゃ!」
「わしらが顔つき合わせてるよりよっぽど良いな」
「冒険者さんなら『かぼちゃ』とか『はろうぃん』のことも詳しいに違いないな!」
委員長の言葉に、実行委員の面々はぱっと顔を明るくした。困ったときの冒険者ギルド。冒険者ギルドはみんなの味方。
冒険者が来てくれれば『はろうぃん』も大成功に違いない。実行委員たちは始まりとはうって変わって、至極浮かれた様子でその日の会合を終えたのであった。
●今回の参加者
ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
●サポート参加者
元 馬祖(
ec4154)
●リプレイ本文
『はろうぃん』実行委員会はウィルの街中のとある一軒家、平たく言えば実行委員長の自宅を事務所としている。何のことはない、他に場所を借りる余裕などなかったからだが。
冒険者ギルドからその事務所兼自宅を訪れた3人の冒険者達が、足を踏み入れて真っ先に目の当たりにした光景というと
「‥‥‥‥」
ここは八百屋だったのかと見紛う程の野菜の山と、それに埋もれている悲壮感漂う5人の男達(※平均年齢50歳前後)だった。はっきり言って不気味だ。『すみません間違えました』と回れ右をしたくなる空気が漂っている。
ギクリ、と思わず動きを止めた冒険者達を、ギラリ、と鋭い眼光で見たのは一堂の中でも一番歳若い男だった。彼がこの事務所の家主にして実行委員長。眼光鋭いのは単に寝不足で目つきが悪いだけである。
ねめつける様な視線が右から左へ、左から右へと行ったり来たりして。
「あんた達ッ、冒険者ギルドの冒険者か!?」
「‥‥ッ、ええ」
「俺らの出した依頼で来てくれたのかッ!?」
「ま、まあ、そうです、が‥‥」
不意に掴みかかられるように間近に迫った委員長に、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)はやや驚きながらも頷く。
途端、男達の怒号のような歓声が「ウオオオォォォーッ!」と狭い部屋一杯に響き渡った。
「やったぞ!」
「わしらの勝利じゃな!」
「『はろうぃん』の成功は目の前だ!」
何だろう、このノリ。セレス・ブリッジ(ea4471)と晃塁郁(ec4371)は揃って顔を見合わせ、そして再び盛り上がっている男達の方を見た。感極まって堅く抱き合う男達‥‥やはり不気味だ。勿論そんな事は言えないが。
『はろうぃん』実行委員会。まぁ簡単に言えば、追い詰められて色々壊れかけていたのである。
とにもかくにも、先ずは『はろうぃん』とは何か、と言う基礎講座から始まった。
実行委員会の男5人は何とか平静を取り戻し、今は並んで椅子に座っている。真ん中に座っている実行委員長が仲間達を見渡し、全員が真剣そのものの眼差しで冒険者達を見つめているのを確認すると、満足そうに頷いた。
「じゃあ先生、お願いします」
相変わらず寝不足で目付きが鋭いので、妙な凄みがあった。講師としてやりにくい生徒ナンバーワンであろう。
もちろん歴戦の冒険者が怯むような事はない‥‥が、やりにくいと言う事実は変わらないわけで。
「‥‥ええと、ハロウィンはこちらでいう収穫祭と申しますか、一年の収穫を祝うお祭りが変化したもので、お祭りの起源は、10月の終わりが一年の終わりであるという地方がございまして、この日は死者の霊や魔女が出てくるから、これらから身を守るため仮装をしたり焚き火を焚く代わりに怖そうなランタンを作ってお祭り騒ぎをして身を守った、というのが始まりだそうです」
男達の熱い眼差しを受けながら、微笑んで説明をやってのけた塁郁の胆力は、流石と言わねばならなかった。
一方、静かに説明を聞いていた男達だったが、それが途切れたと見るや次々に疑問を口にする。
「死者のレイ? 何だ、それは?」
「死んだら精霊界に召されるんじゃろう? それに、収穫祭と魔女にどんな関係があるんじゃ」
「収穫祭で魔女が精霊を呼ぶんじゃないか?」
「なるほど、仮装やランタンは悪い精霊を呼ばない為、と言う訳だな!」
「ふぅむ、天界には不思議なしきたりがあるな」
不思議なのは彼らの頭の中である。
これはかなり手強そうだな、とケンイチは思い。別の意味で楽しい祭にはなりそうだ、とセレスは思う。
とまれ、講義はまだ終わっていない。冒険者達はかわるがわる、男達にハロウィンの説明を続けていく。
「ハロウィンの夜には、お菓子を用意しておくんです。ハロウィンの夜は子供が仮装、例えば魔物などの怖い格好をして『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』と言ってご近所を回る風習がありまして。そうしたら大人達は子供にお菓子を上げるんです」
「お菓子にも何かしきたりがあるんかいの?」
「いいえ、特には。ランタンを作った残りを使って作ったりして、子供達や大人達は集めたお菓子や料理を持ち寄ってパーティを開く、というのがハロウィンの祭りの流れです」
「おお、そうだ! ランタンは野菜で作るのがしきたりと聞いたが」
「先生方、作り方も教えてもらえるかの?」
「勿論です」
男達の言葉にセレスがにっこり微笑んで、基礎講座は終了となった。
翌日、ジャック・オー・ランタン作り、実践編。
各々の前にはナイフ類、スプーンなどが用意されており、テーブル中央には丸々としたカブが山積みされている。実行委員会は勿論、冒険者達も手伝って、祭で使うためのランタンを作成するのだ。
やる事は単純明快。カブのヘタを切り取ってスプーンで中身をくり抜き、それにナイフで切込みを入れてカオを刻む。どんな顔にすれば良いのかと尋ねられ、冒険者達が見本に作ったものを置いておくと、男達は見本のランタンと睨めっこしながら真剣に取り組み始めた。
当初こそ、カブが上手くくり抜けずに皮を突き破ってしまったり、カオを刻もうとしてナイフですっぱり切り刻んでしまったり、と騒ぎが絶えなかったが、ケンイチとセレスが交代で見て回り、都度アドバイスをしていくと、だんだんそれらしいランタンが出来てくる。ちなみに塁郁は男達と一緒に、教えられる側で奮闘していた。
朝からずっとカブと格闘していれば、昼過ぎには手つきも慣れ、余裕も出てくるものだ。
「慣れてきたらカオにこだわらず、ランタンに好きなものを刻んでみると良いですよ。見た目にも面白い方が祭も盛り上がりますから」
余裕を見越してケンイチがそうアドバイスすると、男達の創作意欲に火がついた。あれやこれやと知恵を出し合って、近所の連中の似顔絵に犬や猫の顔、龍や精霊の絵姿まで刻み出す。なんでも男の中の1人が元々こういう事が得意だとかで、もっぱらナイフを握るのはその壮年の男のみになり、残る4人がせっせとカブをくり抜いた。
冒険者達の前にもくり抜いたカブはどんどん置かれ、ぜひ天界にちなんだものを刻んでくれ、と頼まれて顔を見合わせた場面もあり。それぞれに故郷を思い出しながらそっとナイフを動かしていく。
出来上がった数々のランタンがどんな姿をしていたのか、それはぜひ『はろうぃん』当日に確かめてみて欲しい。
依頼最終日は、はろうぃん当日に向けての準備などに費やした。具体的には
「ハロウィンはやっぱり仮装ですね」
「衣装作りもお手伝いします」
「化粧などで変装するのも良いですよ」
と言うことで、仮装するための衣装の提案や作成の手伝い、変装メイクのレクチャーなど。
もっともメイクを学ぶには実行委員会の男達では流石に荷が勝ちすぎるため、特別参加でご町内の主婦達が参加と相成った。というかメイク道具を借りに行った男達を問い詰めた女達が、これは面白そうだと押しかけてきたのだが。
まずは仮装衣装作成組を受け持つ事になったケンイチとセレス。これから一から衣装を作っていたのでは勿論当日に間に合うはずもないので、基本は持ち寄った服に多少手を加えたり、組み合わせで奇をてらったりする方向だ。
お手本として自らも手持ちの装備で仮装をしたセレスが、男達が持ち寄った服を見て回りながら
「このシャツはそっちのズボンと合わせたら面白いですよ」
「いっそ、女装などに走ってみるのはどうでしょう」
などなどアドバイスを与え、男達は男達で真剣に
「先生、こんなのはどうじゃ」
「天界ではどんな仮装をするものなんかいの?」
めいめいに服を着替えたり、鉢巻を巻いたり、本当に女装を試みながら質問している。平均年齢50歳のむくつけき男達の女装である。あえてコメントは控えるが。
さりげなく視線を逸らしながらケンイチが穏やかに答える。歴戦の冒険者たるもの、この程度で怯みは‥‥いや、普通は怯むが。動揺を面に出さない辺り、流石は冒険者である。
「そうですね。簡単ですが、大きな布を頭から被って目と口だけ穴を開ける、と言う仮装が一般的です」
「なるほど! それなら今からでも全員分作れるな!」
実行委員会の男達は、始まりの頃が嘘のような明るい表情で和気藹々と、誰が布を調達してくるかとか、全員が同じ仮装だと面白くないだとか言い合っている。セレスの仮装を見ながら、自分もこんな仮装をしてみたい、と真剣に衣装や小道具などを観察している者も居る。
一方、塁郁と主婦達によるメイクレッスン組。
「ハロウィンの化粧は見るからに怖い顔や面白い顔にして、見た人を驚かせるものなんです」
説明しながら主婦の一人を指名し、実際に化粧を施して見せる。わざと顔を真っ白に塗りたくり、実際よりもはるかに大きく口のラインを引いて、目の辺りに真っ黒な影を入れれば、簡単ながらモンスターメイクの出来上がりだ。
ほぉ〜、と感心する主婦達に請われて、他にも妖艶なメイクやおどけ者のメイクなど、幾つかの例を実際にやって見せる。もっとも、メイクにこれと言った決まりはなく、ようは見た目のインパクトがあれば良いのだ、と言うことを重ねて説明すると、主婦達の顔にも理解の表情が広がった。
そうして実際、主婦達がお互いの顔にメイクを施す段階になり、塁郁の指導の下、質問を重ねながら練習に励んでいた女達だったが
「先生、普段のお奨めの化粧はあるかね?」
「簡単に出来て見栄えの良い化粧の方法、知ってますか?」
そのうち質問の方向がハロウィンから日常生活になだれ込んできた。いついかなる時でも女性の悩みは尽きないのである。
こちらも塁郁が可能な限りで質問に答えると、女達の瞳に尊敬の光が宿った。祭準備は勿論、女心もがっちりと掴んだようだ。
こうしてすべての日程を終えて、冒険者達は『はろうぃん』実行委員会事務所(兼委員長自宅)を後にした。その際には実行委員会の男達と主婦達が全員で冒険者達を見送り、
「先生方、ありがとうございます!」
「必ずや『はろうぃん』を成功させて見せますぞ!」
町中に響かんばかりの大声でいつまでも感謝を叫び続けていたと言う。
ウィルで初めてのハロウィン。当日には冒険者達と作ったカブのランタンが街角を飾り、仮装をした人々が楽しげに町を練り歩くのに違いない。